14 新生のサラマンダー
※残酷な描写、不快なセリフなどあります。
いつものカウスと違い、完全に隙を見せない姿勢で構える。
ただヘッドアーマーで顔は見せていない。
「あ?なんだ貴様っ。ニューロスか?」
強化スーツは着ているがカウスは肉身だ。
カウスは、ザッとその男にハーシェッズというナイフ2本で攻撃を加える。一本カウスの刃が男の腕のプロテクターを掠るが、奥までは入らない。
2人が対戦している間にシェダルは逃げようとするが、もう1人ドアから出てきた人間にサッと首を囚われた。
「っ?!」
「着いてこい。」
シェダルはなるようにしかならならず、引きずられそうになる。しかし、カウスが最初の男に応戦しながらも、一気にシェダルの首を捉えていた男の後ろに回り、ナイフを持っていた男の腕を掴んで後ろに捻る。
「うがああ!!」
その隙にカウスに襲い掛かろうとした先の男にも、カウスは蹴りを加えた。
が、男もひるまない。
体勢を戻しカウスに襲い掛かると、別面の窓からワイヤーでもう2人相手兵がやってきた。一度で窓が割れないので、もう一度窓を外す勢いで小型ランチャーを放つ。それでも割れないのもう一発入れると、窓枠の方が一部捻じ曲がり、ガラスにひびが入り、さらに一度蹴りを加えて砕くと一気に入ってくる。
「くっ!」
カウスは3人がかりで仰向けに押さえ込まれ、銃を突き付けられた。一発やられるか?と思った時だ。
ピュン、ピュンっと数発軽い音がして、相手兵が倒れ込んだ。
兵士一人と男性型アンドロイドマルビーが窓から、カウスに加勢したのだ。そして中に入ってくる。窓の外でも銃撃戦があるような音がしていた。
その隙にシェダルは逃げ、一気に音のしない方の窓に。ここは3階だ。いけるか。
と、思った時だった。建物通路側から首を掛けられハーネスで巻かれそうになる。咄嗟に腕を間に入れたが、腕ごと縛られてそのままドガ!と床に仰向けに引きずられた。
「グフッ」
勢いでグローブを付けた手ごと首が締まりそうだ。
そこにはまた、新たな男たちがいたのだ。
「力がなくてもさすがだな。クソガキ。普通だったら首引きずられて失神だ。」
目を開けると1人の男が脚でシェダルの頭を踏み、数人の男に押さえつけられていた。
「拘束して連れて行くぞ。」
「ここでやっちまいましょう。最初に目玉いきます?それとも他裂きます?メカニックの根元にしますか?」
「っ?!」
「お、動揺してんの?今までデカい態度とってたのにかわいいな。」
「せっかく新しいの着けたのにかわいそうだったな。腕からがいいか?足から?」
「…くっ。」
「選ばせてやるってつってんだろ?!」
ガンと蹴られる。
「目と生殖器、内臓はやるなよ。」
必死に首を守るシェダルをさらに蹴る。
「加勢が来る前にサッサと拘束しろ!」
ハーネス男が苛立つ。
その時だ。
『解除』
と、シェダルの頭にあの女の声が響く。
ダン!ダン!
いきなりシェダルは、すごい力で自分を押さえ込んでいる男たちを脚で飛ばした。
「なっ?」
と、頭を踏んでいた男が声を洩らした隙に、その男の握っていたハーネスも蹴り落され、男は体を壁にぶつけた。
「わりーな。ま、お前が一番頭がよかったな。早く拘束すべきだったのに。」
「は、な、な……」
「マジ、おせーんだよ。あいつ。」
そこでシェダルは義体の関節の一部を外し、腕ごと巻かれているワイヤーを強い拘束から外す。まだ絡まているので一旦ハーネスを自分の首元などに全部引き寄せ、一気に相手の武器を蹴落とした。相手兵は銃を落とされて予備銃やナイフに持ち替えるが、手刀でそれも弾きその銃を自分の手に握った。
「なっ!?」
「久々だな。こういうの。」
シェダルはニンマリ銃を舐め、目の前の数人に蹴りを加える。味方が目先にいて照準を戸惑っているうちに周りを一気に掌握。
そしてそのまま、襲い掛かってきた男の頭上まで跳びあがり、自分がまかれているワイヤーの伸びている部分を巻いて一気に男を切断しようとした。
「ひっ」
が、ふと心理層で出会ったシリウスを思い出す。
――そういえばあの女――――
シリウス。
あいつ嘘つきだな。
『あなたはアジアやユラスにいれば、彼らのそばにいれば、誰も殺さなくていいし、誰かにケガをさせなくてもいいの。』
って言ったくせに、超コンピューターもいい加減だな。と考え事をする。
そう、シリウスは言ったのだ。『誰も傷付けないで……そうすれば………』と。
でも…そうすれば…なんだっけ?
体を分断されると思ったショックと打撃で動けなくなっているハーネス男を、そのままハーネスで縛り、固定してから男のヘッドギアを外して一発殴っておく。両手も動かせないように布で巻いて、それから他の男たちを確認した。
「お前ら命拾いしたな。もう死んだ奴がいたら悪かったけど、幸運の女神が降りて来て、殺すなってさ。今俺は慈悲深いんだ…。とんだ甘ちゃんで感動だろ?」
座り込んで1人の頭を撫でてやると、そこに、カウスを始めとする数人のユラス兵やアンドロイドが出て来て、その様子を見ていた。
「………」
ポカンとするしかないと言うか、こいつは味方なのか?という感じで見ている。
「…なんだ?何にもしねーよ。早く…」
と言いかけたところで、1人が立ちあがろうとしたのでもう一発入れる。
「おぇっ。」
アーマーマスク装着のまま吐いているのか飲み込んだのか。かわいそうなので外してあげようとすると、また蹴りを入れてきたのでシェダルが背負い投げをし、ドンと壁にぶつかり動けなくなった。
顔の様子を見て、ギアを外してあげるとやはり吐いていた。
「これ、全顔面型だから大変なことになってる。拭いてあげて。吐いたのも詰まらせないように。……ああ、早く拘束して、って言いたかったんだけど。あとなんか工具貸して。」
シェダルは自分の首や腰にまかれたままのワイヤーを、手で外している内に絡まってしまって困っていた。少し首元など切れている。
どうやら今残っているのは、全員ユラス側らしく、みんな顔を見合わせて言葉をなくしていた。
***
一方。ベガスミラの藤湾大医学部。
授業とレポートを終えた響はそのまま、SR社に行くことになっていた。
「はい、今終わりました。」
もう夜、電話で連絡をする。
今回の警戒強化で、響は一旦SR社入りすることになった。ユラス駐屯でもよかったが、SR社は今、医学カンファレンス議題内容の準備が行われている。単位にもなるので、保護ついでにそこに参加させてもらうことになっていた。SR社内はまず安全だ。
「響さん、こちらです。」
早いな、待ってたのかな、と思いながら警戒強化が出ているので急いで後部座席に乗り込む。運転手の女性、ガードマン共に初めての送迎人たちだった。
「…………」
何か違和感を感じる響。既に車は動き出していた。
***
「ねえ、あれ響さんじゃない?」
同じ頃、響の元研究室に学生たちに呼ばれて来ていたファクトは、帰り際に響を見付けタラゼドに投げかける。
響の研究室を残しておきたかった学生たちが、室温が管理できる部屋はこれまでの素材置き場にしてほしいと大学に頼んでいたので、その整理に来ていたのだ。新しい研究室に使われるまでは自主研究の場になり、模様替えなど手伝って終わったところだった。時間が遅いし警戒強化が出ているので、今日はそのまま解散。短距離でも学生たちをタクシーで帰らせる。
そこで、遠目で医学部から出てきた響を見付けたのだ。
「あ、そうだな。」
「………あれ?でもおかしくない?」
「あ?」
「響さん車に乗せたの…2体ともアンドロイドだよ。」
ファクトは人間の霊性を見分けられるので、アンドロイドの区別がつく。
「…………」
「しかもさ、SR社のじゃないと思うんだけど………あの感じ。」
「………!」
「やばいかな?SRのアンドロイドって他と少し違うんだよね…。根は『北斗』前後が入ってるからみんな同じなんだけど。」
「………ファクト、車のナンバー見てたか?」
「さすがにここからは…。しかも咄嗟で分かんなかったけど…色替わる車じゃなかったら黒のSUVかな…。デバイスとか持ってるから大丈夫だとは思うけど…。俺追うわ。タラゼド誰かに連絡して!」
ファクトはそのまま走り出し、様々な物を飛び越えて一気にどこかに行ってしまう。
「は?待て!行くな!……バカなのか、あいつ…。」
軍が動いているような状況で単独で行ってしまった。サラサは妊娠中で心配をかけたくない。響のことはアーツでもない。東アジアや響も了承済みで、大事にしなくていい内容だったら緊急もどうなのか。響の場合は中枢しか知らないこともある。
取り敢えず迷って、ユラス軍直通に掛ける。誰が出るか分からない番号だ。