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ZEROミッシングリンクⅤ【5】ZERO MISSING LINK 5  作者: タイニ
第四十章 ギュグニーの花嫁

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76 議長夫人の役目



その頃、南メンカルとガーナイトは、西アジアと共にかつて奪われた北メンカル中央東奪還を狙っていた。


ガーナイトに戻って来たタイイーの、二番目の兄イエドの支配地になる。


ただ、今回はガーナイト住民が元いた土地でなく、防衛という理由で隣接する西アジア側のギュグニーの入り口を封じることになった。しかしそれに気が付いたのか、ギュグニー側が進路をさらに上方に変える。アジアとしては、既に違法ニューロスアンドロイドの密輸を掴んでいたため、西アジアが検問という形で一旦経路を押さえ込んだ。



「私が行った方がいい………。シリウスも呼べ。」

そう言ったチコの予想は当たった。


検挙までしようとなったところで、作業員と思われたニューロスアンドロイドが攻撃を仕掛け、現場は戦闘状態に。ここには、現在ベガス在住ユラス軍も連合国として数人来ていた。チコが参戦したのでカウスたちも同行を許される。



現場は想像以上に激戦になっていた。


密輸されていたニューロスアンドロイド25機ほどが一気に戦闘用になる。Aクラス、Sクラスが放出され、警備に入っていた人間もアンドロイドやサイボーグだった。しかも一旦北斗やシリウスを外した独自の仮機体。つまり人間にも殺傷能力のある攻撃ができる。

その時点で一般装備の人間は全員下げられ。7割がユラス軍になる。ギュグニー側から小型ミサイルも撃ち込まれ、数人が負傷していた。



くそっ!機体が多すぎる。


と、チコがつぶやいた時だった。現場に一気に入って来たシリウスや連合国側のアンドロイドが加勢した。


ザンっ!と一気に特殊形状のサーベルで相手のニューロスを引き離し、重量型弾丸のグレネードランチャーをサイコスと共にぶっ放つ。


数か所でニューロスの自己爆発が起こるが、できるだけ機体は残したい。チコやサイコスを使える者が遠隔で電気コントロールしていくが、近距離でも難しいものを遠距離でするのはもっと難しい。

なかなか標的が定まらないでいると、シリウスがどんどん電気オペレーションをして、自己爆発の処理を解除していく。


『8B北インター1キロ横にもギュグニーがいるため、そちらはサイアートとサイアート3が向かっています。』

シリウスは全員に伝える。サイアートは東アジア軍のボディーがS級のニューロスアンドロイドだ。思考性は指示通りに動くものだが、体自体はS機体である。



この加勢により、この場は連合国側によって収拾される。

ギュグニーが送っていた物は、S級アンドロイド2体と高性能ニューロスアンドロイドAクラスが18機。

そして、別のルートから最新のモーゼスクラスの1体。それらに付いていた護衛アンドロイド複数機。


元々は一度北メンカル経由で南に送られ、そこからベージン社の物として発表、もしくは秘密裏に権威者に渡る物であったのだろう。輸入申告では一般のアンドロイド20体となっていた。


連合国側としては非常に大きな収穫であった。やはりベージン社の機体の開発元がギュグニー内であった証拠を手に入れたのだ。




***




そのことによって、非常にお叱りを受けたのはこの人であった。


「………何のつもりだ。」

西アジアの都市、テレスコピィに来ていたワズンがブチ切れそうである。

「…ユラスの方からも物凄いお叱りを貰ったんだが。」

「悪い………」

「しかも、今回はカウスもケガをしたからな……。」

「ハハ……。まあ、あいつもう二人も後継ぎが出来たし。カウスも義体になったら最強じゃないのか?」

「おもしろくない!!」


ドン!

と、ワズンが机を叩く音がして周囲も静まる。


「それをカウスの子供の前で言えますか…?」

「………言えません…。」

と、叱られているのはチコである。ワズンが突然敬語になるのでイヤな顔をする。ここにいるのはテニアやシェダルの事まで知る中核メンバーしかいない。


今回チコはギュグニーの動きに異変を感じて自ら動いたのだ。


「いやあ、でも確かに後継ぎできたので、シュルタンもオミクロンも前よりうるさくは言ってこないですね!」

ドンっ!!

楽しそうに言うカウスにさらに拳が鳴り響く。


「でも、父親がいない方がオミクロンも子供を好きにしやすいし………」

ドン!!と、もう一度机を叩きワズンが真顔で言う。

「それをエルライに言うか?」


「………」

オミクロン一族との間で苦労した妻の名前を出され、カウスも大人しくなった。


「あなたは自分の立場をわきまえて下さい。族長夫人として生きていく限り、守られた立場にいろと何度も言われませんでしたか?また大怪我をしたいんですか?」

「……はい、すみません。でも、私が行かなかったらシリウスが来る前にもっと被害があったかもしれないし…。」

()()はいりません!」

「シリウスの到着が遅れていたら、死人も出ていたかもしれなかったんだ。」

「………。」


「今までは前線に出てたし………。」

「もう、そういう時代でも段階でもありません。チコ様は大人しく公務でもしていて下さい!」

「これも公務じゃ………」

「議長夫人の仕事は宗教儀式、国内外式典参加、ユラス内及び国際会議、フォーラム参加、午餐晩餐、遊覧、視察、園遊会、国際親善などです。」

アセンブルスが滞りなく羅列する。

「?………もっとアクティブなのないの?それ首脳夫人でよくない?」

「ユラスは現在も半軍事国家のようなものですので、軍の慰安もいいのでは?」

「………。」

信じられない顔をして伏せてしまうチコ。


「私が訪問なんかして、何が楽しいんだ……。あいつらもつまらんだろ……。」

演説もパフォーマンスも下手なので、周りがお膳立てして手を振って頑張ってと言って終わりである。時々いい話もしてみるが、勢いでしているので常時できるかは分からない。

「演習とか?!」

「そんなことしている暇があったら軍やベガスの環境改善でも提案したらどうですか?」

「う~ん。」

ウジが湧く横でも寝るしかないような環境で生きてきたチコには、あんなに恵まれているベガスで何を改善したらいいの分からない。アーツの環境ももう少し厳しくてもいいと思うのに我慢しているくらいだ。



「議長夫人として心まで復帰したんじゃないんですか?」

叱られ側のくせにカウスまで言ってのける。

「はあ?聞いてないだろ。議長夫人になったら現場に参加できないって!」

「もしかして、結婚継続もう後悔してます?」

「………。」

だからそれを言うのか!と思う周り。

「黙れカウス。」

図星なのか怒っている。一生人前でニコニコ淑女然する自信などない。メンタルが死んでしまう。


「参加できないんじゃなくて、してもらって怪我でもされたら困る。」

またタメ口に戻ったワズンが言うが、チコも食って掛る。

「……ワズン!現場にいなかったのに、何言ってるんだ?私が行かなかったら周りも怪我では済まなかっただろ?向こうも西アジアが今、手薄だったのを知って東に進路を変えたんだ!」

「そうだな。それは確かに助かったしアジア側にも感謝された。………でも、絶対に許可なく向かうな!」

ワズンがいつまでも真面目に怒っている。

「………」

「…………。」

「分かった。すまなかった………」



「でも、なんでギュグニーの動きが予測と違うとベガスにいて分かったんだ?」

横で別の隊員が聞く。

「…………ムギが『(あか)』として情報を掴んでいた。」

「?!」

驚くベガス以外のユラス陣。

「………なんなんだ…。あの子は。」

「AIですら把握できていなかったぞ。」

「アジアラインの事ですからね。北メンカルとギュグニーが混ざっていて、3手に別れることを知っていたそうです。」

アセンブルスがため息がちに言う。1グループはそのまま北メンカルに入っているが、おそらく大物はアジア側で正解であろう。

「政権が分かれている北メンカルを、ギュグニーも思い通りに動かせないんだろうな。」

「こっちが一旦アンドロイドを押収したことを、メンカルが文句を言って来るか、それとも…………」

「その辺は東アジアに任せるしかないですね。」



「申し訳ありません。今回は私も最終的に許可を出しましたので…。」

既に出発していたので、アセンブルスは仕方なくカウスやザークナイたちを行かせた。


「だって金掛けてんだから、このくらいのお返し東アジアにしないとアンタレスに身の置き所がないだろ?」

チコが笑って言うがさらに叱られる。自分の義体化のことだ。

「だから、()()()じゃない!」


「本当にチコ様って困った人ですよね。孤高の人だったのに、蓋を開けてみれば性格はオバちゃんって言われるし、どんどん身内が出て来てもっといそうだし。幻滅されてモテなくなりそうでよかったんじゃないですか?」

カウスがさらに言わなくていいことを言って、近くで話を聞いていた大佐にバシっとぶっ叩かれる。

「ばかか!」

「い゛っ!!やめて下さい!自分怪我人です!!」



後援で駆け付けたフェクダの妻、ガイシャスも呆れていた。

「ガイシャス少佐、この後チコ様をお願いします。東アジアの許可が出次第このままベガスに帰りますので準備を。」

「分かりました。」


「チコ様、呼ばれています。」

外から部下が呼ぶ。

「分かった。」

「…………。」

ワズンもどうしようもない顔でチコを見て、アセンブルスとチコに同行した。




部屋に残ったテレスコピィ駐在の大佐とガイシャスたち。

「基本は変わりないが…ウワサ以上の変わりようだな…。」

ユラスの公式スケジュール以外でチコを見たことがなかった大佐が驚いている。

「…………。」

ガイシャスも言うことがない。

「で、みんなに幻滅されているんか?」

「そう見えます?」

「……………」

逆にこの変化が気になってしょうがない周囲なのである。なぜこうなった。


「…どうだ?チコに平和な時代の議長夫人は務まりそうか?」

「…どうでしょう…。ちょっと考えないといけませんね…。」


困った議長夫人であった。



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