16 シリウスへの自殺点
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時速350キロ以上から目の前1.5キロメートル近いところまで入って、一気に100キロ台にスピードを緩めたカウスは、そのまま現場上空でバイクから飛び、1機の男性型ニューロスにザンっ!!と切りかかる。
バジーン!と閃光が走り、ソードから出ていた電気で一瞬相手は弾かれるが、ニューロスもすぐに襲いかかってくる。
「人間のくせにそのスピード。
カウス・シュルタンか。」
「どうも。」
カウスは様子を見ながらも呑気に言った。
「三兄弟亡くなったらたいそう揺れるだろうな。ユラスも。」
そう言ってニューロスは誘導弾を向ける。だが、カウスもそれを弾き落とし、舌なめずりしてそのニューロスの近距離に入った。切り替えたショットガンでバズっと関節部に打撃を与える。一度ニューロスは吹っ飛ぶが、また襲いかかってくる。カウスは強化スーツとはいえ、あまりに接近戦は危険だ。
一方、車の方からはさらにもう3体半人間型ニューロスが出てきた。皮膚コーティングしていない2機といかにもロボットな1機。数を詰めたのか男性型も大柄はいない。
「え?あの狭い中にまだいたの??」
驚くファクト。
「……もしかして全機あのSUVにいたのか?ニューロスメカニックの人権、人間同権とか言ってる人たちが、なんて詰め方してんだ。人間扱いしろよ。」
カウスと同じように到着したユラス兵たちが皮肉を言うが、それにはもう1人のユラス兵が答える。
「人間の扱いもそんな感じってことでしょ。」
2人はヘッドギア内の通信で話していたが、ファクトには聞こえた。
ベージンは国境で違法ニューロスを察知されないように、予備機の電源は完全に落としてきたため起動に少し時間がかかったのだ。元々は調査用にギュグニーに密輸入するものだった。
車が炎上すればおシャカだが、ベージン社の謳う『人間と並ぶ、人と共にあるヒューマノイド』など、どうでもよいのだろう。
その3体は弱いと見たファクトや響の側に向かい襲ってくる。ユラス側に今の時点でニューロスはいない。
「ファクト!」
シリウスがモーゼスを回し蹴りにし、そう叫んでファクトたちに加勢に行こうとした。
だが、ファクトもファクトで応戦する。
まず持っている武器がショックを与えさせるショートショックしかないので、もう一度サイコスを与えようと構える。
そして、勢い付けようと一旦手を引いてサイコスを放とうとした時だった。
プラズマが弧を描く。
バジーーーーーン!!
とすごい閃光が走り、響も顔を覆い地面に伏せる。
「きゃあーー!!」
「うわ!!」
ヘッドギアを被っているユラス兵の光量は緩和されるが、二人は瞬時に伏せて目を覆った。
そしてその光の余韻が収まった時に、そこにいた一同は信じられないものを見る。
「…ファ…クト?」
「へ?シリウス?」
なんと、サイコスの直撃を受けたのはシリウスであった。
後ろに手を回した途端、なぜかシリウスの方に電気が引き寄せられたのだ。
樹に落ちた雷か。
全員、驚愕の目だ。敵兵さえも。
「…ファ……」
「………え、シリウス…?!」
足から崩れそうになるシリウスに、生き残っているニューロスが襲い掛かるが、シリウスはすぐに持ち直し、蹴り数発で沈める。でも少し動きが鈍い。
カウスたちが加勢しズドン!ズドン!と重量ランチャーを撃ち込み、ガコンッガコンッとへこんでいく。ファクトとしては人間型が凹むのはニューロスでも気持ちいいものではない。ユラス軍にカウス並みに動きのいい兵が数人いて、一気に現場は片付いていく。
モーゼスは性能が高いからか、この状況を他の機種より過敏に驚いているし、漏れた電気を浴びてモーゼスも動きが鈍っていた。高性能機種は皮膚自体もガードになっており、外からの電気などそこまで通さないと思うのだが、なぜこんなことにと思う。
ドガっ!
ここで一瞬にカウスが一撃を加え、モーゼスの義体が倒れた。
ドサ
そして、間もなく東アジア軍が入って来た。乱闘が始まってからそんなに時間は経ってないらしいが、それにしてもアンタレスから東アジアより早く来たユラス軍。いつもおかしすぎる。
シリウスはまた膝から沈み込んだ。
「…ごめん。ごめんね…。大丈夫?!」
ファクトは思わず駆け寄った。まるで、人間に対するように。
「……う…うん。大丈夫…。」
シリウスも人間のように答え、そして安心させるように笑いかけた。防火素材のはずの髪や皮膚、服が焦げている。その周辺の道路もひどい状態になっていた。服も肩の辺から危ういことになっていて、響が自分の上着を掛けた。
隙間から覗く肌が、どこまでも人間に見える。
よく見ると、高速周辺の電気系統も独立していないものはショートしていた。
「………。」
「どうしたの…。そんな顔しないで。」
「す、すみませんでした…。」
シリウスの下の地面にも通電の跡がある。
思わず周囲を見渡し、人的被害がなかったかを見渡す。人々はそれなりに動いているので大丈夫ではあろう。
東アジア軍やそのドローン、ビーが現場の写真や映像を撮っていた。
「あーあ。また何なんだこれは。ユラス軍が入るとめちゃくちゃだと聞いたがホントだな。」
東アジア軍が呆れていた。
どうやら、少し近くにはいたが、後援するか任せるか作戦を練るうちにほぼ終わってしまったので入って来たらしい。東アジアとしても高額の兵器が壊れるくらいなら、ほぼ対人で対応しているユラスに任せたいのである。東西の境では西アジア軍も待機していたらしい。
「道路、これやっぱ放電だよな。先、電気感知してたから。」
「アスファルトあっちこっち砕けているけれど、ここだけ一部地震みたいに割れてるもんな…。武器だとレーザーくらいしかこうはならんだろ。」
だが同時にびっくりもする。シリウスが入っていたことは知っていたが、シリウスが明らかに何か攻撃を受けていた。しかも少し動けなくなっている。
ユラスも許可もをらって現場映像を撮るが、ファクトが放心しているので肩を叩いた。
「ファクト、大丈夫か?」
「え、あ。ああ、大丈夫です。大丈夫ですけど…。」
相手は知らないユラス兵であったが、ファクトは名を知られているのか。
「ファクトは中途半端なことをせずに、正規の訓練を受けた方がいいかもな。」
「そうだな。下手すると味方どころか、民間人に怒涛の一撃を与えかねない…。」
兵士2人が何か話しているところに、間を置いて割り込む。
「…あの、シリウスは大丈夫なんですか?」
「さあ、俺らはそこまでは分からないけれど……」
なにせ、アンドロイドに関しては壊す専門ユラス軍である。
「人間の被害はないですよね?!今のサイコスで………」
「多分大丈夫というか…お前の方が血が出てるぞ。」
「うお!」
よく見たら、見なくてもそうなのだが自分が流血している。いきなり気分が貧血気味になってきた。
「ファクト!」
響が寄って来る。
「お嬢さんは危ないから下がっていてください。」
響は東アジア兵から言われてもファクトの元に来た。
「ファクト!!」
少し気分が悪くなってきたファクトに、さらにシリウスも駆け寄る。
「あ、大丈夫。今回は何も非がないと思ったのに、やらかしてしまって何かまた気分が悪くなってきただけ…。シリウスこそ大丈夫?」
「……そうだね…。痛覚もないし大丈夫。でも…ショックはショックかも………。」
「…そりゃあ、味方に攻撃を受けたので……。」
自分で言って、自分で何とも言えない思いになった。
前回の高速道路襲撃事件を思い出す。早くベガスに帰りたい。なぜいつも罪悪感ばかり募るのだ。
そこにカウスがやってきた。
「あのファクト。非がないわけないじゃないですか。」
「え?」
「勝手に響さんを追った時点で………」
自らの手で自らの首を切るポーズをするカウス。
「アウトです!」
「マジっすか?!!シリウス付きでも?!」
「危険行動。独房どころではありません。」
「ええ!!!」
衝撃である。
ただ単に見失ってはいけないと思っただけで、シリウスにも出会ったので一緒に乗って来たのだ。こんな最強の仲間がいてもダメなのか!そんな仲間を撃ってしまったけれど。
そんなシリウスは哀れな姿で目をぱちくりさせる。シリウスまで回路がおかしくなったのか、暴言まで言い出した。
「それに初めて傷ものになってしまいました…。責任は取っていただけるのでしょうね?」
「傷もの???」
「またデートしましょう!」
「はあ?!!」
また?またって何?という顔で、眺める周囲。
「ちょ、その前に待って…。シリウスのメンテって…。」
考えて青くなる。母も関わっていたらどうしよう…。むしろシリウスの受けた最初の打撃がモーゼスでもなく軍隊でもなく息子とは…。
何をしていたのか、なぜ戦闘現場にいたのか……あらゆる追及をされるに違いない。
「カウスさん…助けてください……。むしろずっと独房に入れてください…。」
「悪どい場合独房って、トイレも全部敷居なしでカメラ付きですよ?」
カメラは部屋にもよるが。
「っ!…それも嫌だけれど…。ああ、やってしまった!」
母ミザルから責めを食らうよりはいい気がする……とプライドもなくし、完全に落ち込むのであった。
しょうもない息子でも見るように、シリウスはファクトを眺めていた。
●前回の高速道路襲撃試験
『ZEROミッシングリンクⅢ』104 青緑の、そして鮮やかなあの紫
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