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ZEROミッシングリンクⅤ【5】ZERO MISSING LINK 5  作者: タイニ
第四十章 ギュグニーの花嫁

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77 シェダルはどこに?



「すごいな。ギュグニーはこの前の密輸自体をなかったことにしている。」


SR社ではバッキングや様々な解除を行った押収機体を前に、呆れ返っていた。

でも、いつもの事だ。


言ってしまった者勝ちのように、ギュグニーは先日の件が全て北メンカルの仕組んだこととしてしまい、ギュグニーの中でも責任を押し付け合っている。

「なのに、荷物は北メンカルに盗まれたものだから返せとな。」

そして北メンカル側には、SR社が動いたためSR社とアジアの横暴だと言っているらしい。でも、これまでも何度も密輸をしてきたのだ。モーゼスもそうであろう。モーゼスは分解状態で入って来たらしい。


(から)のアンドロイドでも動きはよかったな…。」

動画を見たシャプレーが感心している。主体性を決めるチップは入っていないが動きは非常にいい。


「チコ・ミルクの動きを真似ている。精神性もこっちに持って行こうとしたのか?」

いつもの気難しそうな博士が嫌そうに言った。

「その方が我々も動揺や油断を買えますからね。」




「でも真似れば真似るほど………


混乱するのも自分達ですね。」



シリウスが底の分からない瞳を煌めかせて言った。




***




ある夜。リギルの部屋で大騒ぎなのはラムダ。


「ファクトー!またシリウスが来てるよー!!」

「…………。」

「ファクトと話したいんだってば!」

「後で、母さんにブチ切れられる………。それにホモサピエンス型アンドロイドは嫌だ。」

ラムダは寂しそうにファクトを見る。

「なんで?友達になるくらいいいのに…。」


横からラムダの画面をのぞき込み、リギルはシリウスを確認してファクトに聞いてみる。

「シリウスの何が嫌いなの?メカ好きって言ってただろ?」

「コマちゃんやワラビーみたいな方が好きだ………。女型は生々しくていやだ………。」

「カペラとかナンシーズとかカッコいいだろ?」

リゲルがSR社にいたニューロスを思い出す。

「あそこまでモデル型だと、かえって吹っ切れる。」

「………それは分かる。」


SR社にいる公開されている女型アンドロイドは、シリウス以外基本異様なほどにスーパーモデル体型か完璧型だ。スピカやカペラは人間と区別がつきにくいが、どことなく一般人は近寄りがたい雰囲気を醸し出している。

コンパニオンタイプはまず判付で、完全美からは外れるがパッと目を引く美女が多い。街中にいても全く気付かれない一般人型もあるがそういう者は調査や護衛ための用途が多く、一般人と関りが多いのはコンパニオンタイプだ。


「………欲情しそうで嫌なん?」

「違ーう!!」

「え?違うの??」

「なんといいうか、シリウスは………気持ち悪い。そもそも親、祖母世代って感じだし…。」

ファクトにはシリウスが正体不明で気持ち悪い。若く見えないし、そういう対象にも見えない。

「…そう?そりゃあシリウスは情報の深海だし、面倒見はいいけれど、それでも若く見えるよ。きれいなお姉さん!って感じ?」

ラムダは思い出しながら考える。少なくともおばあちゃんには見えない。


「そんなん、世の男(おれら)がグラビアやアイドルを見てかわいいー!と思う感じで付き合ってあげればいいじゃん。」

リギルが冷めた感じで言う。


「………いやさ、俺の距離感はそういうわけにはいかないだろ?」

「……………。」

リギルはよく分からないが、他は頷く。何せここにいるメンバーはシリウスとブレイクタイムまでしている。自分たちですらそうなら、ファクトはもっと近いであろう。


「あの底のない目が…夜な夜な動く人形なみに怖い………。」

とにかく底知れぬ怖さを感じるファクト。

「底のない目?シリウスってキラキラ、ハイライト抜群の目だろ?」

「ハイライト?」

リギルが言うが、ハイライトが分からないファクト。

「キラキラしてるってこと!」

「…そう……か…?めっちゃ計算してるか、めっちゃ異空間で虚無な目に見える………」

とにかく、ファクトの見るシリウスは違和感がハンパなかった。


でも、エキスポや観光で、学生や大房民みたいな恰好をしていた時はかわいかったと思う。顔は隠れてよくは見えないが、ラフな格好は取っつきやすかった。


「つうか、俺。この宿題、グループ課題だから黙っててくれる?今日までに仕上げないと。」

「他の部屋でやれよ。」

リギルに嫌がられるが最近この4人、夜はこの部屋でいつも一緒だ。






一方で、シリウスの自室。



『今日もファクトは隣にいるけど、課題をして『ゴールデンファンタジックス』には目もくれません』


と、ラムダからのメッセージを受け取ったシリウスは、デバイスを持ったままベッドに寝転ぶ。


楽しそうな顔をして『挨拶くらいほしいな。私、タクティカルベスト「元オルラジオ軍中尉からの継がれし物」って言うのを今装備しているんですよ。』と返す。


架空の国の架空の軍の中尉で、ファクトが小3の時大好きだった亡くなったキャラだ。

めちゃくちゃカッコいいおじさんだったのに、新シリーズで感動的な演出のために部下を庇って死んでしまった辛すぎる設定にされた思いで出。あまりに辛くて学校でも朝から気が抜け4時間目に泣いて勉強が身に入らず、給食で復活したけど5時間目にまた沈没。


しかし、そのさらに次のシリーズで召喚霊として復活し普通に喋っているので、自分のあの涙は何なん?という思いと中尉やっぱりかっこよすぎる…。アーミーの召喚霊とか好きすぎる……。実物の軍人の霊がいたらに会いたくはないけど…。という複雑な気持ちでクリアしたのを思い出す。ちなみに前シリーズの中尉のステージをクリアしていないと、中尉の召喚霊は呼び出せない。


という、どうでもいい話をこの前シェダルとシリウスと食事をした時に一生懸命話したのだ。普段ラムダとリゲルしか聞いてくれない話を2人とも聞いてくれ、しかもシリウスは楽しそうなのでファクトは少しうれしかったのだ。


とりあえずシリウスは、ファクトの好きなキャラのミリタリー装備を入手しておいた。だが、ファクトは無視している。



『ファクト動揺してる?』

『してる。』

しばらくしてまたラムダから返信が来る。

『でも、画面を見ただけ。インはしない。』


「…………。」

意地でも話をしてくれないらしい。

「あーあ!」

と、シリウスはベッドに転げて笑った。




***




ある日の朝に珍しくウヌクが自ら起きて朝食を食べに来た。


「よう、ファクト。」

「あ、ウヌク先輩おはようございます!」

「…何がウヌク先輩だ。最近太郎君どうしてんの?」

「タロウ君?」

思い出せないファクト。

「犬の?ウヌク知ってたっけ?」

タニアにいるモコモコふさふさの大型犬、タロウを思い出す。


ウヌクは超絶呆れている。

「は?親戚の太郎君だよ。花子さんもいただろ?」

「…………?」

考え込んで………

「ああ!太郎君ね!犬のタロウの方が付き合いが長いからいつも間違えるよ…。」

やっと思い出す。シェダルの事である。


「太郎君、体はどうなの?」

「体?」

「体調。」

「は?」

「療養してたんじゃないのか?」

「……あ、そうだっけ?足そういえば不自由だったね。」

「…………。」


そういえば、そういうことだった。太郎君は怪我か病気で最初会った時義足だったのだ。

そこでウヌクにガジっと顎を掴まれるファクト。

「い゛っ!!」

「お前、テキトウな事言うなよ?太郎はダンススクールの祭りで会った時は普通の足だったよな…。違和感なく歩いてた。何なんだよ。太郎は?」

「ひ~っ!!」

ファクトはバッと手を外させる。

「太郎君は金持ちだからニューロスの義足付けたんだよ!」

ニューロスの足は相当高い。考えるウヌク。

「…………。」

だが、ファクトの親戚ならその可能性もある。


「………まあいい。太郎は音楽とか造形とか好きなんだろ?」

「アートやデザインっていう事?」

「まあな。」

「好きなんじゃないかな?入院中もずっとそういう番組見てたり本読んでたし……。なんで?」


「新しい地区の『四支誠(よんしせい)』がエンタメやアート中心の街になる可能性があって、その企画に参加しないかって誘われたんだ。まだ企画段階だけど。あの辺、元劇場が3つもあるだろ。」

「………。それってすごいね。」

そういうものに疎いファクトは感心してしまうが、なにせ太郎君はシェダルだ。自分を壁に叩きつけた上に、元々暗殺者のようなものである。物への関心も暇つぶし程度かもしれない。

「………でも太郎君は無理かも…。」

「なんで?」

「ずっと療養してたから、学校もまともに行けてないし…コミュニケーションにも難ありというか…。」

「だからこそいいんじゃん。社会復帰するきっかけになるだろ?それなりの働きが出来れば、多分お金も出るし。」

「………ウヌクなのに、会ったばかりの他人のために頑張るんだね…。」

「ああ??悪いか?」

太郎君にそんな資格があるのかも知らないファクト。そもそも彼はベガスに入れるのか。この前チコに言葉の攻撃を仕掛けたばかりである。あれから一度も会っていないが、シェダルは今どこにいるのだろか。下手したら24時間監視状態であろう。


「………分かった。一応聞いてみるよ。」

「……………。」

ウヌクが変な目で見ている。



ファクトは心配にはなる。


ただ、ベガスにはたくさんの可能性がある気はした。



自分たちが最初に思っていたよりベガスはずっと大きな街になりつつある。



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