64 とにかく婚活がしたい人
その日、午後はベガス駐屯で大型の会議になった。
全体ミーティングの後に、隊に分かれ状況把握。シュミレーションや明日の現場視察など予定を確認していく。サダルも明日まではいるため、エリスや東アジアと話を詰めている。
チコは護衛に付くメンバーでマンションに向かった。
移動しながら不機嫌なパイラル。
「パイラル。何だその顔は。」
「…だって、チコ様。私に報告もなくチコ様周辺の人事ってひどくないですか?」
「ホントにな。」
チコが逃げるので遂にその周りにも知らされなくなったのである。
マンションに付くと、全体を見てからガイシャスが指示を出す。
「マーベック、レリーオ。パイラル、グリフォにいろいろ教えてもらえ。」
大部分のメンバーが以前の土足で上がれる客間に入る中、部屋に上がらせてもらい、女性2人が台所仕事を教えてもらう。グリフォが物の場所など教え、今いるメンバーのお茶の準備をする。今回は人数も多いので普通にペッドボトルやチルドカップを出す。
「普段はチコ様しかいないから、室内は女性で管理ね。」
「はい。」
「掃除なんかはハウスキーパーの方がいるし………それから…」
しかし男性も何人かが、家の中を見たいと勝手に入って来た。ユラス人はけっこう遠慮がない。
「え?チコ様、こんなに狭いんですか?」
「…一人だからな…。」
「ええ?今、議長いらっしゃるじゃないですか!」
「長くても数日だろ。」
「だから言っただろ?」
この前いたメンバーもいる。
「…あのチコがしゃべってる…。」
話し関係なく、無口だったチコが会話していることに、横で感動している者もいた。
「………。」
「えええ!!!!」
そこに、驚きまくる声が寝室の方向から聞こえてきた。
「あ?なんだ??」
「フルじゃないっすか!!!!」
フルとはユラスのベッドサイズでセミダブルよりは大きいくらいだ。部屋には入らないが、寝室を見て驚いている。
「………。」
何も答えない一同。
「チコ様!これはダメです!!」
「はあ?」
「あなた方それなりに背はあるんですからこんなの、1人しか寝られないだろ???」
「………。」
急にため口になる元同僚を嫌そうに見るチコ。
「ほんとだ!!これはない!!」
「普段は1人だからデカいベッドなんていらないだろ。これでもデカいくらいだ。ベッドメイキングする方の身にもなってみろ。」
ハウスキーパーさんを思いやっているのだ。
「ありえない!!議長夫人ですよ!!キングか、せめてクイーンでしょ??」
「そんなもの入れたら狭いだろ。響と2人で寝ても余る。」
なぜか夫はでない。
室内にいた数人が見に来てさらにカオスが始まる。
「ウチのチビと同じ大きさの部屋だ!!」
「サダルはソファーや床でも寝てるから。自分も。」
正直ベッドなどいらない。
「えーーーー!!!やめてください!!!まさか別々に寝てるとかないですよね???」
「カイファー様が嘆いていた理由がありありと分かります…。」
何事かとガイシャスも見に来る。
「…うちより狭い…。」
なんでユラス人はそんなことしか言わないんだと思いながらも、余計なことは言わないチコ。深みにはまりそうだ。
ガイシャスとしては、まだ離婚のウワサが収まっていないこの夫婦がこの状態というのは心配である。
「ソファーも小さいですよ?!引っ越しましょう!」
「ここが楽なんだよ。」
「なら横も買って壁ぶち抜きましょう!上階だから耐久性とか大丈夫でしょ!!」
「棟ごと購入してありますよ。よし!リノベーション業者に連絡しよう!」
この階は3戸あり、2戸は空き家である。そんなに大きな建物でないのでマンションごと買ってあり、下はユラス関係者が住んでいる。
「人が集まるならここの客間だって狭いですよ!!引っ越しです!引っ越し!!」
「…。」
ユラス人、容赦ない。こいつら姑かよと思うが、勢いがあり過ぎて間に入れないチコであった。
それから一息。一旦興奮が収まったメンバーで客間にてやっと本題に入る。
ここで、アセンブルスからチコが2回大怪我をした話など出て来て、レオニスやカウスは胸が痛い。チコとしてもその話はもうやめてほしいのだ。
「それで、そろそろ11時門限というのは…」
「現在の態勢の確認ですが、今の状況は………」
チコを話しに入れてくれない皆さん。
「その、私の現在の状況を…」
変えたいのだが、やはり無視。
「最終的にはもう一つ住まいを作って…」
レオニスも今後の予定を話していく。
こいつら……と、椅子にふんぞり返るチコ。
「………。」
そこに、ブラウンヘアを全部後ろで1つにまとめている素朴な感じの女性兵と目が合う。
「?!」
女性兵は、緊張してサッと礼をした。
「………。」
そんな女性兵をジーと眺める。
「…っ?」
えっ、という戸惑いの顔ながらも、休めの姿勢でじっと立つ女性兵。なぜ見られているのか。
「…チコ様…。部下を困らせることはしないでください。会議中です。」
アセンブルスが注意するが今度はチコが無視をした。
「ねえ、名前は?」
「少佐補佐のマーベック・スチルと申します。」
「…護衛?」
「いえ、総務的な役割を務めております。」
「…。」
まだジーと眺める。その背景にある霊性まで。
きれいな、透き通った光。
「チコ様!」
「…アセンはうるさいな…。」
ウワサには聞いているが、昔のチコともユラスにいる時のチコとも違うので、思わず見てしまう一同である。以前のチコは、人のいち行動にケチをつけるタイプではなかった。しかも声に出してまで。
「未婚だよね?」
「はい?」
「っ??」
驚くマーベックに、驚く周囲。なぜ今、そんな話を。
「未婚?」
「はい!そうです!」
「………」
さらし者にされてかわいそうだな…という目でアセンブルスやカウスがチコを責めるが、チコ本人は気にしていない。
「よし!お見合いしよう!!」
「?!」
「は?きちがえましたか?」
思わず言ってしまうカウスに構わずニコニコのチコ。
「ここでする?」
誰と誰が?とみんな引いている。
「何だお前らその目は。ベガス組は結婚しないから若いのを行かせるなとユラスから伝令されていると聞いたんだよ。なぜか長老院からも…。3組も決めたのに、まだ不満らしい。サッサと結婚しろ。」
そう、今回はの新規は既婚者の方が多い。
「一人、大陸周りに出たらお見合いするという約束を守らない者もいるし…」
じっと見られたパイラルが後退る。
そして、チコは周りを見渡す。
「レオニス!」
「はっ!」
「お前だ!お前しかいないだろ!!」
今この中に独身男性はレオニスしかいない。
「セクハラで、パワハラです!」
レオニスでなくカウスがズケズケ言う。
「は?人んち引っ掻き回している奴らが今更何言っている??あ?」
「それは私ではありませんので…」
真面目なレオニスがやんわりお断りするが、そんなの関係ない。
「そうですよ、チコ様。独り身とは限りませんし。」
「え?お付き合いしている人いるの?」
マーベックには優しく聞く。
「え?いません!」
突然言われて、正直に答えてしまう。
「はーい!決まり!」
「チコ様?!!無理です!」
断るレオニスに容赦ない。
「は?これは軍ではなく、族長として薦める話だ。それともなんだ?マーベックが不満なのか?」
今日会ったばかりで会話もしていないのに知るわけがない。
この状況を飲み込めないマーベックは、しょうもない年上に囲まれて虚を突かれた顔をしている。
「不満はありませんが…」
「じゃあいいだろ。」
レオニスとしてはいきなり会った女性が不満なわけがないし、そんな失礼なことも言えない。目が合って二人でアワアワしている。自分よりは年下であるだろう若い女性に失礼がないよう気を遣う。
「チコ様…。私の部下なのですが?困ります。」
予想外にパワーがあふれてきたチコに引きながらも、ガイシャスは部下を守る。
「しかも、こんな大勢の前で…。仕事をするにも気まずくもなりますし…。」
「いいよ。こいつら身内みたいなもんだろ?ダメならダメでふ~んって感じだよ。」
「チコ様、せめて人がいない時にお話しください…」
「マイラの件で懲りてないんですか?」
「うるさいカウス!族長夫人として薦めている…。」
社会構造自体が家族文化のユラスでしか通用しない言い分。現代も微妙に年長社会、王権社会なユラスなのである。
「お見合いするように!」
ちょっと楽しそうに言うチコに、呆気に取られている一同であった。




