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ZEROミッシングリンクⅤ【5】ZERO MISSING LINK 5  作者: タイニ
第三十五章 アンドロイドは嫉妬する
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18 分かって乗ずる



響は迎えに来たユラス軍とベガスに戻ることになった。マンションに帰れず、ユラス軍の指示する場所に行くことになる。



「響さん…。」


驚いたことに、駐屯所ではタラゼドが待っていた。


なにせファクトの奴は、あれから全く連絡を入れず。ユラス陣地でどうにか報告を聞いて、響もファクトも大丈夫だと知り安心したところだった。

ただタラゼドは思う。あれはどう考えても拉致だった。相手がギュグニーや北メンカルなら国際問題である。


下手したら……いや、救出が成功しなかったらギュグニーに入ってしまっていたかもしれない。正直笑い話ではない。ギュグニーに入ったらもう人生の半分、いや全部を失ってしまうかもしれなかった。

助かってよかったで済む話ではないのだ。



「……タラゼドさん…。」

アセンブルスに室内に呼ばれた響は、待っていた意外な人物に驚いてしまう。


「…響さん。…大丈夫だった?」

「………はい。」

「よかった。ファクトは?」

「…ミザル博士に止められて、今日はSR社に泊る感じでした。」

ギョッとする周りにいたユラス陣。怖すぎる。アセンブルスでさえビビっている。

「そっか。今回怪我人や死者も出てるから……。ベガスにも批判が出そうだな……。」

「そうなんですか?!みんな大丈夫?!」

「響さん、落ち着いて。」

「でもっ……」

タラゼドは少し響に状況を説明する。響の知っている人に重傷者はいないが、それでも民間人の死者にショックを受けていた。



先、SR社でファクトとも距離を置けと言われたのを思い出した。


ファクトとラムダ、時々ファイやリーブラ、ジェイやクルバトたちも加わる集まり。自分にこんなことがあって、これからどう関わって行けばいいのか。


そして先の件。今になって震えが来る。

ギュグニーに入ったら終わりだった。そうすればチコも、世間からさらに大きなお咎めを受けるであろう。



「…………。」

よかったと思う。これ以上チコの負担を考えたくなかった。


「……響さん?」

「…ぅ…う…」

「響さん?もう休んだら?頬もまだ少し黄色いね…。」

ガバっ!

「……いっ…」

少し響をのぞき込んだタラセドに、響は思わず抱きついてしまう。


「う、…うう…」

落ち着くその大きな懐で…涙が止まらなくなる。

「………響さん?」

「うう……。」

ムギもいない。ただでさえ今度はアンタレスなどの市民から、目立ってきたベガスやチコへの批判が始まっている。自分が生きて帰れてよかった。本当に。これで死んだり拉致されていたらもっとひどいことになっていただろう。

「ちょっとこれは……」

「ううぅ…。ムギ…。ムギ…。早く……」

「………」

タラゼドは戸惑うが仕方なさそうな顔をして、泣き出した響の背を子供でも宥めるように撫でた。

「…………。」


周囲のユラス軍人たちは、ほっとしたような、ちょっと恥ずかしそうな顔をしている。

「………。」

しかし、アセンブルスだけはヤバいものでも見たように珍しく戸惑っていた。チコが見たらどう思うのか。

しかも気が付く。被害者の様子見の後、報告に来ていたイオニアやローたちがそれを見ていた。イオニアは遠いものでも見るように、でもくっきりとした現実の世界を見る。


「………。」

はあ…、心でため息なアセンブルスであった。



「ううぅう……」

「…。」

タラゼドはルオイにするように背中を叩いてあげる。母が忙しくて家におらず、ローアとルオイがケンカをして小さなルオイが泣いていた時、いつもそうしてあげていたから。



しばらく、二人はそうしていた。





***




その翌朝、大々的に報道されたのは河漢の襲撃だけであった。


河漢の件は隠すことなく、ギュグニー寄りの兵力であることが出た。

相手は東アジアとユラスの不和、ベガス構築の破綻を狙っていたのだろうが、一旦ギュグニー主導であることを強調し標的にすべき相手をぼかさない。


そしてスラムとベガスから重軽症者何名、死者何名と出る。戦争というわけにはいかないのでテロ扱いだ。テロ側の死者は3名だった。

けれど、高速の方はテロの一派とは出たが、ニューロスの戦闘や拉致があったことは伏せられ、相手の密輸入出が失敗、その他関連事故が起こったとなっていた。


シェダルへの襲撃は完全に伏せられている。



エリスは説明責任で、ベガス構築の中でのテロが起こり、死傷が出たことなどに付いて記者会見の場に出ていた。


ここぞともっと批判されるかと思ったが、意外にもマスコミは好意的。ベガス側は安全への対策を講じていたが、自由行動を取った者たちの被害と言うこともしっかりと報道した。

それさえ、記事の書き方ひとつで印象が変わるものだが、今回はベカス構築そのものに責任を負わせるような書き方を大手マスコミはしなかった。


これでいろいろ好きに報道されたり、都心で起こった何かを隠している、河漢の被害者総数を隠蔽しているなど書こうものなら、お前らだって今まで好き勝手掻い摘んで報道していただろ?前時代のネット時代初期中期ですら、うまく国民を口で回してきたのに。と、言ってやるつもりだった。国民はマスコミにも懐疑的だったが、それでもベガス構築に関しては良くマスコミの話しを聞いて信じていたのだ。


ベガスに移民の無秩序集団を作っている、怪しい教育を施していると好き勝手報道していた。


まさか、数年後にそこにアジア屈指の大学ができるとも思わずに。



ニュースや報道番組でドラマチックに、ミステリアスに仕上げればだいたいみんな信じる。今までもそうして潰されそうになってきた。

「だったらお前らがインフラ工事してアンタレスを立て直せ。」

「自分で小麦粉育てろ。」

「自転車でも回して自家発電してろ。」

「徴兵をして自分たちで国を守れ。」

と、全部言いたかった。何が人を犠牲にしない平和だ。


今の世界にそんな物は無いのに、ベガスを進めなければ、アンタレスは貧困と裕福層や人種、年齢など全てのパワーバランスが持たなくなっているのに。

恐ろしい一神教のユラス、戦争のユラスというイメージがあったが、それでも何年も頭を下げて歯向かわず黙々と仕事をしてきた。



誰かが管理しなければ、ベガスはもう一つの超巨大スラム、もしくは廃墟になっていたのに。


河漢よりも巨大な。




全部言いたかったが、


もう運勢はベガスに動き出していたのだ。



呆気に取られてしまう。今までベガスに何かあれば、

何もなくてもキチガイと言われてきたのに。




西アジアの富豪たちという赤龍と混じった青龍は、既に運勢の濁流に乗って覇権を取りつつあった。その濁流の中でも将来性のあるものの選別を行いながら。


大枠をユラス人が仕切っているという不満はあるが、ユラスは連合国を、民主主義を裏切ることはない。移民も教育がされている。


そこは保守も改革派も信頼して叩いているのだ。




そしてベガス経済が大きく動き出していた。


行政が拡大し、税収も増えつつある。人口をなくしつつあった東アジアの経済都市にはやはり『人』が必要であった。


その点は中立や保守派以外も批判しても仕方ないと、気が付き始めている。もう、元々のアンタレス住民では都市を維持できないし、だからと言って移民が入って来ても、自分たちでベガスのようにコントロールも統治もできない。


移民や亡命者に選別なく高度教育を施したベガス。まだ裕福ではなかったが、未来を見据えた時、どこよりも将来性があるように見えた。



そして、東アジアから、先進地域から失われていた『気概』。

これをユラスは持って来たのだ。



これまで反対していた大手マスコミも、認めざる負えない。

部分や表面を批判しても、大衆を煽る批判のカードは持ちながらも、自分たちについてくるのは刹那に身を寄せる者、破滅思考の者、ただの批判思考者たち。その他はいくつかのメディアを見てついてくる者で、同士ではない。


百年先を見た時、精神性を重んじるユラスの方が明らかに未来があった。



保守にしろ改革派にしろ、自分の手足で土を踏まなかった者、マスコミやネットで世界を見ている人間はコントロールしやすいが、いつしか彼らは世界を懐疑的に見て批判そのものになる。言葉だけの世界は架空であり、実質的(ちから)がないからだ。敵に対しては都合がいいが、彼らは自分たちにも矛を向けることもあるだろう。


しかも彼らは全体に心を配っているようで、自己しか向いていない。つまり最終的に改革派にも意思が向いていない。それは改革派が分かっていた結果ではあったが、いざそうされると何も発展しない。つまり保守をやり込め自分たちが表に立った時、彼らの理想する社会作りにも限界があることを、これまでの歴史で学んでいる。



けれどベガスには未来が見える。

彼らが『永遠の生命』『絶対性の愛』『相互理解』を基盤にしているからだ。



この本質は、最初の堕落の意味と肉を越えた時点で、懐疑的力を上回る。


これは啓示である。



この意味を悟るものは、幸いである。

先に時代を超えるであろう。





今回の件で、ベガスはアンタレス民を危険に晒したとネットで言われるが、ベガスがあろうがなかろうが、遅かれ早かれこんなことが起きると世の中をよく知る人々は知っていた。


むしろ、ベガスがなかったらそのまま移民やテロに河漢を占領されていたかもしれない。もしくは河漢を越えて一般市内にテロ勢力が入っていたかもしれない。それは決して口には出さず、ベガス構築ゆえに狙われたと表向きには言われているのだが。

どこもいつか限界がるくと言うことは、社会を見据える人は皆知っていた。



チコをむやみに持ち上げることはしなかったが、今回は前よりは評価がよかった。ここで崩れてもらっては困るからだ。


程よく治安を収めてくれ役にも立ってくれ、それでも批判の対象にできるユラス人は都合がよいのだから。チコやサダルたちが、アジアやマスコミ、改革系を叩くことはないと彼らは知っていた。


チコたちもそれを分かって、今はマスコミにも乗じることにした。




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