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ZEROミッシングリンクⅤ【5】ZERO MISSING LINK 5  作者: タイニ
第三十九章 目と目、手と手

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66 ローの弟



ある日の夕方、ローがとんでもない人物を連れてきた。



食堂に集合して「え?」となっている妄想CDチーム。


「つー訳でさ、お前ら仲良くしてほしいんだけど!」

「…………」

その人物は何も言わないので、妄想チームも何も言わない。

「………」


「俺の弟で、リギル!

友達もいないし、家から出ないし、光合成してなさすぎるし、俺と話すのも何年ぶりかな…。」

え?!と驚く。ローはここに来るまで、実家か彼女の家を出入りしていた。少なくともずっと大房なので家族にはいつでも会える。


「何て言うかさ、今日も無理やり連れて来てさー、発狂したらどうしようかと思ったんだけどさ、シリウスとお友達な奴がいるから、もしかしたら握手ぐらいできるぞって言ったらどうにか来てくれた!久々に風呂も入ったから手もキレイだろ!なあ、ファクト!」

「ええ?!今、母さんお冠でそれどころじゃないんだけど!」

少なくともミザルを介してはシリウスに会えない。そう言うと、下を向いていたリギルという彼は、

「クソ…、こいつ…、好き勝手言いやがって…、だましやがって…。こんなところに晒しやがって…」

と何か物騒なことをほざいている。しかも、久々に風呂などふやかして垢まで取らないとキレイにはならないだろう。


ああ、ヤバい系だ…という感想しかない皆さん。


しかもローの兄弟とは思えない。

ローはABチームの中では細身だがやや長身。足も長いし、顔がイケメンの部類に入るかは好みそれぞれだろうが悪くはない。大房陽キャによくある、悪くはない系。好きな人は好きな顔だろう。服も何を着ても似合うタイプだ。今日も素粒子シリーズZボソン君Tシャツを着ているのだが、それすら様になるのでムカつくしかない。

ちなみにローにはもう1人弟がいるが、その弟も悪くはない系だ。はっきり言ってモテる。


一方、リギル君は猫背でそれを伸ばしても背が高くなりそうには見えない。下の弟ならまだ20代に入ったばかりか、下手をしたら10代だと思うが、下を向いてよく見える頭がどう考えても薄い。体質なのか、生活習慣なのか。微妙に肉が付いているのに、顔の上だけコケて下は肉が少々垂れている。髭もまだらで剃ってそれなのか放置しているのか。


「……。」

遂に感想すらなくなる。どうしろと?


「一応エリスさんに見てもらったらさー、学生もいるから変な動画とか見ないならしばらく泊まってもいいってさ!なんか塩と酒、撒かれまくったよ。」

どんな動画だ。

「こいつ、ネット上では壮大になるからさー。なあ!

でも、リア友いないし。ゲーム好きだし、みんな友達になってあげてよ。最近うちのオカンが腰痛めてさ、リギルの面倒まで見ていられないって!」

成人の面倒を見る?ガチ引きこもりだろうか。よくここまで連れてきたなと感心してしまう。


「こいつって、てめーがこいつだろ…。自分が当たりだったからって、このやろう………」

と、ぶつくさ言っている。

「………。」


同じオタクでも楽しいオタク、ラムダが早速声を掛けた。

「リギル君!ゲーム何してんの?僕は『GF』の今アドバンスなんだけど!」

GFとはオンラインゲーム『ゴールデンファンタジックス』だ。


しかし、リギルは顔も上げずに呟くように言う。

「……そんな万民狙いなゲームの何が楽しいんだ…。仲間を作って何とかとかバカかよ…。ここにはコアな奴はいないのか……」

「ううぅ…。」

ちょっと泣きそうなラムダである。


そこでローがさすがに咎める。

「おい、リギル。来るって決めたのはお前なんだから、もう少し相手には丁寧にしろよ。」

こっちは受け入れるとは言っていないのだが…。と思うも、ローが怖いので何も言わない妄想チーム。

「ぉ前…で…いい気に……」

まだブツブツ言っているので、ローが黙れと、やんわり後ろから羽交い絞めにした。うう…となっていたが、突然リギルは立ち上がる。

「うおお!バカにするな!!!」

とローを振りほどく。

「………」

唖然とする皆さん。


「なんだ、元気じゃん!頑張れそうだな!」

どこをどう見ればそういう答えになるのか、危険としか思えないのに前向きなローである。は?彼、暴走しそうなんですが?と、言いたい。突発的な攻撃などして来たらどうするのだ。

しかし、

「家族がいると、かえって言いたいことも言えないだろうから、お前らに任せるねー。リゲルと……クルバトもいるから大丈夫だろ。

あとこれ、動画。送っとくねー。」

と、ローはどこかに行ってしまった。クルバトは途中から入って来てこの様子を見ていたが、任せられて若干引いている。



「………」

端でシグマやティガ、シャウラ、ウヌクたちも見物していたが、黙ってしまう食堂全体。


リギルはローがいなくなると、ここにもいられない、でもどこに行ったらいいかも分からない状態で、ジャケットのフードを被って固まってしまった。しかも数分動かない。


そこでジリがクルバトと、先、ローから送られた動画を見ることにした。その反応に、リギル君がやたら怯え始めた。

みんなもそれぞれ自分のデバイスで見る。『こういうの作るのが得意。リギルが作った動画↓』とある先。


と、そこに現れた動画は…


『ベガス構築によるユラス人アジア侵略説』

『ユラス議長夫妻不仲説検証』

『SR社の独占市場にベージンが切り込みを入れる』

『ベージンも所詮資本家』

『事故隠蔽。マフィアと絡む河漢収益はどこに。』

などがどんどん出てくる。


「むおっ!」

咳き込むシグマ。

「すげーな。」

ウヌクたちも何とも言えない顔をする。

「うお!」

妄想チームも驚く。


「これ、1年以上前に俺らが見てたのか!!」

「お前だったんか!!!!」

「まさか大房発だったとは!」

妄想チームは何も言わないが、シグマたちがツッコむ。


誰かに自分が作っていると知られる前提がないので、まさか晒されるとは思わずに完全に俯いて動かないリギル君。しかも、ネット上でなく、目の前で、リアルにさらされている。四面楚歌だ。

そもそも自分という存在は浮世にいなかったのだ。自分に似た者どころか、いかにもヤンキーな人たちにも囲まれ、前代未聞の状況に遂に石になってしまう。このまま地蔵になりたい。


「『ユラス議長の宿所に美女が出入り』とか、お前こんな悪趣味なもん作るなよ!!」

「言っとくけど、こういうの匿名で作っても全部身元が分かるんだよ。調べれば。」

匿名などできない時代である。

「やめなよ……。リギル君、心臓発作起こしちゃうよ…。」

シグマの反応にファクトが止める。いきなり自分だけの世界から飛びに飛んで、超陽キャまでいる世界に引っ張られたリギル君が、身体的拒絶反応を起こしそうな状況である。いや、まさかアーツでも超陽キャローの弟がその真逆だったとは。


「『議長と関係を持った謎の美女、証言ファイルⅠ』とか、ワイドショー見てる大房のオバちゃんかよ!」

と、シグマが言ったところで、バタン!とまたリギルが立ち上がった。


「それは俺が作ったのじゃない!!!」

「え……」

「………。」

「え?あ、そう…。」

反応どころ、怒りどころが分からなくてシグマたちが戸惑う。


だが一部の人間には分かる。どんなに日の当たる世界が怖くとも、彼なりのこだわりがあるのだ。譲れないこだわりが。おそらく、他人の動画と一緒にされるのが耐えられないのだろう。しかも、自分が軽蔑する大房のオバちゃん扱いされるのはもっと気に障ったのか。


それだけ言ってまた席に座り閉じた貝になってしまう。



しばらく動画を見てここでクルバト先生が動き出した。


「……リギル君。いい動画じゃないか!見やすい。基本3分で長くても5分!」

「ほんとだね!」

ファクトも褒める。もっと短いものもある。


こういう動画はAIがネット上で情報を取って来て、セリフまで入れてくれるが指示者のセンスでそれなりのものが出来上がる。一定のレベルまでは自動で誰でも似たようなものが作れるが、その中で世界で注目されるような抜きんでる物は指示者の能力もそうでないとできない。以前動画検索のトップに出てきたという事は、何かしらセンスはあると言える。


と言う事を、クルバトが解説するのでみんな黙って聞く。反応がないがリギルも聞いているだろう。おそらく。


「リギル君。顔色悪いけど帰る?」

顔は見えないがファクトが聞いてみる。

「タクシー呼ぶよ?」

「………」

反応がない。リギルとしては、タクシーの運転手と話す自信も一人で帰る自信もないのだが、それすら言えない。無人タクシーは無人タクシーで連れ去られそうでいやだ。



最終的にシャウラが指示をくれた。ファクトやラムダの部屋の近くに休憩室のような個室があるから、そこをしばらくリギルの部屋にしようと。大部屋はレベルが高すぎる。陽キャと同室、ラスボス中の異次元のラスボスもいいところである。同世代の陽キャなど、教師や警察より最悪である。


「トイレとシャワーは共同だけど、少し歩いたところの小さい個室シャワーにもトイレがあるから。」

陽キャには出会うが部屋に近いトイレを使うか、誰かとすれ違うだろうが、少し歩いても落ち着ける個室トイレを使うか……。

「お前ら、簡易ベッド持って行ってやれ。」

「はーい。」


そうして、動き出さないリギルを、リゲルとファクトで両脇から掴んで、宿所に連行していくのであった。




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