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ZEROミッシングリンクⅤ【5】ZERO MISSING LINK 5  作者: タイニ
第三十四章 触れても届かない手
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11 うちの姫、帰国

「ヤバいぜ。うちの姫が帰って来たらしい。」


「姫?」

「ああ。お前最近来たから知んないだな。」

「ウワサの?」

「すっげーのがいるって言ってたな。そういえば。一蹴りで大柄の男もぶっ殺せると言う…。」

「コロすとかいう次元じゃねーよ。胴に風穴開いた奴もいたらしい。」

「気に入らないことがあった時に目が合うと、玉潰されるから。もう4人くらいされてる。」

「慈悲で片玉らしいが二度目はないらしい。」

「ヤバいな。」

「ショック死しないか?」

微妙にリアルな人数で真実味あふれる。

「いや、それ普通に通報だろ。」

「権力で全て闇に葬るから…。」



口々にあれこれウワサをするのは、河漢事務所の大フロア。河漢にも既に既存の建物を利用した、数件の事務所があり、ここは最大規模の場所である。ベガス新地区側に位置し、主に行政からの請負業をしていた。


正直柄が悪い。なので当然仕切っている人たちも柄が悪い。クルバトがいたら、半数以上に「目で人を殺せる」マークが付くであろう人だらけの河漢の一角で、彼らがぼやいているのは最近他大陸から帰って来た、チコ・ミルクという人のことであった。


「名前はかわいいのにな。」

「お前、容姿の事絶対に言うなよ。機嫌悪くなるから。女の話もするな。女の方が好きらしい。」

「マジか。」

恐ろしい巨漢を想像する男たち。しかも他の女の話をすると嫉妬して殴られると言う。

何せ、ネットで調べてもほとんど顔を隠しているか、遠距離からの撮影のため、それは全部影武者だと言われている。そもそも、もう少しうまく演技してもいいんじゃないか?というぐらい時々いる隣の議長に愛がない。思春期に親の用事に付き合わされた男子学生のようだ。



各現場に就いているメンバーは普段は現地出勤でよいのだが、その日は朝事務所に集められていた。


「全員、起立!」

なぜかサイバー系のサイテニックな格好をした軍人張りの人が号令をし、バッと、一斉に立ち上がる。

「礼!」

全員立礼をし、何か激を飛ばされてから着席。


「今日はウチの一組織のアーツ元総事務局長が、出張から帰って来てベガス構築の外部顧問になる。これまでVEGAの依頼で派遣軍人として、またユラス民族国家の議長夫人としてオリガンやサウスリューシアを回ってきた。皆さんに非常に期待しているという事で、その期待に添えるよう願いたい。

では、顧問。よろしくお願いいたします。」


どんな豪傑が出てくるか緊張と期待で湧く新人たちと、「とにかくやべーぜ。悪いことはしていないから殺さないでくれ」「俺は、なんも悪いことはしていない」「俺は悪くない、あいつらが悪い」とチコの出張前からいた恐れおののく、何もしていないのに恐縮する賢い古参メンバーたち。



そして壇上に上がってきたのは、なぜかこれまた軍人張りのお供を付けた、淡いブロンドと茶色い目を持つ、それはそれはきれいな………


姫であった。



「あ?普通にきれいだぞ。」

「後ろのデカいのだろ??」

「姫?…あの人は王子じゃないか?」

「あの人がヤバいのか?」

「影の方が来たんじゃね?」

「ばかか。しゃべんな。」

みんな騒めいている。少し後ろにいる軍人が190以上の身長のため背が低く見えるし、この環境にあまりいない優美な顔にみんな意表を突かれた。


「美青年さが増している…。」

髪の襟足が伸びたので、かわいい王子から大人っぽい王子に少し変わっている。しかも、出張先でどんな試練を経たのか、渋みが増していた。


実際はたくさん叱られたので、なんとも言えない思いになっているだけなのだが。



「皆さん。今回顧問に就任したアーツベガス元総事務長のチコ・ミルク・ディーパと申します。」

礼をして挨拶をしだすチコに、想像と違って美人が来たと口笛などあやしが飛ぶが、既存メンバーに叩かれて黙らされた。

「おい!やめろっ。姫は機嫌が悪い!」

そう、落ち着いた顔で挨拶をしているが、チコは機嫌が悪かった。



なにせ、カウスや一部メンバーをユラス経由で帰らせ本国への報告は任せる。自分はこれまで一度も帰国しなかったのに、直前でユラスに帰らず直行でベガスに来たのだ。ユラス激オコである。


慰霊塔に祈りを捧げに行き、教会やエリスの元に挨拶に行き、東アジア連合やベガス各所に挨拶に行き………帰国当日の夜、なぜベガスに先に行くのだ、ユラスに挨拶と報告に来いと非常に叱られたのだ。

しかも、もう撤廃されただろうと思った門限11時もまだ有効。マイラを煽った件でも、弟分には結婚斡旋をしないようにと釘を押された。とにかく、また部下と距離を置くようにとサダル側近たちから強く言われてしまった。


直帰でユラスに行かなかったことも、マイラのことも反省している。

でも唯一、門限11時継続だけは納得いかなかったのである。



「ヤベー。美人じゃん。」

「何あれ?女?」

「あの歴史漫画やゲームに出て来そうな、長髪中華皇帝みたいなユラス議長がどんな豪傑怪力を嫁に貰ったんかと楽しみにしていたのに、普通にきれいでなんかムカつく。」

「あのすかした顔で、どんな怪力に尻に敷かれているのか見てみたかったのに。あれだけ美人なら踏まれたいわ。」

サダルはいろんな世界の会議などに出ているので、ネット上で顔は割れている。

「おい、お前マジ黙れ。あの人遠距離でも人を殺せるから。お前が思う以上に中身豪傑だぞ。」



「……そこ。」


「何?俺ら?」

その時、百人近い人間がいる中で、比較的近くで話していた男たちにチコは気が付き声を掛けた。

「何、私語してんだ?」

それまでの敬語がなくなる。

「何でもありません…。申し訳ありません。」

「わっ。」

チコを知る既存メンバーが男たちに無理やり頭を下げさせた。


「………静かにしてろ。


いいか。先話したように、河漢の事例は今度西アジアに持って行く。その後オリガンの一国家スイリスの小さいスラムからモデルを展開していく。向こうはここと違って誰が武器を持っているか分からない。比較できない部分もあるが、多少の暴力沙汰はあってもまだ河漢は恵まれていると知るように。

インフラだけでなく、人材含むまちそのものの基幹設計が重要になる。よいモデルを作っていってくれ。」

チコは何でもない顔で話すが、普通に殺人や行方不明起って事件にもならない河漢が恵まれているとは何事か。


「………。」

頷く男たち。チコを知る者と、そうでない者の従順の差が激しい。




そして端の席でデバイスを見ている男をチコが見ると、その方向にいる全員が縮み上がる。


「…おい、イオニア。」

名指しである。

「イオニアっ!!」

「あ?え?はい?」

「何、他事をしている!!さっきの話は聞いていなのか?あ?」

「え?オリガンのスイリスからモデル作ってくんですよね?」

「………。」

デバイスに集中しているくせに、話は頭に入っているので頭にくるチコ。

「貴様リーダーだろ!久々の話くらい真面目に聞け!!」

河漢のこの地区のアーツトップはイオニアである。


ダンっ!!

と一瞬で何か銃を放つと、バタン!ガシャンとイオニアの横にあったアルミ椅子が倒れた。

「いぃっ!」

反応できないイオニアと、少しパニックになる周囲。この銃は威嚇用で実弾ではないが、あまりの早業に声も出ない。銃も既に腰に収まっている。


イオニアは倒れた椅子を見てから、ポカーンとチコを眺める。

「あ?何だその顔は?気ぃ引き締めろ!なんか言いたいことがあるか?!」

「あ、いえ…。土曜にミツファさんにケガをさせてしまって…。気になって…。」

「………。」

響が?……と、言葉がないチコ。が、ここはまだ公の場なので冷静になる。


「なお…。自惚れや不満をまき散らしたり、混乱を招きたい奴は不要だ…。少なくとも組織(こっち)側にはいらない。心するように…。」

そう言って重々しく去って行く。




オリガンの一国、ラスタバンでの仕事は期間中死者はいなかった。


ただそれは、対ユラスの場合だけであって、オリガン同士の(いさか)いはそれなりの死者を含む人的被害が出ている。現在ユラス軍は本格的にオレイア政権と条約を結び、VEGAではなく軍としてラスタバンに駐在することが決まっている。


そう、ユラスはやはり圧倒的に強かったのだ。

オリガンにあるニューロスアンドロイドや、ニューロス搭乗機など意味をなさないほどに。SR社の機種を揃えられず維持もできない権威は、あっという間に片が付いた。これまで何年もそれを狙っていたが、過去の民主国家群の長い人道支援や、VEGAの地道な活動が信頼を得て、やっとオレイア政権で足場を得たのだ。



戦争を収める。

人間の内外から。


既に世界は、宇宙まで戦争をすることを前提として発展してきた。そういう思想を、社会を、世俗を作ってきたのだ。


でもこの糸は断ち切る。様々な分野から。


武力であろうと言葉であろうと、戦うことしか考えられない力は、いつか運勢が、世界自体が彼らを排除し落とし込んでいく。それは万象にとっても、自分の存在を脅かされる不快な異物でしかないのだから。


ただそこに、誰もが呑み込まれるわけにはいかない。



そのために、それでも今は武器を取るのだ。

圧倒的な勢力の四者。現在は一部西も含む東アジア、統一ユラス、東西リューシア、そして西洋国家群の有軍理性勢力が最も力を持っている、歴史の変わり目の時である。


今がチャンスなのだ。




***




事務所の一角でチコはイオニアに詰め寄る。


「どういうことだ!響が怪我したって!!」

「…。」

「イオニア!」

「…俺が顔を蹴ってしまって……」

「………なんで…。」

おそらく暴力で蹴ったわけではないだろう。そこは信頼している。


アセンブルスたちも知らなかったので驚くが、口の中を切ったくらいだと聞き安心した。


「たまたま大房で会って…。治療費も払うし、必要であればいくらでもお金は渡すと連絡しているんだけど、何もなかったし痛くないから大丈夫ってそればかりで…」

イオニアが響を避けていたのは知っている。それで南海からも、一時期はベガスもアーツも離れたのだ。それでも連絡を取ると言うのは、よほどショックだったのだろう。


「他に状況を知っているのは?」

「ファクトとラムダ。…それからウヌクもいた気がする…。あと、ファーデン・パイ。」

「パイ?」

「…パイが男に付きまとわれていて…多分響さんが庇って……それでファクトの友達みたいなのも間に入って乱闘になりそうで、そいつがヤバい感じだったから足で止めようとしたら、なぜか響さんにそれ自体止められて……」


ファクトの友達?イオニアがヤバいというレベル?


よく分からない説明だが、チコとアセンブルスは顔を見合わせた。



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