表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ZEROミッシングリンクⅤ【5】ZERO MISSING LINK 5  作者: タイニ
第三十六章 あなたはどこに

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/110

34 力の複合や足し引き 天才にならなくてもいい。



「見たか?!SNS!!」


夕方、南海の事務局辺りで騒いているのは、いつものうるさいアーツである。


既にその日に、シェアト大の公式やサークル、学生たちのSNSに、ダンクシュートの他、サダルとチコがキスをしている動画や写真がいくつかアップされていた。

「はああああああああ?!!!!!!!」

「何これ?!!!」

そこに映る学生たちは超盛り上がっている。


「なんだ?この演出。これで世間を欺こうというのか??」

「この『はあ?』っていう顔のチコさん。なんなん?」

とにかくみんな不満である。


こんな小技で夫婦仲をごまかそうというのも、こんな楽しそうなイベントが知らない彼方で行われたのも全部不満なのだ。アーツは心が狭いのである。


チコは少し髪の色を抜いて、目にはいつもの如くカラーコンタクトを入れている。でも、前髪が長く目は半分隠れている。正面から映った顔はあまりないが横顔もキレイだ。メイクもしているのか、いつもと少し顔立ちも違う。


「しいて欠点を言えば、チコさんがイケメンに見えることだな。」

「まさに……。男だろこれ。」

「イケメンの範囲が分からんが、美少年ではある。」

「さすが、美少年枠確定者。」

「つうか、チコさん。顔出ししちゃっていいの?」


黙っていたサルガスが答える。

「ユラスはチコがきちんと議長夫人であることを、世の中に定着させる気なんじゃないか?……。このままだと、本格的に軍人に戻って危ない橋ばかり渡りそうだし。」

「確かに……。」

ミーティングで南海に集まっていたタウも同じことを考えていた。


リーダーだけの会議で、チコはサウスリューシアのマフィアもどうにかしたいと言っていた。サウスリューシアのマフィアは傭兵や軍人上がりも多く危険だ。上下関係や統率が取れていない組織もあり、秩序なく攻撃してくるおかしい集団もいた。

チコが陣を組めば敵わない相手ではないだろうが、制圧だけでなく地域再構築まですると初期開拓だけ手掛けても数年から十数年は掛かるだろう。議長夫人がユラスを空けていい時間ではない。

それでもアジアでの活動が許されているのは、比較的距離が近いからだ。


あまり目立たせるのも良くないが、このままだとずっと裏の仕事をしそうで、ユラスはチコの位置を確定したかったのだろう。ただ、目立つ容姿なので注目を浴び過ぎないように、チコに対する人の記憶がボケるよう、普段とは違う装いにしたのかもしれない。


実際、メディアに映るチコは、いつも髪型や色が違い、実像を掴みにくかった。


そこに、お腹が大きくなったサラサが入ってくる。

「みんな揃ってる?」

「はい。リストのメンバーと、希望者は来ています。」

「今スケジュールを送ったから会場は確認してね。今日は19時半までに南海の空手道場で。次回からは食事は1時間前には済ますか、トレーニングの後に食べてちょうだい。」




それから全員指定の時間に集合。


現地には、ハウメアと師匠ジュニア夫婦たちもいてファクトは駆け寄る。

「ハウメア!妊娠したって聞いたけど……」

「はは。今日は見学。」

「マジ?!おめでとう!!ジュニアもおめでとう!」

「多少は動けるけど大人しくしてろって言われて…。」

チラッと夫を見ると、呆れた顔でジュニアが言う。

「ダメに決まってる…。この前は勝手にジャブの練習をしていたし、止めないと何をするか分からない……。」

「ハウメア、ジュニアを困らせないでね。」

既に6カ月を超えている。ベガスに来る前まで、妊婦も赤ちゃんもあまり見たことがなかったのに、妊娠出産が多く不思議な感じがするアンタレス民。大房でも時々見るが、ここまでではない。

そもそも結婚自体が少ないのだ。



端の方にはムギも来ていて、ソラと共に座って聞いている。


今日からの特別トレーニングはファクトは必須。リーダークラスはサイコスの有無に関係なく参加。他は希望者参加となるサイコスの訓練だ。南海青年のメンバーや元マフィア組もいて、アーツ第3弾までは見学も許される。河漢の比較的優秀なメンバーも参加を許された。


能力を啓発させたがいいが、ファクトのように力加減や向きをコントロールできない場合も出てきたので、安定し操作する術をもっと身につけていく。

講師はカーフとレサト、それから一部メンバーのみ見かけるようになっていたユラス兵の教官数人。所属は公表していないが42特殊部隊やサイコスの使えるのメンバーたちである。


一人一人の力の種類や加減などは既に教官たちは全て共有している。今回は実物に影響を与えることができるパワー系のサイコスに関してだ。


簡単に心身のトレーニングをしてから始まる。



「まず、この大きさの気溜まりを出せる者は前に。」

カーフが右掌に野球ボールくらいの電気だまりを作る。ファクトを始めとする数人が前に出た。

「同じものを作ってみて。」

電球のような物から、プラズマボールのような物、淡いぼんやりした玉。手を掲げているだけで何も見えない者もいるが、レサトがチェックするように触れると、バチバチバチっ…と音がした。


それが何性の気だまりか複数人で確認し、データとの正誤性を見ているらしい。



「これ以下の物でも出せるならこっちに。」

相変わらず1年以上経っても頭にしか出せないラムダも前に出る。頭に電気だまりがプチプチしていてかわいい。

教官ですら理由が分からないので、頭に気が溜まりやすいんだろうということにしておく。


「まず、力はコントロールできなければ無意味だ。大きな力であればあるほど。

それから精神性。いざという時にそれで人に害を与えるなら意味がないし、いらない能力だ。何より人を傷付けると今度は霊性が萎んだり悪性に変わったりする。

武道と同じだ。有段者はたとえイラついてもむやみに手を出せないだろ。サイコスも同じだ。」

「…………」

前に出て淡々と語る教官の言葉を、みんなじっと聞き入る。

「自分にできることと出来ないことを見極め、謙遜になれ。」

「……。」


「あと、むやみに発して、それが物理的な電気などの場合、ガス漏れしていたりすると爆発するからな。周りにあるガソリン系も気を付けろ。」

「はい?」

「電気性の場合、サイコスを発動する場所を自分で判断できるようになれ。基本この力は種火には使うな。1点に集中しているようで、周りにも火種が起こっている場合がある。」

「…怖っ!!」

今になって恐ろしくなるファクトである。そういうことは最初に教えるべきでないか?と思うが、どこかで一度くらいは聞く話だ。


「これってヤバくねーか?やたらこの力が人類に身に着いたら、爆破だらけじゃん。」

みんな心配するが、物理に働く力は今のところ非常に稀で、その上運動能力や精神力などかなり優れていないとまず出せない。

「いやあ…でもファクトにも大房民にも出来るんだからな…。世界で何十億ができるのか…。」

「そこだな。怖すぎる。」


教官がそれに答える。

「今いる中でも電気そのものを動かせる者はそこまでいないよ。レサトとカーフ、他にユラス軍でも2人だけだ。火種になるようなほどの力は質が少し違うし。

それに、自然界にも人の無意識下にも制御能力が働く。世の中とのバランスが取れるようプラスマイナスを持って均衡化するから簡単に暴発するような力は出せないんだ。サイコスはあくまでも物理世界と精神や霊性世界の融合で働く。自分だけの力ではなく、外部からの影響も働いているから、そこで世界とのバランスを作るんだ。

たとえ人間がおかしくなってもで制御の世界に引っ張られる。今は良性の力の方が強い時代に入っているからな。」

「…。」

ここでも多くの者は、実物の力でなく霊性の光の場合が多いそうだ。ラムダは確実にそうである。


「ファクトはまあ…家系だ。博士ご夫婦一家には元々霊性の高い牧師や教授職が多いし、自身の運動神経やリズム感など身体能力が加わったから発動しやすいんだろう。」

「十四光チートか……。」

みんないつもの如く簡単に言うが、ファクトとしては笑えない。

自覚しているが、そういうものをまとめ上げ習得者になるタイプでもないのに、余計なものを抱えてしまった気がする。教師になりたいだけなのに。



「霊性が発達していると、警告のように視界や感覚に危険が現れる場合などもある。物理的な技だけに頼らず精神性をとにかく高めろ。」


その後、小さなサイコスを出す消す、大きさを変えるなど自由にできるか確認する。ファクトも含め、ほとんどの者がこの大きさならコントロールできた。


まだ河漢から来たばかりのメンバーが驚いている。

河漢でサイコスの訓練は、基本していない。発現した数名だけが特別訓練を受け、後は霊性の方に集中している。物理の力より、精神性を高めることの方が先だからだ。


「コントロールはできてる……。この前の件は、大きすぎてまとめきれなかったんだな…。」

ユラス兵たちが話しているのは、ファクトが高速道路でシリウスを打ってしまった件である。


「はい!」

KYシャムが手を上げるので皆ビビる。

「PCに関する電気コントロールはそういうものと違うんですか?それも物理ですよね。」

まともな質問で驚くメンバー。

電気コントロールは、PCなどの無線遠隔操作だ。いろいろ種類があるが、サイコスの力でそれができるのがおそらくチコである。ただチコは細かい操作でなく強制的な停止か破壊になる………ので、みんな、それって物理じゃん?と思う。


「まあ、実質的には物質に働きかける物理的な力になるが、サイコスの分類としては無形系に入れている。デジタルと同じで、存在する物質の動きではあるが、ホロクラムやAI、デジタルニューロスなどは人間の感覚としては無形として扱うだろ。」


本当の意味での非物質は霊性の世界だ。それは物質の距離も空間も一瞬で越えるデザイン



物理でなく、霊や精神性や神性で構築するものが霊世界である。

誰もが持っている能力であり感知できる世界だが、まだ人類の半分ほどしか啓発されていない。それでも前時代に比べれば、爆発的に増えている。


「あまり、言葉尻に必死になっても本質を失うからな。私たちが必要とするのは力のコントロールのための分類だ。実際論と感覚論は分けてもいい。ある程度は感覚で使いこなせ。

あと、ファクト。必要以上に心配するな。電気がプラスマイナスで働きを変えたり、アースで電気を地面に流すようにこっちも複数のサイコスを利用して対策を取り危険を回避すればいい。」

「…???」

言うことは分かるが、自分のサイコスに何を足したら、もしくは引いたらそれができるのか分からない。そもそも今できる以外の事ができるのかも分からない。


くるっと、頭の良さそうなカーフを見るが、今は他のメンバーの指導をしていた。


ハウメアも何かしたそうだが、ジュニアが見学だけだ!と目で威嚇している。



「まず小さいものを、コントロールできる技術を徹底的に付けよう。

この力で心臓マッサージなどできたりする。ショックそのものを与えることもできるし、透視、透過力や通壁性の力があれば心臓に直接マッサージをすることもできる。そうすれば救命で肋骨が折れたりしない。肺回りなど気を付けないといけないがな。世界でも少数だがそれができる医師たちもいる。これは霊性師の治療とは別物だ。彼らは霊世界そのものを整理する。」

みんなほーと、感心する。


「ただ、サイコスを持つ医師の誰もがそれをできるとは限らない。

美容整形外科だからって、理想の美人に仕上げられるのは医大に行ける環境があり、医療技術の習得に美的感覚。美を体現できる感性や技術が必要だろ?それを全部ひとりの人間が持っているということは難しい。できなくて当たり前だ。」


周りに追いつけなくて、アワアワ急いでいるメンバーにレサトが言う。

「天才になろうとするな。個々で目標も違う。目の前のことを一つ一つこなす方が大事だ。急がなくてもいいから、少しずつ個々の目標に近付こう。」


そう言われてホッとするラムダやファクト。初めてレサトがまともなことを言っている気がする。初めて先生に見える…。

「………レサト………」

ラムダは感動するが、とりあえず頭でなく手に電気だまりを出せとスパルタ指導を受けていた。



「それに、実生活に役立つのは大きな力より、小さい力のコントロールの方だ。ほんの微小の力でも医療に活かされたりする。それだけでも十分なので、力の大小にこだわらないように。」


何が命取りに繋がるか分からないので、ファクトは真剣に聞き入った。


「ただしファクト。」

「はい!」

「お前は問題が多すぎる上、実害が既にあるので短期集中で個別訓練をする。」

「え?」

「はいだろ!!」

「はい!」


「………。」

ムギがウゲっという顔をする。ファクトはまた何かやらかしたのか。



そんな風に小さなサイコスを小さいなりに出す消す、大きさを変えるなどの訓練をして、その後は気分転換に、ABチームレベル中心に少し武術訓練をして終わった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ