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ZEROミッシングリンクⅤ【5】ZERO MISSING LINK 5  作者: タイニ
第三十四章 触れても届かない手
3/110

2 あなたです。好きなのは。



「マイラ、逃げるのもいい加減にしろ…。」

まだ焼肉で盛り上がっている場を少し離れ、マイラがコーヒーを飲んでいる端のベンチにチコも来た。でもマイラは無視をする。


「何を怒ってるんだ?」

「…来ないでください。」

「いいだろ別に。」

長いベンチにドカッと座る。


「…」

「…」

「…チコ様、サウスリューシアはどうですか?

アンタレスと違って全然整備されてないでしょ。これでも私たちが最初に入った時よりかなり整ったんですよ。街も。規則も…。」

きっちり敷地や区域が割ってあり、人が正しく歩く東アジアとはかなり違った。大房民がいい加減と言われても、ここよりは規律の中で動いている。


「…でもこういうのも好きだけど…。」

チコは言うが、マイラはため息をついた。

「これで、きちんと組織が回って、揉め事や事件がなければいいんですけどね…。」

「…。」


チコはユラス人ナオス民族の特徴を備えた淡い髪、薄褐色肌のマイラの横顔を見た。

濃くもなく、整った顔立ちだ。サウスリューシアではもう少し男臭い方がモテるのかもしれないが、マイラのスペックなら好み以前の好条件である。家柄も頭もよく、そこらのゴツイ男よりもはるかに強い。


「…なんでそんなに結婚がイヤなんだ?」

マイラは「はあ?」という顔をする。

「チコ様こそ、なんでそんなに結婚させたいんですか?」


「マイラとカーフはとくに大きい家だからな。今は長兄だし落ち着いてもらわないと困る…。」

「…」

そんなチコに少し遠い目をする。

「本当はユラスにいてほしかったんだ。マイラまで何かあったらどうするんだ。」

「…父たちへの責任だと思っているんですか?」


マイラやカーフの父や兄たちはもう亡くなっていた。

「責任とかだけじゃなくて、バグスたちに安心してもらいたい…。心から…。」

バグスはマイラの父である。


少し遠い目を一瞬だけきらめかせ、上司は静かに笑う。



「…チコ様、逆に今時大きな家門なんて女性も嫌ですよ。ユラスはまだ古くて親族問題もあり過ぎて面倒じゃないですか。ウチはそこまでお金もないですし。あまり若い人よりも、もう少し落ち付いた歳になってから、落ち着いた年齢の人と結婚したいです。」

「面倒だとか思わない女性だっている。サダルの周りの女性たちを見ているだろ?」

「議長の様な権威もないですし、贅沢もできないです。」

「そんなのサダルだって同じだ。

マイラたちは…首都再建に全額つぎ込んだんじゃないか。誇れることだ。」

「…曽祖父も祖父もその頃亡くなったから、どっちにしても事業は売るしかなかったんです。母たちはそういうタイプでなかったし、私たちも軍だったし。」

マイラの家門は、首都再建に持っていた財産を全て使ってしまった。今は残った家族が親族の事業を助けている。かといって、貧しくもない。今はそれなりに稼いではいる。


「…。でも誰かいるんだろ?こっちの人か?」

「…?」

いきなりツッコんだことを言うチコに驚く。


「いませんが?」

「隠さなくてもいい。」

「隠してません!」

「そんなムキになってなって否定するな!かわいいな!」

ニヤニヤする。


「本当にいません!!」

「いたって別に何にもおかしくないぞ。むしろいない方がおかしいし。誰だ?マイラの周り、ずっと淡いモヤが掛かってたからな!カーフもなぜ私に言わないんだ。男はみんなそうだな。めんどい。」

そうか、この人はそういう霊視が出来たのか!とマイラはビビってしまう。


「誰なんだ?言え。」

「は?何言ってるんですか。あなたに言う必要はありません。」

「ほら!やっぱいるんだろ?言え。」

「あっちに行ってください!」

少し乗り出すチコ。

「誰だ?こっちの子だと少し問題だな。家をどうするか…。」

「いないし、言うわけないです!」

「は?なんだ?!」

「やめてください!」

「あ?私に向かってそれを言うのか??言ったらやめてやる。」

襟足の髪が伸びて、前より少し大人っぽくなってきたチコが、触りはしないし距離もあるが近くに迫る。


ただ、女というより兄さんだ。かっこいい。


動揺するマイラ。しないわけがない。


3年前と全然雰囲気が違う性格にも動揺する。3年前は、ほとんど無表情か軽く笑う程度で、仕事と挨拶以外人の近くにさえ寄らなかったのだ。



「え、え、え…」

「言え!そうしたらバグスに安心して報告ができる!」

「…っ。」

「マイラ!」



「あなたです!あなたの事です!!」


「…。」



言ってしまって場が固まる。



「…あなた?」

「チコ様です!」

「は?!!」

「っ?!」

バッと大きめに距離を取る。


「…チコ様みたいな人が…()()です。」

「…。」


「強い人…。自分より。」

「…ああ、そういうことね。」

チコはホッとするが、マイラより強い女はそうそういない。



「あなた方、何をしているんですか?」

「?!」


そこに、缶ビールを飲みながら入って来たカウス。いつも以上に寒い目で上司を見る。

マイラは座ったままガクッとして下を見ていた。


「カウス?非番だろ?」

「私に非番もくそもありません。今、交代しました。しかも、非番ならこんなパーティー誘ってくれないのおかしいじゃないですか。私を無視ですか?」

「酒飲んで交代か?」

「ノンアルです。」

「そんなもの飲んで何の意味があるんだ?」

「気分を盛り上げたいんです。」


はー、と、ため息をついてマイラは立ち上がる。

「とにかくチコ様。言ったのでこれ以上干渉しないでください。」

「…。」

なんだか混乱して、チコはなにも言えなくなった。


「後、カーフの好みも自分より強い人です。私の知る限り。あいつにも関わらないであげてください。」

少し怒っている。


去って行くマイラを見届ける二人。

「……」


そしてチコは、首を傾ける。

「…私、もしかして地雷踏んだ?」

「…踏みましたねえ…。」

カウスがぼやく。


「…」

チコもバカではないので少し考える。


これってもしかして…。



「サイコス含めれば、ガジェの方が強いんじゃないか?」

「チコ様、バカですね。」

答えを出したくなくてごまかしているのか。

「…」

「私としては、今のはアウトですよ。」

チコの出張の延長に、先に帰らなくてよかったとカウスは思うのであった。




***




「響せんせ~!!」


タラゼドの末の妹ルオイは、小七曜(こひちよう)の商店街で久々の響に抱きつく。

「響先生!好き!!」

「ルオイ!ちょっと!」

「せんせ~!!会いたかった~!!どうでした?」

少し身を離して響に尋ねる。


「どうにかクリアしそう。」

響は一般よりかなり習得の速い頭脳や能力の持ち主プレイシアで、別途お金はかかるが、他とは少し違う個人課程が組んでもらえる。経歴を提出して、その許可が通ったのだ。


「まあ、医者って半分経験だからね。受かってからがまた長いし…。今年度には合格しないと。」

「うう。後でお(ねえ)たちがおいしい物持ってくるから、お祝いしましょう!お酒だけ買ってこ!一旦先生持ちで。」

「一旦?」

「後でお(にい)に請求してください!」

「…。」


そんな事を言いながら、ルオイにがっつり腕を組まれて商店街を歩く。こういうベタベタした接触は苦手だったけれど、なんだか落ちつくようになった。





そうして数人がマンションに集まると、シャンパンでお祝いが始まった。


「カンパーイ!お疲れ様~!」


「…なんかこんなこと恥ずかしい…。しかももう4月なのに…。」

「だって医学科編入祝いもその時にできなかったじゃないですか~!」

何でもお祝いしたがるルオイにローアたち。


でも、響は思う。

医者になりたかったわけじゃない。卒業にはもう少し掛かるが、この後自分は何をすればいいのだろう。また講師をするなら医師免許は箔はつくだろうが…。


ラザニアを頬張りながらルオイが嬉しそうに響に向いた。

「先生。今度大房でお祭りがあるんですけど来ませんか?」

「お祭り?」

「春にいろんなダンススクールの子供たちが披露をするんです。まあ、勧誘なんだけど、イベントになってて。ダンスっていってもいろいろあるから見て決めてね、みたいな。それで、うちの親戚の子たちも出るから!」

「少し遊ぼうよ!響さん!」

ローアも響と出掛けたい。

「いつ?」

「来週末!」

「…。今なら空けられるかな…。今月は大学優先だし…。」


今週は1年の準備も含め、授業の方を多く入れてあるので空きはある。




***




大房のミュージアムには、以前ウヌクがキッズセンターで操作した音響ボードと似た物があった。


こちらの方が本格的で、誰も操作しない時は自動で様々な曲と映像が流れる。


アーティストが制作したものもあれば、AIが流すものもある。好みがあれば、以前のように雰囲気だけ指定すれば勝手に作ってくれる機能もある。


一定時間外出を許されているシェダルは、そのミュージアムの床で映像を見ながらボーと座っていた。


今、現れては変化するホログラムは、よく分からない世界を投影している。

少々おどろおどろしい、一見規則性のない様々な色や模様が次々に姿を変えていく。自分の見ていた心理層の動きにも似ている。



なのになぜ、響の世界はあんなにも安定しているのだろう。


迷いのない。一直線のきれいな世界。


ずっと浸っていたい、水平線から広がるマーブル。



音楽を聴いて映像を見ていると安心する。

あの時、SR社に来るまでは全く知らない世界だった。


クラブやライブハウスなどは同伴者なしで入ることは許されなかったので、よくここに来ていた。

クラブなどはファクトを通してウヌクに誘われていたが、それが何なのかネットでしか知らなかったし、人も人混みも嫌いなのでこっちの方がよかった。



麒麟は今も反応しない。


でも、自分は麒麟を探せる。



会いたい。



シェダルは響に会いたかった。




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