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ZEROミッシングリンクⅤ【5】ZERO MISSING LINK 5  作者: タイニ
第四十章 ギュグニーの花嫁

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83 二度目の襲撃と拉致

※ 暴力、残酷な描写が含まれます。



その日は全てが変わる日だった。


「わああああーーー!!!!」

たくさんの泣き声や悲鳴が聞こえる。


カーマイン姉妹のいた集落に見たこともない敵が入って来たのだ。


彼らは数台の高性能ニューロスを連れて一気に進入してきた。まず、成人男性、とくに一般兵は捕虜になることもなく殺される。女性たちは知らなかったが、このコミュニティーの男たちは粗暴な生き方をしていたが、話はできる方でギュグニーの中でもそれなりに強い者たちであった。


なぜなら、一勢力の高官だった者たちだからだ。

彼らは謀反を起こして独立部隊を作った。


これまで様々なメカニックとも戦っている。でも、今回敵兵に導入された物は、根本からその強さや性能が違った。


レグルスはここに来てもうすぐ1年になるが、今ひとつギュグニーの勢力図が掴めない。今、襲っている者がどこの派閥なのかも、それが国なのかも分からない。

あまりに目まぐるしく変わり、誰もがあまりに好き勝手を主張してきたからだ。


ある者は自分たちを、聖典の末裔の王を指導者に持ち崇める選ばれし者であると言い、ある者はイカれた首脳陣を制した革命軍だとも言った。




「やああああああーーーー!!!」

その声が大きく響いたのは銃声が鳴り響いた学校のある棟だった。


美しいカラを襲おうとした兵に抵抗して、カラが撃たれたのだ。


レグルスは信じられない顔でその光景を目にした。


一番上の姉が亡くなった時のことを思い出す。

父と母が、仕事仲間たちが亡くなった時のことを…。




それはたくさんの子供や女性たちの前で起こったことだった。女性たちが小さな子供たちの目を覆う。

男はさらにトレミーや他の女性たちに目を付け、見目のいい女性たちに近付いていく。


レグルスは一瞬で判断した。こんな状況でそんな事しか考えていない。

話の通じない人間だ。

姉は撃たれていてもどうすることもできないので、レグルスがその兵の前に立ち塞がった。


「どけ!」

男が言うが、レグルスは退かない。

狂気の顔で男が銃口を向けようとした時だった。


プシュンっ!

と、一瞬何かの音がして、男が首とヘッドギアの間から血を吹き出してズサッと倒れる。外出から急いで戻って来たカラの夫の放った銃声だった。


「カラ!カラ!!」

夫が倒れたカラに駆け寄る。

「カラ!カラ!カラ!」


ぐったりしたカラは瞬きをすることもできず、目も動かない。でも、その瞳からスーと涙が出て、そして動かなくなった。



………姉さん?

レグルスは息を飲む。



夫は血にまみれて蘇生をするがカラは動かない。ヘッドキアを外してカラの血だらけの顔に額を付ける。


しばらくして

「うわあああああああああ!!!!!!!」

と声が響く。カラの夫が泣いていた。



…………?

姉さんは死んだの?


泣きたいのは私なのに。私にその場所さえ与えてくれないのね。

レグルスは思う。


父も母も、二人の姉も………死んでしまった。




しかし、また銃声がして、カラの夫も顔から血を流し倒れた。


そこに3人ほどの見知らぬ男たちが入って来る。

「おー!ここに女子供を隠していたのか?」

そしてレグルスを見て、新たに来た男はハッと気が付いた。


「おいおい、マジか。こいつらが外交官の娘たちを隠していたのか?お前、末娘だろ?次女がいるはずだ……。出てこい。」

「………。」

しかし、誰も返事をしない。


「ダークカラーの入った茶に近い、ブロンドヘアのはずだ。」

トレミーやジライフ大使館の女性たち何人か、ここには数人のブロンドヘアがいる。黙っていては撃たれると思ったが、男たちは銃を構えたまま一人一人の顔を確認していく。


そこで血まみれで転がっていたカラの髪がダークブラウンであることに気がついた。

「……まさかこの女か?」

髪を引っ張って身を起こされる。

「………この女だな…。」

血だらけのカラを、男は目に映るホログラムの情報と照らして確信した。

「………なんで死んでるんだ?この倒れているヤツが殺したわけでもあるまい…。仲間割れか?」


そこに、手だけ動かしてカラの夫が抵抗した。やめろと男の足を掴もうとする。

「ひっ!!」

「あっ?なんだ?まだ生きてんのか?」

ガン!と、男はブーツでカラの夫の手を潰し、もう一発頭に撃ち込んだ。


「…っ!」

誰もが押し黙る。


撃った男は念のためカラの夫の顔を確認した。


「あ!!こいつ。ジクーアだろ?!」

「ジクーア?!」

「生きてるか?殺すんじゃなかったな…。」

顔の知れた男だったのだろうか。頭と顔の一部がつぶれていたが照合はできた。


「こんな簡単に打たれる男じゃないと思うが?」

「………。」

男たちはレグルスの方を見る。戸惑いながらレグルスは正直に言った。

「……姉の………夫です。」

男たちは何も言わなくなる。この答えが吉と出るのか凶と出るのか分からなかったが、それ以上は何もされなかった。



そして、手を潰した男の仲間の一人が、先ほどカラを殺した兵に近寄った。


「おい、まだ生きてんだろ?」

「……。」

虫の息でもその兵はまだ生きている。

「あ?なんで女が死んでんだ?お前だろ?無抵抗な者は誰も殺すなという命令だったはずだ?あ?」

血が流れる首を持ち上げ、ヘッドキアを外し平手で打つ。

「お前ごときが女に手を出していいとでも思ったのか?ああ?」

何度も平手で打ち血が飛び散る。


「一番必要だった女を殺しやがって!」

男は思いっきり、瀕死の兵の顔を蹴り上げた。

「こいつはあぶり殺す。連れて行け!」


子供たちの悲鳴にならない悲鳴が聞こえる。声を出して泣きそうな子供の口を押え必死に抑えようとするが、子供が多すぎてそれができない。元娼婦の女たちも何人か泣いていた。


「おい。」

そう男が言った時、見せしめに誰か殺されるのではとレグルスが前に出た。

「お願いします。お許しください……。」


「…大丈夫だ。言う事を聞けば女子供は誰も殺さない。外は我々が制した。全員連れてこいとの命令だ。ただ、これ以上不要なことはしゃべるな。分かったな。」



そして男は死んでしまったカラを無表情で眺め、考えてから言った。


「いきなり姉を殺して悪かった。………哀れみをやろう。言いたいことはあるか?」

「…お許しいただけるなら…姉の遺体を夫やここの兵たちと弔ってあげて下さい…。」

「分かった…。いいだろう。ここで燃やしていく。」

「許されるなら、日を置いて燃やしてください。」

「分かった。」

生きている者を燃やさないためと、霊線を肉体から分離するためだ。



「それと…別室の子供たちも同行させてください…。」

そこには病気の子たちもいる。

「それは要相談だ。さっき隣も見てきたがこれから行くところは、ここより設備がない。設備というか…まあ。場合によってはどこかの街に預ける。簡単な仕事ができる場所に預けてやろう。」

「…………」

「その代わりここであったこれまでのことを細かく説明するように。」

男はこの部屋に置いてある教科書や様々な筆記道具、楽器などを見てそう言った。

「この棟の部屋にあるものは全て運べ。」

指示を出すと、何人かの者が来てメカを使って作業を始める。


トレミーたちも動揺した顔で見ているが、小さな子を抱いて落ち着かせた。



他の兵士がレグルスに近付く。

「オキオルのジライフ大使館からここに来た職員やその家族は何人だ。いいか。嘘を言うなよ。」

「女性職員6人とその娘2人です。内1人は、今ここで死んだ姉です…。」

「ここに名前とジライフでの職業を書け。」


そこに書くと、他の部屋に何か確認に行く。

「行方不明者情報と合っています。」

誰かが確認作業をしている。



手が震えるがレグルスは決意した。

姉がいなくなった今…悲しんではいられない。上の姉が死んだ時、直ぐにカラが決意をしたように…


自分がここのみんなを守らなければいけない、と…。




ボーティス………


レグルスは彼を思い出す。でも今、彼はギュグニーにいない。

貰った指輪を服の中に隠した。




それから…………大勢の子供と女性たちは忽然とこの集落から姿を消してしまった。





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