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ZEROミッシングリンクⅤ【5】ZERO MISSING LINK 5  作者: タイニ
第三十六章 あなたはどこに

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33 ささやかなキス



サダルの方も話し合いが終わったのか外に出てきた。

ソライカはいない。


ディオも立ち上がってサダルを迎える。



「待たせたな。帰ろう。」

「はあ…。」

気の抜けたチコを無視してサダルはディオに感謝を示す。

「ディオ、庇ってくれてありがとう。」

「いえ、何でもない事です。」


そして、サダルはもう一度チコを見た。

「なんでいるんだ?って、顔をしているな。」

「…………。」

的確に言われるので、言うことがない。

「いて悪いか?オリガンなどの報告も聞いていないからな。あと、マイラが怒っているという話だが?」

「…っ。」


仕方なく反省する。

「反省しています。最近自分が婚活オバちゃんと呼ばれていると知って、まさかマイラにオバちゃんを好きになるそんな趣味があるとは知らなくて……」

「………。」

サダルもサダルの周りも反応に困るセリフを聞いて返しがない。



「じゃ、また後で。ジーオ、車を回してくれ。」

チコが言うと、また周りが驚く。

「一緒に帰ればいいだろ。」

「へ?なんで?」

ここまでして夫に気が回らないのか、無意識に避けてしまうのか。サダル周りの女性が怒るのも分かる対応であると、部下たちは思う。


「……相当嫌われていらっしゃるのですね。嫌われるというか……避けられているというか……。あれ?嫌うも避けるも同じですか?」

ディオが同情する。完全に100歩くらいチコの腰が引けていた。



しかし、サダルがチコの手を取った。

「いっ?!」

取り敢えず手を握ると、聖堂前のガボセを出て歩き出した。

「少し歩こう。」


挨拶をして去って行く二人を後ろから見てディオは付き添いにつぶやく。

「チコ様は、髪を伸ばされた方がいいですね。短いのも似合うのですが遠目で見ると男に見えます……。とくに後ろ姿は…………」

ウェアラブルやプロテクターなど装着しているので腰も少し太い。ほぼ男である。




***




講堂のある方に歩いて行くと、数人の学生たちがいた。


気が付いた学生たちが挨拶代わりの礼をしているので、サダルは手を振った。相変わらず無表情だが、周りも議長が不愛想なことは知っている。



歩きながらチコに声を掛ける。

「シェアト大にはいい思い出はないだろ。」

「………まあ。でも当時の社会的雰囲気なら仕方がないかと。その分ここよりは協力的だったユラス大からいくつかの分野で先駆者が出ているし。それで復讐も果たしたという事で。」

「……思いの片付け方が簡単なんだな。」

歩きながら不思議そうにサダルがチコを見た。


(くすぶ)るものもあるけれど、いち大学だけに怒りを執着させても仕方ないだろ。当時はアジアも西南はまとまったばかりで、その向こうにある東アジアはまだ未知で前時代の強国やかなり昔の侵略のイメージも強かったしな。私が目障りでもあり邪魔でもあったんだろ。」


軍事でも政治でも、経済でも荒れていた時代のアジアのイメージが多少なりともあり、今を知らなければ誰もが警戒したであろう。西アジアは、セイガ大陸真ん中の山脈と、軍など保有するテレスコピィと蛍惑がなければ侵略されていたと言われるほどまだ地盤固めも浅かった。


サダルはチコの心の内までは分からないが、淡泊に語る妻の話をただ黙って聞いていた。





しばらく校内を歩いていくつかの建物周りを見学し、帰ることにすると体育館から大きな声援が聴こえる。


バスケとバレーのサークルが半々を使ってそれぞれ練習をしていた。


中2階の手摺から2人でその風景を見る。

「チコはバスケとかは?」

「あまり知らない。私はそういう輪に入らせてもらえなかったから。」

軍生活のことだろう。チコは他の軍人とは一線引かれていた。

「サダルは?」

「学校に通っていた頃に少し。」

「ふーん。」

チコは学校には通えず、個人授業と高校や大学の補強授業や講義に自主参加という形で学んだんだけである。それでも学士は取ったが。

「…。」



「チコ様ーーー!!!」

そこにバスケ部のボールが飛んでくる。チコでなくサダルの前に来たので、サダルが大きな手でキャッチした。

あまり見えないところで見学していたつもりだったが、長い黒髪に淡いプラチナブロンドの二人は目立っていたのだろう。学生たちから歓声が飛ぶ。あれ議長じゃないか?という声も聞こえる。

「議長ー!シューーーート!!」

一人の学生が叫んだ。


角度も距離もあるので本当に入れろということではないだろうが、サダルがボールを投げるとそれは大きく円を描きリングに当たった。

外れたかと、本人も誰もが思う中、いきなり一人の男子学生が現れ、リングでリバウンドしたボールをノーバウンドのダンクでダンっ!!!とゴールに叩きこんだ。


「おおおおーーーーーーーーー!!!!」

「ゴーーーーーーーール!!!!」

館内が大きく湧く。


「ナイシュー!!」

チコもグッドポーズをし拍手を送る。


「議長ーーー!!ナイシュー!!!!」

ダンクをした学生が叫ぶと笑いや歓声が飛ぶ。


「チコ様ーーー!!!」

「今日の講話よかったです!!!」

ノリがいいのか拍手も起こって大盛り上がりである。


そこでサダルは少しチコを眺めた。

そして、距離を取っていたチコの腰に腕を回し、そのまま頬にキスをした。


「は?」


「ワーーーーーーー!!!!!」


驚くチコと、さらに沸く場内。


「はあ???」

「チコからはしないだろうからきっかけを作れと指示を受けて。」

「誰から???!」

目を合わせて話す二人が、離れた所にいる学生たちには仲睦まじく見える。


「さあ?約束の1回目を決行しろと。今なら流れでしやすいだろ。」

「……わ、分かった…。」

呆れているも会場は湧いているのでイヤな顔をしながらも、仕方なくチコも目をつむってそのままサダルの頬に軽いキスを返した。これでファイに、ネチネチ文句を言われまい。


「おおっーーーーーー!!!!!」

「キャーーーーー!!!」

と拍手が上がる中、二人は手を振って去って行く。手を繋いで歩くと同じ階にいた学生たちからも歓声を受けた。


「…???」

なぜこの約束をサダルが知っているのか。なぜこんなことになっているのか。


「何だこの茶番。」

チコとしてはよく分からない。



二人は待機していた車に乗って、そのまま議長邸に帰って行った。




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