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ZEROミッシングリンクⅤ【5】私はユラスの荒野を駆ける ZERO MISSING LINK 5  作者: タイニ
第三十七章 準備された奇跡

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43 見失った少年時代




サダル少年の高校最後の年。


その頃にはサダルは、母の背だけでなくタイヤンの背丈も追い越していた。



彼はハッサーレから動くことはできなかった。


既にいくつかの博士号を持っていたサダルは、ハッサーレのニューロスメカニックの先端と中枢を担っている。サダルの役割は、国の指示に従う事と中心の人間たちに利益をもたらすこと。それさえ努めれば研究は自由であった。


小国ながらハッサーレはセイガ大陸5本指のニューロスの膝元と言われるほどに変わる。


手先は突出していたが医術よりメカニック系の方がさらに優秀で、サダルが指示を出したり手を加えた製品は動きも強度も非常に性能が向上した。



サダルは誰も信用していなかったが、それが苦痛でもなかった。


だから裏切られても平気だった。でも、サダルの話を理解できる人間を中心に仲間は作った。いざという時に助けになるし、どうせ霊性が解放される時代がこの国に来たら、国を先導する人間に彼らはなる。損はない。

無意識でサダルはユラスと北方国家の方向性を見据えていたのだ。どんな人間を残して行けば、自分も、この国自体も後々面倒なことにならないか。






サダルが最初に警戒したのは、まだ子供の時。


母と住んだナオス国家ダーオのあの地方都市から脱出する際、担当が総入れ替えして迎えに来た時だった。


何食わぬ顔で来た男たちの本性を、既に10歳ほどのサダルは見抜いていた。いつも来ていた母のことも知るあの担当。彼女たちは既に死んでいた。しかも、けっこうひどい殺され方で。


彼女の笑顔、他の職員を思い出す。

『荷物は貴重品だけでいいから。服も全部準備できるし、自分で持って行きたい以外の荷物はこの箱に入れて。今日の内に運んでおくね。』

『…はい。』

『大丈夫。オミクロン家やシュルタン家の中に入ったら、命の危険はなくなるから。彼らはどんな子供でもひどい扱いをするような人たちじゃないよ。教育はちょっとキツイらしいけれど、しばらくいるだけだし。明日、朝の6時ここで待っていて!』

そう言って笑った担当たちは、次の日誰も来なかった。


ただ、彼女たちが人事になったと言ってやって来た男たちに、血を擦りつけたような黒い霧が掛かっているのが見えた。





本当にくだらないと思った。


その後のサダルは散々だった。

この霊性時代に未成年に手を出してくる男どももいたのだ。


保護すると言った人間に人気のない場所や部屋に連れ込まれそうになったことも、連れ込まれたこともある。ただ、子供でもサダルは一般人が手を出せるほど弱くはなかった。


ハッサーレに行くまでに何度かそういうことがあり、数回は最初だけ好きにさせて証拠を残し、警察に突き出したこともある。そう言うことができない地位のある人間には別の権威で裏で告発した。


時々触られた男から、何とも言えない子供の悲痛の声が、怨みが聴こえることもある。自分にされたことを飲み込めず、声もなくただショックしかない霊性が怨みに変わる瞬間も見た。この男たちはそれすらもも見えないのか。


助けてくれると言ったジャーナリストが二枚舌の霊を持っているのも見た。

平和を語る口で批判すべきものを一方的に曖昧な証拠でつぶすのも見てきた。裏では左国家やギュグニーと繋がっていることを世間一般は知らない。彼らは黙っているサダルを従順な自分たちの信奉者だとでも思ったのだろう。



本当にバカなのかと思う。この霊性時代に。


犯罪や姦淫は霊性から消えないのに。霊痕が残るのに。


視える人間にはしたことがバレているのに。



言葉尻のいい話、甘い言葉で話してくる場では、飲み物も飲まないようにした。モヤの掛かっている物や人には近づかないようにし、人間を見極める生活を続けた。


自分に何か好意的な姿勢や、海外に行くことを示唆するような人間が現れると、その人はいつの間にかいなくなっていた。きっと、母を迎えに来た職員たちのように、どこかに消されてしまったのだろう。




母親と緑の目の子供の世話、勉強づくしで子供時代を過ごした少年。


今度は、こんな人間の汚さを見せられて、少年時代は既に終わってしまった。





***




さらにその数年後…。



サダルはハッサーレのメカニックの未だ中心にいた。


非常に冷め切り、既にサダル自身も人を見下していた。何もかもが馬鹿らしかったからだ。この分野で自分より上もほとんどいない。でも自分に強烈な政治的権威がなければ、外に行くこともできないと知った。けれど、外国人のサダルは警戒された。


あとは、奴らのヒールを舐めるかだ。

つまり…屈辱を与えられるというだけの意味ではなく…率直に言えばこの場合誰かの犬か愛人になれという事だ。


ユラス人でなければ、自分の血に誇りがなければ、おそらくこの世界に負けていただろう。

あまりにも当たり前に、あまりにもたくさんの者が、珍しい容姿の少年だったナシュラに手を出してきたからだ。




ハッサーレは今、霊性生体研究までは難しかったが、アスリートが走れるくらいの義足は作れる。サダルによっていくつかの被験体が成功してからは、死亡例も失敗もなかった。他の先進国を真似て幾つかの再生臓器技術もあった。

平均以下は放置しエリートは徹底的に育てる国なので、この国で満足できない優秀な者が何人か集まり、こっそりしたい研究もしていた。ひどく規制が多いのに、妙にザルでもある国なので、ほしい情報を得ながらエリートたちはうまく立ち回る。


サダルは言葉が冷たく、笑うこともなく、あまりいい性格の人間ではなかったが、面倒見はよかったからか、多くの人に頼られるようになっていた。




***




そして、ある決定的なことがこの国の研究室に起こる。


ユラス北で負傷した傭兵が、なぜかハッサーレに運ばれてきたのだ。一旦病院に運ばれるが、右足にメカニックの義体を付けているため研究所に連絡が入った。



その傭兵はなんと女性。


最初入国した直後、女性看護師たちが対応に当たり、そこで驚く。



茶色だと思っていた眼は、美しい青緑の中に輝く紫色であった。




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