1 公務です
この小説は『ZEROミッシングリンクⅤ』の続きになります。
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はじめましての方も、いつも見に来てくださる方もありがとうございます!
Ⅴがスタートします。いつもの如く、文章の不足や誤字脱字は大きな心でよろしくお願いいたします(´;ω;`)
南メンカルに似た熱帯寄りの小さな都市は非常ににぎわっていた。
サウスリューシア大陸の一角、アルスバル区はある国の首都の端の、閑散ともゴミゴミともした地域。
その少し大きめの住宅に、ユラス人たちが集まっていた。
「あ、チコ様…。練乳入れちゃいましたけど、甘いの大丈夫でしたっけ?」
「何でもいいよ。」
「おばあちゃん。私が持ってく!」
以前、ベガスに来ていたシロイの妻、リズアルは孫にお盆を渡した。おばあちゃんと言っても、まだ50代になったばかりで若くきれいだ。
「チコ様…。コーヒーです。」
「ありがとう、キリ。」
慎重に持って来たコーヒーを受け取りお盆を机において、5歳のかわいいキリを抱き上げる。
「チコ様!」
キリもチコを抱きしめた。かわいすぎる。
「…マイラ。お前も早くかわいい子を抱きたくないか?」
横のソファーで話していたマイラに見せつけても、チコを冷めた目で見て無言のマイラ。
キリを降ろしてあげると、キリは祖父シロイの横に座った。
「チコ様…、あまりマイラを煽らない方がいい。」
マイラの気持ちを知っているシロイ。この人に言われたくないだろう。
「煽る?すぐ30になるだろ?さっさと身を固めろ。」
「まだ27だし、ほっといてください。もう少ししたら自分でどうにかします。」
「…。お前といい、カーフといい…というかお前らまとめて、ホント全然かわいくないな!!小さい頃は素直だったのに…。結婚なんてしようと思ってできるものじゃないぞ。」
「チコ様、よしてあげてください。いろんな変化にオリガンでもみんなびっくりしてましたよ。」
リズアルが自分もドリンクを持って来て、後ろの椅子に座った。
「…何が?」
オリガンや他大陸を回っている間は、チコ的には非常に厳粛にしていたつもりである。下町ズにオバさんオバサンと言われてきたので、一応無駄な会話も控えてきた。
一旦この大陸の仕事も終え、ここに来てやっと気が抜けたのである。
「結婚生活を継続なさる事。」
「ブっ」
と、コーヒーを吹いてしまいそうなチコ。
「なんで?!」
世間には夫婦仲はずっと良好を演出してきたが、仲間内や身内ではあの2人は時間の問題というのが定番。国内事情で大変だったオリガンは新しい情報が行っていなかったのだ。
「離婚したらオリガンに来てくれるんじゃないかって、みんな期待してたそうです。」
「…。離婚したのにユラスの組織に行くわけないだろ…。」
「え?ユラスを離れる気だったんですか?」
「オリガンじゃなくて、連合国からゴンジュラスに行こうかと思ってたんだけど。」
「…する気は本当だったんですね…。」
リズアルは呆れ、少し小声で話す。
「離婚したらどこに行ってもチコ様は取り合いになりますよ!」
「え?なんで?私ってやっぱモテる?それともバベッジの箔が付いたから付加価値上がった?」
楽しそうにケタケタ笑うが、笑えない人もいる。というか、子供たちしか笑っていない。
「…。」
それぞれ思うことがあり、いろいろ言いたいが黙ってしまう一同。後ろに立つパイラルもジトッとチコを眺める。
「Sクラスニューロスで、トップ軍人で、なんだかんだ言っても議長夫人経験者で指導者経験もあれば、みんなほしいですよ。私もチコ様ほしいです。」
「え?!リズアルも!」
「ええ。うちの地域で活躍してほしいです。ねえ、マイラ。」
「…………」
マイラの代わりにキリが答える。
「私も!」
「キリ!かわいい!ベガスに来るか?連れて帰りたい!」
「ここでかわいがってください!」
高い位置で抱きしめると、チコの柔らかい髪の毛に顔をうずめる。そのままテラスに出て、庭を眺めるので女性陣が付いて行った。
「あ、あと今週は公務するから。何でも予定入れておいて。」
「…まあ、珍しいですね!旧教の司教様がお会いしたがっていたので、水曜の集会に行って下さるとうれしいです。そこも行くと、新教の方も回ってほしいし…。あと、地元の婦人会と小学校にも…」
「OK、OK。どうせなら行けるとこは全部回ろう。
今回はオリガンでもお互い死者もいなかったし…少し安心した…。平和なことがしたい。」
「………」
最後だけ静かに言うチコを静かに眺めるリズアル。
10年前、部下であった自分を生かしてくれた元上司たちを、自分の指揮の下で死なせてしまったチコ。
戦場で反撃という形ではあるが、人もたくさん殺した。
今回チコは、オリガンに付いて行きたいと言うカーフを絶対に許さなかった。
あの世代、とくにカーフやムギには絶対に人を殺してほしくはなかった。
まだこの世界に軍人は必要だが、彼らはそれ以外の能力で人を牽引できる。あの2人は無鉄砲なので目を離すとそういう世界に飛び込んで行ってしまう。
そしてファクトも…
これまで…危険な組織のどこにも所属させないようにさせてきたのだから。
「チコ様、今日は夕飯もこちらでお召し上がり下さい。」
「いいのか?私もならパイラルの分もお願いしたいのだが。」
「いいです。私は仕事ですので…。」
「いいわ。パイラルも食べていきなさい。もう、チコ様にはここの家族になってほしいぐらいだから!」
結局マイラや一部メンバーも、護衛を兼ねてそのまま残り、なんだかんだ人が集まり30人以上いる。
庭で厚いロースやリブ、サーロインが焼かれ、タレも塩もたくさん用意した。子供たちもたくさん来ている。
「羊肉を食べてたくなったりしない?こっちにもあるの?」
ユラスは羊肉の消費が多い。
「ユラスほどは食べませんね。…こっちは牛が多いかな。チコ様、ヒレは一部シチューにしたんです。焼いたのはチコ様が召し上がって下さい!」
肉を焼くシロイの家族たちの横で、座っているだけのチコ。チコはこういう時の手伝い方が分からないのだ。
「いいよ。みんなで食べて。」
「ダメです!あーん。」
リズアルに、塩と胡椒だけで口の中に入れられそうになる。
「うわ!待て!」
落ちないようにリズアルに顔を向けて思わず食べる。
カシャ!
そこをシロイの娘に撮られる。
「ママ~!!ナイスショット!!」
バングルのデバイスを付けた娘や姪たちが大はしゃぎだ。
数人のメンバーとさらに写真を写される。
「わ~!やっぱいいな!どの角度で、どのショットでもキレイ!」
「ホントだ!」
チコのことを言っているが、本人は分かっていない。
「チコ様、この写真一旦パパの方に移して送りますね!」
「あなたたち、それ誰にでも送っちゃだめよ。パパに確認しなさい。」
「は~い!分かってま~す!」
チコは自分の写真が好きではないが、シロイ経由で貰った写真を見て1人でニッコリ笑った。
光も角度も手伝ってあまりハッキリ写っていないし、これならいいかなと送られた横顔の写真を眺めて、ファクトに送信した。「肉。ヒレ、リブ」だけ送信。きっとファクトなら「ずるい!」と言って混ざりたがるだろう。少しニカニカしてしまう。返信来るかな?
「チコ様、誰にですか?」
女の子たちが集まってくる。
「え…」
「議長ですか?!」
「え…。…弟…。」
「えー!!チコ様、弟がいらしたんですか?!それともお弟子さん?」
「……。」
サダルという発想の全くなかったチコは、顔を上げて目を泳がせると、そこにはやはり事情を知る白い目のメンバーたちがいた。
「………。」
「…だから何だ?!お前ら!!」
「…いえ、何でもありません。」
***
その頃、同時間帯。こっちは朝である。
バランスよく食べなさいと言われるので、今日は食堂のカウンターで納豆定職を食べていたファクト。もちろん作らせたのだ。元三代目店長シャウラに。
「………。納豆に…、油揚げの赤味噌汁に…、もやしのナムルに、なめらか冷ややっこに醤油に…豆乳プリンに…大豆ばっかじゃん!!イソフラボン取り過ぎだろ!!!」
「お前…、朝から作ってやってんのに…。」
「冷ややっこと納豆とプリンとナムルは冷蔵庫から出しただけだし。」
「ねぎ切っただろ!だったら自分でやれ!!」
肉ばっか食うなとみんなに言われるので、肉は一日一食にすることにしたのだ。時々守らないが。
「ん?なんだ?」
そこにメールが入る。
「ん?これは!!」
「………。」
カウンターからシャウラが覗くが見えない。
「チコっ?!!」
と、ファクトが言うので、ガバっと乗り出して見ようとすると、ファイがシャウラより早く反応する。
「チコさんっっっ?!!!」
今日はタラゼドがいたので、女子寮から降りてきたのだ。
ファイは少し離れた席から駆けて来て、デバイスを奪う。
「…?!」
メールを見て驚愕のファイ。
「いいなー。チコ。めっちゃ肉々した肉食ってるよ。しかもこれ何?パーティー?いつチコが陽キャの仲間入りしたの?根は陰キャなのに。」
「ちょとファクト!これ、私に送りなさい!!!」
「ロック掛かってるからできない。…チコから写真が来るの初めてかも…。」
「ひどい!公務が終わったらこっち来るんじゃないの???これはアウトでしょ!!」
「…そんな。数か月いたんだぞ。サウスリューシアは都市の方だし、間に息抜きくらいするだろ。」
やっと休みをもらったシャウラがファイをウザがる。
「…違う!!絶対にチコさんは、解放され過ぎて帰って来たくないんだよ!!」
「………」
「絶対に敢えて訪問、観覧とかいう名の公務を入れてる!!」
「……オリガンで頑張ってた人にそれはないだろ?サウスリューシアも結構きついぞ。」
一応タラゼドもチコを庇う。
「違う!絶対遊んでる!絶対進んで観光してる!!!これもキスのカウントに入れる!!」
ファクトは
『俺も肉くれー(´Д`)』
と、返信しておく。
ファイの意見は半分合っているのだが、いずれにせよ公務は公務である。