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ZEROミッシングリンクⅤ【5】ZERO MISSING LINK 5  作者: タイニ
第三十四章 触れても届かない手
5/110

4 光のモーゼス

前回、今までで一番かというほど文がめちゃくちゃですみません…。


頭がボーとしているのに作業を続けて更新してしまいました。反省しています。まだまだおかしなところがあるかもしれませんが、お許しください…。



「響せんせ!どうだった?」

「スイル、かっこよかった!」

抱き着いて来たのはタラゼドの従妹、高校生のスイル。ブカブカのTにズボンだが、なにせTシャツの丈が短い。動くとブラまで見えているが、これは見せてもいいものなのだろう。慣れない響である。


「先生、変な格好してても大好き~!」

一部の子たちはここ大房で、タラゼドの妹ルオイやローアたちと響の講習をけていた子たちだ。時々食事もしている。


そこに、タラゼド母のフェルミオが出てきた。

「響さん、娘たちの我が儘を聞いてくださってありがとう。今日は好きな物食べて行って。ずっと勉強詰めで大変だったんでしょ。」

「あ、お久しぶりです!ありがとうございます。」

挨拶で、フェルミオもギュッと抱きしめてくれる。フェルミオの大きな懐が、温かくも何だかくすぐったい。物心ついたころには、蛍惑の実母にはこんなことをされたことがなかった。


「うちの子たちが暴走してたら叱って追い出していいからね。」

時々飲みに来ることのことだろう。

「一応、師弟の間ですから、泥酔するようなことはさせません。」

響はにっこり笑う。半分身内の様な存在でも、生徒になった人との距離はきちんと保つようにしている。

「フェルミオさん……前はメールだけのお礼になってしまいましたが…、いろいろありがとうございます。」

「こちらこそ。ファイを……よろしくね。」

コクンと頷く。ファイは久々の土曜出勤で遅れて来るとのことだった。


「先生、なんか買いに行こ。お腹すいた!」

フェルミオは疲れて寝てしまった子供のベビーカーやキャンプチェアを世話し、何人かの子たちは買い出しに行った。




***




「楽器初めての子たちだろ?」

「ああ。ピアノやヴァイオリンしてた子はいるみたいだけど、ほぼド素人。」


ウヌクは知り合いの音響のところに出向いていた。たくさんの機材を前に座り込んで聞いている。


「カホンとか…ウッドブロックとかカスタネットやパーランクーとか打楽器でいいと思うけど?」

横から他の人間も口を出す。

「お前が教えんだろ?何ができるんだ?」

「太鼓ならできる。思い出せば。伝統太鼓してたから。1年くらい?」

「ならそれでいーんちゃう?何かの音楽やリズムに合わせて打ち鳴らすだけで十分だ。まず音が出て楽しければいいんだよ。」

プロに頼んだ方がいいのではと思うウヌク。

「…お前ら来る?」

「俺ら演奏はそこそこしかできんからな…。」

「でも、俺がするよりいいだろ?」

「ユラス人も多い教会だろ?俺ら浮きそうだな…。ユラス人ってクソ真面目なイメージしかない。」

「半分以上はアジア人だよ。」

「んー。考えておく。」



そこにメインステージの方に向かう一人の女性が見える。


横目で見るウヌク。

「…パイじゃん。」

「ああ、夜のステージに立つって言ったけど。」

「やけに早くんな。あんなの7時か8時以降だろ?」

まだ4時だ。


サルガス大好きっ子、歌手のファーデンパイはツンとした顔で、数人の知り合いと少し離れた場所の簡易バーに座り軽い酒を一口だけ飲み、後はスナック程度のチキンなどをつまんでいた。




***




同じ頃、今日もミュージアムでシェダルはボーとしていた。


毎日特殊教育という事で、よく分からない一般常識の勉強もしている。

シェダルとて何でもかんでも知らないわけではないが、例えば、


「横に泣いている子供がいる」

という項目があって、

「叩く、見る、起こす、そんなの知らない、どうでもいい」

ではこの中で何をしますか?という回答項目があるのだ。

なぜかペンタブレット筆記で。


と、そんなテキスト1冊分をして、それから様々な面談が始まるのだった。


回答項目は同じでも、時々質問が違って「人が泣いていたら今までどうしていましたか?」「自分が泣いていたらどうしてほしかったですか?」などもある。



そして、よく分からないが、シェダルは根本的な社会性がすっぽり抜けていると言われた。隠す気もないと。


普通ここまでの犯罪者はそれを巧妙に隠したり、開き直ったり、自分を特殊、非凡庸に見せたくて変な回答をすると。


でも、シェダルは流暢に話すわりに、人との社会的共感性がなく、場当たり的、暴力的。脳内の字引きはものすごく持っているのに、感性で意味を分かっていないものが多い。機械的。

なのに、素直なのだと。


(いき)がることもあるが、とても素直だった。本人も演出している感じではない。

分からなかったことがあれば素直に聞くし、感想も率直に言う。自分をよくも悪くも見せようとしていないし、主張やメッセージ性も持っていない。


まあ、素直というのはそうであろう。言うことは聞いているのだから、と思いながらシェダルはそれも口にする。





施設でのそんなやり取りを思い出し、ずっと壁に、宙に浮かぶ映像を眺める。


海や、空や、浮かぶものが好きだった。



___




ある授業では、人形のように動かないアンドロイドの護衛が後に控えている中で始まった。担当の女性の先生は軽快に言う。

「いいですか、シェダルさん。あなたは散歩に出掛けました。ここに1人でテラスで食事をしている女性がいます。どうしますか?」

若い女の先生が、紙人形のステキな女性をカフェが背景のボードに張り付けた。


それをボーと見て、無表情で指でピンと弾く。女性の人形は机の上に弾かれた。


「あら、ひどいことをしますね!」

先生が思わず言う。無視という人もいるし、もっとひどいことをする者もいるが、他者は関係ない。先生はシェダル自身を見る。


「どうしてそんなことをしたんですか?」

「…。」

人形を持ち上げて、可動式になっている腕を動かす。

「これはピンで固定してあるのか?足も動くようにした方がいい。」

「気が利くんですね、シェダルさんは。教材会社に伝えておきます。」


「では、この女性は誰ですか?あなたの中に当てはまる人はいます?女性でなくても構いません。」



「…麒麟…。」

「キリン?キリンって?人の名前?動物の事?」

「あ?何だっていいだろ?」


シェダルは少し不機嫌になるが先生は動揺しない。生徒の中には、時々「先生」と言って人形を舐めたり千切って嫌がらせをしてくる者もいるので、そんな事にも動じない元々肝が据わりまくっている人なのである。



先生は新しい選択肢をあげる。


その人はあなたにとってどんな人?

「いい人、悪い人、嫌いな人、好きな人、大事な人、どうでもいい人、怖い人、悲しい人、会いたい人、会いたくない人、気持ち悪い人、気持ちいい人、死んだ人、死んでほしい人、生きている人、怖い人、優しい人、おもしろい人、分かりにくい人、似ている人、過去の人、未来の人、いない人、理想の人…」などたくさん出てくる。


首をひねるシェダル。


「1個?」

「1個でもいくつでも。」


まだ首をひねっているが、先生の方を向いた。


「…言いたくない。」

「あら?なぜ?」

「………。よく分からない。」

「恥ずかしいの?」

「さあ。先生はどう思う?」

「先生は恥ずかしいのかなと。」

「………。」

シェダルは不貞腐れする。この雰囲気からしたら、麒麟は嫌な人物ではないのだろう。シェダルの中に悪い感情はない。先生は少し霊視ができるし、実は特殊訓練を受けている強化ニューロス化した人間だ。


「大事な人?」

「大事?おもしろい奴だ。いろいろ知ってるから。」

「…女性じゃないの?」

「女だぞ。」

「昔から知っている人?ここ最近出会った人?」

「は?最近だろ。…チコ・ミルクを叩いてからって最近か?」


そんな感じでどんどん話を進めていく。



「ならやっぱり大事な人ね!」

たくさん話してそこに結論着く。


「…大事?意味があるってことか?」

チコの大事な人が弟と知って、チコにもファクトにも攻撃もし、やめもしたのに、自分に当てはめると分からないとは。それとも恥ずかしくてごまかしているのか。


「そう。だったら、こんなふうに弾いちゃだめね。」

そう言って、先生は人形を大事そうにボードに戻す。


「結婚していたり、恋人のいる人?」

「さあ?小うるさい女だと言うことしか知らん。」




歩けない、足のない自分の膝に勝手にカゴを乗せ、勝手に(とち)の実を運んで、勝手に話しているあの日を思い出す。



黒い、煌めく髪。

天を駆け抜ける、青い、美しい麒麟。


そしてなぜか、壁をどこにまでも上ってくサラマンダー。




「大切な人は、まあ、そうでなくてもなんだけどね。こんなふうに弾かずに、大事に支えてあげなくちゃ。体にも勝手に手を出してはダメよ。」

「は?出すかよ。勝手に勝手なことをしているのはあいつだろ。」


おそらく、資料で読んだ女性だということは分かった先生。でも、最初に『ミツファ響』を頼ったのはシェダルと記録してある。


「この人かは分からないけれど、いつかシェダルさんもこんな風に大切な人とカフェで寛げたらいいですね。」

「この前、シリウスとファクトとそうやって飯を食ったぞ。」

先生はにっこり笑ってボードを眺めてから、シェダルを見た。




___




そんな風景を思い出しながら、ミュージアムの一角でシェダルは自分の手の平を見る。



手の平に見えるパーと広がる小さな世界と、そこにきらめくいくつもの星。


義手じゃなかったらどんな感覚だろうかと考える。

でも、これは義手で、義手でもサイコスが使える。ポラリスがそう造ったのだ。感知体として。頭だけでどうにかしていた頃より動きやすい。


きっとこの体というものは、絶妙なバランスで作られているのだろう。


手足があるだけで、それが人のように感じる義体になるだけで、歩くという感覚がこれまでと全然違う。

以前の様な破壊的な力はないが「自分の感覚がない」と言う、安心できる感覚。


肉身の痒みも、痛みも、モサモサとした、突っ張ったような感覚も、違和感も、ズレた感じもしない。

メンテが必要だと言う感覚すらない。



光がさらに広がり、映像が広がる壁に背中を預けて、力を抜く。

なぜか一粒の涙が出た。




麒麟の世界には行ける。でも、麒麟は気がつかない。


そして、いつも、他の誰かと歩いている。




その時、この展示エリアに、何か違和感を感じる。


機材から流れる音楽と違う法則の動き。映像。

少しだけ響く、パチパチパチ…という効果音。



「?!」


久しぶりに自分の中の警戒音が鳴る。



「誰だ?」

足を延ばして座ったままシェダルは尋ねた。



『お久しぶり。私の私…。』


明らかに周りと違うホログラムは、どんどんと自分対し既存の音響映像を巻き込んでいく。そして自分と他のホログラムを分からなくする。防犯カメラへの目くらましか。


そこに現れる、見たことのない美しい女性。女神の様な長い、長い青い髪の女。



その女性はシェダルを巻き込むように美しく肢体を広げ、たくさんのドレスなのか光なのかを煌めかせ、チコに似たシェダルの頬を光の手で触った。


「誰だ?」


『あら?知っているくせに。』

「知らない。お前はなんだ?気持ち悪い。」

『あなたの分身体。』

「…………。」



モーゼスだった。







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