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ZEROミッシングリンクⅤ【5】ZERO MISSING LINK 5  作者: タイニ
第三十七章 準備された奇跡

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50 無力と後悔

※不快になるセリフ、少し残酷な文章などあります。ご了承の上お読みください。


今回の部分ですが、もしかして後で設定が変わるかもしれません。前回書いた部分が思い出せなくて辻褄が合わなくなっているかも…(´;ω;`) 全体の流れ自体は変わりません。



そこからは全く知らない世界だった。



一気に東アジア、アンタレスまで飛んだサイニックとサダルは都心まで行かず、郊外のSR社第3ラボに緊急入りする。



が、その前に待ち構えていた牧師たちにサダルたち部外者は塩と水か酒のような物を掛けられ、

「これをしないと結界の中に入れません。」

と言われて何か施術を受ける。ヴェネレ教と同じく、ユラス教も儀式に塩を使うのでその(たぐい)だろうと考えた。実はオミクロンのゼータ研究所に入る際にも同じことをされたのだが、こちらの方が入念だった。


すると、パキン!と音がするので、牧師たちの方が少々驚く。

「…っ?!」

何かが分裂して弾けたのだ。


次は、現れた国家職員たちに、国籍や入国の手続きをされ、もう一度採血や様々な認証を取られる。そして、東アジアが許す限りここに留まれる保証を受けた。チラッと見ると出生はハッサーレということになっていたが、特別認証が掛かっているだろうことがサダルには分かった。許可された人間や組織だけが見ることのできる、特別認証が隠されている。



もう一人別の博士が来てさらに許可を受けてラボに入ると、広がる空間の中に、初めて女性が執刀しているチームを見た。


移動の時点でサイニックの心拍は不規則になっていた。

迎えに来ていた白衣の若い黒髪の女性は、移動中から状況を聞いていたのでメカニックのストレッチャーごとそのまま引き継ぎ、サイニックの胸に手を当てる。すると白い光があふれる。


「……。」

こんなにも普通に霊性師の技が見られるとは思っていなかったし、周りの誰も過剰な反応はしていない。

「……あれは?」

カストルに尋ねる。

「私は霊性自体の安定性を保つことしかできないが、ミザル…先の博士は直接心臓などにバランス性を保てる気を送れるんだ。」

「…………」

あれが心星ミザルなのかと眺める。確かに話通り不愛想だ。


そこにもう一人、見知った顔が現れた。懐かしいあの、3年前に会った博士。

「ミザル?この子か?!」

「第Ⅳルームに運んで。」

夫ポラリスのその言葉には答えず、「見て分からないの?」という顔をして、どんどん指示を出す。


第Ⅳルームと言われる場所に移動すると、その場でサイニックの体をスキャンして治療箇所が映し出されていく。腹部負傷や右足のニューロス部分など、一見分からない場所までどんどん表示され、ハッサーレのカルテや、ドローズというニューロスの設計図も示されていく。

そしてスキャン終了と同時に、既に必要なニューロス化部分のアイデアやドローズも出てきたのだ。全部が一瞬である。


他社製品の構造もこんなに簡単に解読できるのかと驚きしかなかった。


ない両手のドローズも空いた空間にどんどん表示されあるが、鬱陶しいというように、ミザルが手を振ってそれを消した。

「この子何なの?どこの子?タイナオス製の義体だけど、タイナオスの子じゃないでしょ?」

「タイナオスの傭兵が連れてきた子で、出身地は不明です。」

「………。」

きつそうな顔のミザルが、あんた誰?みたいな顔で答えたサダルを見る。


「でも、人種から違うでしょ。タイナオスの血が入った混血とも思えない…。…ユラス?でも、顔立ちは東洋人っぽいところもあるかな…………」

ニューロス研究者には人種や顔の造形に詳しいものが多い。タイナオスは半閉鎖した国であるので、国内で生まれ育っていればこんな容姿には基本ならないであろう。それに、冷静自体がタイナオスではない。


それから何ともない顔でまた指示を出す。

「ちょっとかわいそうだけれど、場合によってはいくつか再手術するから。腸ももう少しきれいに繋がないと腸閉塞になるりやすくなるかも…。戦場でそんなのになったら命取りでしょ。」

「………。」

手術をしたオルビーはトップクラスの外科医でもある。いくらハッサーレであの時緊急を要していたとはいえ、海外からの目もあったサイニックの手術にそんな不手際があるとは思えない。


「何が問題なんですか?」

「ここ、あんまりよくないのが溜まってるから癒着しやすくなる。黒いの。分かる?霊性治療で行けるか…。パーキースがいいかな………」

パーキースは手術用のロボットだ。

「霊性の治療で大丈夫なんですか?」

「………?」

そんな事も知らないの?的なめんどくさい顔でサダルを見る。


「霊性の治療でもしこりが消えたり、完成する前の肉体なら奇形を直したりできるから。イレウスや腸閉塞も未然に防げたり緩和はできるかな。この状態から平時良好状態に持って行くことが出来なければ手術だけど。まだ経口食もしていないし…」

態度が冷たいと思ったミザルは、冷めた口調はそのままに案外いろいろ教えてくれる。ただ、サダルにはパッと見ても言われていることがよく分からない。黒いとは霊の話だろうか。同じ霊性を扱う者でも()()()()が違うのだろうかと思った。


「あなたハッサーレから?あと、この子の切除した器官はあるの?情報に載ってなかったけど。」

「?!」


一番聞かれたくなかったことを聞かれた気がする。

「………ハッサーレのピスキウム研究所です。」

「…よかった。処分しなかったのね。」

初めて少しだけ安堵の顔を見せたミザルは、手袋を外す。


「一旦ここで。そこまで難しい処置は今はないから。経過見にしましょう。」


サダルは、なのにわざわざアンタレスに連れてきたのか?と思ってしまう。




そこにポラリスがまたやってきた。

「お!よく見るときれいな顔立ちの子だね。ニューロスかと思ったよ。」

眠っているサイニックの顔を見て驚いている。


そして、少し辺りを見渡し………サダルを見て固まってしまった。

「…っお??!」

「………。」

「おおおっ??!やっぱり男ミザル君!」



ミザルも含め、周囲は「は?」という顔で高テンションのポラリスに注目する。

「え?この笑わない不愛想なところ、ミザルにそっくりじゃない?」

「………」


この雰囲気で何を言い出すんだと寒い目をするサダルと、いくら自分より若そうだからと言って、外から来た人間になんて失礼なことを言うんだと周りはすまなそうに見る。


………というか、そこで研究員たちも目覚める。研究室にまで入ってくるこの男も誰なんだ?と。

よく見ると、非常に異質であった。




***




状況が落ち着くと、明け方になろうとしていた。



サダルは案内された個室のリラックスルームで、朝まで休んでいてもいいと言われるが未だ状況が呑み込めない。


やはりハッサーレはハッサーレでしかなかったのだ。

メカニック技術はアナログデジタルでしかなく、何もかもが無意味に思えた。この歳になるまでこんな程度の事も知らず、もうこの世界で完全に出遅れている。


郊外の商店街で幼少期を過ごし、小学校の終わり頃からハッサーレにいたサダルにとって、いくら過去にユラス人国家ダーオに住んでいたとはいえ、これまでとあまりにも何もかもが違う。ハッサーレでは自分がひどく先を行っている気がしたが、ここでは事務員の方がまだ先進的に見えた。


しかも、最後の最後に自分が許可を出した被験体が、もしかしたらここでなら臓器摘出などしなくてもよかったかもしれないのだ。

いや、緊急という意味では間違っていなかったのかもしれないが。


でも、ハッサーレの医者にも温存という考えの者もいたし、実際自分は傭兵の話を聞いた時点で、戦える体にさえ戻ればいいと思っていた。


どうせ、ああいう孤独な出の傭兵は死ぬまで戦わされ、セクハラを受けて終わりだ。怖がるとクスリもさせられる。身籠ってもっと大変なことになるよりはいいだろうと思ったのだ。



戦場で亡くなりやすいのは妊婦だ。

病院のない場所で流産や死産、出産をして後遺症を残したり、養生できなくて体を壊し捨てられることもある。研修の頃、途上地域から送られてきた下部裂傷のフィチュスラの患者を何人か見たことがあるが、そこから感染症になったり鬱に陥って大変だった。自分の子供を産ませて、着の身着のままで物のように女性を捨ててしまえる男や親族たちが多いのにも呆れたし、これが野戦下だったらもっと悲惨だ。


世の中そんなものなのだろう、自分を取り巻く世界もそうだった。そうとしか思えない環境で生きてきた。こんな世界で長々生きて何になるんだ。


警戒していなかった大人から受けた屈辱は、自分も今も忘れていない。





『医師の風上にも置けない!!』


『お前が止めれば別の処理ができたはずだ!!』



こんなものだ…と思いながらも、

それでも今になってその言葉が響く。



あんな搾取無自覚の偽善な医者に言われて、腹が立ったしバカバカしかったが、ひどく風穴が空いた気分だ。



だから何なんだと思う。


そう思えば、母だって何だったんだと思う。

何が族長一家なのだ。自分は母しか親族を知らない、商店街の端の貧乏一家だった。ハッサーレに来るまで都庁や県庁、国会議事堂にも入ったことがなかった。ユラス家長男として立っていた親族の姿どころか、他の族長すら見たことがない。そもそも母が、国に呼ばれても逃げ回っていたのだ。


この十数年間に、ハッサーレを自分で抜け出すべきだったのか。けれど、自身は海外旅行も禁止されていた。でも、少なくともあのニューロス技術の国際会議後に……。


それとも、もう全てが遅いのか。



もう100年ぐらい世界に置いて行かれた気がした。



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