26 『五多紀』『小七曜』『八望房』
アーツとVEGAのスタッフは、新しくできた事務局の間の大ミーティングルームで、世界地図のホログラムを広げる。
現在VEGAが関わっている地域、チコたちの派遣前と変わった情勢の確認。
メンカルの動向。メンカルから来た人員は視察と研修だ。数日後に第2弾も来る。
モデルを展開している地域も映像が拡大され、VEGA総長の鼓が説明していく。それからベガスでの進んでいる計画に、不足しているもの。
行政の介入と多数組織の共同計画。
「『五多紀』のコンセプトはフォーチュンファイブからの案を採用して行きます。」
サルガスが最初に話すと、ロディア父の部下たちの一人が立ち上がり礼をする。
「どうも。フォーチュンファイブ専務のファイドル・ラーキと申します。
五多紀はもともと寺社が多い地域ですが、同時に金融会社など入っていた場所です。管理してきた建物はリノベーションで使えるので、その特性を利用して最終的に銀行や証券会社など入ってくる予定です。
もちろんヴェネレからもですが、ユラスで1社。西アジアより2社。東アジアから4社話が進行中です。」
『フォーチュンファイブ』はロディア父がベガスで展開しているスーパーやコンビニの会社だ。
現在カフェも展開している。名前は10のテンが良いとジェイが言ったのに、響きがいいとおじさんがファイブにしてしまった。意味はない。
ジェイが怒ってしまったので、仕方なく高級志向型のカフェを『フォーチュンテン』にする予定である。
鼓が行政から貰った内容を解説していく。
「五多紀に区役所、警察、消防、保健センター、学校など準備が整っていますが、この人口規模だと職業紹介や税務署などは『小七曜』『八望房』と同じ管轄です。環境施設、し尿処理施設などはこの区と同地域扱いになります。
ベガス、河漢から公務員になる割合はこちら…。河漢からは精査した者以外は入れません。」
公務員はアンタレスの経験者も多く入って来るが、うまく外部指導を入れないといがみ合いが始まることが多く、コンサル関係と一緒にVEGAも仲介に入る。
「五多紀には河漢からは北の住民が多く入ります。生活教育は成人と中高生以上にはほぼ履修済みです。提携している病院や銀行は他の地区と同じです。」
その後いくらか付け足して、説明が終わる。
「人材の足りない機関は?」
みんな方々に話している。
「…北…。」
「この地区は河漢で緑化運動とかしてたところですよね?」
「スラムで一番大きい旧教の教会があった所です。」
「教会の移設先は…。北河漢正道教の隣りじゃないですか…。大丈夫ですか?」
「え?新教も向かいに?ユラス教会も?」
「次世代は仲良くやっていけるよ。あそこは神父夫妻がおもしろいから。」
この時代、どの宗教も結婚はする。性を断つのは出家修行時と結婚前だけだ。その分、家庭や夫婦教育を重要視している。チコの意思は決まっている。次世代には宗教対立もさせない。
皆それぞれ資料を見たり、目の前ホログラムを展開させて分からないことを確認していく。
チコやカウスたち、出張していたメンバーもいた。
「今年、藤湾大の入学人数が凄いな…。」
現在、他の地区にも校舎を広げている。今年の入学生の半分がベガス移民ではなかったのだ。アンタレス市民が入って来ている。
「去年まで嫌われていたとは思えませんね。アンタレス中に…。」
「典型的な大学に飽き飽きしていた面々が結構来ているみたいです。」
そこに藤湾大生が最新情報を言ってしまう。
「東アジア大、3年の首席が編入してきて大騒ぎになっています。あと、倉鍵医大5年生で大学病院院長の甥が1人来たいと。他にも倉鍵医大からアーツに来たいというメンバーも……」
「………。」
「はあ?!」
さすがにこれにはみんな驚く。元の学校にいた方がいいだろ。来んな!せめて卒業してから来い!特にアーツ希望医大生!
藤湾にはユラスのプレイシアや秀才がたくさんいるが、まだ大学を作っている状態。半開拓、試行錯誤しながら学び舎を作っている。
ただ、藤湾は自分たちの国で勉強できないような子が多く集まっていたので、どんな環境でも不服はなかった。先生がいる、教室がある、教科書が自由に選べ手に取れると言う事だけでも感謝であった。ベースが違うのだ。
トップのトップで、整備され全てが整えられた世界の人間が来る場所ではない。
「人生の80%を棒に振りに来たんですかね…。」
「何科からですか?」
「工学科です。」
「へっ?工学科?!!」
「そいつに卒業してから来いと言って下さい!!!!」
勿体なすぎる。
「時間を無駄にしたくないと…。」
「…若いって大胆ですね…。こっちに来た方が時間の無駄かと…。」
「…東アジア大も藤湾大も説得して、東アジア大の卒業資格も取ると決めてきたそうです…。」
みんな、ホッとした顔をする。
「で、もう卒業して来ました。」
「………。」
仕事が速いのである。
東アジア大はミザルも暫くいたトップ大学で、工学科なら宇宙船や宇宙コロニーなど開発するレベルだ。
「医大生のアーツに来たい方は………ベガスの講師に尊敬する方がいるそうです。」
「ほ~。誰だ?」
そんな頭のいい奴がベガスに?と、みんな疑問に思う。
「ミツファ先生です。」
「ぬお!!?」
「っ?!」
吹き出し驚く、響を知る面々。参加していたイオニアも思わず顔を上げる。
「今、響は教師職はしていないだろ…。」
それに響は、知識と経験はあれど、身分的に学問として専門性や立場を確立しているわけではない。その途上だ。
「倉鍵で仕事をしていた時に、薬科で講和をしたらしくすごくおもしろかったそうで、助手などしたいそうです。」
「細菌学とかでニューロスの方にも関わる研究をしているって書いてありますよ。」
「男だろ?!ダメに決まっている!!せめて今の大学のその細菌学何とかの博士号でも取ってから来い!!!」
つまり院を卒業はして来いと言う事だ。だが、チコに決定権は何もない。ないが言いたいことは言う。
「却下!しかも、なんで倉鍵はインターンに講師させるんだ!!そもそも藤湾に編入など親族が許さんだろ??」
全然関係ない事で怒っている。漢方科と違って、薬局は雰囲気がよかったので実地豊富な響に薬局がお願いしたのだ。そしてなぜか他の科の先生たちもゾロゾロ見学に来たと言う…。
そこで、機敏な反応をするのはこの人。
「倉鍵医大……?それは早々響さんを結婚させておかねば……。取られたくないな。」
端っこで参加していた婚活おじさんが素早い反応をするので、さらにチコは頭にくる。
「…その医大生の方にも、ステキなヴェネレ人女性を紹介しておこうかな……。」
おじさんは響をキープするついでに、医者の方も唾を付けておくこの欲張りっぷり。
「カーティンおじ様。今はそういうお話は控えてくださいますか?響の責任は私が持ちますので。」
「え、響さんはロディアの友人だから娘と一緒!響さん不器用そうだしよく面倒見てあげないと。」
「勝手に娘にしないでください。」
「響さんが『お父様』って言うんだよ?困るよね?ロディアが嫉妬したらどうしよう…。」
「ロディア氏の父親ってことでしょ?友達の父を敬って言っただけです。」
ちょっと………かなり怒っているチコ。
「んー?でも前に誕生日も祝ってもらっちゃったんだよ?もう響さんの『ベガスの父』でしょ?」
「……。」
「その時のプレゼントのウイスキーやワイン、昨日も飲んだし!すっごく香りと舌触りがいいの!そんな高い物、申し訳なさ過ぎ。お礼に男性を紹介しないと…。」
「…大企業の元会長に変な物持って行けないからです!」
うるさいのでサルガスが怒っている。
「カーティンさん、私語は慎んでください。」
「ひどい!サルガス君、他人みたいな振りして!」
「………。」
部下含む周囲が呆れてみていた。
婚活おじさんが暴言を止めないので、収拾するのが大変である。




