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ZEROミッシングリンクⅤ【5】ZERO MISSING LINK 5  作者: タイニ
第四十一章 アンドロイドの着地点

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87 全てを弾いて



「わ!あのバカ!なんで出席してるの??…タラゼド!」


「おうファイ。」

「ねえ、何で来てるの??」

「あ、うちも参加企業にお世話になってるし、リサーチと営業も兼ねて見て来いと。まあ、仕事だな。」

「会社で仕事してなよ!」

「何だよ。いつもは会社やめたらとか言うのに…」

ファイとしては定時外に働くなどありえないのである。こき使われるなら1.8倍の時給は貰いたい。


「………あの…。」

するとタラゼドの知り合いが嫌がっていると知って、隣にいた同僚らしきお姉さんがおずおず反応する。

「すみません…、私が、タラゼドさんは敷地も組織図も詳しいから同行して頂いたら助かると…。」


「…あ、いいんです。自分の知り合いです。壱季(いちき)さん、ごめんなさい。

みんな、こちら株式会社リグァンの社員です。」

タラゼドが慌てている女性をフォローしアーツに紹介すると、もう1人横の男性も立ち上がって礼をした。同僚がいたとは知らず、ファイは慌てて謝る。

「あ、すみません!今日は込み入った事情がありまして…。」

ファイにも謝る心があったのかと、近くにいるアーツ一同が驚いているが、一応ファイも会社員である。


「いえ、お気になさらずに…。」

女性社員は少し緊張したまま答えた。

「タラゼド、行くか?あの、私たち、この会議の共有も含めてこれから出掛けますので。」

男性社員が声を掛けると、横にいた女性もタラゼドの方を見て嬉しそうにニコッとした。



それを一瞬で見分けてしまった、また変なレベルと鑑識能力が上がっていたアーツ。


はい、これはきました!



「あの!アーツの皆様ですよね?今日は、明日朝一の会議で報告しないといけないので、また次よろしくお願いいたします!」

男性社員は楽しそうに言う。会議と言う名の飲み会であろう。

「あ、はい。よろしくお願いいたします。」


「………。」

タラゼドはアーツメンバーを見て考える。モアも含めても大学生や10代が多いメンバー。一緒には行けないと考えたのだろう。

「ファイ、みんな。また後でな。」

「…うん。また後でね。」

さすがに社会人ファイは、仕事と言われたら口が出せない。しかし、切り替える。かわいらしい女性と一緒に居るなら、コパーも手を出せないであろう。


が、コパーはあれでも芸能界隈の人間なので、積極性はあるのだ。


「ファクト!ファイ!」

そこにはオフィススタイルの役柄美人秘書みたいなコパーが来ていた。

「あ、こんばんは!」

「はあ???」

こんばんはじゃねえよ!と心で毒づくファイ。声に出してもいるが。


「リゲルもいるのね!タラゼドも!えーと、みなさんは?」

「ベガスで会った新しい友達に…タラゼドの会社の方々…。」

なぜかファクトが紹介する。


「え?タラゼドさん、こんなキレイな方とお知り合いなんですか?」

男性社員が驚愕の目でコパーを見て、女性社員も一瞬固まっていた。


「え?もしかしてコパー?」

遅れて反応するのはもちろんタラゼドである。

「………。」

もしかして今気が付いたの?という顔でみんな見る。エキスポの時の整形級メイク顔はある意味量産型なので覚えていないし、結婚式で話した時はアイメイクはしていなかったので、タラゼドは今の今までコパーと分からなかったのだ。

「ほんと、タラゼドって極刑だよな。」

男子どもに言われる。


「久々に会ったけど………みんなで食事行くの?」

コパーが期待の顔で尋ねた。明らかに旧知の大房メンバーに混ざりたそうだ。

「コパーは自分の会社の人がいるでしょ?」

「ウチは派遣だから…。みんなとご一緒………」

「タラゼドは会社の人と、仕事がらみでお食事です!」

ファイがタラゼドに代わって断るが、男性社員が思わず言ってしまう。

「え、一緒に食べます?」

「?!」


しかし、

「ダメです!コパーは私たちと食事します!!」

と言い切るファイであった。

「はああ?」という顔のアーツ陣。コパーも「え?」と言う顔をしている。


ちなみに、参戦できないリギルはドア近くでみんなを待ち、ラムダは響さんの位置を確認しろと言われ、響はまだ職場と聞いて安心するのであった。


「そっか、残念です……。タラゼド、あっちのカーオに挨拶してこ。」

カーオはベガスに新規参入の建築資材会社だ。

「ああ。俺はちょっとメレナさんの…アルカブ建設と話をしていくので。壱季さん紹介しておきたくて。」

男性社員にそう言ってタラゼドは場を離れた。

「ではまた。」

と、周りに挨拶をして男性社員も去って行く。



「…………。」

残されたコパーとアーツ。


「………私も食事いいの?」

タラゼドと話せなくて残念そうだが、大房の顔見知りと食事ができるとコパーは嬉しそうだ。ファクトに手を振るのでファクトも一応答える。

しかしファイは遮る。

「……そんなわけないつーの!」


はい?

発言(ぬし)ファイ以外、驚愕する一同。


それからファイはコパーを端に連れて行って小声で言う。

「あんた、これだけタラゼドに存在を無視されてまだ分かんないの?!関わらないで!そもそもタラゼドには今付き合ってる人がいるんだよ!!」

多分、自分的には。

「……それは前にファクトに聞いたけど、タラゼドの事だから曖昧なんじゃないかって…。」

コパーは必死に言い訳を探す。確かにヤツは曖昧ではあるし、本当はファイもそんな事情は聴いていないのだが、ここは言っておくに限る。

「あのね!いくらタラゼドが曖昧な男でも……節操なしでも無感覚でもないからね!ショックを受ける時は受けるし。あんたが他の男と付き合うまでは待ってたし!」

待った後は、なにもないが。

「…………」


じわっと泣けてくるコパー。

「?!」

「!」

涙は流れないがギリギリ耐えている感じだ。大丈夫かと見に来た周りの男子どもは、ファイ、こんな場所で何を言ったんだと慌てている。


「あのね………泣くと化粧落ちるよ。周りに人がいるのに仕事上困るでしょ?ここは職場なの!」

「…ウォータープルーフメイクだもの…。」

SR社の最新防水商品で、泣いたぐらいでは落ちないのである。専用クレンジングでないと落とせないのだ。抜かりはない。ファクトのみ全部の会話が聞こえていたが、完全に悪者ファイ。エキスポと立場が逆転している。


「あ!コパーさん!ここにいたんですか?今日、懇親会していきましょ!他社の方も待っているので。」

派遣会社らしき数人から声を掛けられる。

「行ったら?」

「え?」

ファイの一言に固まるコパー。ファイはそこだけ親切に、カバンからティッシュを出してそっとコパーの目に溜まった小さな涙を吸い取る。

「仕事でしょ?行ってきな!」

押されてしょうがなく派遣会社の社員たちの方にコパーは消えていった。こちらに名残惜しそうに。



女ってこえー!と思うアーツ男子だが、ファイの性格が悪いだけである。

タラゼドとの会食を引き留めるために、仲間に加えて見放すとは。


「かわいそうじゃない?」

ラムダがなんとなく言うが、タラゼドとの結婚込みの未来を蹴って、他の男と付き合った女だ。ファイとしては今更許せないのであった。

タラゼドやその周辺に今更関わろうとする方が悪い。




***




その頃、響は仕事を上がると真っ直ぐアパートに戻って、軽く夕食をとり、清めとして最初に冷水を浴び、心が落ち着いてから温かいお湯で入浴をした。

白いTシャツにグレーのスウェット。


それから沈香を焚き、デバイスをサイレントにする。

少しだけ不器用にストレッチをして、ゴザの上に胡座で座り瞑想に入った。



響は毎日1回か2回、生活に負担にならないほどの瞑想を続けている。だいたい5分から15分。

自分の中のサイコスを整理する方法を見付けていた。ただ生きるなら必要のない能力。


でも、シェダルが乗っ取られたのがどの経由かまだはっきりしていない。

それを聞いてどうにかしないとと思った。彼は揺れやすい。一人で心理層を漂うのは危険だ。まだそこはシェダルにとって安全圏ではない。




長い闇の迷路を高速で辿るように………


響はその答えを見付けに行く。




闇の中で、時々聴こえる鳥の鳴き声。小川のせせらぎ。




そして美しい光の中に――


たくさんの悪口が聴こえる。



世界は闇だ。

神は子供一人救えない。

お前は役立たず。

阿婆擦れ。

この世に善などない…………


そのどれも響は無視をする。



すると、またその向こうに聴こえてくる。



ずっとあなたを愛してあげましょう。

永遠の愛をあげよう。君に尽くし、君を受け入れたい。

あなたの全てを受け入れるよ。そのままでいいんだ!

何ていい子!こっちにおいで!


その全ても無視をする。



『響さん………』



その声が、待っていた人の声なのか、そうでないのかは分からない。でもそのどれでもな気がする。


掴んだらそこに…望んでいる人がいるのか。




でも、今は………


それすら全て無視をする。



今、横の世界はいらない。




向かっていくように動いていた全てがいつの間にかサーと離れ、



パ――――――っ


と、響の世界が弾けた。




香木の香るリビング。




「はあ、はあ、はぁ……」

少し深呼吸をして、そのまま後ろにゆっくり倒れる。


どこまでが霊で、どこまでが心理の世界なのか。響にも明確な区別はつかないし、霊にこそ心がある。だからその両方でもあるのだろう。


「はあ、はぁ…」

と、まだ心理層が現れない右手を見て、寝転んだまま呼吸を整えた。




●逆転する前のエキスポ事情

『ZEROミッシングリンクⅢ』49 子供たちはいつの間にか

https://ncode.syosetu.com/n4761hk/50

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