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ZEROミッシングリンクⅤ【5】ZERO MISSING LINK 5  作者: タイニ
第三十五章 アンドロイドは嫉妬する
18/110

17 約束して



ベージンはいつから用意していたのか。


車はもちろんのこと、アンドロイドやニューロスたちもベージン社製ではなく、他社製品を乗っ取っていた。


アンドロイドの無許可改造はハードもソフトも国際的にも違法であるが、物理的改造を加えていないので一見目に見える証拠はない。ほとんど焼き切れたり初期化され残されたデータの残骸、ネットワークからから探っていくしかなかった。ただ、シリウスは遠隔処理でその時のデータを抜き取っていた。


響とファクトの処理は管轄が広がり過ぎると困るし、シリウスも関わっているという事でユラス軍と共に簡単な聴取を受け、後は東アジア軍アンタレス内で処理することとなった。そのため、その日の内にアンタレスに戻り東アジア軍に向かう。




なのになぜか、ユラス軍がいる内にシリウスを届け調書も取りたいと言う事で、半分の人員はSR社に寄ってしまう。


シリウスの機動は了承の内だったが、シリウスが被害を受けて帰ってくるとは思わず、SR社内は深夜にも関わらずまた湧いていた。


チコの襲撃。

シェダルのSR社への乗り込み。

そして…シリウスの打撃。

ここ最近で、込み入ったことが多い。



響が別の車に乗ってしまったことで、心臓が止まりそうなほど責任を感じていたSR社の警備や送迎人たちは、現場が戦闘状態と知って無事帰って来れるよう祈りながら気が気でなかったのだ。


SR社としても響が無事戻って来たことに心からに安堵し、よく見かける同乗者は泣いていた。しかし、その近くで軍用車から降りず、居心地悪そうな顔をしているファクトに一抹の不安を感じるSR社員。


ファクトも響と一緒だったのだろうか。



「ファクト!血まみれじゃない!手当しましょ?!」

ポラリスの助手リートが顔を隠すファクトを社内に連れて行こうとするが、応急処置をしてもらっているからいいと断る。

「せめて服を…。」

現場で新しい服を貰ったがズボンはそのままであった。それなりの血が出ていたのでシーツも敷いてシートに血が付かないようにし、帰って来た時の車内では横にさせられていた。今は元気である。


「いいです。帰ります……。ごめんなさい、反省しています……。皆さんに後で謝ります…。」

「何がすみませんなの?」

リートは知らないみたいだが、上層部は既に知っているだろう。シリウスが大丈夫なのかは知りたい。シリウスの値段、空母くらいするって聞いてた……。非常事態とはいえ、前と違って積極的過ぎ防衛である。正当防衛の範囲に入るのだろうか。

それに、怒った母ミザルの顔は怖い…。早くここを去るのみ………。早く東アジア駐屯でもどこでも連れて行ってくれ。ここ以外のどこかに。


「ファクト、それにこちらでも会社として聞きたいことが……」

という途中で、もっと奥に座り込み逃げを決めた時だった。



「ファクト………。いるのなら出て来なさい。」

「…っ。………。」


ミザルに捕まったのであった。




***




「チコ様!こちらです。」

ベガスの総合病院には河漢でけがをした数人が集められていた。


「ヒムとシドーは?」

少し駆けながらもチコは二人の様子を見る。

二人とも疲れから睡眠状態だ。

「シドー氏の方はこれから縫合です。3本ですのでそれなりの時間はかかるかと。」


外科医が説明をする。

「この3本は鋭利なナイフで一気に切ってありますが、ヒム氏の方は根元も潰れています。この薬指は元には戻らないでしょう…。ただ、第一関節ですので自然再生ができるかもしれません。短い指になってしまうかもしれませんが…。」

指が根元からなくなっていなければ、再生できることもある。ただし、完全に元の指通りに戻ることはまれだ。

「…本人が不便でなければ、そのままでもいいでしょうし…短くなっても再生したいなら試してみるのもいいかもしれません。」

それかキレイに除去して義指を付けるかだが、自分に原因がある場合義体代や医療費は出ない。

「…はあ。」


思わずため息をつくと、ヒムが起きた。

「あ、チコさん………」

「お前らな…。…生きててよかったな………。」

指を切断された者に少しひどい言葉だが、ギュグニーは甘くない。河漢で育った彼らも、囲われた時の恐ろしさは知っているので、自分たちが幸運だったということは理解できた。

「ヒム。お前の指は戻らないかもしれない……」

「…。いえ、こちらこそすみませんでした…………」

「いい、今回は個人的にお咎めはしない。全体に忠告は出すがな。イオニアが責任を感じていたし心配していたから、会ったら挨拶しろよ…。」

「……はい。」

「後は先生といろいろ相談しろ。」

「…………はい…」


ヒムは指が揃っている方の腕で目を覆って、それから喋らなかったので、チコは静かに部屋から出た。




***




SR社はある意味今日一番の修羅場であった。


ミザルは息子に苛立ちを隠さなかった。



「……どういうこと?訓練は許した。でもなぜファクトが戦闘に参加して、しかも血を流しているの?!」

「あ、あのさ、母さん。ここではやめよ。」

「何がやめよなの?ここに関係者がたくさんいるでしょ?!ここで話さなければ逃げるでしょ!!」

「………」

シリウスや響のことで一旦護衛や説明役として来ていたカウスやユラス軍が、俺?という感じで怯える。ミザルに関わりたくない。



そこに響が間に入る。

「ミザル博士、申し訳ありません。ファクトが友人の私を心配して追いかけて来てくれて…。」

「それでシリウスと合流して?なぜシリウスと?」

ミザルはここまでファクトとシリウスの距離がここまで近付いていると思っていなかった。お互いわざわざ連絡をし合っているのか。

「………」


ポラリスは既にシリウスのメンテに入っているが、研究員のチュラはここにいる。


「みんなで私を撒いて楽しかった?人生で初、たくさん休養ができたことが、最後にこんなふうに返されるなんてね……。」

ミザルの言葉に周りにいたスタッフたちも青くなっている。


「響さん。あなたはシェダルとも個々の研究員とも距離が近いようで。

ファクトとは距離を保ってくださるとうれしいのだけど。ファクトはSR社の人間でもそれに関わる研究者でもありません。心配させてまで、軍が関わることに一般人を介入させるの?」

「……あ、はい。ごめんなさい。」

「母さん、それは自分がしたことで…。それに響さんはわざわざSR社が呼んだんだよ。どうせ。」

どうせ……その通りですと言い出せないSR社皆さん。


「ファクト。」

「っ何?」

「あなたは遊びで収められないのなら、SR社に関わるのはやめなさい。ベガスは許したけれど、命に関することは譲れないから。」

「え?遊びだよ。自由研究程度。」

「自由研究で、軍隊が動かしている戦闘用ニューロスと対峙する人間なんて、聞いたことがありません。」

「……とにかく、自分は悪かった!でも、響さんには謝って…。そんな言い方……」

「……いい。いいよファクト。今日は帰るから…。」

「じゃあ、俺も…。」

「ファクトはここに残りなさい。」

「…でも…。」




響は少し離れた所に行き、再度様々な聴取を受ける。


その第3ラボに、シェダルがふと現れた。

あれから東アジア軍の付き添いで調整に来ていたのだ。もう先の様な力は出せない。

「麒麟………」

「シェダルさん…?」

「大丈夫だったか?……ごめん。俺に絡んでいたから多分それで拉致されたって…。」

「………大丈夫。」

「……頬も………」

「これは今回のじゃないから。怪我はしてないよ。」

ふと上を見上げると、シェダルも顔や首にいくつか跡がある。



「シェダルさん…あなたも…。」


シェダルの世界を思い出す。




たったひとり、広く何もない無機質な空間で……少しの傷や痛さは放置された。



時々、


たった一つ与えられた小さなタオルや布団も時に取り上げられた。


触れるのは自分の指だけ。何もなくて自分の指を噛み、誰かの感覚を求める。



そんな指さえも、腕さえも奪われてしまったギュグニーの子。



小さな部屋だったのかもしれないけれど、小さなシェダルにはどこまでも広い、どこまでも無機質な、窓もドアも見えない空間。


『あ、ああ、あ…』と呻いていたのは、言葉を学ばせてもらえなかったのか、投薬されたのか、病気だったのか………


被験の場と歯磨きと、お漏らし、それから時々の沐浴だけが…誰か知らない女性が忙しなく触れてくれる時。顔さえ記憶にない女性………。



「麒麟…?」



絶対に泣いてはいけなかった。動揺しても行けない。響は無表情でただシェダルをみて目を逸らす。



………その傷に触れてあげたいけれど……そこには触れられない。




周りで見ているSR社関係者や東アジアの人間ですら、シェダルがこの女性に気があるのだと分かる程、真っ直ぐ響を見ていた。


「シェダルさん……誰かを傷付けた?」

「………。」

俺も死にそうだったんだけど……と言おうとして、今言うのはやめた。


「それはあなたの血じゃない。」

響は霊性で、シェダルの服に着いた血の多くが他人の物だと分かった。

「殺したの?」

「…分からない………。強くやり過ぎてたら死んでるかも。聞いてみないと。でも手は抜いた…。」

「お願い!殺さないで……。

…………もう………」


狭い所は嫌でしょ?…と言いたくなり、響はそれを止める。響だって分かってはいる。それは反撃だと。でも………でも今は受け入れられない。



人を殺せば、傷付ければ、今度こそ本当の犯罪者だ。前回は戦場の延長として、それでも犯罪歴は残るが大きな罪は免れた。


今回も正当防衛としてシェダルの反撃が許されたが、軍人でも基本殺人は許されていない。



「お願い………。シェダルさんの育ったような場所に生まれて、本当に捨て駒で…ただ塵のように扱われて死んでいった人はいっぱいいる。分かるよね?

そこを抜け出した奇跡は…ただの運や偶然で終わったらいけないから………。


生きて…、ちゃんと……」


「…………。」


「シェダルさんはシェダルさんの生きる世界を見付けるんだよ。ちゃんと幸せになって……。」

「なんで、急にそんな話………。」



「…チコの様な顔をしたあなたが…………」

響は顔を緩ませる。


「…とても大切なの。」

「………。」

「でも、チコのようにその手を取ってあげることはできない。あなたは…男性だから。だから………」


「………」



チコのような顔………それは似ているということでもあったが………、

初めて会った頃のチコとよく似た目を、表情をしているからだ。


表情がストンと落ちてしまったような…底のない目。

あの時チコのことは、抱きしめて、ずっと話し合うことも、一晩一緒に居ることもできた。

でも、彼とは同じ距離は作れない。


「…………」

「今、来た道を失わないで、ここで出会った人たちを頼って…真っ直ぐ進んで。」

「………。」


「シェダルさんっ。返事をして!」

「…響?」


「約束して!!」


チコはシェダルに自由を与えた。

人を足蹴にして、傷付けて…あのボロボロの肌のまま、牢にぶち込んでおけばよかったのに、たった一筋の………


誰かの涙と同じものを持っていたから……。



どんな強力な特殊なサイコスより、それはギフトだ。



「……分かった。分かったから…あまり叫ぶな…。落ち着け。」

響の心理層が激しく揺れているのを感じる。



響の目の前のにいる人は戸惑ってはいるが…始めて会った頃より、

………とても落ち着いていた。





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