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ZEROミッシングリンクⅤ【5】ZERO MISSING LINK 5  作者: タイニ
第四十一章 アンドロイドの着地点

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91 数千年越しの和合?



朝のアーツ寮の食堂。


南海の食堂まで食べに行く者もいるが、ストレス発散でシャウラや元カフェスタッフが料理を作ってくれるため、最近はここで食べる者も多い。河漢は本当に擦り切れて暑苦しい男ばかりなので、ここで少し繊細な料理を作って、癒し系が自分の料理を食べに来てくれることが気分転換になるのである。


ムギ弟のトゥルスや南海住まいの子供たちのことだ。



「ねえ、ジェイ君とタラゼド君はなんでそんなにつまんないの?」

「は?何すかいきなり。」

朝トレを終えて朝食を食べているタラゼドにそれを聞くのは、かわいい子供たちではなくなぜか朝からここにいる婚活おじさん。一緒にご飯を食べている。


「ほら、もっと野心とかないの?草食系?ジェイ君も、今運営しているコンビニだけでいいとかさ。ベガス制覇狙わないの?」

「ジェイが管理しているコンビニ、3軒もあるんですよ。十分じゃないですか。」

「はー!タラゼド君ってほんっとおもしろくない!!」

「ていうか、ベガス制覇狙ってるんですか?」

呆れてしまう。


今、自分がかまっているジェイもタラゼドも、世の中への野心はほぼないので、つまらない婚活おじさんなのである。ただタラゼドは、会社が示せばその通りに働いて成果もかなり出してくれるので、現在勤めているリノベーション会社リグァンで、鬼のように役に立っていることは知っている。体力余裕のある社畜だ。

「ねえ、うちに勤めたらお給料倍出すよ?」

「小売りや商社は向いていません。」

「それ以外の仕事いっぱいあるし~!倉庫管理とか。その内でっかい倉庫作るからさ?重機なんでもいける口でしょ?大きなことは全部機械でいけるし。」

言葉の使い方が間違っているが、おじさんは絶好調。


「…………。」

それを横で聞いている他のメンバー。

「おじさん、俺は?」

移る気はないが聞いてみるシグマ。

「シグマ君もいいよ~。でも、タラゼド君来たら、チコ先生の左大臣もゲットできそうだし!」

「……………。」

響の事だろうか。なぜ不可侵権に手を出そうとするのだ。



そこにムギが入って来た。曜日によっては食堂でソイドと待ち合わせをしている。

「ムギちゃん、こっち!おはよ。」

「ソイド、おはよ。宿題見て。」

ソイドは不登校だったため、今高校に在籍している。社会科のみ、ムギは上のクラスに通うので一部ソイドと一緒だ。

「……うん、いいんじゃない。」

「…良かった………。」



「あ、右大臣!おはようございます!」

自分を右大臣と呼ぶ婚活おじさんに、ムギは顔をしかめた。

「おはようございます………。」

「ムギちゃん、登校前ですか?」

「投降?誰に?昨日は負けたけど、ずっと負けるつもりはないですから。クソー。なんか黒星の方が増えていく…。」

ぶつくさ言って全く学校に行く気のないムギであるが、もちろん行かなければいけない。


周りは誰に負けたのか突っ込まないが、全体の白星はムギが断然多いし、武器の種類によっては下手したらユラス軍人でも圧勝できるであろう。でも、そんな危ない対戦はさせてもらえないので仕方ない。

「…無常すぎる………。」

ムギは何かおかしい方に落ち込んでいる。



「あ!ファクト!」

そこに既に2キロ走って朝の腕立て伏せ腹筋背筋100回2セット終わらせ、3×3もしてシャワーをしてきたファクトが間抜けな顔で出てきた。

「………おはよ。」

「ねえファクト。」

「………。」

「ねえってばっ。」

「…あとでね。飯食って学校行って、帰ってトレーニングしてまた寝てから…。」

「そんなん明日だよ!」

「そうともいう。」

「ファクト、今日からアームズトレニンーグ全部やめて、普通に接近戦にしよ!」

「………。」

ファクトは嫌そうな顔でムギを見た。ムギはアーツで投擲武器や銃などの指導をしている。あんな細い体で男でも飛ばされそうな銃器もつかうのだ。時々吹っ飛んでいるが受け身もうまい。その他、咄嗟の判断力の指導などもしている。

「ダメ。先生なのに何言ってるの。教官以外の女性と接近戦や組み技はするなってみんなに言われている。」

「あ゛~!!!」


「…………。」

悩んでいるムギを見つめる婚活おじさんも悩んでいる。

実は、婚活おじさんにとってムギが一番分からない存在であった。


ただの子供なのに位置も存在も謎過ぎる。




***




そして、昼は昼でなぜかまた南海事務局のリフレッシュルームにいる婚活おじさん。


正にチコと合致(がっち)あっていた。

なぜこんなにも気が合うのか。


お互いの護衛、パイラルとファイドルはもう何も言わない。ヤバくなったら二人を引き離すだけである。


「おじ様、いい加減にしてくれませんか?」

「チコ先生こそ暇なんですか?することないならせめて議長のサポートをされたらいいのに…。ユラスに帰ったらどうですか?」

「…………。」

それは禁句である。


周囲に緊張が走る。


「サダルが一人でこなせる仕事なのに、隣で笑って横に付いてるってなんの意味があるんですか??

それに私は今、河漢の指導に入っています。男ばっかなんで癒しの場に来たって許して下さい。」

ここは女子が多いのだ。

「おじ様こそ、毎回あちこちリフレッシュルームに顔を出してお仕事されたらいかがですか?」

「え?部下が優秀だし、歳だから休まないと…。10時と3時のティータイムは必須だし。」

ヴェネレにティータイム文化はない。それに、おじさんの会社の本部はノータイムカードである。



現在チコは、血気が強く力が有り余っている男たちの教育に入っている。

自分を制御する方法や河漢がなぜこうなってしまったのか、歴史的原因から教えている。自分たちで、自分たちの根本性を熟考、黙考するのだ。中には大房や他地域のメンバーもいる。



そして、温和的霊性の指導。

若者の性質自体を変えていかないと、河漢から暴力はなくならない。ただ霊性を開眼しただけでは力を得たに過ぎない。それは新たな世界観を教えるだけで、個々の根本的考え方にまで干渉はできない。


自分で考えるのだ。世界とがあり、自分がいる意味を。

存在そのものの意味を。


世界が混乱しているのは、世界が存在している意味も、自分がいる意味も知らないからだ。知らないから生命をおろそかにできる。



温和的霊性の指導は、知らなかった人間にはかなり衝撃をもたらす。

自分に対し対等で敵対しない慈悲や高潔さなど、強く温かい霊性を見せることもある。同じ人間なのに、霊性の質が全く違う。けれど、全ては繋がっている。


時に世界の構成や成り立ちも見せる。万象の成り立ち、構成。自分と万象の位置。他人との位置感。目でみるものと全く違う世界を霊性師たちは見ている。


すぐに受け入れられない人間もいる。



進むことを選ぶのは自分だ。



アンタレス河漢やこれまでの自分たちの世界で知った以外の、人生や選択があることを教えるのだ。

全ての解決になるわけではないが、ある意味これが一番の本人に対する根本改革である。


これはユラス軍や、VEGAのスタッフ、初期に全ての者が受ける指導であり、最近は普通教育の場でも行われている。




「で、パイラルちゃん。ウチの誰かいらない?」

「………。」


なぜそこでそういう話になるのだと、呆れる全員。

「間に合ってます。」

ちょっと青筋の立っているチコ。


「ファイドルさんもおじ様なんて構わず、単独で仕事した方がいいんじゃないですか?」

時々違う人が来るが、ファイドルが多い。

「いつもはそうなんですが、社長が南海広場に行く時は、ストッパーが必要だと付き合わされているだけです。」

なるほど。どうしようもない社長のお守りである。なお、一応護衛も含めている。一般格闘術はできるらしい。


「あ、もうここにいるファイドルは?ファイドルもいい加減結婚してもいい時期でしょ?」

今まで無害だったのに、突然振られるファイドル。

「は?」

そんなに動揺するような男でもなさそうなのに、顔が赤くなった。

「それともパイラルちゃんは、バーチ?リキッド?」

おじさんが南海の集会などで顔を見る男や部下の名を出して行くと、ファイドルは焦り、パイラルは真っ赤になっていた。

「あの…。カーティンさん?やめてくれませんかっ。」

お互い照れているので。二人を遮る婚活オバさん。


「…………。」

超怪訝な目で見るチコ。

「…………パイラルまさか…。」

「…!?」

動揺している。


「…えーっ??!!そうなの??おめでとう~!お二人さん!!」

まだ答えも言っていないのに、おじさんは立ち上がって拍手をし出す。

「違いますっ!ファイドルさんとは何も!」

抑えめではあるが、パイラルは声に出してしまった。


「こんな人のいる場で失礼ですよ。おじ様…。」

チコとしては、こんな茶番に付き合いきれない。

「大丈夫、大丈夫!誰も聞いていない!」

昼の食堂。バッチリみんな聞いている。


「パイラル、ちょっと来い!!」

立ち上がって、隅にパイラルを連れて行く。

「パイラル!なんだ?あの男に気があるのか??」

「…………。」

俯きがちにチコから恥ずかしそうに目を反らす。自覚させてしまった。

「はあ?ヴェネレ人だぞっ。」

内陸のユラス人とヴェネレ人は仲が悪く、基本同じ土俵で仕事はしない。しかしチコとしては、ヴェネレ人というよりおじさん領内人と言うのが気に入らないのである。

一方パイラルはどんどん赤くなる。


「はー…………」


「チコ先生?」

「うわっ!」

おじさんがいきなり横に現れ不敵な笑いを見せた。

「ファイドルも満更でもないようです………。」

「…頭が冷めればパイラルも落ち着く!この状況に照れているだけだっ。」

「………え、チコ先生。また障害になるんですか…。」

おじさんは、ドラマの苦境に立たされた役者みたいな切ない顔だ。

「はあ…?」


「国際結婚超推奨のベガス元総長が、ヴェネレ人だからって二人を引き裂くんですか………」

「引き裂くって、まだ何もないだろ。」

もう敬語も抜けてしまう。

「そもそも、生活習慣や文化の壁を越えられない個人に無理に国際結婚は薦めない!」

下町ズはビビりなので、ユラス人とだけは結婚したくない。ヴェネレ人とも。

「パイラルちゃんは国際派です!ね?」

「………。」

何も答えないパイラルに、おじさんは鋭い目をキープする。


そこに居た堪れなくなったファイドルがやって来た。

「あの、お二人とも、パイラルさんが困っています。」

「ハイハイ、ファイドル。もっと困らせて。」

「………社長。人様の陣営ですのでその辺にしておいた方が…。」


「じゃあ、他に紹介していい?」

「え?」

ファイドルが固まっている。


「勝手に決めないで下さい!パイラルは渡しません!」

チコが横から口を出すがおじさんは何も恐れない。

「ヴェネレ、ユラス。5千年越しの国交樹立!万歳!!」


当の二人は何も言わないが、目が合って仕方なさそうににっこり笑い合った。


「……………」

それを見てチコは壁に向いてしゃがみこんでしまった。


「チコ先生…………大丈夫です?」

話しかける婚活おじさんを引き離すファイドル。

「チコ様、大丈夫ですか…?」

「………。」

パイラルが声を掛けても何も言わない。


ドア越しで護衛をしていて全部聞いていたアセンブルスがやって来て、ものすごく沈んでいる上司に一言進言した。

「国際結婚推奨のボスですからね。あきらめて下さい………。」

「…。」


数千年、冷戦状態だった正統血統ヴェネレと分家ユラス。歓迎すべき国際都市国際結婚だが、元ベガス総長は無言で沈没であった。




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