109 巫女様に会いに
「イオニア!ムギ!」
そこに入って来たのはファクトのチーム。
「どうしたの?」
「お前らこそ。」
「なんかリストの人たち移動したみたい。」
そしてファクトはイオニアの近くにいるアンドロイドに気が付く。
「あ……。はぐれアンドロイドで、最近流行りのモーゼス・ライトとかいうの?」
「モーゼス・ライト?」
イオニアが一言で説明するが、そこにいた花子さんには直ぐに分かった。
この女の機体はライトではない。
緑の花子さんがファクトのバイクの後ろからひょこっと顔を出す。
「あ!緑髪!!なんでまたいるんだ!!」
「まあムギ。こんにちは。」
なんでこっちにもあっちにもアンドロイドがいるのだと驚いている一同。
「………。」
少しだけみんなのいる場所から引いて、まだポケーと明後日の方向を向いているミルクティー髪のアンドロイド。
「お前らもなんでそんなアンドロイド連れて来てんの?モーゼス・ライトってそんなにあふれてるの?」
するとイユーニが、ミルクティーアンドロイドに少し見惚れながら説明してしまう。
「花子さんはモーゼス・ライトじゃなくて、他社の旧型だよ。法整備が完備されていなかった頃のクラシックらしいよ。」
「花子さん……?」
そこに反応するのはウヌクであった。太郎君、花子さん………ファクトの周りはなんなのだ。
「…花子さん?お前の親戚?」
「え?俺の?違うよ。」
間抜けなファクトは素直に答えてしまう。
「……花子さんは何人いるんだ?」
「え?」
「お前の親戚の太郎君、同じく親戚のパーマヘアの花子さん。で、この花子さんは?」
「………。」
そういえば、そっちも花子さんだったと気が付くファクト。ウヌクと一緒に大房観光をした体がオリジナルの花子さんである。
ファクトに迫るウヌク。
「おい、ファクト。全て言え。ややこしくて世界観が把握できん…。」
「……あの。正体不明瞭の存在は一貫して太郎君と花子さんにさせていただいております…。」
ごまかすファクト。
「あの花子さんとは違うのか?」
「…ノーコメントで………。」
が、花子さんがファクトの裾を引っ張り、小さな声で伝える。
「ファクト。彼女、ライトじゃない。」
「?!」
「私のこの機体ではきちんと把握できないけれど、Aか…もしかしてSクラスかも………。」
「!!」
それはおかしい。なぜこんな廃墟に。
「大丈夫。こっちも等級の低い機体だから向こうも私に気が付いていない……。でも、私に簡単に侵入できないと分かったら、勘付くかも。」
こっちが出方を考える前に………ムギは気が付いてしまった。
「おい。そこのモーゼス・ライト。」
「……。」
相変わらずボーとした顔でサラサラの髪をはためかせ、道端の女神のようなアンドロイドが振り向く。みんなが注目し、イオニアもそちらを向いた。以前の響に似た髪型が、どうしても目を引いてしまう。
ムギは迫るように言う。
「……先、ホログラムを使っていただろ。単純機種にそんな機能はないはずだ。」
セキュリティー、統制以外の性能をあまり上げると、高性能アンドロイドの部類に入り、個人所有ができなくなる。
「…………。」
何も考えていなさそうな顔のロボットの表情が停止する。
周りにいた面々も、は?という感じで少女とアンドロイドに注目した。
「お前、何が目的だ?内部荒しか?」
「…………。」
アンドロイドは反応しない。
そう、このミルクティーの目的は、河漢事業の中心を、ユラスやベガスの求心点を掻きまわすことだった。
ただ、思わぬ誤算が入る。
勘の鋭いムギとファクトがいたこと。そして、シリウスがいたことであった。
***
その頃、サダルメリクは東アジア入りしていた。
東アジア連合政府の所在地の都市から、アンタレス郊外の東アジア宇宙開発研究所各施設を訪問し、それからアンタレス東アジア軍本部、そしてベガスに到着。
「失礼します。議長が到着しました。」
駐屯でだらしなくコーヒーをすすっていたのに、ユラス本部側近メイジスの声とガチャと開く扉に、チコはバッと立ち上がり姿勢を正す。
「は!お久しぶりです!」
「……。」
それを冷たく一瞥するのはアセンブルス。何がお久しぶりだと言う顔をしている。
サダルはこの部屋にいる全員に礼をし、
「報告は最初にユラスでしてほしい。」
と、それだけ言って近くのパイプ椅子に座った。悪口なのか、嫌味なのか、ただ思いを言っただけなのか分からないが、またもやオリガン大陸から直接アンタレスに帰ってしまったチコに一言言って、いま到着した資料に目を通している。
「チコ様、族長会議の報告、ここでしてもいいでしょうか?」
メイジスは話を続けたい。
「は?ここは軍駐屯だぞ。そんなもの後でいだろ。」
「ここでしますね。どうせ、今いるメンバーはみんな知る話なので。」
だったら聞くなよと思う。
「今度のベガス構築行事のプレイベントに、『アジアライン共同宣言』があります。」
「はあ……。」
「はあ…ではありません。キリっとして聞いてください。」
「分かった。で、何なんだ。」
「北メンカルのガーナイトのタイイー王子を招きますので、チコ様は族長夫人としてよく尽くして下さることをお願いいたします。」
「………。」
一瞬全体がしーんとして…、チコが驚く。
「はああああああ?????!!!」
「そんなに驚くことでしょうか?」
「あっちは王族だろ?こっちはいち族長だっ。」
「両アジアには大きな族長も王室もありませんので、ユラスにお任せすると。ナオスの方が国家規模が格段にでかいですし。」
「東か西アジアの首相か大統領夫婦でいいだろ?」
「タイイー王子も兄弟分派の一存在ですし、まだ北メンカル統一が叶ったわけではありませんのでそこまで大きくはしません。もちろん外相は来ます。」
北メンカルは、家族兄弟で現在3派に分裂している。
そして、東アジア外相アルゲニブは立場が弱かった頃のチコにセクハラをしている上に、あまりいい噂がない。他の外相関係に頼むつもりだ。
「………。」
「政府が、信頼を置ける者で固めてほしいと。信頼されてるんですよ。」
「でも、ユラスとは関係ない……。」
「ユラス軍の功績も多いですし、ユラスからアジアラインのために殉職者がたくさん出ています。」
「…………。」
先とは違う静けさになる。
「まだメンカル統一途上ですが、タイイー議長がユラスにも礼を尽くしたいと。」
サダルが静かに言った。
少し後ろでカウスも静かに聞いている。
シュルタン家の長男も三男も、アジアラインとその延長で亡くなった。
「…………。」
何も言えなくなるチコ。そこでたくさんの同志を失ったのだ。
「……で、私は何をするんだ?」
「……」
誰も答えないが、沈黙が続くので仕方なくアセンブルスが説明をする。
「式典に参加していただき、大人しくしていただきます。」
「…………」
「大人しく座って、大人しく礼をしていて下さい。あなたはスピーチも祝辞も式辞も何もしなくていいです。」
「………。」
唖然としている。
「………え?なら警備に回ったらダメ?」
「ダメに決まっています。」
みんな呆れている。
「あなたが警備される側です。」
「私なら、サダルもタイイー議長も守れるよ?」
「なら、有事の際にはお願いいたします。隠れ護衛ということで。」
アセンブルスは適当なことを言っておく。
「………タイイー議長未婚だし、こっちもサダルだけでよくない?」
「ここで世間に夫婦仲もアピールして頂けたらと。」
「…………」
遂にチコは頭を抱え込んでしまった。しかもこれはプレイベント。プレイベントですらこの重みなら、本式典当日はどうなるのだ。外は屋台も出て、文化祭典や子供のお祭りもあるらしい。そっちに行きたい…そこの警備がしたい…と思ってしまう。
「そして、もう1人。ガーナイトからの希望で、今ベガスにいると聞いている『巫女様』にも正式にお礼を言いたいと。」
「『巫女様』?」
「ムギですね。」
「……ムギ?」
アジアやユラス側から見れば、言うことを聞かずに好き勝手した人だ。
小回りは聞くが大回りは利かないムギである。
もしくは大回りし過ぎて大陸レベルで旋回するため、一般の人には何をしているのかさっぱりな人とも言える。
『ZEROミッシングリンクⅤ』これで終了です。この後は『Ⅵ』に続きます。
暫く既存小説の整理や、キャラクターの図案に入る予定です。(予定は未定(´;ω;`))
人が多すぎて、整理しないと名前だけでは分かりにくいのでそのうちキャライメージ画を準備したいと…。
メインはだいたいのイメージが。半分以上のキャラは大まかな風貌、容姿は決まっています。カクヨムの方にはメインキャラ6人の顔のイメージ画があります!
文章素人&孤独に書いているため、寝かせて自分でも意味の分からない文を後で直す方法で書いています。
拙い文を読んでくださりいつもありがうございます!(礼)
『Ⅵ』は、一話が完成次第始まります。作者マイページでご確認ください。




