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ZEROミッシングリンクⅤ【5】ZERO MISSING LINK 5  作者: タイニ
第四十章 ギュグニーの花嫁

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78 婚活おじさんVS婚活オバちゃん



「はー。」

思いっきりため息をつくチコに、遂にサルガスが怒った。


「チコ、いい加減にしてほしいんだが?!」

事務局横の会議室で、人員の振り分け作業をしていたサルガスが呆れていた。


「仕事しないなら向こうで休んでいてくれると助かります。」

ため息しかつかないチコにキレている。

「……冷たいなあ。サルガス。確認作業してるだろ?」



今日はゼオナス、タウやベイド、シャウラやライブラやミューティア、シグマ、ローなどリーダークラスが揃っていた。現場はVEGAが回している。

チコははじめ、第3弾がいた時は非常に気を遣っていたが最近はそんなこともなく地を晒している。行政の人間もいたが、ベガス初期からの顔見知りで気が抜けている。


一応不真面目男ウヌクも端の方にいて、自分の担当地域に河漢のどこのどんな人間が流れて来るか確認をしていた。


アーツはVEGAと共に調査した住民状況を行政に提出し、一旦行政がその案を作る。完成したものを、住民の現場を知るアーツとVEGAが精査し、生活の基本教育をどうするかなどまた振り分けていくのだ。その中で、地域のまとめ役や何かの管理役になれる者もピックアップしていく。


学校などの基礎教育振り分けは藤湾団体が担当し、自分たち直下の仕事以外は行政が斡旋していく。


基本的に、完全に仕事が困難な者や80歳以上の高齢者以外は全ての人に仕事が振られ、それゆえに給料も渡せ安くインフラを回せ、他の地域よりかなり安くここに住める。ベガス住民や勤務者の生活は基本無料だ。


そしてとくに河漢の話だが、ヒマを持て余し、加減な事をさせないためでもある。とにかく昼から酒に酔っている者や意味なく近所に迷惑を掛けるも多く、初期はものすごい人数が施設行き扱いで待ち状態であった。今は他の対策をしている。悪質な暴力、性犯罪を犯す可能性のある者やあった者は、河漢に残るか施設。最悪、投薬治療がなされる。




「はー。」


またオリガン大陸の現地確認や様々なことを検討してたチコは、あらゆることをするなと言われて完全に人生の溝にはまり込んでいた。

「はー。だって、何かあっても警備や護衛に任せろとか言うんだぞ!」

「任せていればいいだろ?」

「戦闘が起こっても前線に行くなと言われたんだ!!」

「………。」

シーンとする周囲。

「チコ様………。」

パイラルが止める。普通の生活をしていたら、戦闘など起きない。

「これじゃあ何をしていればいいんだ。」

大きな回転椅子に座り込んでため息をまたつく。ガイシャスと男女1人ずつの新規派遣兵も、チコやベガスの雰囲気を確認するため端の方で同行していた。


サルガスがチコに仕事を振る。

「顧問。データの振り分けを。」

「族長夫人辛い………」

「…………。」


仕方なくチコを構うサルガス。しかし、容赦はしない。

「チコ夫人?いつまでその地位で悶々としているつもりですか?議長夫人として生きると決めたのはあなたですよね?議長が戻ってから上がり下がり、何か月同じことを繰り返しているんですか。いい加減飽きました。」

「今まで前線や遠征に関わって来て、今更着飾って大人しく行事やイベントに参加してニコニコ笑ってろってひどくないか??今までで一番頑張る未来が見えない………。」

「そんなことはユラスに言ってください。」

「ユラスの奴らが無視するから、ここで愚痴ってんだろ?」

「ここは愚痴る場ではありません。」


「サルガス、少しぐらいいいじゃないですか。ここでしか言えないから愚痴ってるんですよね?」

「ミューティア………。」

キラキラとミューティアに甘えるチコをサルガスは睨む。女子大好きチコなのである。

「ミューティア、甘やかすな…。」


ガイシャスはサングラスの向こう側の顔を一切変えずに見ているが、正直動揺している。横で見ていた他の兵も言葉がない。ここはどこなのか。




そこに登場する要らぬ人物。

「はーい!皆さん。何人います?お邪魔しまーす。」


数人の社員を引き連れた婚活おじさんであった。

いかにも仕事が出来そうなスーツの男性たちが3人、女性1人がまたたくさんのカフェドリンクを携えてやって来た。

サイドにある長机にドサッとおいて、好きなのを選んでくれと言う。


「……ありがとうございます。どうする?休憩にするか?」

「そうしよう。」

タウたちが言って、暫く休憩に入ことになった。




「チコ先生、コーヒーがいいですか?それとも甘いの?」

婚活おじさんがチコに尋ねる。

「甘くなければ何でもいいです。」

この場で一番の年配なのに、かいがいしくチコにアイスコーヒーを持って来るので、チコも立って受け取る。

「後ろのお姉さま方もどうぞ。………あれ、美しい人ですね?新しい方ですか?皆様もどうぞ。」

部下の男性が持って行く。ガイシャスたちは断るが、チコに言われて受け取った。


そこでチコの少し後ろに立っているパイラルにも聞く。

「どうぞ。」

「私はいいです。」

「いい。パイラル受け取れ。」

「ならブラックで……。」


アイスコーヒーを受け取って机に置いてまた護衛体制に戻ると、婚活おじさんがパイラルの顔をまじまじと覗いた。

「あれ?大人っぽいのがグリフォちゃんで…かわいらしいのがパイラルちゃんだよね?」

「…?はい?」

思わず聞き返してしまうパイラル。なぜ名前まで。


「おじ様……。仕事を邪魔しないで下さい。」

「お邪魔するって言ったでしょ?」

「………。」

この親父はまた何を言い出すんだ…と言う顔のチコに、申し訳ないことこの上ないサルガスである。もう他人ではないが仕事相手でもある。けれど、チコも先までみんなの邪魔をしていた。


おじさんは自分の部下をじっと眺める。

「パイラルちゃん身長高いけど、うちも180くらいのいっぱいいるからどう?ほら、ユラスほど高くはないけれどそのぐらいの方が子供も高過ぎず丁度いい感じにならない?」

パイラルはブーツを履くと185くらいにはなる。

「子供…っ?!」

一見普通だが、動揺を顔に出さないパイラル。自分が標的になるとは思ってもいなかった。


「はあ?カーティスおじ様?ウチのパイラルは私が面倒を見ますので、放っておいていただけないでしょうか?」

「え?チコ先生、ここは東アジアですよ。上司がそういうこと言っちゃダメでしょ。」

東アジアは全体的に個人主義だ。

「はい?おじ様も仕事中に、しかも人や自分の部下になんのセクハラですか?」

「ええ?今、休憩中ですし、私の親心です。」

「パイラルは休憩中ではないのですが??それに私もパイラルのベガスでの親だと思っていますので。」

「あれ、私がコーヒーを渡してしまったので、パイラルちゃんもブレイクタイムです。」

テキトウなことを言うおじさんに、青筋の立つチコ。


「社長、おやめください…。河漢と四支誠(よんしせい)の近況の確認に来たのでは…。」

後ろで部下のファイドルが止める。


「じゃあ…今日はミューティアちゃんに行こうかな?」

「?!」

ゾゾっと席からのけ反るミューティア。

「ミューティア。行け!玉の輿に乗れるぞ。」

後からシグマが言うが、完全にビビっている。おじさんの周期は皆、大企業幹部である。

「シャウラ君とライブラ君も空き取っておいてね!」

「?!」

「ゼオナスくんも!」

「間に合ってます。」


「おじ様?!私に服従を誓った弟子である第1弾と、こんな何の実績もなかった第1弾を見て来てくれた第2弾は私が見ます。」

かなり怒っている。

「いや。別にそこは見なくていいのだが。」

思わず言ってしまうサルガス。

「こんなって、チコ先生。第1弾に失礼だな……。私は君たちを誰よりも高く買ってるよ!」

「ついでに引き抜いてく気じゃないですよね?!」


そこでおじさん、いいことを思いついたと言わんばかりの笑顔になる。

「あっ、じゃあ第3弾はいいの?

よし!ウヌク君、いい娘紹介してあげるよ!きれい系が好き?」

「っ??は?!!」

自分など完全に蚊帳の外だと思っていた第3弾ウヌクがビビる。口が回るウヌクもいきなり過ぎて返しがない。

「第3弾もダメだ!!」

チコは遂に立ち上がって怒る。

「え?なんで?」

「1、2、3っとキリがいいだろ??まとめて私がみる!」

もう返す言葉すら訳が分からない。


こんな所でユラスVSヴェネレになっても困る。今まで見たことのない現状に、これはどうしたらいいんだとガイシャスも見ているしかできない。



そこで遂にこの人が(いか)る。

「カーティンさん…。いくら休憩中でも職場ですよ。いい加減にして下さい!!」

サルガスがかなり怒った顔で止めた。


「………サルガス君怒らなくても…。」

「怒るに決まっています。カーティンさんはこちらの資料を用意しておいたので、静かに確認してください。チコは体力が有り余っているなら河漢に行ってください。本気になれば、河漢も他大陸並みの仕事ができますよ。」

なにせ、アンタレスの外国と言われている。

「顧問なのに危ない現場に行くの?」

先まで退屈そうだったのにこの言いぐさ。

「今日アーツではイオニアとレンドムしかいない。見てあげてくれ。パイラルさん。チコをよろしくお願いします。」

「分かりました。チコ様、行きましょう。」

「え?今?」

これ以上ユラスVSヴェネレ戦線を拡大するわけにはいかないと思ったパイラルは、護衛の仕事ではないがガイシャスも向こうでOKサインを出すのでチコを促す。


「あー!おじ様!絶対に絶対に絶対に誰にも手を出さないで下さい!!」

「はいはい。()()出しません。気を付けて行ってらっしゃい。」

手を振って見送る余裕のおじさん。




チコとパイラルが廊下に出ていくと、おじさんの部下のファイドルが外に出てきた。

「あの、チコ夫人。」

「…?」

振り向く二人。

「うちの社長が申し訳ありません。パイラルさんも申し訳ありません。」

「私はいいけど、パイラルは不快だろ?」

「あ、いえ。大丈夫です。お互い様です。」

パイラルは礼をする。

「………そうですね…。お互い様です。大変アクティブな上司を持ってお気持ち察します。」

「…………」

チコはそれは私が大変なのか?と思いつつも黙っている。その通りであると、さすがに多少自覚はあるのだ。少しは。

あまりに個人主義社会だとなかなか見ない世界。実はユラスとヴェネレ、西アジアは氏族、家族主義が強く、上司の紹介文化が残っていて似ている部分もあるのであった。


パイラルとファイドルはお互い見合って苦笑した。




ガイシャスたちは、テキパキ指示を出して行くサルガスを見る。


アーツベガスの創設時からのリーダーと知っているが、なぜチコにこれほどまで気安く、しかも恐れず指示を出しているのか疑問でしかない。しかも、カーティスおじさんもヴェネレ経済の権威者で有名人。なのに完全にサルガスが仕切っている。

確認したサルガスの資料は、前職飲食業店長からアーツ大房事務局長までしか記入がなかった。ケンカで逮捕歴はあれど、ここに来るまで格闘術経験もない。婚歴も既婚と日にちしか記されていない。


「………。いろいろ確認が必要だな…。」

あまりにユラスと違う日常に、今度はガイシャスがため息がちに言って外に出た。




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