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ZEROミッシングリンクⅤ【5】ZERO MISSING LINK 5  作者: タイニ
第四十一章 アンドロイドの着地点

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95 少ない友達だから




きょう…



響―――



「響!」



バッと目を開く。


すると、そこは既に多くの人々がいた。



「響!よかった!!」

半泣きな声で響の名を呼ぶのは、不安に揺れるムギと、その後ろに見えるファクト。

そのさらに後ろを見れば、多分ここはまだ、先の寂れた大房の裏通りだ。


周囲で忙しく行き来するのは警官か軍人か。

首などの周りに何か貼り付けているのが分かるが、大げさにいろいろしてあり首が動かせない。倒れたまま枕かシートだけ頭の下にある感じだ。


「アセンさん、響が起きました!」

ムギが叫ぶとアセンブルスが駆け寄って来て、何か苦しい部分はないかと聞く。話せなかったらそのままでいいと。でも響はゆっくり聞いた。聞きたかった。

「………少し動きにくいだけ……。シェダルさんと……ウヌクさんは?」

「2人ともこれから病院に向かいます。」

シェダルはSR社に、ウヌクはベガスの総合病院に運ばれる準備をしている。


「響さん、苦しかったら話さないで。」

「………大丈夫です。シェダルさんは……?起きてる?ウヌクさんは?」

「眠っています。ウヌクは意識はあって、多少説明してくれました。」

ここはカメラもない。ウヌクから見たら、シェダルはただの暴行犯だ。不安にさせないためにアセンブルスは言わないが、シェダルは完全に意識が飛んでいた。


でも、響は説明する。意識を飛ばしたのは自分だ。

「あの、シェダル………、多分デジタル薬物です。」

「?!」

アセンブルスがフェクダに指示を出し、ファクトやムギを下がらせる。


「それを…受けてました………」

「………。」


アセンブルスは何か考えている。

「……分かりました。響さんも第3ラボに行きますか?ベガスに?。」

シェダルの方に行きたいが、ミザルが思い浮かぶ。

「シェダルもベガスに運べませんか………。それか………あの、SR社に行くならムギも一緒に………行きたいです…………」

ずっとこんなこと続きで不安だった。自分に付き添ってくれる人がそばにいてほしい。

「………?シェダルを?」

「……私はラボには行かない方が………。私…ミザル博士に…。」

シェダルはベガスには入れないし、響も関わりを控えてほしいとミザルに言われたばかりだ。


「私がシェダルを………意識層に閉じ込めました………。解除しないといけません……」

「!」

アセンブルスはそれで悟った。響がサイコスを使ったのだ。



「…………響さん、ちょっと待ってて。もう話さないで全部スタッフに任せて動かないで下さい。思ったより出血がひどいんです。」

「出血?」

噛まれたところだろうか。ジンジンはする。

「しばらく安静にしていて下さい。ウヌクが、押さえて止血していたんです。」

「………!」

なんとも言えない気分だが、感謝である。でも、ウヌクも大丈夫だったのだろうか。


アセンブルスは立ち上がって、何か報告に行った。


「響………。」

「ムギ、どうして……。」

「ファクトが、また教育実習中にどこかに行くから、碌なことがないと思って。」

バイクで抜け出すところを見ていたのだ。ファクトが横から覗いた。

「え?そのおかげで響さんに会えただろ?」

「………でもひどいよ…。なんで……」

不安気なムギを見て、響はにっこりする。

「大丈夫だってば。」


「………響さん…。」

ファクトが小さく声を掛ける。


「サイコス……。また開いた?」

「?!」

やっぱりあれはファクトだったのか。


「………うん。」

「……。」

ファクトは考える。

「今、アセンブルスさんに言った?」

「はっきりは言ってないけど、多分分かったと思う。」


でも、以前とは少し違う。この現世界と心理層が同時に見えていた。

「………ファクト…、ベッドを見た事ある?」

「ベッド?」


「ストレッチャー?そこで女の人が寝ているの。……ユラス人みたいな。それから………ユラスの民族衣装を被った………宇宙みたいな…人?」

「…!」

ファクトのよく知る人だ。もっと知りたいのに…知ろうとするといつの間にかいなくなってしまう。少しだけ響にもその話を共有していたが、ストレッチャーの人はカストルとワズンにしか言っていない。


「響さんも見てたの?」

「響!あまり話さないで!」

ムギが遮る。


「………ファクトも?」

それでも響は続ける。

「それに………サイコスの入り口も違った……。世界がガーーーと回転するように動いて……、世界が透過するように見えて……それで…………」


「…ん?」

「………。」

「それって、シャプレーから心理層に入った時のだよ!」


だが、疲れたのかそのまま響は眠ってしまった。




***




実は、シェダルの監視に付いていたアンドロイドからSR社に緊急が入り、既に東アジア軍は動いていた。


東アジアの監視はA級アンドロイド。相手はS級。おそらくベージン……もしくはギュグニーのものだが、SSだったのか東アジア側が押される状態で戦闘不可状態に。シェダルたちの場所まで行けず、ギュグニー側はアジア軍が来ると分かった時点で既に去っていた。

アセンブルスからも連絡を受けていたSR社と東アジア軍もすぐ動くが、大房に軍備はないため到着までの十数分、大房警察がその場所に通行規制を強いていた。ニューロスが動き軍から伝令が来た場合、警察はそれ以上の権限はない。警察側に命の危険もある。


そして、ウヌクは響からシェダルを引き離し………、響の方が血まみれになっているのに気が付く。周りの物でどうにか止血し軍が到着するまで押さえていた。後で知るのだが、この時ウヌクも数か所ひびが入り骨折もしていた。






「なんか俺、扱いひどくない?」

ベガスの病院でみんなにお見舞いを持ってこさせ、ファクトとリゲルに言うウヌク。


アストロアーツの店長になる前に、怪我でテコンドーをやめる。

河漢でスラムの淀んだ水溜りに尻を沈めた上に、頭部損傷で縫っている。禿させる気か。

ここでも骨折した上に、血だらけだったので感染症がないか検査をされ入院。


「ファクトより病院通いの怪我してね?」

「俺の分も背負ってくれてありがとう。」

「ふざけんな!響さんの分を背負ったのであって、お前などどうでもいい!!」

「俺によくしたら、後で母さんに恩を着せられるよ。」

「うるせーな。」


「しかし、この裏病院に入院した人間がまた一人増えたな。」

関係者しか入れないVIP病棟である。ファクトが思い出してため息をつく。

「他に誰が入ったんだ!」

「ファクトと響さん。」

リゲルが説明してくれる。

「………毎回お前らじゃん。」

チコもである。


ウヌクは病院で一連の治療が終わってから、ユラス軍やファクトに追及しまくって、響が何かのサイコスターであることとシェダルが何者かまで聞き出した。ギュグニーにいた元兵士だと。

「太郎はぜってー、強化義体だろ!」

と、追及するウヌク。


東アジアもシェダルとウヌクの関係性を見て、隠していても悪手にしかならないと、シェダルが海外でニューロスの被験体だったことまでは話した。そして、今回おそらくデジタル薬物を入れられていたと。


しかしウヌクは賢かった。物の造形に関心があるウヌクは、シェダルの輪郭や顔立ちを見てずっと既視感があった。


そう、チコに似ているのだ。やっと気が付く。


親戚だろうとウヌクの中で確定していた。いちいち存在を隠すこと、ファクトと仲がいいこと、チコかファクトの親戚だということ。どれをとっても怪しすぎる。そもそも名前からして「太郎君、花子さん」ってなんなんだ。そして花子さんは誰なんだ。同じ強化義体か?


「とにかくお前らは怪しかった!」

「すみません。」

ファクトはとりあえず謝っておく。自分以外で、こんなにもシェダルを見てくれたのはウヌクだけだ。あの寺巡り観光で出会わなかったら、こんなチャンスもなかっただろう。アーツでもなくただの一般人として出会ったからその機会があったのだ。


「響さんは大丈夫なん?」

「……ムギが付いてるから。」

「チビッ子でいいのか………。」

響の首と胸元は、クリップでの止血の後、湿潤シートで再生するため縫うことはない。結局響はこの病棟の別室にいる。



そしてやって来る、サルガスやタウたち。

「おい、ウヌク。生きてるか?」

「今は生きているが、俺も暗殺のターゲットになってはいないだろうか。」

「……なったんじゃね?」


一応、シェダルを認識しているのは、ベガスでは軍に関わる上部の人間とファクトだけらしい。

あの日、大房でシェダルを見た者もいるが、顔は知らないし軍やユラスとの関係は分からなかっただろう。インパクトのある人間だったので、記憶に残った者たちもいたではあろうが。


なにせ、太郎君が大房を気に入ってしまったのだ。仕方ない。



「とにかく、最近だけでこんだけ怪我してるから年取ってから、風が当たると古傷にしみる……とか言う風にだけはなりたくない。」

格闘技や運動をする者には身に沁みる言葉である。


「………。」

一応サルガスたちもシェダルの存在は知らないと、アセンブルスからは聞いている。ここでどれだけの会話をしていいかは分からない。

響のサイコスの事を知るのは、アーツではファクト、サルガス、リーブラにファイ、リゲル。

それからなぜか、イオニア、キファ、タラゼド。何だこの面子。ここに俺が加わってもいいのか。ちょっとヤバいんじゃないか、と思ってしまう。響さんファンクラブか。



みんなにこの件に関する様々な報告し、河漢などの現状報告を聞き、それから一人になってウヌクは考える。


響は大丈夫だろうか。ウヌクは考える。


状況や理由はどうあれ、あれは完全に暴力と性暴行を受けそうな状態だった。


まだ知らないままかもしれないが、自分が首元と胸部の上だがずっと押さえていたのだ。これまで男性との付き合いもなく、懇意にしている相手がいる女性だ。しかも知り合いにされたのだ、大丈夫なのか。

響から血が流れていた時はとにかく必死で、目の前の人間が熱と鼓動を持つ生命体から、ただ物質があるだけの肢体になってしまうのを考えたくなくて必死だった。

でも、全部が終わって思う。


響のメンタルは大丈夫なのか。


そして、シェダルに対しても、強制的にドラッグを流されていたとはいえ、どう捉えていいのか分からなかった。



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