75 初めまして。ここに住みます
「ああーーーー!!!!めっちゃ気になるっ!!!」
ナンパ男たちが机を囲って、コーヒーを飲みながらうるさく喚いている。
「あんな場に遭遇して、結果お預けとかひどすぎるっっ!」
「あんな場って?」
同席させられたファクトが聞いてみる。
「覗き見。」
一人が警察署を出た後にしていたことを言ってしまう。
「違う!門下生候補として質問に行ったらそういう事になっていたんだ!!意図して覗いたわけじゃない!」
「そういう事?」
「『愛』について議論をしていた…。」
ファクトはそれが警察署での話に繋がるのか?と考える。
「しかも兄さん、門下生って漢方かお香でもするの?」
「だから秘孔だよっ。なんだよお香って。フローラルかよ!」
「あ~!!『愛』の結果が知りたい!」
「なんでそんなに…。」
「え?姐さんかわいいから、あぶれたら俺がもらおうと…。」
「お前、タラゼド兄さんを応援しろよ!」
「は?次の日には股間が涼しくなっていると思うけど。兄さんたち『傾国防止マニュアル』見た?」
「いや、でもめっちゃ可愛いから。」
「分かる。あんなの兄さんも黒歴史更新するだろ。」
「おれ、ああいうの見て恥ずかしくなったの小学生ぶりだわ。」
今度は大房の夜の路地を思い出して赤くなっているアホがいる。
「多分あぶれない……。」
ちゃっかりこの場に参加していたクルバト書記官がつぶやく。
クルバトは思う。付き合っても響を掴まえておく方が大変だろうと。珍しい虫が飛んでいたら、どこまでも追いかけてアンタレスも越えてしまいそうである。ちょっと普通の大房民には理解不能な性格だ。
「……。」
うるさいナンパ男をコンビニ男が後ろで呆れた顔で見ていた。
「は?で、何なん?なんでお前らが響さんについて語れるわけ?」
そこに、何気なく加わっていたキファが遂に怒りだす。
「俺の方が付き合いが長いっつーの!!」
「あ?お前こそなんなん?愛に時間は関係ないって知らんのか?俺の『愛』の論文は1ページ目1行以内で終わるんだよ!長々書いても意味ねーんだよ!」
ハテナを入れても5文字である。
「は?バカなんすか?何の議論もないものは論文でも何でもない!それに時間は関係ある!!少なくとも情は生まれる!!」
「はああ?」
「行間にあるものを悟れよ!お前こそバカかよ!」
「行間もないのに??」
対抗するキファ。五文字なので行間はない。
「てか、お前年下だろ?あ?なんだその態度――」
バシっ!!
と、資料で叩かれるナンパ男。
「アダっ!!」
容赦なく叩いたのはイオニアであった。
「お前ら来期も河漢組になるか?」
「うお!イオニア大先生!!おやめください!!!」
「……キファ…。お前も河漢に入居するか?」
「お断りいたします……。」
「あ、タラゼドからメール。」
「?!」
全員ファクトに注目する。
「………。」
『響さん家に帰った』
「だって。俺らも帰ろ?」
「はー?!!返信しろ!!」
「ここで電話しろ!なんの話だったんだ?!」
「兄さんたち、大房のオバちゃんの孫?オバちゃんのコピペ?」
「うるせぇ!ファクト。ただの知りたがりだよっ!」
「いや、俺ここまで来たら、何か姪っ子の恋路を見守るオバちゃんだわ。」
この後、なぜかファクトも含め、ここにいるメンバーは全員お灸を据えられるのであった。
***
同時にこちらは寮の食堂。
「詐欺だーーーー!!!!」
と、リギルが叫んでいる。
周りにいるのはラムダ、リゲル、ジリ。既婚組のヴァーゴやジェイ他数人の男子に、リーブラやファイたちもいる。
「いいじゃん。だって、家では今面倒見てくれている人いないんでしょ?」
リーブラは言う。家に母はいるがリギルがいたらどうしても面倒を見るだろうし、これではお母様の腰も直らない。
「自分でウィークリーとか借りれないでしょ?ご飯もできないでしょ?レトルト買いに行ける?通販にしても玄関まで取りに行ける?病院も通いやすいし、出歩いても大房よりウワサする人少ないし、ここにいればいいよ。試用期間に参加しちゃえば滞在費完全無料だよ。」
「ごはんおいしいし、いろんな国の料理が食べられるからさ!」
「そうやって懐柔して自分たちにいいことを植え付けるんだろ??!!」
「しないよ。」
「そんなことしてる余裕ないし。」
ジェイが冷たく言い放つ。
「……。」
アーツ大房民はそんな面倒なことする気合いさえないし、エリスはその気のない人間まで頑張って説得などしない。よっぽど心がいいか必要か優秀でない限り。
「はー?何でもいいよ。プライバシー晒さないならここで批判動画でも何でも作ってなよ。」
楽しそうなファイ。
「ちょっと、学生やチコさんの悪口は書かないでよね!!」
リーブラが怒る。
「出ていきたかったらいつでも出てけばいいんだし。電車乗れる?タクシーの支払い方分かる?」
カードは自宅で使っているが、電車やバスには一人で乗ったことがない。というか、かなり長いこと乗っていない。住民になれば生体認証で全てパスできる。
「………。」
いろいろ言われて頭が回らなくなってくる。
「じゃあ今度、バス乗る練習しようよ!モノレールや地下鉄が先?今、河漢とベガスに路線再整備してるんだって!河漢は大部分作り直しするみたいだけど。」
オタクでイベント周りをしていたラムダが元気になる。
「うるさい!」
「ひいぃっ。怒らないでよ!僕ここに来て体重20キロくらい減ったんだよ?たるんだ皮もどうにか引き締まったし!なにか1つくらい体質改善して帰ろうよ!」
そこにローが入って来た。
「お!?リギル。雰囲気変わったじゃん!!」
「………。」
訝しい目で兄を見る。
「ローの弟って本当なんだな…。」
ヴァーゴが驚いている。
「お前、ファクトやラムダに弟任せすぎだろ?」
「まあまあ、身内同士だと余計にうまくいかないこともあるし。しばらく滋養を付けるってことでここでお世話になったら?飯上手いだろ。」
楽しそうにローは笑う。
「今更いい奴ぶりやがって……」
兄には警戒心丸出しである。
そこにさらに、ふてぶてしくもう一人入って来た。
「ラムダ!ファクトは?!」
「あ、ムギちゃん!」
「ファクトはキファたちとまだ事務局の方だけど。」
「おい!年上ばっかなんだから挨拶して入って来い!」
ヴァーゴが怒るので、久々に会ったムギがじっと見る。
「…サルガスのくっ付き虫はやめたのか?」
「残念ながら家庭持ちでそんな暇はない。」
「サルガス結婚したもんね。」
「俺もした。」
「……へ?」
「俺もした。」
繰り返すヴァーゴ。
「えええええええええ!!!!!!」
驚きすぎるムギ。
「ヴァーゴでも結婚できるんだ………。」
「そうだぞ。結婚祝い持ってこい。」
「………。」
「ムギちゃん、おめでとう言ってあげなよ。アギスやライオたちも結婚したよ。」
呆けているムギにジリが楽しそうに言う。
「うそ…。おめでとう…。」
「ムギ、座りな。なんか飲む?」
リーブラがムギを座らせる。
「いい……。ちょっとびっくり。…誰と結婚したの?」
「西南の元VEGAスタッフのヨーワさん。」
「ヨーワさん?知ってるよ!はー!」
「悪いな。気が付いたら父親秒読みだよ。」
「?!」
言葉もなくなる。
様々ショックを受けながら、ムギはふと新しい顔に気が付く。
「あれ?初めまして。」
「っ……」
リギルは真っ赤になって、元々被っていたフードで顔をさらに隠した。
「……。」
「挨拶しろよ。」
ローが言うので怒るかと思いきや小声で言う。
「…どうも。」
「ムギって言います。新しく来るんですか?」
ムギは響に手出ししなさそうな人には優しいのである。
「…そうです。」
「……………」
しーんとする周囲。新しく来たらしい。
そうしてとりあえず、しばらくここに正式に住むことになったリギルであった。
●警察署の話と愛は論文5文字以内
『ZEROミッシングリンクⅢ』47 愛の告白
https://ncode.syosetu.com/n4761hk/48
●覗き見
『ZEROミッシングリンクⅢ』48 ロボメカニックエキスポ
https://ncode.syosetu.com/n4761hk/49/
●タラゼドの黒歴史&覗き見おまけ
『ZEROミッシングリンクⅢ』46 好きな人に好きなのかと説明される
https://ncode.syosetu.com/n4761hk/47/




