15 アンドロイドは結婚を斡旋する
「響?すぐ出よう!」
チコはアセンブルスから、タラゼドの報告を聞くとすぐに出ようとするが止められる。
「ダメです。あなたはここにいてください。今回の標的はあなたの可能性もあります。一度惨敗しているのであなたの出動は禁止されています。」
「でも、私が行けば早く終わる!」
「今42部隊もほぼ全員出ています。チコ様が動くと、私やマージルズたちも動かないといけなくなります。ダメです。」
南海は本部がある。
チコはイラ立つが仕方ない。
「カウスたちが終わったそうなので、処理班以外は行かせましょう。」
「………。」
「アセンブルス将補。ミツファ氏なのですが…、西アジアに向かっています……。」
「国境………か。」
***
響はいつもと違う方向に行く車に焦り、無言でデバイスを見ているふりをして、メールを流そうとする。
が、それを隣のガードマンに手で上から押さえられ止められ。彼は静かに首を振った。
「…なぜダメなんですか?」
一見緊急と分からないように、脳波操作で隠して発信は流しておく。ベガスに入れたということは、監視システム自体が乗っ取られた可能性もあるも、長くは持たないはずだ。
「あの、どこに行くんですか?」
特定されないためにいつも少し違う順路を行くが、それにしても方向が違う。
やられたと思う響。
「何?SR社のライバル社?私は役には立てないですよ。身内でも社員でもないし。」
「あら。もう分かったの?賢いのね。」
すると運転していた女性が、不自然なくらい首をねじって運転席から響を見る。「ひっ」と背中が一瞬凍る。
オバケ?ニューロスっ?!
「あなたシェダルのお気に入りでしょ?彼を呼んでくれるだけでもいいの。そろそろこっちの発信に気が付いているかしら。」
「……。」
「それともあなたも一緒に桃源郷に行く?」
「……。桃源郷はここに作るのでお構いなく。」
「人間同士じゃ諍いばかりで永遠に桃源郷は作れないのに?」
「ロボットだけで何を夢見るの?」
ドずッ!
一言言った響の横にいきなり手斧が飛び、後部座席に刺さった。車内脱出用の斧だ。
「っ…。」
さすがに息が止まりそうになる。
「…だから人間と作るの。ステキでしょ?」
「…。」
あなたバグ?簡易アンドロイドより頭が悪そう………と言おうとして、本当に言ったら今度こそ殺されそうだ…と息を飲んだ。
「運転手さんはシェダルがお気に入りなの?」
「そうね。その子もいいし、シリウスのお気に入りでもいいわ。」
「………。」
シリウスの?…ファクトの事?
もしかして、中枢にいる青年から墜としていく気なのか。中枢の人間は、運勢において世相の象徴になる。
「私は誰かの理想体になれるから。不満だらけですぐ離婚してしまう人間より相手を幸せにできる。」
そのニューロスは嬉しそうに言う。
「……。」
「そう思わない?」
「ははは、そうですね。人間は困ったものですね。」
隣りの男性アンドロイドにも笑いかけておく。間に敷居になるコンソールはあるが、思いっきり離れたい気分だ。
「実際、今うちはSR社より人気なの。
ユラスも堕ちればいいのに彼らは堅いのよね。宗教類も嫌い。私たちを差別するでしょ?私たちは人間の『自由』を謳っているのに……。
本望じゃないの?」
彼女はそう言って後部座席を見るが、180度くらい曲がりそうな首の動きはやめてほしい。
そう。
『自由』には2つがある。その意味を知らないと、自由は延々と安住を失う。
「せっかく数世紀、数千年かけて、賢い人間から極刑にして有志をなくさせ、物事を多角的に見えない、行間を読めないような一角的な人間に変え、すぐに怒り結果を求めさせ、家族親族も宗教も堕として不信させ合い………科学もそう………。どいつもこいつも分裂させ、宇宙まで争いに染めて、私を中心に世界が動いて行くと思ったのにイヤになる。
もっと言えば、人類ってあなた方が知っているよりずっと早く生まれているのよ。我慢もできなくて、節操なくしていろんなものと混ざり合ったから、異常も多いし不安だらけだしおかしくなってるの。かわいそうでしょ?
だから私たちが管理してあげた方がいいわ。大丈夫。アンドロイドやAIそのものが世界を支配することはないから。ただ人間と一緒に居たいの。」
「……。」
本音が出てますよ。と言いたいがまた斧が飛んできたら困る。
「私たちは結果であって、原因ではないもの。人間に従うだけ。」
「人間が愚かにも、そういう世界を望んだから今があるってことですね。メカニック以前から、現在に至る理由はあったということですね。」
「まあ!たくさん嫌味を含んでいる気がするけど、やっぱりあなた、賢いわ!」
しかも、外を見ると確実に高速に乗っている。
ああ、どうしよう。まだ西アジアにも入っていないが強行突破でも国境を越えられたら終わりだ。
「アンドロイドってよく喋るんですね。」
「……溜まっているの。うまくいかないことも多しい。性格もあるけれど。私は高性能だから、思考も思いも複雑で…。」
「………」
高性能だけれど、SR社のアンドロイドはSクラスでなくとも非常に知的で理性的だ。方や、この会社の製品はあり過ぎる回路が、情報が整理できないのだろうか。情報をまとめられず、一定の人格化ができないのか。まとめきれないゆえ、流されてしまうのか。
「あなたは?」
「私?」
「いい人はいないの?シェダルではないの?」
「違います!」
アンドロイド相手に思いっきり首を振ってしまう。
「まあ、テレてかわいい!わが社で理想の相手をあげましょうか?」
「え?」
「どんな理想の姿でも作れるし、死んだ人にそっくりな義体を作ったりもできるから需要はいくらでもあるし。SR社は死人の再現もさせてくれないでしょ?」
させてくれないも何も違法である。
「………アンドロイドは高いのでご遠慮します。維持費も掛かかるし…。」
「シェダルが惚れたような子なら、会社でモニターにしてもらえるから設備も無料よ?」
つまり自分のしていることを、アンドロイドとの生活を、動向を明け透けにこの会社に、その政府に報告されると言う事であろう。一般の人はあまり知らないが、趣味傾向も、行った場所も買った物も、性生活も、そこでした行為もリアルタイムで報告されている場合もある。
同意がいるプライバシーポリシーは、うまくいい感じに書いてあるのだ、微妙なラインで。規約もしょっちゅう変えて把握しにくい。モニターでなくても同じこと。
そんなのごめんである。
その時、窓の外に何かが見える。
ものすごい勢いで走ってくる前面ガードの大型のバイク。ヘルメットを被っているため誰か分からないが、2人乗っている。
彼らは微妙な距離を保ちながら近付いて来た。
おそらくこの車もそれに気が付いてはいるが、不審な運転をするとすぐに警察が駆けてくる。そうすると国境抜けできないのだろう。平静を装っている。
向こうは法定を守っていない、ということは追手である。
すると、横に寄せてきたバイクからなんと1人が飛んで、車上に乗った。
ドン!
と鈍い音がする。
「え?」
高速道路は時速170キロだ。普通なら飛ばされているだろう。敵?味方?
響は一瞬にして横の警備アンドロイドに捕まられそうになるが、ダン、ダン!と2回音がして天井が凹み穴が開く。そして、もう一度ドン!と音がすると、横の警備に何かが撃ち込まれ、彼が頭から凹んだ。
「ひいっ!」
運転手は振り落とそうと車を左右に振るが、屋根に乗った人物は、凹んでも響に向かおうとするアンドロイドを持ち上げる。そして車外に振り落とし、もう数発銃を撃ち込むと、空中でその体は弾けた。
既に高速の道路標示は通行止めになっており、他の車はなかった。
車は上空しようとするが、バイクに乗っている男にタイヤやジェット部分など数か所撃たれ、動きが鈍っている。
運転手アンドロイドは安全装置が車を停めようとするので、手動に切り替え無理に動かすが、強制安全装置が働きうまく切り替わらず、車は回転しながら路肩数か所にぶつかり数百メートル先で止まった。
「キャーー!」
さすがに天国かと思ったが、いつの間にかシートベルトも外され、警備ロボットを投げた人物に抱えられる。
「っ!?」
目を開けて分かる。
少し不出来な部分もある外見。その上で美しくも人間らしい黒髪の肢体。
響を追って来たのはシリウスだった。
響は腰回りをに腕を回され、横腹で抱えられている。
「シリウス?」
「響さん!!」
少し遠くから叫ぶバイクにいたもう1人はファクトだった。屋根の上にいたのはシリウス。
「ファクト!」
停車したファクトのバイクに響を乗せる。
相手は、路肩で動けなくなって、ショートしている車の第2エンジンを付けようとするがそちらも動かない。
少し歪んだ形になって、悔しそうに運転手だったニューロスが車内から出てくる。首が今度は左におかしな形で曲がっていた。
「シリウス…貴様…。」
「下品な言葉を使わないでください。」
「人間気取りか?」
「人間とは一線を引いています。私はどんなに人間に近くても、ヒューマノイドにしかなれません。」
「本心ではないくせに…。少なくとも思いは………」
「…………。
シリウスは冷たくそのアンドロイドを見下ろす。
そして、アンドロイドは自分で首をガっと戻した。でも、少し傾いたままだ。腕も曲っていたのかカズっと戻すが、やはりなんだかおかしい。
「モーゼス。あなたの残骸を残せば、このままギュグニーに向かおうとしたベージンの思惑が直ぐにバレるのに。………賢いようね。ここに本体を持ってこないとは。」
でも、シリウスは情報は収集できる。
危険ありとして、モーゼスに一気に迫って攻撃を仕掛けようとした時だった。
ぶつかって止まっていた車の後部からもう3体ニューロスが出てきたのだ。
そして車は小さく爆発する。
そのニューロスがシリウスに攻撃を仕掛ける内に、運転手は一気にファクトたちの方に向かう。
ファクトは一旦バイクから降り、響を庇うようにアンドロイドにサイコスを飛ばした。
「いけーーーーーー!!!」
バジーン!と大きな音がし、不意を突かれたのか一瞬動きが緩む。それでも這いつくばるように襲ってるので何とか銃で制する。そして、響がハーネスで動きを止めた。
「大丈夫?」
「あ、響さんナイス!」
その少し先でシリウスと、モーゼスは一気に打ち合う。モーゼスが新たな一体に義体を乗り換えたのだ。運転手は動きが鈍くなりながらも攻撃しようと動いていた。
モーゼスは人間2人にも攻撃を仕掛けようとし、シリウスはそれを防ぐ。ファクトもどうにか相打ちに持ち込もうと必死だった。しかし、さすがにきつい。
1体を防いでいる間に1体に仕掛けられ、体にレーザーがかする。
「くっ!」
と、その瞬間、援護が入る。
東アジア軍より一足先に入ったのはカウスたちだった。
高速少し上空からバイクで350キロ以上のスピードで走り、一気に進入禁止領域に入って来たのだ。