27 久々に女子3人が揃う
3人がチコのマンションで出会った時、響を見て2人はあんぐりしてしまった。
「……響?!」
「え?どうして?!!」
チコとムギが、ロングヘアをバッサリ切ってしまった響に声が震える。
「え?髪切っただけっだけど?チコだって切ったでしょ?……取り敢えず中に入っていい?」
「そうですよ。チコ様、こんな玄関で申し訳ないです。」
パイラルが響をリビングに案内する。
「響………なんで……」
「髪はまた伸ばせばいいだけだけど……ムギ!」
「はい?」
「すごい痩せてるって、サンスウスの教育実習の後に、ソラが泣いてたんだよ?子供が何をしているの!?」
「…。ごめんなさい………。今は大丈夫だよ…。」
「もう………。食欲はある?」
「うん。すごくあるから、まだまだ成長期だよ!」
響は優しくムギを抱きめ、そして顔を上げ、ムギの目やその周り肌など確認している。
「……回復はしてるみたいだけど、このまま食事はしっかり食べなさい。……無理は絶対ダメだからね!まだ成長期なんだからっ。」
「……うん。」
ムギの言う成長期は背が伸びるかどうかだけで、響の言う成長期とは範囲が違う。
それから響は優しく顔をあげた。
「チコもムギも…パイラルさんも…。お帰りなさい…。」
「…うぅ。」
涙ぐむパイラルと、今度は自分が響を抱きしめるムギ。
チコは優しく、でも2人を見守るように強く落ち着いた表情でニコッと笑った。そしてリビングに行く。
が、そこで呆れる。
「……やはり台所仕事はチコ様には任せられませんね…。」
パイラルが軽く掃除をしている間に、チコとムギに夕食の準備を頼んだら、センターテーブルがひどいことになっている。
一応デリバリーをお皿に移したのだが、シーザーサラダとマリネを一緒にするし、皿からはみ出ている。
「チコ様、ここのお店はパッケージのままでいいんですよ。」
パイラルが仕方なく説明する。
「みんながいるからシェアしようと………」
「最初からシェア用に盛り付けられています。食べる時に小皿に移せばいいだけです。それから、ムギもそのソースは、こっちのポテトに掛けるものです!」
「えーーーっ!!!」
「…まあ、食べれなくはないのでいいですが。」
チーズソースをポテトでなくラザニアに掛けている。落ち込む2人。
「やっぱ、パイラルみたいなお嫁さんがほしい……。」
「冗談言わないで下さい。婿修行した男性しか受け入れられません…。家庭内での苦労が目に見えます。」
毅然と断るパイラルだが、チコはあの約束を思い出す。
「あ、そうだ。パイラル。お見合いはしてもらうぞ。約束だからな。」
「………。」
出張に付いて行くなら、帰ってからお見合いをするようにと約束していた。
「誰にしよっかな~。」
楽しそうなチコから目を反らすパイラルである。
「ねえ、なんで響はそんな髪型なの?雰囲気も変わってない?また何かあったの?事件?誰かに切られたの?」
なにせ眉毛がダサい。ムギでも違和感を感じる数世代前メイクである。
「髪は自分で切ったの!それに、もう何があったか忘れちゃったからいいの………。」
「きれいな髪だったのに…。パイラル、せめて揃えてやれ。」
「いい。ほっといて!」
「響さん、ダメです。清潔と信頼のいる職業なんですから、きれいにしておかないと。」
「いいんです!これが気に入ってるの!何も言われてないし!」
「ダメだ。せめて揃えろ。でないとお兄様にその写真送信するぞ。」
「…!絶対ダメ!!」
自分の惨敗具合なんて、啖呵を切ってみせた兄だけには知られたくない。
しょうがなく廊下でパイラルにきれいに切りそろえてもらい、リビングに戻ってくる。
「うん、かわいい。」
満足気にチコは響をの髪を撫でた。
「ねえ、食べようよ!」
そう言って、久々に揃った3人と護衛のパイラルは神に帰郷の感謝を祈り、そして乾杯をした。
「響、結局タラゼドが好きなのか?」
「ブっ!」
いきなり核心に迫るチコ。
「……タラゼドさんは来るもの拒まず、去る者追わずで冷めているので私には無理です…。」
答えになっていないと思うが、ムギは黙って料理をがっつく。
「なんだ?情熱的に愛してほしいのか?抱きついたらしいな。響が。」
ポカ~ンとそれを聞くムギ。響が抱き着いた?誰に?
「~っ!!違います!!情熱はほどほどでいいけど、私をすっっごく気にしてくれる人じゃないと………夫も家庭も顧みず働いてしまっていつか愛想をつかされそう………。私が…。」
研究室に籠って夫を忘れそうだ。そういう感じでお見合いも連敗したのだ。
「何でもいいけど、カーティスさんじゃなくて何かあったら私に相談しろよ!私に!!」
「…へ?うん。」
「くそ!タラゼドの奴。いつまでもはっきりさせずに何なんだ?あいつ!」
「……チコ。タラゼドさんの話はしないで…。」
響がアクションを起こさねば何も起こらなかったのである。タラゼドのせいではない。
「……響は、ヒモみたいな男はダメだよ…。ちゃんと働く人じゃないと。」
「ヒモってそんな言葉どこで覚えたんだ…。ムギ。」
「ファイがよく言ってるもん。あいつはヒモになりそうだからダメだとか、あの男はヒモ要素があるとか。」
「あの大房野郎ども…。」
ファイも含む大房男子に毎度イラつくが、婚活おじさんに負けるよりは大房を選びたい気分になってきた。今一番チコの癇に障るのは婚活おじさんである。
「響は過剰な使命感を持って夫を支えそうだから、響より良く動く人がいいよ。」
「それは言えてる。」
「2人ともひどい!そこまで向こう見ずじゃないのに!!」
「で、タラゼド呼んで来い!話を詰めるぞ。蛍惑が重すぎるだろ?」
「その話はやめてってば!チコこそユラスに帰ってないんでしょ?」
「…………。」
都合の悪いことは目をそらして答えない。
「すごい、一国のユラス大陸の議長夫人とは思えない………。私たちとご飯なんか食べてないで、早く報告と挨拶に行って!!」
「…他のメンバーが行ったから…。」
「議長への挨拶はチコがすべきでしょ??奥様なんだから!!」
今、一番余裕のムギが発言しておく。
「ファイもチコを探してたよ。なんか怒ってた…。あ、このお魚おいしいね。」
「……。」
「ファイと何を約束したの…?」
怪訝な顔で響はチコに聞くが、目を逸らす。
「……やっぱり無理かも。」
項垂れるチコ。
「何が?食べながら話そうよ。このお魚食べてってば。」
「……会ってしまえばそれまでだけど、少し離れていると自分から会う気にはなれない……。」
「完全に心の問題だね。でも、分かる。その気持ち。会ってしまえば何でもないんだけど、会うまでがイヤなんだよね…。行くまでが嫌というか………」
響とムギはチコの結婚当時、サダルがチコに触れて吐いてしまったことを人伝いで知っている。
初夜前に、そのまま離婚になりそうなほどサダルが拒絶反応を示していたのだ。チコにもそれをフォローできる受け答え方や感情は育っていなかった。何かを断る方法も知らない。
あの頃のユラスは、夫婦関係がないとすぐに次席が現れて破綻させられそうだったので、必ずその道は行かなければならなかった。ユラス人は霊性が高いので、夫婦関係のあるなしは直ぐに分かる。サダル自身に身体的問題もない。相当嫌われていたのだ。生理的に。
どうにかアジアでその峠を越えて、その後ユラスに戻ってもずっと戦場の上官と部下の関係で、政略的結婚と割り切っていてもユラスにもあれだけ別れろと言われ続け、もう、チコの中で避けたいと思っていた期間が長すぎた。
やっと一歩近づいても物理的距離があるし、その度にリセットになる。
「………。チコは……結婚関係を続けるならユラスに戻った方がいいんじゃないかな……。今なら支えてくれる女性たちも中央にいるし。今度セイガハイウェイが通ったら距離も近くなるからここにもすぐに来れるし…。」
響の言葉が胸に染みる。
「………」
セーガハイウェイはアジアからユラスを通過し、ヴェネレまで一般自動車で時速300キロ以上を出せる道路だ。今のところ中間にギュグニーが立ち塞がるので、その土地は迂回する低速道と入国管理になる。
直線を一気に走りたいため、自動車ファンがそれ故だけに早くギュグニーを自由化してくれとうるさい。
現在の高速の横に造っていて、一般高速道と乗り降りできるようになる予定だ。現高速は特殊車両以外、時速170キロの速度制限がある。カウスはここぞという特権を利用して400キロなど出しているが、真似してはいけない。下手したら頭ごと吹っ飛ぶ。
ベガス総長にエリスが立ち、鼓がVEGAベガス事務局長、ゼオナスがアーツの総事務局長に立った。
ベガス駐屯も、アセンブルスたちがいればどうにかなる。チコが他の地域に行くにしても、別にベガスからでなくともよい。
チコはため息をついて膝を寄せる。
ナオス直系男子である大叔父一家がユラスに戻ってきたが、サダルの功績が大きすぎるため一代だけでもサダルに族長を務めてほしいと言う声は大きい。大叔父その家族も過剰な権威欲のある人間ではなく、サダルを認めていたためまだ前面には出ていない。ユラスにいた頃も優秀な兄に議長、族長仕事を任せ、自分は会社経営をしていたというのもある。経済の方が強いのだ。
やはりユラスに戻ることになるのだろうか。大叔父一家が立たなければサダルが一旦は継続してナオス族長であり、全議長になる。
「………。」
チコは思う。
カフラーに聞きたい。
カフラーなら、なんというだろうか。どうしてこんなに霊性が発達した時代に、まだカフラーの姿も見えず、声も聴こえないのだろうか。
向こうの世界で死んだ奥さんに出会えているのだろうか。チコとの結婚が決まれば、亡くなった奥さんの役所のシュルタン籍を外す予定だった。サダルが突如浮上したため、それは予定のまま終わったが。
こんなにカフラーが恋しいのは距離があるからか。自分がまだ心身ともに幼く、誰かに頼り易かった頃の記憶だからか。
何に関しても明確な決断をして、明確に指揮をし、世界に攻められてもカストルと自分たちを守り抜いたあの人。
カフラー、それにマイラやカーフの父や兄たち。なぜ彼らは自分を置いて行ってしまったのか。チコの中の世界が未だ晴れないのは、誰かがどこかを彷徨っているからか。
本当は霊の方が物質より距離はないはずなのだけど、まだ何かが立ち塞がっている。
たとえチコ夫婦にとって結婚さえ仕事であっても、子供のことを、夫婦間ことを考える資格が自分にはあるのか。
自分に付いて来た者たちや、カウス弟のタビトを誰かの夫にも父親にもしてあげられなかった。タビトの婚約者だった女性はまだ婚約関係を解消しないでいる。
バグスたちに孫を抱かせてあげることもできなかった。そんな仲間が何十人もいる。死んだ者たちだけでない。今は昔より障害者は減ったが、それでも戦闘で子を持てなくなった者、体の自由を失った者も少なからずいる。顔も把握していないそんな死傷兵やその家族たちも各地にいた。
………敵陣のことは…もう考えない。そう、今は。
……親を奪われてしまった子供たちもたくさんいる。そういう子たちを洗脳して軍人や義勇軍にして、アジアや各地に分散させ国力を弱めたとも言われた。そうでないと言いたかったが、また彼らがカフラーたちの様な道を進んだらどうすればいいのか。
もう誰も死んでほしくないし、傷付いてほしくもないのに。
実際彼らの中には、チコの世代でまだ目的を果たしていない、銃声の響く地の仕事を担おうとしている者が無数にいる。
「行かないで」というのに、みんな自分の手からこぼれていく。
自分のことなど何も考えたくないのに。なのに、狭い選択も迫られる。
前線には立てない。でも指揮は取らなければいけない。
平和な時代になっても………
中途半端な平和な時代だからこそ、戦争の中で生きてきた自分は、これからどう生きていきべきなのか、あらゆる葛藤が消えない。
ポラリスから貰った、オパールのネックレスをそっと握る。
「ムギが一番悪い…。」
全く言う事を聞かない筆頭だ。
「え?何?急に?」
「ムギが一番親不孝者だ!!」
「え?先にサーモン食べ過ぎた?ごめん。サーモン貴重なのに。」
「………いくらでも食べろ!」
「そんなの私がもっと買ってきてあげるから!」
「響、ムギをもっと太らせろっ。」
「チコも食べてよ。せっかくパイラルが奮発したのに!」
「…ああ。」
「経費はチコ様持ちですよ。遠慮なく買いました!」
パイラルが近くで見守る中で、3人は暫く近況を共有し合った。




