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ZEROミッシングリンクⅤ【5】ZERO MISSING LINK 5  作者: タイニ
第三十六章 あなたはどこに

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30 大房民はナンパが命

少々閑話です。



ある日の夕方、珍しいことに妄想CDチームで目立たないタイが、叫んでラウンジにやってきた。


「みんなー!たいへんだー!!メール見たか?!メール!!」

「は?どのメール?電話?トーク?アーツ?ベガス?」

「これ!!」

そう言ってタイはデバイスをみんなに見せつける。


注目する妄想CDチーム。

「………。」


そこに写っているのは時長(ときなが)という地方に行ったアーツメンバーのキロンだ。それからレーウ。

そして見たことのない黒髪の普通にかわいらしい女子。大学生か現地のスタッフか。


「これ見て何も思わないのか?!」

みんな意味が分からず、デバイスを取り上げてスライドしながらその他の写真を見る。写真の中には他のみんなもいるし、近代化した施設からハウス、普通の田んぼ、重機の工場、学校なども写っている。

「元気そうだな。」

「いいな…。俺もあっちに行こうかな……。今度南海から20人移動するってさ。」

「あ、この前の野菜サンキュって打っといて。」

みんな勝手にタイのデバイスで返信する。

「今度、桃も送れって。」


「そーじゃないだろ??」

「何が?」


「この子、キロンの彼女だって!!」


「………。」

「へ?」

そんなセリフ、受け入れるどころか、意味も飲み込めない妄想組。


「彼女だよ!!現地で彼女を作ったんだ!!!」

「………。」

「まじか?!」

「うそだろ??」


「はー、そうなんだ!キロンよかったね!」

ラムダが悠長に言うが、許せない他のメンバー。

「あいつは、彼女作りに地方に行ったんか?!!」

「いいじゃん。キロンはもう25くらいじゃないか?」

リゲルが言うが、納得いくわけがない。


「俺たちの生きる世界は、想像世界だったのに現実で彼女を作るとは…。チコさんが怒るだろ?!」

「チコさんが時長のことは現地に任せると言っているらしい。」

「『傾国防止マニュアル』の禁止事項に入らないのか?」

「節操をもって常識の範囲で、ベガスやアーツの名を下げるようなことをしないなら、むしろ結婚しろと言っている最新情報です。」

「ウソだろ??!!」

「お前、ミーティング参加しろよ。みんな知ってんぞ。」

元々ベガス自治を安定させるために、ここで結婚してほしいと言っていたくらいである。それ以前に、キロンは妄想チームだが、別に陰キャではない。普通男子だ。


「最終試練がムズすぎる……」

「試用期間に陽キャどもと限界越えのスポーツをするという人生最大の迎えた気がするが、その後の方がドデカイ難問だったな…。」

「陽キャの中でも、大房の空手やパクルール頂点どもだからな…。」

世界的な陽キャと、世界のアンタレスの陰キャやオタクというどうしようもない組み合わせ。神様は一体何を思ってアーツ第1弾を集めたのか……。



そこに誰もが陽キャ認定する男が現れる。


「何?キロンの彼女?見せて。」

この前のテロで怪我をしたローである。

「おー!かわいいじゃん。優しそうでいいんじゃね?」

「でも、お兄様方は許せないらしい。」

「ファクト、お前余計なこと言うな!!」

みんな、暴言を吐くファクトを黙らせる。


「は?お前らも彼女作ればいーだろ?」


「…………。」


一瞬空気が止まる。

それ、俺らに言っていいセリフなのか。


「ジリ、お前の勤めてる介護施設、雰囲気いいし女性の職員の方が多いだろ。いっぱいいるじゃん。」

ローはここでの生活義務として週3日、公共施設への食材搬入をしているので、時々施設にも入るし台所や搬入倉庫などの職員を知っている。


「女の人がいれば付き合えるなら、誰も婚活なんてしないだろ?そんなん難しいよ。」

「何言ってんの?気に入った子に、声かければいいだろ?」

「へ?」


何、その世界。


「いないの?」

「いるとかいないとかの問題でなく………」

女性はいくらでもいるのだが、むしろ登竜門である。羅生門か。



「俺、通っている病院で声かけて、今、付き合ってるよ?」

「………。」

またもや呑み込めない一同。え?病院?ローは河漢で怪我して数回行っているだけだと思うが………。付き合っている?


「ええええええええっっーーー?????!!!!」

「どうやって???!!」

みんなのめり込む。仕事関係以外で、CDチームが認定する陽キャにこんなに声を掛けるのは初めてだ。


「え?普通に…。『かわいいね?仕事終わるのいつ?』だったっけ?」

「っっ??!!!!」

驚愕する一同。それで付き合う??そのスキル、スライムや角ウサギ100億匹倒しても得られない気がする。


「スライムや角ウサギ100億匹倒しても、スライムを倒せるスキルやスタミナが上がるだけだろ?あと工場のライン仕事を延々とこなせる忍耐力?」

「でも、顔は整形しないと変えられない………」

「なんだかんだ言って、主人公はヘタレと思いきやカッコいいからな。不快にならない程度に顔が…。」


「お前ら何言ってんだ?顔なんてどうでもいいだろ。」

妄想組を理解できないロー。

「ウサギ倒してたら、肉や皮とか売って金儲けられるだろ?ムギに教えてもらえ。毛皮もなめし皮もできるらしい。角も売っとけよ。あ、角はなんとか条約違反?」


ここで思う。もう自分たちはDNAの構成がこいつらと違う。厳しい自然の中で淘汰されるが、本能で(つがい)になれる虫や魚に、雌に餌にされても子孫を残せる虫になりたかった…。いや、全てにおいて大して悩むことのないミジンコになりたい…。分裂で増える微生物でもいい。もう、存在すらしなくていい…。霞になりたい…。


「ちょっと待って…。ベガスの総合病院だろ?アンタレスの子?」

共通語で医療事務ができるなら、アジア生活圏にいたか、それなりに頭のいい子だろう。

「いや、移民の子だって聞いたけど。ティティナータだっけ?『国の名前もかわいいね。』って言ったら笑ってた。」

オイオイ、それだけで女の子を笑わせるって、どういうスキルだ……と驚きが止まらない。自分なら同じことを言ったところで白けられること確定。笑いかけただけでセクハラ認定である。なぜ、こんなことばかり自信があるのか。


「いいの?ベガスの子にナンパなんてして………明日にでも広場で磔とかで吊るされないでね…。」

次の日には股間が涼しくなっていそうだ。

遂に恐ろしさが度を越えたのはタイである。震えて質問する。

「チコ……、チコさん怒らない?」


「ああ、一応チコさんには言われてる。ここは、家族を亡くしていたり、親がいなくて一家の大黒柱になっている子もいるし、単独で移民になって働いて現地の家族を支えたり待っている子もいるから、そこんとこ頭に入れておけって。いい加減に手を出さなければいいって。」

「……いい加減に手を出さなくて、ナンパするの…?」

「責任とれってことだよね??」

もう、混乱しかない。


「俺、河漢見てるから、周り、クソみたいにクソな男しかいないだろ。自分で声かけるしかないじゃん。医療事務の子なんだけど、かわいかったし。」


ひぃぃぃぃーーーー!!!!

人として思考が違い過ぎる~!!!


「怖い~!!大房で見付けたらいいのに~!!!」

妄想チーム、心の声が遂に口に出てしまい、ローに「怖い?何が?チコさんが?」という顔をされる。チコも怖いが、人が怖い。


なにせナンパの聖地、大房である。ナンパなど大房ですればいい。

「え?責任って結婚前提でって話だろ?いいの???だいぶノリが違うくない??」

「ナンパなら大房でしても同じなのに!そんな重い責任取れるの???」


「でも、今ここに住んでるし。だからって待ってたらカストル総師長やチコさんはすぐいなくなるし、エリスさんは大房民嫌いとか拗ねてるし…。」

「ああ、陽烏ちゃんの一件でね……」

「現在のベガス筆頭牧師とは思えないよね。拗らすなんて。」


「筆頭牧師が大房差別だよ?」

エリスはサルガスのこと以来、下町ズを警戒しているので、絶対に下町ズはお断りである。何度も言うがエリートやプレイシアがたくさんいるこのアンタレス、ベガスでなぜ大房なのだ。エリスの気持ちが分かり過ぎる。自分がエリスでも嫌である。


「何というか…オフ会?合コンとかしないの?」

「合コン?」

「合コン!」

陽キャの定番は合コンではないのか?と頭の細胞フル知識を総動員する。合コンなんて漫画でしか見たことがないが。


しかし、ローは本当にめんどくさそうに言う。

「合コンとかメンドい……。想像するのも嫌だ…。」


ひ~!!!陽キャも合コンがめんどいのか!初めて知った!

面倒具合に違いはあれど、初めて意見が合う。


「飲み会とかならいいけど、セッティングありきのはいいや。

医療事務の娘とも、別に普通に2回ぐらい飯も食いに行ったし。あんな感じの出会いでもいい感じだと思うけど。」


「………。」

もう頭が追い付かない。初めて会った女子と2回も2人きりで飯を食いに行くなんて…。それで気が合わなかったら、嫌がられたら終わりなのだろうか。そんなことされたらおそらく立ち直れないだろう。妄想チームの場合。

その前に会食すら断られそうだが…。絶対に浮上できない………。


そしてすぐに気が付く。こいつに合コンなど必要ないのだ。

やはり人が違う。生きている全てが違う。



「だからさ、そんなナンパ。大房ですればいいのに。」

「それがさ、違うんよ!」

ローは楽しそうに言う。

「なにが?というか、違いすぎるよね?」

もう、精神性面から民族性、文化伝統、時代感覚まで違う。


「…大房で女の子つかまえても最初に結婚しようとか思わないけど、ここだとちゃんと結婚したいって……思うかな。結婚感や家庭観がしっかりしてる子が多いし。」

「……。」

思わず黙ってしまう妄想チーム。


「マリアス教官やカウスさんやさ、タウたち家族を見てると結婚したいって思うだろ?」

ちょっとうれしそうだ。

「…………」


「チコの名前は出さないんだね。分かる!」

バシ!

またファクトが言わなくていいことを言うのでジリに叩かれる。



それは分かる…。分かるけど………現実に体現するのは難しい…。気が合うのかは分からないし。そういう陽キャなスタートですらない…。超える山が違い過ぎる…。まず男友達すら危ういメンバーもいる。ここは集団で暮らしているので、どうにか友達になれたというくらいだ。

神よ、怨む………が本音である。

世界が二分するの分かる気がする。持って生まれなかったことに対する怨み項目が多すぎた。



「お前やりたいだけだろ。」

少し離れた場所で聞いていたシグマが、ローにどんでもないことを口にした。周りに女子がいないが確認してしまう一同。

「それはあるが、今の俺はそこまでがめつくない。順序と礼を重んじる。」

余裕の男ローである。


「ま、ジェイだってリーブラと結婚してんだしさ。お前らも大丈夫だよ!俺だってまだ先は分かんないし、結婚からも長いんだし。」

陽キャが軽く言う。何かが違うのに根本で理解してくれない。なにせローだ。



ジェイの結婚は陰キャの海を割る奇跡と言われていた。

後に続く者がいなかったが………それがキロンか。



そしてローがさらに続ける。

「あ、そうだ。お前らいんじゃん!頼みたいことあるんだけど。」

「頼み?」

「ゲームとか好きなんだろ?漫画とか。俺も漫画は時々見るけどさ、趣味の深さが違うんだよな。」

「?」


「俺の弟、預かってほしいんだけど!」

「弟?」

みんな、ファクトやトゥルスみたいなのを想像する。


「俺らじゃ手に負えないと思うけど?」

「いやいや、君たちならバッチシ!今度よろしく!!」

「…はあ。」

そこで、ローのデバイスが反応した。

「お!、今日も飯行こって!じゃーな!!」

ローが一方的に押しまくっていると思っていたら、向こうからも誘いが来たらしい。すごいけど……そのスキルすごいけど………



彼女こそ大房でいいのか??と、思う大房民たちであった。



「………すげー。」

「別れ話とかじゃないといいけどな…。」

うれしそうだから、フラれたらかわいそうだ。


よく分からないが、早速ローはどこかに行ってしまった。




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