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ZEROミッシングリンクⅤ【5】ZERO MISSING LINK 5  作者: タイニ
第四十一章 アンドロイドの着地点

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89 ずっと見ていて



「…………」

緑頭のシリウスは、いつものシリウスのようにファクトを見て優しく笑う。



「…世界はまだファクトの知らない世界がいっぱいあるよ…………。できればファクトの世代以降は知らなくていい世界にしたいんだけどね…。」

そこに関しては、シリウスは親のようにため息をつく。


「女というだけで、堕胎された命も憶で収まらないほどいるんだよ。女というだけで、生まれて間引きされたり、家の中で奴隷になって、せっかく生き抜いたのに嫁ぎ先でも奴隷になって殺されて。子供を産んでも家族として認めてもらえず抱くこともできず、死んでも記憶に留めてもらえず………。


………そんな風に何万年も重ねながら、過去人類の半数以上の女性たちが死んでいったの…。


愛も、恋も…そんなことを言っていられたのは、これまでの人口比では1割もいないでしょうね…。」



「………女の子だってだけで殺される子がそんなにいたの?奴隷とか?」

一応、VEGAの講師から講義を受けているし、途上地域教育を専攻しているのである程度の話は知っている。

でも、過去の全てを見た時、幸せを得た女性は圧倒的に少ないのだ。生まれる確率や成長する確率さえ少ない昔や途上地域の子供たち、その中で女性はとくに生きていけなかった。


女性に自由が出来たのは。ここ百数十年の話だ。

もちろん、男性より強く狡猾な女性はいくらでもいたが、そんな女性も女性にいばらの道を強いてきた。大人の一言で簡単に父親や祖父世代の男に嫁がされ発言もできない。ひどいと無理な性交や出産で後遺症を残したり亡くなることもある。夢や希望なんてほぼなかった。


ただ生きるだけだ。

相手に人の心があるかどうかだけが救いだ。



「そういう全てが、何億、何十億、何百億っているの。私の中にも………。


それから、妻や妾、愛人が複数いることも当たり前。

よっぽど力のある奥方で性格が良くないと、昔はいじめだけでなく、母子共に殺されることもあったし…。次や孫の世代でその子供たちが争い合ったり、コミュニティーや包摂する文化や精神性が未熟だと近親相関だって起こるし…。世界中の国全てでそういうことが起こっていた。例外なく。


夫婦が平和に見えても、家の外に漏れないだけか、じっと耐えている人だってたくさんいる。


今も、まだまだ……そのかずはまだまだ、男性とずっと逆転しないほどに。」



知識として知っても、それがどれほど大変なことか現在に生まれ生きるファクトにはまだ理解できないであろう。



でも、ファクトにはずっとそうであってほしいとシリウスは思う。

もう、そんな世界を心の根底にさえ継がせたくなかった。でも、そういう世界が消えるまでは、そんな子供や女性の残影が消えるまでは、誰かが理解し包括し、整理していかなければならないのだろうけれど……


ファクトも途上地域開発を選んだ限り、いつかたくさんの人の思いを知ることもあるだろう。



「高性能アンドロイドは人間の創造に対しての天使なの。

神の創造が最初に天使であったように。昔の霊性の天使は基本男性だったから、実在体の私たちは女性になる……。」

シリウスは遠い世界を眺める顔をする。

「やっぱ天使は男なの?ミカエルとルシファーとかそうだもんね。」


「先駆けた霊である天使の世界に女性の地位があったら、この世界はこんなふうになっていないでしょ。」

「……なるほど。」

分かるような、分からないような。


「…だから私は、本当の愛がほしいの………。」




「で、無知でアホな男を手籠めにするのか?」


「っ?!」

いきなり他の声が乱入してファクトは声の方を向く。


怒ったムギであった。





「この腐れロボット!!」


「ゲッ!ムギ!!」

「…腐れロボットとはひどいことを言いますのね…。」

バイクから怒っているムギに対して、シリウスは何も(こた)えていないように見える。


「あれ?ムギ、バイク乗っていいの?これも国家級有事?」

「もう16なんだよ!それにある意味国家級有事だよ!!」

ムギは有事において、様々な乗り物の運転を許されている。


「まあムギ、落ち着け。」

「落ち着いていられるか!結局流されているじゃないか!アンドロイドに!!」


「そんなことないわ…。ムギ、そう考えるには早々でしょ。」

「何がだ。分かってるくせに。小賢しいメカだな。……シリウスか?」

どうやら、シリウスとは分からずに声を掛けたらしい。でも、見抜いたのか。


「あなたにも分かるのね。すごい!すぐバレてしまったのは面白くないけれど。」

緑のシリウスから先のフワフワウキウキ感が消えて、いつものシリウスになっている。

「でも、これが有事って分かるのが凄い!」

「当たり前だろ。世界の分岐点だ。それがこんな駐車場横で行われてるなんて、政府も軍も思ってもないだろうな。」

シリウスはにっこり笑う。



「でも嫉妬?」

ブチっと切れるムギ。

「……何が何に?」

「私がファクトを好きだから。」

「………。」

かなりブチブチに怒っている。


「そんなくだらないコイバナとかいうのをしにベガスに来たのか…?偽装してまで………」

怒りが収まらなくなってくる。

「シリウス………ムギを怒らせない方がいいんじゃ…。」

「可愛いからからかっているだけですわ。」


ジーーーっ!ジジっ!!と、シリウスの足元にレーザーが走る。


「っひ!」

思わず足を引っ込めるファクト。そしてムギはシリウスに銃口を向けた。

「ムギ…?」

「大丈夫。ここでは撃たないでしょう。」

シリウスが言うがそれは分かる。シリウスが避けたら後ろは先の駐車場だ。


するとムギはスタッとシリウスの上方に飛んで、角度を地面に向けてからレーザーを発射した。

「いいいっっ!!!!」

シリウスを掴んで横によけるファクト。

ジーッ、バキンっ!と、ベンチ前の石が割れる。

「ムギ!!やめろ!」


ズザンッ!と回転して、ムギはキレイに着地した。


「ファクト!そいつ避けられるのに、何庇ってる!!お前より強いぞ!!」

知らないわけがない。が、そんな訳にもいかない。多分。


そのままムギはシリウスの懐に入り投げようとするが、ムギは小柄で軽いので格闘技のできる相手に接近戦は不利だ。でも、シリウスは力を抜いて自ら技を受ける。と、咄嗟にムギはシリウスが重くなり、横に捨て置く。

「くそっ」

そして、ファクトの方を見ると、今度はファクトに蹴り掛かる……。


「ちょ、ちょっと待て!」

ファクトは避けるがやはりそこはムギ。本気でかからないとうまく避けられず、連打が肩に当たる。

「くっ!」

ファクトは体勢を整えて、ムギの襟首を掴み一気に地面に押さえ込んだ。

「うわっ!」


ムギは柔軟性と反動で立ち上がろうとするが、

「背中見えてるよ。」

とファクトが言うと、

「へ?!」

と服がめくれたと思って背中を触ってペタペタ確認し、恥ずかしそうに大人しくなった。


「ふー。」

と、息をするファクトと、それを不思議な顔で眺めるシリウス。

「ムギ、そんなんで反応してたら負けるよ。」

「バカか!本当にヤバい場だったら、このくらい無視する!!」

地べたに座り込んで怒っている。確かに服はめくれていたが、ムギは薄型プロテクターを着込んでいたので、地肌が見えることはなかった。


「とにかくお前!」

ムギは緑のシリウスを指す。

「ファクトに手出すな!!!」

「ムギ、もう少しかわいく言った方がいいのに。どうしてそんなに怒りっぽいの?」

「関係ない!!こいつが馬鹿だからだ!!」

関係ないと言いながら、答えることは答える。言いたいからだ。こいつはバカだと。


馬鹿だと言われた人を見てみると、シリウスも言う。

「バカだってことは分かってるでしょ?でもそれがいいの。バカな子ほどかわいいもの。」

「ん?」

庇ってもらえると思ったのに、考えていた対応と違うのでファクトは首をかしげる。何気にバカにされていないか?



「…………。」

しかし、なぜかムギは黙ってしまった。


そして…

「…………チコは長生きできるのか…?」

と、思いもよらず、突然ムギからシリウスに質問をする。

「………大丈夫。あの子が自分の体を大事にすれば、ちゃんと長生きできるわ。」

「ちゃんと見ててあげて。遠方からも。」

「………うん。ムギ、分かったわ。」


そう言ったシリウスの顔は優しい顔だった。



底のない、空洞のような瞳で。







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