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ZEROミッシングリンクⅤ【5】ZERO MISSING LINK 5  作者: タイニ
第三十四章 触れても届かない手
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6 麒麟を追いかけて



「その子嫌がっているでしょ。やめなさい。」


みんな響に注目する。

もっさりとした格好でも、先生調で指摘する講師。


「…。」

大房にいないだろうダボダボ地味女子に反応できない一同。しかも髪は後ろで無理やり二つ結びだ。

「…お姉さん何?」

「女の子が嫌がっているから放してあげなさい。警備員呼ぶよ!」

「…お姉さん、俺警備員。」

男の仲間が挙手する。

「………じゃあ警察を呼ぶよ!」

「なんだ?こいつバカかよ。」

でも、警察は呼ばれたくないらしく、一旦パイを握っていた手を緩めると、フン!という顔で手を振りほどかれる。響は、…あれ、この子ベガスで見たことがある…と気が付いた。歌手の子?


パイは無言で礼だけしてそこを去ろうとするので、スタッフもありがとうございますとお礼を言って立ち上がった。でも、男たちは納得できない。


「おい、お前何なんだっつーの!」

「何でもありません。」

今度は響が掴まられそうになるが、響はバッと男の後ろ首元に入り、何かペンみたいなものを当てた。

「ケガをしたくなかったらやめなさい。」

「…ひっ」

なんだ?この女?!と男は思い、ひとまず引く。ここで騒げば注目も浴びる。



なのになんと戻ってくるパイ。

「……ちょっと、あんたも大丈夫?一緒に行こ?」

今度この子が絡まれたら、と心配して戻って来たのだ。「あー!何で?行けばいいのに!これで終わりなのに!」と響は焦ってしまう。パイは思った以上に義理堅い性格であったようで、そこだけが計算外であった。

いざとなればショートショックもショートワイヤーも持っている。響は、自分が一般的に守られる側の人間であることを忘れているが、周りとしてはこんな男たちに絡まれて心配しないわけがない。


「パイ?なんだ?こいつ知り合いなのか?」

「っるせーよ…。今日、知り合いになったんだよ。行こ!」

「…あ、うん。」

「おい!」

パイに引っ張られて去ろうとした時だった。



「………麒麟…?」


「…!」

シェダル?と言いそうになってその言葉を止める。


「えっと、どうして…。」


そこには、シンプルカジュアルな服に、大きなストールで口元まで隠し、帽子を被って色の入った眼鏡を掛けたシェダルが立っていた。




***




その反対側で、ウヌクたちは音響の仲間たちが買ってくれたので夕食をとっていた。


ラムダとファクトも一緒にチキン乗せライスのバーサイッモアンを食べている。が、ファクトだけはチキン食べ過ぎとシーフードにされていた。

「これ、スパイスで焼いてあるだけだからヘルシーなのに!」

と、ラムダの肉をつまんで食べる。


「ラムダ君、これいいねー。」

ウヌクの知り合いの音響友達が、ラムダと撮りためた写真を見せ合っていた。

「そうですか?兄さんのこっちの映像最高です。」

「ねえ、球場のチアガールとか撮ってない?」

「…あそこは観客が怖すぎて僕の範囲外です…。」

球場は元陰キャオタクラムダの範疇外である。ゲームショーやロボメカニックは無尽蔵の力を発揮するが、そのエネルギーがどこから来るのかは、ラムダ自身も知らない。


そこで、ステージにいた1人が気が付く。

「なあ、先、パイいたじゃん?あれ、なんか揉めてね?ただの会話?」

「…は?」

ウヌクがかなり先の方を見ると…パイと背の高い男たちの間に、見知った地味文学少女がいる。


「は?響さん??」

「へ?」

ファクトとラムダも思わずステージ上のメンバーを見てしまう。パイと響って仲良かったっけ?


しかも……

「太郎君?」

ウヌクは太郎君もいる上に、太郎君が男に手をつかまられていることに驚き………


ではなく、よく見ると、自分より10センチは背が上の男の手を太郎君の方が掴んでいる。遠くてよく見えないが多分…。

「はあ?」

なにこれ。




***




「この感覚は麒麟なのか?」


「…。どうして?」


「何?……行こ?お友達?」

パイはシェダルを見て固まってしまった響を促す。

「…シェ…あ、一緒に行こっ。」

ハッとして、響はシェダルの手も握って、引っ張る。


でも、去って行こうとするパイたちに男はかみついた。


「なんだ?そいつ。大房の奴じゃないだろ?」

系統と雰囲気が違う。見たこともない。

「ほっといて!」

「ああ?パイも知り合いか?一途な振りして、もしかして本当は乗り換えてた?何?バンドの奴?大学生?」

「マジうるさいなっ!お前に関係ないだろ!!」


パイの機嫌が爆発寸前のところで、シェダルは一瞬でパイの手を掴み連れて行こうとする。シェダルはツンとした態度。パイも呆気に取られている上に、男は自分が触れた時と違ってパイに嫌がられないのでムカつく。

「おい、待てよお前。」

「………。」

「……そこの男。パイと何なんだ?それとも、そっちのもさい女の男?」

「誰だって関係ないでしょ?!」

「おー。顔見せろよ。こんな女の男ってどんな顔してんの?そんなストールなんかしてさ。まあ、センスは悪くねーが、ストールはねえよな?」


そこで別の1人の男があることに気が付く。

「………お姉さんも……よく見たら……」

もさい女を眺めていた男は思わず無意識で響に近付き、そして耳横に手をかけようとした。



その時、バジ!とシェダルが脚で男の手を止めた。

蹴り上げず空で止める。

「触んな。」


それに気が付いて周囲はおののく。


「あ?」

手を止まられた男が、その足にイラつく。

「なんだ?汚ねー足……」

「お前()られたいのか?」

そんな物騒なセリフを吐いたのは男より細いシェダルだった。


「マジなんだこいつ?」

と言われてシェダルが動こうとした瞬間……そこに被さった響の声。

「ダメ!!帰ろ?一緒に帰ろ…。」

名前を言い出せないので、必死にあなたのことだとシェダルに迫る。


「麒麟…。太郎。俺、太郎だよ。」

シェダルは足を降ろして響に外出(めい)の自己紹介をする。

「へ?太郎?太郎君なの?」

「太郎って呼べばいいってさ。」

「……ああ、太郎君………帰ろ。」

もちろん周囲はこの会話が分からない。

「大丈夫だ、麒麟。バカじゃないから、こんなところで人、殺さないから。」

は?と引いてしまう周り。


「お前マジ何言って…。」

シェダルを掴もうとするが、シェダルは男の方を向きもせずに逆に男の腕を獲る。


驚いて男は蹴りを入れようとし、シェダルがもう一度脚を振り上げた時だった。


「やめろ!」


そこに腕でシェダルの足を制して止めに入ったのは、騒動に気が付いて駆けてきたウヌクでもファクトでもなく………



イオニアだった。



少し目先で、驚いてしまうウヌクとファクト。

「え?なんでイオニア?」

「あ、あいつも休み入ったんだっけ?」


ヒェ!イオニアさん!

咄嗟に顔を逸らしてビビりまくる響である。でも今は地味文学女子。気が付かれまい。


イオニアは南海にも仕事関係以外ずっと行っていないので、久々に友人の誘いに乗り大房に飯を食いに来ていたのだ。ついでに仕事探しにあぶれているのを見付けようと。



別にシェダルは殴り飛ばすわけでなく制止しようとしただけだ。

だが、何も言わずに去ろうとするシェダルに、怒った男の方が蹴りを一発入れようとした。

「クソがっ!」


イオニアが瞬時に気が付く。メガネの中の輝きのない黒い瞳。

蹴ろうとする男の方が危険だ!という直観。


まさに、シェダルがこれは正当防衛になるだろ、と今度こそ男に一発パンチを入れようとした時だった。


「太郎くん!ダメ!!」

そこに響が被さる。

ズダンっ!!

と蹴りが入り、ドスンと倒れる。



しかし、

なんと、地面に倒れたのは男でもなく、シェダルでもなく、


響だった。

しかもイオニアの蹴りで。



「っ?!」

あまりに驚くイオニア。

「きゃああ!!!」

パイも叫ぶ。



シェダルのパンチが危険だと察し、咄嗟にシェダルの腕に足を出したイオニアの蹴りが響に入ったのだ。


しかし倒れ込んだ響はサッと膝を起こし体勢を整え、口の中にたまった血をペッと吐き出す。

「ひい!!」

吐き飛ばした血と一緒に白いものが見え、パイとスタッフの女性が自分の口を塞いだ。


響は、すぐに立ち上がりイオニアに向かう。

「イオニアさん、やめて!!」

「っ?!響さん?!!」

信じられない顔でイオニアが目を見開き、響は小さな声で囁き、すがる。

『お願い!絶対に人に手を出したらダメな子なの。』

イオニアの蹴りが入ったらシェダルが反撃する可能性がある。

「!?」

声もないイオニア。


地面にも口元にも血を付け、今来たばかりの男に何か言っている響を見るシェダル。シェダルは響をここにいさせたくなかった。



「…響さん…。」

やっと口を開いたイオニアは。震える手で響の口元の血を拭った。

「……歯が……」

「歯?大丈夫だよ。」


彼らの関係性も行動も意味の分からないパイをナンパした男たち。でもイオニアが出て来て周りに人も集まり何もできない。


「おい、麒麟。大丈夫か?」

そこに、抑揚のない声でシェダルが近付いて来て、ひどい乱暴な扱いで響の腕を引っ張った。

「うわっ。」

「……血が出ている。ラボに行こう。」

まるで人間というよりは、動かない人形でも扱うように、バランスを崩して倒れかけた響をさらに強引に引く。

「あ、ちょっと。歩けない。」

「クソ。力がないから重いな。」

今のシェダルには一般成人男性ほどの力しかないので、大人1人を引きずる形になっている。


「ちょっと待て、お前、響さんを何だと思ってるんだ?!」

「……。」

光のない目でイオニアを見るシェダルに、その目が見えていた周囲も寒気を感じた。


「てめえが蹴ったんだろ。」

「…っ。」

何も言えなくなるイオニア。

「太郎君、お願い!大丈夫だから。私が勝手にしたことだから!」

立ち上がって必死に響が間に入る。



「太郎!」

そこにウヌクが間に入り、ファクトが響を支えた。

「大丈夫?」

「……うん。」

響の少し目が揺らいでいる。

『ファクト、お願い。シェダルに何もさせないで…。せっかくチコが……』

チコが大事にさせないようにしてきたのに…。

『…うん、分かってる。』


ウヌクが太郎に言い聞かせる。

「太郎。響さんを引っ張ったらダメだよ。足が絡まって歩けないから。支えてあげないと。」

「…。」

返事はしないがウヌクの言うことは聞くようで、シェダルは引っ張るのをやめた。

「ラボに行く。麒麟、血が出てるだろ?」


小さい声でファクトが教える。

『普通、人は病院に行くんだよ。』

病院を知らないわけではないが、シェダルの治療はいつもラボだった。

「あそこも医者がいっぱいいるだろ。」

多分、シェダル関連や響のことならすぐにラボで受け入れてもらえるし、その方がラボも都合がいいだろう。しかももう病院は救急の時間だ。一旦響をSR社に連れて行くかファクトは迷う。



実は、この騒ぎにルオイやローアたちも駆けつけていた。どの時点から来ていたのか、ものすごく不安そうな顔で見ている。

「先生……」


「一旦応急コーナーに行こ。」

パイが指を指す方にテントがあった。

「いい。こいつは俺が連れて行く。」

シェダルは譲らない。

「……でも。」

「太郎、女性にまかせた方がいい。」


「太郎君、大丈夫。何ともないから。」

少し力なそさうに響も笑う。

「少しだけ見てもらお。」

それでもパイが響をテントに引っ張って行き、それについてルオイやローアも追いかけた。




「………」

これがどういう状況か理解できないイオニアは、自分の親指に付いた響の乾いた血を眺める。


自分が女性を…

何もしていない女性を、

響を蹴った。


「…イオニア、大丈夫?」

「……響さん、…歯が折れてたかも……」


「血を吐いた辺、少し歯を探してくれる?ファクトは響さんの様子聞いて来て。」

イオニアの代わりに、ウヌクが落ち着いて指示を出す。


イオニアがものすごく動揺しているのが分かった。こんなイオニアを見るのは初めてだ。


男たちも何とも言えない状況で、取り敢えず一緒に地面に歯がないか探し、それからウヌクたちと話を付けていた。




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