19 ウヌクの提案
今日は予定では朝昼夜と更新します!
なろうさんは一話ずつしか予約できないんですね…(/_;)
「そんでなんでタラゼドを拘束しないんだ??現行犯だろ?」
チコはタラゼドと響が抱き合っていた現場にいたとうアセンブルスを問い詰める。
「怒らないでください。罪に当たらないので仕方ありません。」
「セクハラだろ??」
「チコ様の権力の不正行使ではありませんか?」
「私に話を振るな!タラゼドが抱き返したならセクハラだろ!!」
「先に抱いた方がセクハラじゃないんですか?」
先に抱き着いたのは響の方だ。チコとアセンブルスは今日も不毛なやり取りをしていた。
「あの2人は付き合ってんのか?」
そこでフェクダが話に入る。
「知りません。本人に聞いてください。…見た感じ…そんな風ではなかったですが。拉致されたんですよ。全部が終わって知り合いの顔を見たら気も緩むものです。」
しかもただの拉致ではない。閉鎖政権国家への拉致だ。下手をしたら強制施設、拷問、即殺害もありうるる。議長夫人の知り合いなら、人質になる可能性もあるが、生命以外の安全保証はされないであろう。
「………何が知り合いだ!お前らなんでそういうことをすぐに報告しないんだ!!」
「報告事項ではありません。」
「チコ様、ローもケガをしてたし、それどころじゃなかったでしょ。」
イオニアもいくつか痣があり、銃がかすった腕からはアーマーをしていても血がにじんでいた。ローも気が付けば結構な血が出てしばらく休んでいた。
チコは報告を聞いて真っ青になっていたし、ヒムとシドーの前では顔に出さなかったが、人質誘拐の件もけっこうショックを受けていた。
その後、全体にもう一度注意喚起をしたり、会議を詰めたり東アジアに報告したり、ユラスとも話をし大変だったのだ。
「あー!奴はなんで大房民なんだ?!軍人みたいで見た目お前らと変わらんだろ!どうにかしろ!!」
「無理言わないでください。それに響さんが一方的に頼っている感じでしたが?」
「あー!大房民はダメだけど、放っておくとあのヴェネレの親父に仲人役を持って行かれそうだっ…。しかもなんであの二人は煮え切らないんだ?!あ?タラゼドは響のどこが不満なんだ!!」
机に伏して悩んでいる。離れてほしいのかくっつけたいのかよく分からない。
「チコ様、他人はどうでもいいので、自分の夫婦関係を早く煮詰めてください。」
「は?しつこいな!!ちゃんと主婦やってるだろ!!!」
本気で怒ってくるが、いつ主婦だったのか、誰もフォローできない。
「何言ってるんですか。遂に影武者しかいない説が河漢に流れていますよ。」
「はあ?!」
河漢では影と入れ替わっている説が出ているが、ユラス軍もアーツもVEGAも影だったらもっとうまく夫婦をやっているだろうと思ってしまう。議長は影と結婚した方が甘い結婚生活を送れるであろう。
「本人が豪傑で乗りかかられたら議長の身が危ないので、影武者が全て代行していると。」
「…めちゃくちゃだな。それ、自分要らないだろ。」
実際は国境や主要施設はVIPも毎回生体検査があるのでごまかしはできないが。
「……要りませんね。名前だけ存在していれば十分です。」
しかし、じっと考える、
「………つうかそれ良くないか?ミニアスは私よりかなり美人だろ?
それで私は自由だし。何ならまた遠征に行って来るぞ!」
背乗りどころか自分で刷り変わるのか。
「何をおっしゃっているんですか?そういうのはだいたい本人は隠れて過ごしているか、亡き者にされています。自由などありませんよ。」
「…それは独裁国家のすることだろ……。」
歴史の中では影武者不要になると処分されることも多い。悪どい政権だと不要になった王族皇族政治家当人も亡き者にされる。
「チコ様…議長ご本人がいないからと、あまりテキトウなことを言うと、後で後悔します。」
「なんで?」
「今、本国側の人間が来ています。」
「は?!もっと早く言え!!」
注視していなかったが、既に数人ユラス管轄の人間たちが出入りしている。チコがシーと人差し指を立てておくと周りにいた兵に微笑まれるが、どこまで黙ってくれているかは分からないのであった。
***
その週、響は安全が確認できるまでユラス軍に滞在することを余儀なくされたので、仕方なく指定された施設でできるレポートを仕上げていた。
そして、インターンもベガスの病院に移るよう指示を受ける。
せっかく今の病院は、事情を考慮しながら先生も看護師さんもみんなよくしてくれたのに……と申し訳なく思うが、これは保安上の命令であり異議はできないと言われた。しばらくは指定の場所以外は1人で動くことを禁じられ、病院に挨拶にも行けずクレス牧師が代理で直接説明に行ってくれるらしかった。挨拶は完全な安全が保証されてから、報告の上で行ってもよいと言われた。
「……。」
ネットで講義を受け、一息ついたところでベッドに転がった。
数日前のことを思い出す。
抱き着いてしまった………。
私、抱き着いてしまった!!!!
どうしよう、なんか自然にそうしてしまったけれど、考えたら自分はタラゼドの彼女でも何でもない。告白して忘れられただけの人である。
「はあ~!どうしよう!!」
本当にどうしようかと、自分にツッコみたい。これではジェイやファイがよく言っている痴女ではないか。セクハラではないか?!
でも、自分は妹ルオイくらいの存在ではあるだろう、と考え直す。妹を慰めた程度にして許してもらえないだろうか…。と思うが、長女ローアはそんなことしないし、性格が母と兄似の次女リオラも兄に抱き着いたりしないらしい。ルオイだけだ。ルオイはファイの歳下で1つ違い。
一方、響はローアより年上。タラゼドの年下。
あー!こんなの全然妹なんかじゃない!やっぱり痴女だ!!
そういえば、イオニアにも抱きつかれたけれど、あの時はあまりに驚いて固まってしまった。まだイオニアの人となりを知っていたし、あんな風に動揺していたので一瞬受け入れてしまったような気がするが、普段だったら即アウトである。
同じことをしてしまった。
タラゼドに抱き着いてから、今になってもまだ毎日30回ぐらい同じことを一人で悶々と繰り返している。
タラゼドからは翌日「無理しないでね」とメールがあっただけで、その他連絡はない。その代わりファクトからは、励ましなどいろいろ届いている。
ノートで顔を隠して一人で赤くなる。
その上、響は小っ恥ずかしくてほとんど部屋に閉じこもっていた。なにせ、この駐屯でみんな見ていたのだ。今思えば気が動転していたとはいえ、恥ずかしい以外の何物でもない。犯罪すれすれ。いや、相手が犯罪と思えば犯罪。タラゼドはそんな風には思わなそうだが、それでもかなりイタい。
そして一人なので、集中力が切れるとあれもこれも思い出す。
「ひぃ~。どうしよう!もう外を歩けない!!」
上がったり下がったり忙しい響であった。
***
襲撃の調査がほぼ終わり、一旦、安全宣言がなされた頃であった。
南海の休憩スペースで奴がいきなりとんでもないことを言い出す。
「よし!俺らもキャンプをしよう!」
チャラいくせに最もアウトドアなど関心なさそうな人物。自分からバーベキューもしなさそうなあの男。ただ友達がしていれば、端の方で食うだけ食って金だけ出して帰る、かったるそうに仕事をし、かったるそうに礼拝で寝て、かったるそうに子供の世話をしている、今やチビッ子隊長。
ウヌクである。
「え?キャンプ?誰と?」
ウヌクのそんな言葉に???しかないのはラムダである。
「俺らは子供学校の先生だから、日曜学校に決まってんだろ?アホか?」
「え?アーツでなくて?」
素直に疑問を呈するラムダ。ラムダも時々日曜学校を手伝っている。子守や片付けなどだが。
「なんであんな男臭い連中と男で集まって男臭くキャンプなどするんだ。何の意味がある。」
「酒飲んでうまいもの食うとか?」
近くにいたリゲルが若者の欲望を素直に言う。
「あ?あのメンバーで?そんなまずい酒はいらん。そもそも飲まんだろ。アーツメンバーでは。」
「響さん飲みますよ。」
「響さんが来るならBBQでも何でもするがさすがに来ないだろ。慰労関係だぞ、忙しいのに!黙れラムダ!話を逸らすな!!」
そしてウヌクは語りだす。
「この前大房に行ったら、教会も寺もうちのテコンドー教室もキャンプをしてやがる。旧教の聖堂の前で観光バスが2台も出ていた。俺らもするだろ?みんなで人類愛!隣人愛!」
「…………。」
なぜ不真面目な冠婚葬祭…どころか馬券を買う時のみの神頼みの人なのに、今だけ信仰的なのだ。
「何だその目は?するんだよ!」
「どこで?山?河?高原?」
「お前らどこまでバカなんだ?そんな危なっかしい所に、あの子供たちを連れて行くか?誰が全員面倒を見るんだ?」
目を離すと逃げていく子、とにかく上に上る子も多い。
「じゃあどこ?」
「ここに決まっている!全員2年生以下だから、この辺りにテントを張って、もう食いもんはデリバリーでいいだろ?みんなで楽しく遊ぶんだよ。」
「……。それ普通のお泊り会だよ。」
「黙れと言っているだろ。企画はお前やれ。ラムダ。」
無茶ぶりというか、これだけ大きな提案をして他人任せ感が凄い。
「えー?!僕、先生役も補佐でしかないのに。ただの子守要員だよ?助っ人!」
「先輩の言うことが聞けないのか?」
「アーツでは僕が先ぱ…うぐ…やめて。」
腕で締め技をかけられているので、冷静なリゲルが助け舟を出した。
「まず、日曜学校の先生たちに相談して、藤湾の教育科に相談すれば?子供が喜ぶ企画とか。」
ファクトのいる科だ。