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ZEROミッシングリンクⅤ【5】ZERO MISSING LINK 5  作者: タイニ
第四十一章 アンドロイドの着地点

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94 響の帰還



「うぅう゛っ…」

シェダルが響の首元に顔を寄せる。


男にしては顎の細いきれいな顔だが、目一つで全く色気も何もない、ただの狂気に見えた。


普段の目も底の無い、何を考えているのか分からない不思議な目に見えたけれど………そんなもの比ではなかった。不気味な何か。響を見ているのに、目の焦点が合っていない。


「い゛っ?!」

響はシェダルに首筋を噛まれる。

「シェ…。はがっ…」

声が出せないうえ激痛が走り涙がにじみ、口を押えたシェダルの手を思わず噛んでしまうが、相手は何も動じない。


もう駄目かもと思いつつ、それでもその一瞬一瞬に瞑想で見た感覚を思い出そうとする。

押さえられている腕を曲げて、シェダルの腕を触りできる限りの力で握った。


目を覚ましてと。


「…っ」

シェダルがハッとして指を緩めた。でも服の上から胸元も噛まれる。

「いいっ!」


その瞬間。

ダン!とシェダルの体が吹っ横の飛び壁に叩きつけられる。

「?!」

「あ?何やってんだ?!」


ウヌクだった。

「てめえ、何してんだ!!」

「ウヌクさん、ダメ!!逃げて!!」

起き上がろうとしながら、響はかかっていこうとするウヌクを止める。

「はぁっ?!」

「はやく!!!逃げて!!一人で逃げて!」


それでも響を起こそうとすると、ウヌクのサイドにシェダルの蹴りが入った。

一瞬足が見えてガードはするが、ウヌクも地面に叩きつけられる。

「うぐっ!」

弾力は感じるが、足に何か入っているような痛さ。「?!人間?あ、義足か?!」とウヌクは戸惑う。戦闘用のプロテクターかもしれない。

「逃げて!!!」

もう一発、ウヌクに殴りかかろうとするので、響は起き上がった勢いのままシェダルに掴みかかった。


「逃げて!!!あ!」

でも、ウヌクは軽く蹴り上げられ、さらに耳横を蹴られて胸にもう1発くらう。

「うぐっ!」


それから響は顎を掴まれ地面に押さえ込まれ、髪の毛ごとさらに押さえつけられた。

「響さっ…、うっ」

ウヌクは立てない。


響が抵抗するとパチンと頬を叩かれ、長いスカートがずり上げられた。

「いっ…」

響の中にゾッとする思いと、シェダルの中のチコと同じ顔が揺れる。


シェダルは合間合間で、手を震わせ自分の頭を押さえる。

こんな状態でも響はそれを見逃さなかった。




今、一瞬でいい。



落ち着くんだ。


響は目を閉じ…

心の奥底を探る。


自分の力じゃない。

全ての力は託されたものであり、与えられたものだったから。世界は常に動いている。自分はその流れの一端を借りているだけだ。

生きている人は自然には叶わない。その道理のまま、流れに身を任す。


自分よりも、もっと大きな流れを頼るんだ。



それは瞬間だった。

響の目つきが変わる。



バジンッ!!!



と、全てが弾け、ウヌクでも感じるほどの波動がくる。

「?!」

光はないのに、ウヌクは目を覆うようにそれに耐えた。



それから響は呆然となり、シェダルも響に倒れ込むように沈んだ。


「響さ…ん…、たろう…。」

ウヌクは状況が分からず立ち上がろうとする。





しかし、響は自分に起こっていることに驚いた。響の知っている霊性でもサイコスでもない。


見える…。何これ?


目は開いている。目の前で倒れるシェダルも見える。それから立ち上がろうとするウヌク。


………なのに………。荒野が広がっている。

そこで泣く誰か。





シェダルなの?


違う。誰?女性?


でも、あなたは………シェダルを見付けようとしているのね………。



その人はシェダルがどこにいるか分からなくて………、見渡せるその荒野を眺めながら、目の前で重なって見えるもう一つの現実世界に触れる。少し離れた所にいるウヌク。頭から自分に倒れ込んでいるシェダル。


ふたつの世界が垣間見える。



自分に覆い被さっている頭に触れると小さく痙攣していた。


響はもう一度覚悟を決め、目を閉じその世界に入って行った。



ウヌクが起き上がった時には、正確にはまた倒れ込んでしまったのだが…………

響は後ろに倒れシェダルに乗りかかられ、そして眠り込んでいた。




***





――




響はそっと目を開ける。



するとどんどん世界が流れてくる。


不規則のような、法則のような。

幾何学のような。



何か居所の悪い、酔いそうな履きそうな不快な気分。



アニメに出てくるワープのように自分が迫っているのか、周りが迫っているのか。

めちゃくちゃで支離滅裂な世界が広がる。腹を抉るようなムカつき。


響の世界にも幾何学が変形しながら流れるものがあるが、こんなに不快ではない。むしろ心地いいのに。これは明らかに他人から来ているものだ。



落ち着き、この世界に乗らないように視点と感覚を外す。この世界を作り出す本人と離れ、傍観者になる。




フワフワ浮いた感じ。


そう、間違いない。懐かしい、あの世界が混ざり合った世界。



帰って来た。帰って来たのだ。心理層の世界に。


怖々『(ビルド)』をおこそうとすると、何も問題ないようだ。自分をきちんと描ける。

響は髪の長かった自分に戻った。



シェダル………。


響はもう一度シェダルの世界を見つめる。



デジタル薬物にもいろいろあるが、現物と違うのは物質、クスリそのものが体内にあって作用しているわけではない。

人によっては1回でもダメになる場合もあるが、似たような状況を作り出しているのだ。それでも継続していると脳にクスリに近い作用経路が生まれダメージや中毒性を与える。


シェダルの世界に戻ったとたんに、長かった髪の毛がバババっと千切れるように形態を変え短くなっていく。そして首に歯型が生まれ、血が流れ落ち、頬が張れた。



でも、響は動じない。


この世界のどこかにシェダルがいる。

この世界そのものがシェダルなのだが、核があるのだ。



すると響が見上げる先に………大きな人がいる。


人が大きいのか響が小さいのかは分からない。そんなことはどちらでもいいのか。大きな人間が虫でもつかまえるように響を掴もうとする。顔は見えない。ただ黒いのに、シルエットではなくそれが人そのものという事は分かる。


全身毛むくじゃらで、絵本に出てくるようなお化けなのに。



「シェダル?……………それとも…………」

黒い大きな人間は、触れそうで、でもなぜか響に触れない。



「明かりを。」

光をと言うと明るすぎる。響は控えめに言った。


すると全てを照らすように世界に青い大空が広がり、黒い大きな人間は怯えてその光から逃げるように隠れようとする。

でも雲一つない大空で隠れる場所は一つもない。




「知らないの?ここでは暗くなろうとすればするほど…目立ってしまうの。」

響は優しく教えてあげる。


「安心して。いいんだよ。あなたの心は……


この明るさの中にあっても…………」




そして、いつの間にか毛むくじゃらのお化けは小さくなって、部屋の隅に縮こまってしまった。

響には分かる。それはシェダル自身で、シェダルが()()()()世界でもあることを。



部屋に縮こまったその人は何か薬を飲んでいる。


顔も見えない何かがたくさん薬をくれる。


シェダルが声が出なかったのは………

クスリのせいでもあり、

いない、必要だったはずの大人たちがいないせいでもあり、

生き方のせいでもあり、

教育のせいでもあった。


誰も構ってくれず、小さなころから様々な薬を飲まされ………


胸が苦しい。



響は温かいふんわりモコモコの毛布を掛けてあげ、その人が落ち着くのを待つ。

「大丈夫だよ。ここは。」


響は知っている。シェダルはたくさんの人を殺した。でも、シェダルもいつ殺されてもおかしくなかった。そして、生まれた場所がまた違ったら、こんな風にはなっていなかっただろう。



たくさんの似たような人影が眼下を行き来しているのが見えるが、今はこの子だけを見た。


「大丈夫。」

その人をそっと抱く。


まだ2、3歳の小さな子供だった。

その子はもがくが、大人しくなるまで響は抱き続けた。



シェダルだけじゃない。たくさんいる。


シェダルはその中で生き残ったのだ。




「…………ごめんね…。」

響はその全てに申し訳なくて謝る。



「大丈夫。サラマンダーは、再生するの。何度も……。何度も…………」

「…………」

その子供は自分の指を咥えているだけだった。




バン!と世界が変わった。



また幾何学模様の円や多角形が、ギラギラギザギザと形を変えながら迫って来る。

響は、小さなその子を抱いたまま、一つ一つその世界を自分にも心地良いものに変えていく。


響の目を通過した風景は、ギトギトギラギラした変化から、同じ鮮やかでも、同じ光でも、刺激のないキレイなゆったりとした動きの模様に変わっていった。


いつしかその動きには図形に当てはまらない形が生まれ、アンタレスで見た、黒銀のマットに光る燻瓦(いぶしがわら)の屋根のような流れになる。



天に昇っているのか、水のように地に流れ込んでいるのか。


小川となり、山となり、壮大な渓谷と森が広がる。



森。


深い森。

あの子が走り続けた森。



『泣かないで。もうそこにはいないから。』


誰だろう。永遠の森で、知っている人に似た薄い緑の目の男が優しそうにそう言う。

「あなたを知るのは私じゃない」と響が言おうとすると、その人は手を振った。



『響さん!』



「?!」

ハッと振り向く。

「ファクト?!」

ファクトの声だけれど、何も見えない。


『こっち!』

「ファクト?!!」




するとそこにはストレッチャーがあった。


堅いストレッチャーに、質のいい掛布団があり、そこで眠っている誰か。


指だけが動く女性が眠っている。布団だけで姿は見えないのに分かる。ユラス人?

ナオス人の特徴である薄い色の髪、薄褐色肌。でも顔立ちがユラス人とは違う。混血?


どこかで見たことのある人。



『あ…………して……る。しあわ………せ……に………』


小さな子供を抱いたまま、響は布団から必死に動くその指を握った。




と、世界が一気に弾ける。




「?!!」

全てがなくなり…………宇宙が広がる。



でも分かる。まだ人の中にいる。

以前会った、宇宙の人だ。



あのルバの中だ!



あなたは?



『シェダル、お帰り。』


と、声が響く。




その時シェダルがその誰かに手を出した。

瞬間、パン!とシェダルが小さな光の粒になって消えてしまった。



「待って!!」


『大丈夫』

と無い声が響く。



「それに私、まだ約束を…。あなたとの約束を…………」

響は宇宙の人に話しかける。



その時アンドロイドシリウスが、それは光り輝く恒星なのに、シリウスとなぜか分かるのだけれど………大きな大きな輝きを放って、小さな光になったルバの人を消してしまった。




ガーーーーーと世界が動き、荒野が見えると思ったら、



ガーーーーーーーーーーと世界が反回転して、




響は目を開けた。






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