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ZEROミッシングリンクⅤ【5】ZERO MISSING LINK 5  作者: タイニ
第四十一章 アンドロイドの着地点

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93 デジタルコカイン2



「シェダル?行きましょ。」

見たこともないアンドロイドだった。しいて言えば普通だ。この時代にはアナログアンドロイドと言われる単純機能アンドロイド。ニューロスではないが、ぱっと見は人間に見えるほどの動きはする。


ただそれは、ベージン社の。



「……なんだ?来んなよ。気持ち悪い。」

シェダルが気を使う事もなく嫌悪感を示す。シェダルは知らないが、この機体が個人所有ならエキスポ以降発売された『モーゼス・ライト』だ。


ここは人が多いし、シェダルの監視がいてもすぐには動かないだろう。響は咄嗟に庇うようにウヌクの前に出る。

「っ?」

ウヌクも何かあるのかと気が付く。

「太郎、行こう。」


その時、1人の男がそのアンドロイドを必死になって呼び止めに来た。

「ルルカ!どうしたんだ。帰ろう!」

どうやら主人らしい。アンドロイドを所有していることが恥ずかしいのか、必死に帰らせようとする。いわゆる、ベージン社の掲げる話であれば人間のパートナーにという話である。そういう意味のアンドロイドなのか。

少し端に移動したが、周囲の通行人からもチラチラ注目を浴びていた。


しかしルルカと言われたアンドロイドはシェダルに話があると言う。

「シェダル。少しだけ話があるの。」

「早く連れて行けよ。こんな奴。」

かったるそうにシェダルは主人の男に言い放った。

「こんな奴だと?」

主人は動かないルルカにも自分のアンドロイドを悪く言うシェダルにも苛立っていた。


と、その隙にルルカは素早くシェダルの腰をすくい、その場から逃亡しだした。

「はっ?」

「?!!」

咄嗟過ぎて今のシェダルには反応ができない。


「シェダルさん!」

「太郎!!」

ウヌクと響が驚く。ウヌクは方向的に少し先のシャッター街の方だと予測する。

「響さん、多分あっちだ!」



シェダルの監視アンドロイドたちも瞬時にその後を追いすぐに追い付くが、喧騒を離れた場所で監視たちは止められた。

信じられないことに、そこにはベージン社のS級アンドロイドが2機もいのだ。こんな大房の、一般の事情に関与するような機体ではない。


監視たちはそこで足止めを食らった。




***




その同時刻、ニッカたちと河漢の子供たちの指導に出ていたのはファクトである。通常授業に追いつけない子の補習だが、土曜日で暇なのか来なくていい子まで教室にいるので大混乱だ。


ファクトのデバイスに着信が入る。

ウヌクからだと無視をするが、しつこいので仕方なく出る。

「ウヌク?教育実習中なんだけど。」

『ファクト!太郎ってなんなんだ!』

「タロウ?犬?」

『は?!バカか?シェダルだ!!アンドロイドに引っ張って行かれたぞ!!多分ベージン社のだ。』

一般に中機能のアンドロイドを売り出したのはベージン社だ。SR社は法人以外に完全なホモサピエンス型は販売していない。


「へ?シェダル??」

『ここ大房なんだ。チコさんたちに連絡していいのか?警察か?ここから警察だと大房警察に繋がると思うけど。』

「はあああ??!!」

思わず言ってしまうと、ニッカや子供たちが注目する。

「あ、何でもない…。ニッカ先生、ちょっと出掛けていいですか?」

「え?」

「急用。」

「うん。いいけど大丈夫?」

大変だが、先生は他に5人いる。シェダルの方は?おそらく護衛がすぐに対応はするであろう。


「待って、ウヌク。すぐに行くから。ありがと、ニッカ!

貝君Ⅱ、バイク呼んで!」

ファクトはデバイスとカバンを持って、自分のバイクを呼びつつ駐車場に飛んだ。




***




「クソ!触んな!!」

シェダルはそんなに奥には連れて行かれず、直ぐ入り口で地面に押し倒される。


シェダルのパワーセーブの解除はそんなに簡単には外れないが、感じる。

力がみなぎっている感覚が。

「遅い!」

と、ここにいないシリウスに文句を言い、シェダルは上半身を起こし、ルルカの顔を掴み一気にダズっと地面に叩きつけた。

「うぐっうぅ!!」

と、ロボットも悲鳴を上げる。


が、さらに信じられないことに、シュンっとさらに新しく現れたS級ニューロス1機に上から肩を押さえられまた地面に叩きつけられ、もう1機が腹の上に乗っかる。そして、さらにもう1機に足を押さえられた。

「は?!」

3体もいる。


足を押さえているニューロスは見えないが、少なくとも上2機は確実にS級。さすがにシェダルでも今の体で3機に押さえられたら動けない。ここまでは、先ルルカに腰を引っ張られてから1分30秒も経っていなかった。



そして腹に乗っかっている一台がシェダルの顔を押さえる。

「こんにちは。私のシェダル…。」


そのS級ニューロスの顔に現れたホログラムはモーゼスの顔だった。


「!?」

そしてその額から何かが流される。安っぽい電光のような光がシェダルの額を覆う。

やばい。それだけは分かったが、抵抗できない。


デジタルコカイン!!


症状によってデジタルコカインやデジタルヘロインと言われる、世界的に禁止にされているデジタル薬物、電気操作だ。

「くっ…っ…」


暫く流れるとシェダルは動かなくなる。

「………シェダル…?」

ぐったりしているのを確認し、目を開かせる。目の焦点がおかしい。


モーゼスは辺りを見渡し、それからシェダルに優しく言う。


「………私のシェダル………。

欲しい物を手に入れなさい…………。


そして、私の元以外どこにも行けなくなればいいの…。」


「………………。」



「あなたは私だったのに…。」

そっとシェダルの頬を触ると、人影を察知し数人のアンドロイドと共に大房を引き上げた。




***




響はファクトと話していたウヌクより先に走り、ウヌクを見失ってしまう。



でも、シェダルはそんなに遠くに行っていなかった。街角の隅。少し横に入った場所で先のルルカらしきアンドロイドと倒れていた。


「シェダルさん?!シェダル!」


恐る恐る横を見てもアンドロイドは顔が潰れて、ただの人形のように、電源を切られたおもちゃのように動かない。顔が潰れるくらいで機能は止まらないので根元から何かを切られているのだろう。

「…。」


そして、倒れているシェダルに近付く。

「……シェダルさん?」


少し祈って心で決意した。

そっと、顔を覆っているシェダルの片手をよけると違和感がする。小さく痙攣している?


響はシェダルの目を見る。


「?!」

「…………」

「シェダル?!!」

完全に目がおかしい。過去に捜査に関わった件で響はこの目を知っている。

どこを見ているのか分からない目、開いた瞳孔。


高い心拍数。



電気コントロール?!


電気操作と言っても、思い通りに動かせるわけではない。基本、惑わすか壊すだけだ。



今度は響の方が腕を握られ、ガバッ!と体勢が崩れた。シェダルに乗りかかるように。


「…響……」

「いっ…」

思わず縮こまる。でも分かる。今のシェダルの握力は普通の人間より強い。腕が折れそうに痛い。

「シェダル…。放して。痛いよ!」

「響……」

髪の毛も引っ張られる。


顔を引き寄せられるが顔を背けて唇を噛んで響は耐える。


響は今されようとすることを理解した。

「?!シェダル!やめて!」

と言ったとたん、口を押えられ今度は位置が反転し、響が地面に寝転んだ。また腕を掴まれるが力の制御ができていない。このままだと本当に腕が折れる。



天が思い浮かび、タラゼドが胸を掠る。


しかもここは少し場所を移れば人も見える。

そしてシェダル自身の破滅も思う。


自分に何かあったら、シェダル自身も、もうまともな生き方はできない。





研究室のどこかの部屋で、



あ、あ、あ…と何の意味もなく駆けている子供を思い出す。


唯一の布団も小さなタオルも取られ、窓も家具もない部屋で、子供時代を過ごした子。



やっとここまで来たのに…………

やっと街を歩けるようになったのに。


このままだとチコにも重荷を負わせる。



「う゛っぅ…」

と、息が漏れる音だけ。




ドドドドドドッとシェダルの心臓の音が聞こえる。


首筋を掴まれ、折れそうな片腕を、その囚われた自分の手を響はぐっと握りしめた。





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