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ZEROミッシングリンクⅤ【5】ZERO MISSING LINK 5  作者: タイニ
第三十五章 アンドロイドは嫉妬する
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13 かの国の襲撃

※暴力、残酷な描写があります。苦手な方はお避け下さい。



そして、本当に斗名(とな)事務所に、有事処置命令が入る。



「ロー!事務所にいる人間を全員確認しろ!!」

「イオニア、人がいる地域はっ?」

「くそ!あいつらデバイスつけてるのか?!取り敢えず内部メンバー頼む。リューシンと行動しろ!一先ず、全員待機室に!!」

「分かった!」

リューシンは南海の移民青年である。


この辺りの移民は、不法住人の上に仮設住宅にも行かなかった人々。しかも、住民登録もせず、緊急用に渡したGPSや簡易デバイスも売ってしまった。行政が仮で作った河漢番号本人しか使えない装置で、ログインはもちろん高度な技術がないと初期化もできない物であった。緊急発信と着信、位置情報、本人確認、生体状況などしか使用、確認できないバングルである。すぐにばれるのに、売っていないと嘘もいい、全然違うプラスチックの腕輪をはめてこれだと主張するので、もう責めるのもやめたのは半年前。


つまり、所在が分からない。時々確認に行って工事などが入れば移動をお願いしていたくらいだ。


ここに来て仕事で会うようになったユラス兵たちが数人いる。

「イオニア、取り敢えず住民は後にする。家族の内一人でもバングルを持っていたら誰かには伝わるだろう。彼らはこの辺りの地下を網羅している。狙われているのはここの可能性がある。」

「は?」

「いずれにせよ、相手の特殊部隊が入った可能性がある。住民の対応は全部軍に任せろ。」

「……?……え、あ……はい!」

戦闘的有事の場合、多くの権限が特警と東アジア軍に移る。特警は東アジア政府直属の公安だ。


けれど、なぜ斗名が?工事をしていく以外特徴のない場所なので、イオニアをはじめとするスタッフが戸惑う。相手も命がけで東アジア軍の守備に入って、何の意味があるのだ。





そこにローが戻って来た。


「イオニア!2人いない!!」

アーツメンバーが2人いなかった。

「なんでだ??」

「女、漁りに行ったらしい。」

「…は?」


イオニアは声もない。そういうことがしたい奴は、アーツ河漢やベガスからは出ろと何度も話していたはずだ。強制ではない。とにかく危険だから、責任が持てないと再三言ってきた。斗名の一角は河漢でもとくに治安が悪い一角だ。


河漢はクスリが出回ることもあるし、様々な濡れ衣をかけられたり、ものすごい借金を負わされたり、朝起きたら横で昨日寝た女が死んでいたとかいうこともある。それで責任を負わされるのだ。下手をしたら自分が死んでいたりもするが。

「どこの人間だ?」

「河漢です。ヒムとシドー。」

不謹慎だが大房や他の地域でなかったことにはホッとする。河漢民なら、一番危険が分かっている人間のはずなのに、もうどうしようもない。


ただ、親に付き合わされ移住できなかったスラムの子供たちは気になる。




その時だ。


ダン!


いきなり1人のユラス軍人が壁に打ち付けられ、ズドッ、と倒れ込む。

血は出ていないのでおそらく肘打ちを食らったのか、技を入れた1人の男が現れる。

「ひっ。」


ローは味方が死んだのか?と思ったが、その男も瞬時にズダっと倒れた。

「へ?」


すると、その後ろからさらにヘッドギアを被って誰か分からない人間が現れ、後で倒れた男をすぐに拘束する。最初に倒れたユラス軍人の安否を見て、攻撃を入れた兵士がOKサインを出した。


っ!?

もう、ここまで入り込んでいるのか?!


ローの足がすくむ。


でも、手のサインで分かる。

チコの護衛の1人フェクダだ。


そして、安堵する間もなくいきなりだ。



バリーンッ!!と、ガラスを割って、4人が入って来た。


最初の1人がいきなりローにナイフを振る。それを咄嗟に感じたイオニアがローの足をスライディングした。

「うっ」

ローは地面に倒れるが、頭は打たないよう自分で受け身を取る。そして間髪なく男がローにもう一振りしようとしたところ、その男の頭横に飛び蹴りが入った。ヘッドアーマーを被ったさらに数人のユラス軍も入って来のだ。全てが把握できないほど一瞬だ。


最初に入った相手兵の1人が両手が丸腰のイオニアに銃を放つが、ユラス軍も間髪入れずに発砲し照準がずれ、イオニアの腕を掠った。

「くっ!」

相手も血が噴き出すまま、もう一度イオニアに銃を向けるも、イオニアは蹴り落とす。



そして横でものすごい発砲の音がし、相手兵2人が吹き飛ぶ。


イオニアが後ろを振り返ると、1人は既に他のユラス軍に拘束されていた。拘束された兵たちはすぐに何か機械を当てられ、口にさるぐつわをされていた。


「す、すごい…。」

ローはいろんなことが一瞬過ぎて、状況が分からないが、5人全員拘束されたのか。

「あ、イオニア、大丈夫か?!」

「大丈夫だ。」

顔は見えないが、ユラスの1人の男が何か指示を出している。




だがその時、外から銃声が聞こえた。


バーーーンと夜の工事現場に澄んだ音が響く。



ローが何かと窓を見ようとするとユラス兵に引っ張られった。

「顔を出すな!」


もう一度ゆっくりと確認すると、そこには一人の兵がいた。男の傍らには、何か転がっている。


「お前ら、このガキどもと女の首をはねられたくなかったら、ここの職員を出せ。誰でもいい。」

外には外出してしまったシドーがいて血まみれで転がされている。男にドンと足で蹴られるとわずかに動いた。

「安心しろ。全員大事な人質(カード)だから殺してはいない。」


女と言われたのは河漢の子供だった。青ざめるイオニア。男に首に銃を突きつけられて無言で泣いていた。



が、それも全ては一瞬。



後ろから突如現れた軍人に、瞬時に銃を持つ手を制され、銃は(くう)に音を立てた。

そして、人質を取っていた兵は、もう一人現れた軍人に足で顔から地面に叩きつけられる。


「グおッ!」

と沈み、立ち上がったところをもう1度蹴られる。プロテクターを被ってはいるが、ひじゃけ声がした。


また現れたのは少し小柄なユラス軍人。男をサッと拘束していく。

その後ろからもう1人、人質を取った男の後ろに控えていた仲間の兵を、ユラス軍が確保したのだろう。既に拘束済みの別の男を放り投げた。

ドスっと地面に転がる。

「お、悪い。捕虜は大事に扱わんとな。バッキングは済んでるぞ。」

聞いたことのない声だ。

そしてその兵は建物の壁を伝って、一気にフェクダたちのいる2階の事務所に上って何か説明していた。



「……とにかく顔が分かんなくて、何が何だか分からない…。誰が味方かも………。」

青い顔で座り込んでぼやくロー。みんなプロテクターを被って誰が侵入者で誰がユラス軍なのか分からない。

「習っただろ。見分け方。」

「こんな状況では全然分からん!」

実際、敵も味方も習った装備より多種多様で複雑な格好をしていた。



フェクダが最後に現れた兵士の説明を聞き終わり、ため息をついていた。

「イオニア。」

「……はい。」

「シドーが指を3本切られてる。」



「…。」

息が止まるイオニアとロー。

「あ、はい…。…あ、それって切断されたってことですか…?」

「………そうだな。」

「……」

「現場に4本落ちていたから1本は多分ヒムのだろう。」

「……ヒムは大丈夫なんですか?」

「ちょっと待って。そっちの現場は他のがいる。」

そして遠隔の誰かと話をし、少し渋い顔になった。


「もう病院に向かっている。ヘリを使うと撃ち落とされる可能性があるから車で低空で走っている。シドーもすぐに運ぶ。大丈夫だ。命に別状はない。」


よくニュースで言われる、命に別状はないとは、指が切られてもそう言うのかと、ローは寒気がした。どんな状態でも、命に別条がなければ別条がないのである。………理不尽だ。


地上で女の子を支えていたのは女性兵のグリフォだった。



「他は大丈夫ですかね……」

ため息がちにローが聞くも、少し声が震えているのが自分でも分かった。

「この周辺は見ている。……数人殺されているがな…。」

「…?…本当ですか…?」

自分の管轄で人が亡くなる。ローもイオニアもショックだった。

「移転指示に従わなかったからな…。あの子の家族だ。」

「………」

それでも、どんな理由であろうとこんなことあってはならないとイオニアは心が揺れた。

「今のところ、河漢もベガスも他地域は大丈夫だ。」


この現場はおそらく兵士も捨て駒であろう。




現在南海、ミラは主にユラス軍。その他の地域は東アジア軍、もしくは東アジア主管のユラス軍が入っている。フェクダたちはまた移動していた。



「多分アジアのど真ん中であれこれしたところで、死ぬか捕虜にされるだけだからな。そんなにたくさん人を投入しないだろう。」


ただ思う。

襲撃相手はこれだけの装備でこれだけの兵を動かせる。ユラスやSR社に対峙するなら半分打算で動いたか可能性もあるが、国内に協力者がなければこんな規模のことはできない。間に西アジアがあり、北にも国がある。アンタレスは少し内陸部だ。どうやって事を運んだのだ。

いくらかは東アジアでも把握してはいたが、スパイか裏切り者たちがいるか。


そして、軍はまだイオニアたちには言っていないが敵の本陣は河漢ではない。



アンタレス市内だ。




***




ある秘密裏に設けられた政府関係の施設。


ここがアンタレスの中心なのか、郊外なのか。それとも僻地なのか。



サラマンダーは知らない。

何せただの小さな生き物だから。




しかし、対する相手は把握していた。


「シェダル。元気そうだな。ここに逃がされて難を逃れられるとでも思ったか?今は普通の人間なんだろ?」

片手で銃を向けるガタイのいい男は、既にシェダルの部屋に侵入していた。男にはたくさんの血が付いている。


「誰だ?お前。」

「あ?5年前一緒にユラス国境を越えただろ。お前は途中で逃げやがって、ユラスの首を取ったのは俺だがな。」

「……。」

ベッドに座ったままシェダルは思い出そうとするが記憶にない。

「…ユラス?」

「あの作戦で俺は半身を失ったんだ!クソがっ!!」

「…ああ。そういえばそういうヤツいたな。後で聞いた。ムカつくこと言って殴るから俺が身を引いたんだよ。」

「…あの時は作戦を変更せざる負えなかったし、最悪だったが、まあ、どうにか帰れたしそのおかげでニューロス化できた。お前はメカニック全部外されたらしいがな。なあ、凡人さん。」

「……」

「ぶち殺してやりたいが、お前の姉貴と一緒に連れて来いと言われている。」

「…殺さないんだな。どうも。」

「…っ!」

怒っている相手兵。


そして、軽くシェダルを殴りつける。

「ぐっ!」

ベッドの下に倒れ込んだ。

「…っ。」


男はしゃがんでシェダルの前髪を掴んで持ち上げた。

「お前ら、特に姉貴は普通に連れて帰れるわけないだろ。

……つまり、半死でもいいんだよ!!」



その男が今度は拳に力を入れた時だった。


突如、ズダン!!と、男に蹴りが入る。



バッと構えて現れたのは、

カウスだった。




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