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ZEROミッシングリンクⅤ【5】ZERO MISSING LINK 5  作者: タイニ
第三十五章 アンドロイドは嫉妬する
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21 ムギの帰国



あの襲撃のあった当日、ミザルはファクトだけでなくポラリスともケンカをした。



もうファクトは成人だ。


自分で人生を選ぶ権利があるし、大学も奨学金を貰い不足分はバイトで貯めたお金を使っている。


完全な自立ではないが、生活費もベガスで暮らしていればほとんどいらない。他人の生活分も助けなければならないが、その代わりベガスでは自分の生活も経費の内で賄ってもらえる。例えば、ファクトの場合は技術習得ついでに、補助であるが電気工事士などの資格も取り、イベント照明や公共施設の電気の関連など手伝っている。リゲルは下水道関係。ラムダは移民の人にコンピューターやまちのシステムの使い方など指導している。それでお金も少し貰えるのだ。


既に先生としての実践もしているし、このまま藤湾大を卒業すれば確実に公務員にはなれるであろう。

ベガスは今、大量の公務員を集めている。




しかしミザルは、シリウスと距離も近過ぎると完全に立腹していた。


ファクトも、このままいけば地方公務員になれるのに、これ以上何が不満なんだと母を詰める。

ニューロス開発に行くわけでも、国家研究所に行くわけでもない。そんな脳もないが、ベガスの一般公務員になると言っているだけだ。しかも公安関係でも軍でも消防でもなく、このままいけば小中学校の一般教師だ。


シリウスには何も傾向していないと言っても、過剰な心配をする。

「時間と距離が関係を縮めてしまうし、そういう場にいることでサイコスがさらに啓発されることもあるから!」

「大丈夫だよ!」

「大丈夫じゃないでしょ?実際なんでシリウスとそんなに一緒に居るの?そしてテロ犯と戦闘?初めは避けていたのに!!」

「…まあ、友達くらいには…。」

「それが、既に傾向していると言うの!分からないの?」

関わって目立てば、今度はファクト自身がギュグニーなどの標的になる可能性もある。確かに、ミザルの意見にファクトは言い訳しかできない部分もあった。


サイコスに関しては、実際現場で『ライデーン』まで編み出したのでそれは言えてるな……、とは思う。目立てば確かに危うい。心星一家の一員だし。しかも、最初にリゲル、サルガスやヴァーゴとベガス南海に来てから、最も襲撃現場に出会っているのは自分だし、と思うが無用なことは言わない。


「誰でもそのくらいのことはある。母さんは心配過剰だ!」

と言うと、そんな事あるわけがない!と正論を言われ、またケンカ別れをしてしまった。


仕方なくこの頃は大人しく学校に通っている。




***




遂に現る。


アンタレスの国際空港に降り立ったのは茶髪のセミロングを2つに縛り、中折れ帽を深く被って似合わないサングラスを掛けた少女。


「ふふ。お土産もいっぱい買ったし。と言うか貰ったし。」

行きは着替えしかなかったのに、ずるずると大きなカートに大量の荷物を載せ歩いて行く。半分は国際便で郵送されるほどある。なにせ、南メンカルやガーナイトから輸入か!というほどの関税ギリギリ大量の土産を貰ってしまった。郵送代やその他の経費も相手持ちである。


「ムギーーー!!」

「ソラーー!!!ニッカーーー!!!」

抱き合う3人。ソラはファクトの同級生で、タウの妹。ムギとずっと社会科の授業が一緒だった。ムギに遅れてニッカの兄アリオトと、男女十数名がアジアに入国していた。アジアライン共同体のメンバーで、東アジアと話をするためだ。その他7、8人の大き目の子供たちもいる。

「兄さん!!」

「ニッカ!」

兄弟2人も抱き合った。この前の教育実習、サンスウス以来だ。


「ようこそ。アンタレスに!」

ニッカは優しく微笑む。

「ご紹介します。妹のニッカです。こちらが南メンカルとガーナイトからで、アジアラインの責任者チェジーご夫妻と、スタッフ。南メンカル王立大のニモティー教授とその学生たちです。」

ガーナイトは北メンカル国境沿いで、今は東アジア、ユラスと協定を結んでいる。ただ、まだ北メンカルから一般人が国境越えをすることは難しいので、ガーナイトは唯一通行できる場所がある南メンカル経由で出国している。



お互い挨拶をし合う。学生たちは小学生高学年に見える子もいれば、大人に見える子もいた。少し小さい子は緊張しているのか顔がこわばっている。

「皆さん共通語は?」

「大人は全員大丈夫。歳の低い子は実践は初めての子もいるかな?その子たちはみんなプレイシアだよ。もう大学生だ。」

「よろしくね。」

ソラが笑うと照れていたり、礼だけして顔を背けたりする。南メンカルは熱帯と言うこともあって、軽く気軽な感じだと聞いていたが、ウブな子も多いらしい。


「それにしてもムギ……体重……戻って……よかった~!」

「ソラ?ちょ!そこ触らないで!」

腰の肉や胸横をむにゅっと掴まれる。頬もムニムニされた。

「腕やあばらはまだ細いかな…。でも、でもよかった………」

ムギにむぎゅむぎゅ抱きつくが、今はお客様が優先だ。また後でね、と離そうとするとソラが泣いているのに気が付いた。

「うう、本当に良かった………。あのままやせ細って、もう戻ってこないんじゃないかって……。う…ぅ…」

自分より背が高いのに、大人っぽいのに、子供みたいに泣くソラに驚き、そして、ギュッと抱きしめる。


「ごめんね。ソラ。帰って来たよ。ただいま………」

「ばか…。お帰り………」


ムギが非常に痩せていたことを知っていたメンカル側のメンバーは、じっとそれを見ていることしかできなかった。




***




「ようこそこんちは~。」


南海の競技場連施設には、大き目の会議室と体育館にたくさんの子供や親が集まっていた。


メンカルからの顧客たちは、昼過ぎは荷物だけ預けて会議に参加し、夕方はチェジー夫妻とその秘書以外は南海を訪問。初めは藤湾大のメンバーが受け入れ大学案内をして夕食を食べ、夜からは大騒ぎの南海日曜学校の野外キャンプに来ていた。


「…にぎやかですねえ………」

「学校や教育関係でなく、正道教の日曜学校ですよね?」

「まあ。でも実質この近隣地域の子供たち誰でも……って感じでしょうか。」



結局、あれからウヌクのキャンプの提案は、すぐに受理。


正規の教会学校の先生たちもずっとお泊り会をしたかったらしく、これだけスタッフが確保できるならとトントン拍子で話は進む。普通数か月前に企画するものだが、試しに第1弾をしてみようと言うことになったのだ。


もちろんウヌクは「キャンプする」という一番大きい提案だけ出して、企画書を描いたのはリゲルとラムダ。レクリエーションを担当したのは南海の教育部と、ベガスで共同授業をしているアンタレスの女子高女子大の保育部。


今回は小学校中学年まで。子供76人と親30人、先生32人とお手伝い多数の超大所帯になってしまった。これでも希望者の半分で、問題がなければ第2陣がある。ベガス、子供が多すぎる。

幼稚園児が、お兄ちゃんが行くならぼくも!私も!と大騒ぎし、5歳から参加を許可。親同伴なら小学校以下でも参加できることになる。授乳室もあるが、母親に乳児などいて外に出られない場合は女性の先生が子供に着いてくれる。




本当は外にテントを張りたかったが、騒動があった後であるし、人数が多すぎてチェックが行き届かないと言う事で室内になった。


昼間はミニ運動会。その後はアイスクリームを好きにトッピングする料理教室。VEGAやアーツの事務局にも配っていた。


ユラスの親たちから、ポテトやチキンナゲットなど間食の差し入れも届く。


夕食はお弁当を注文。少し癪だが花札じじい1の店で注文。しかし、「幼児とか子供サイズとか儲けが減るからやめてくれ」と言われ、ここで注文したことをやはり後悔する。

別に、ベガスの食堂で食べれば無料なので食堂に心付け程度払えばいいのだが、人数が多すぎて迷惑かもしれないと別途注文にしたのだ。けれど、ベガスなら子供たちの入場を歓迎してくれたかもしれない。



夜はアーツ第2弾の女子リーダー、ミューティアがミッションスクール昴星(むらぼし)女子の学生たちを呼んで聖典物語の劇を公演。いつの間にかファクトとティガが特別出演し、セリフのカンペを思いっきり出しているのにアドリブしかしないので舞台で叱られていた。ラムダやジリたちは、男子憧れの昴星女子が目の前にいること自体に感動していた。

そして、賞品付きのクイズなど。


最後にサンスウスで星座を見たように、星空の下のグラウンドで特殊な星座の絵を照らすライトを灯す。


それから少し遊びをし、牧師の先生が夜の礼拝をして終わることになった。



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