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ZEROミッシングリンクⅤ【5】ZERO MISSING LINK 5  作者: タイニ
第三十九章 目と目、手と手

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67 それぞれの戸惑い



「リギル君…ご飯置いとくよー。」

リギルの部屋の前にあるカートに食事を置いておくファクト。


「ファクトまだやってんの?自分で取りに行かせりゃいいじゃん。」

歯磨きをしながら歩いているティガが言う。

「でもかわいそうだし。」


リギルがここに来て1週間が過ぎた。なんだかんだ言って彼はここで引きこもりになってしまった。初めは食事すら拒否していたが、2日目の昼から食べるように。案外早くリギル君の断食は終わった。お腹が空いたのだろう。内鍵が掛からないようにしているので、入口にはカーテンが付けてある。

3日過ぎた時から、ファクトたちは学校から帰って来て「入るよー」と言い、無言の許可を取って勝手に入っている。


「リギル君。コンビニ行こうよ。」

「これ、貰い物のイベントTシャツや短パンね。好きに使って。いっぱいあるから。」

「ねえ、競技場の方で羊の丸焼きしてるから見に行こうよ。」

「今日は花札じいさんが豚焼いてるよ。すごいことになってるって。」


リギルは、全然反応しなかった。

時々「うぅぅ…」と唸っているので、背中を擦る。最初の時は怒っていたけれど、最近は黙ってうずくまっていた。



今のところ追い出されはしないが、ファクトが来るとベッドで不貞寝している。しょうがないので豚を焼いた一皿持ってきてラムダとリゲルも呼んだ。甘辛く香ばしい香辛料の香りが、彼の部屋に広がる。そこで、ラムダはノートを開いて『ゴールデンファンタジックス』にインする。


「リギル君。シリウスは条件があってベガスに入れないんだけどさ……あ、これ内緒にしてくれる?」

「………」

「今から話すこと、内緒にしたらおもしろいもの見せてあげるよ。」

「………。」

チラッと見えたラムダのノートが限定のシリウスモデルだったので、リギルは気になる。

「…別に言わない………。」

と、力なく起き上がった。


そして画面に広がる『ゴールデンファンタジックス』の世界。



ラムダのキャラクターは現在召喚士だ。二種の混血でドーワと言う半獣人の青年。かなりカッコいい系に寄せている。

「理想過ぎる………」

「まあ、ゲームくらいはね。」

ラムダは笑う。

「………」

文句は言うが画面は見るリギル。


「あ………来た。」

どこかの城の静かな四阿にいると、もう一体のキャラクターがコンタクトして来た。


『ルキ君いる?』

ラムダのことで、ルキは昔好きだった漫画キャラクターの名前だ。

『いるよー!恵蘇乃(えその)さん、ファーコックの中の人も横にいるよー!』

『ほんと?!久しぶり!!会いたかった!!』

寒い顔をするファクト。


「ほら、来た来た来た来た!!」

うれしそうなラムダ。

「………誰だよ。女の子?」

リギルが怪訝な顔だ。オンライン彼女自慢か?言葉使いが女性っぽい。


「シリウス!」

「……は?」

「シリウスだよ!!」


『ファーコックは元気?』

『元気…だよね?』


『入らないの?』

隣りのファクトに聞いてみると頷いている。

『その気にならないそうです』

『…残念……』

『ほんとひどいよね』


「……ホントにシリウスなの?」

リギルが戸惑っている。分離体ではないのか。

「ちょっと待って…」


『新しい友達がいます。ファーコックはそっちにつきっきりです。』

と打つと、秒もなく返ってくる。

『えー!ひどい!』


「リギル君の事!」

ラムダがいたずらっぽく笑った。

「ファーコックはファクト?」

「そう!ここでなんか入れなよ。メッセージだからこの内輪だけだよ。全部テキスト設定だから。」


「こんにちは。ラキのところから打っています。新人です。」

と、言うと、

『こんにちはーー!!初めまして!ファーコックを誘ってください~。でも、これから実世界の仕事入りです!』

と返信が出る。

「ファクト、挨拶しなよー!」

とラムダが笑う。


リギルは呆気に取られて見ていた。




***




その向こう側で、ニンマリしているのはシリウス。


「あれ?シリウスさんも、手でデバイス打つんですか?」

取引先の女性が驚いている。

「あ、はい!」

「全部内部処理するんだと思っていました…。」

「ふふ。こういうの楽しくて!仕事が始まると受け取れないし、そういうタイミング感も好きで…。」

「へー。なんかいいですね!本当にシリウスさんとお友達になりたいです。」

「規約があるので、個人的には連絡交換などできないですが、お仕事ではいつでもそんな関係でいたいです!」

「うれしい!」

タッチをし合う。





そして、戻って南海男子寮。


「リギル君って、シリウスキライなタイプだと思ってた…。シリウスこそマニアックじゃなくて万人向けな仕様なのに好きなの?」

ラムダがリギルに尋ねる。

「だって、シリウスこそ真の『コア』だろ?」

「………。」

鋭い。


「批判するにも多少の実証や確信が必要だから、その(コア)である聖典はネットで読んだんだ……」

「えー!すごいね!!」

引きこもりなので時間だけはいくらでもある。


「まあ、男は批判を立証したくて読むよな。」

一言も話さず隅にいたリゲルが言い、初めてリギルがファクトとラムダ以外に会話らしい返答をする。

「そうだけど…そうなんだけど…。読んでみたらさ、…シリウスだけは…自分を否定しないような気がして………」

「…………」



この1週間に何があったのか、5年生からほぼ不登校の引きこもりだったらしいが、突然こんなうるさい所に連れてこられて息もできなかったであろう。


「あいつらは……俺が弟なのがウザかったんだ…。こんな弟恥ずかしくて………学校でもどこでもバカにしまくって…。」

ロー兄たちの事だろう。

「……ローが変わったのかは知らないけど、今、そんな感じじゃないだろ。」

リゲルからしたら、ローは少し人任せだが弟思いの兄に見える。

「どっちにしても、俺は人並でもないから…。」


…ファクトが思うには、ローは素直だったのだろうと思う。ローもけっこう単純でしかも子供だったから、自分と全然違うタイプの弟を理解できなかったのではないだろうか。自分と同じように走り込み、シュートをし、どこまでも跳べるような感覚。その世界にいなかった弟の必死な世界が分からなかったのかもしれない。ローはタウやイオニアの次のクラスの運動神経で、武術もそれなりだ。アスリート級である。


「それにさ、ローはもう1人いる弟も大変だろ?」

ファクトはアストロアーツによく遊びに行っていたので、目上の人間が話していた大房の事情を少し知っている。

「あいつが?」

兄をあいつ扱いするので、ショックを受けるラムダ。次男は女性にモテるタイプだ。何に不自由しているというのか。


「働かなくってヒモだって。」

「…………」

リゲルは知っているが、ラムダは聞いてよかった?と言う顔でまた固まっている。


「そうなのか?知らない…。」

半同居の兄なのに知らないらしい。半と言うのは、家に居つかないからである。

「働いてもすぐ首になるから、なんかおかしいって最近やっと病院に行ったって…。」

「………。」

「付き合っていた何人かの彼女にかなり激怒されて、今付き合ってる子が病院に連れていったらしい…。そしたら、まあやっぱ、なんか障害があったみたいで………。」

「…。」

驚き顔のラムダの横で、リギルも驚いている。発達障害などだろうか。


「リギル君と違って、人に迷惑をかけるからね…。今まで誰も妊娠させなくて本当に良かった…ってお母さん泣いてたみたいだよ。怒らせるくらいだから、もしかして堕胎させていたんじゃないかって一人一人聞いて回ったんだって…。」

「…………」

言葉がない。


兄弟がヒモに引きこもり。ローの家は父親が出て行って、母親と高校生のローで家を支えていた。ローがあの医療事務の子にフラれるんじゃないかと心配になってくるラムダ。お母さんがまともそうなのだけが救いである。いや、まともな分、かわいそうなお母さんである。


「世界のうわさには敏感なのに、自分ちの事知らないんだね……。見た目がよくても人生上手くいくとは限らないよ。」

そんなのいちいちネットワークに載せていないので収集のしようがない。怒った女性がSNSに上げたりはするかもしれないが。


「…………。」

リギルは言葉をなくしてしまった。




***




「はー?!!本当にするのか?!!」

驚いているチコに、今更何を?と言う顔のガイシャス。


「まー。思いっきりのいい人が来ましたのね。」

ジョア妹のメレナも感心している。名前は知っていたが、ガイシャスと話すのは初めてのメレナ。気が合うらしい。


そう、この前話していたマンションのリノベーション計画を早速実行。

上階の2戸を突き破って、大きな1戸に。残りの1戸は警備の宿所と客間になり、すぐ下の階2戸も1戸にリノベーション。そちらは土足で入れるようにして関係者の事務所、簡易宿所になる。

その内もう1棟ナオス族で買ってしまう案も出ている。まだベガスの不動産は安い。


ただ、元の造りが小さいので1人暮らしか夫婦タイプのような場所が、ファミリータイプに変わるくらいでがある。


「チコ様、明後日までに大切なものは一旦駐屯の宿所か下層に運んでくださいね。それ以外は我々でします。先に上階を進めますので。パイラル。手伝ってね。」

「はい!」


「………。」

「チコ様?」

「あー!あの小さいソファー捨てないでくれ!響のお気に入りなんだ!!」

「…ワンアームソファーですか?かしこまりました。入れ替えしてほしくないものにはこのテープ貼っておいてください。」

差し押さえに見えてしまう。


「………。」

そのソファー以外思い浮かばないチコ。変な顔をしている。

貴重品はデバイス関係と、ポラリスやファクトのプレゼントと…あの指輪。聖典や教書くらい。幾つかの武器や防具。ニューロス関連。カフラーのナイフはサダルに預けてある。

そして、身を隠すルバ。サダルから貰ったものはほとんどない。ただ、自分もあげたことがないが。

「……チコ様、一緒に見ましょう。」

パイラルがフォローする。


そんな訳で、これまでベガスでこじんまり、小さく生きてきた領域を荒されて困っているチコであった。



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