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ZEROミッシングリンクⅤ【5】ZERO MISSING LINK 5  作者: タイニ
第四十二章 聖典論とシリウス解禁

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107 緑の花子さん



「なあ、チビッ子まで来なくていいんじゃね?」


珍しく不安がっているのはまだギブスをしているウヌクである。

「そうだよ。帰りな。」

ファクトも言うが、バイクを走らせてムギはついてくる。


ここは河漢の河漢の艾葉(がいよう)

あの『前村工機』付近。どでかい地下シェルター、かつてサダル議長を怒らせた元赤龍系マフィアのコレクション倉庫付近である。



「ウヌクこそ怪我人のなのに。」

「だから乗せてもらってんだろ。」

リゲルの車に乗せてもらい、ホログラムデバイスでお互い話している。


前回の襲撃で河漢民も死亡したのに、まだここを離れない世帯が多く、ベガス組織で説得に行く。もともとウヌクは河漢担当。しばらく怪我で来れなかったが住民たちもウヌクのことは知っている。



少し走って、吹き抜けの地下広場の一角に到着した。

そこで、イオニアの河漢チームと合流し嬉しそうなファクト。

「イオニア!お久!」

それぞれ初顔もあり、挨拶をし合った。


「…なんでムギちゃんまで……。」

他のメンバーが心配している。

「ウヌクが怪我してるから、何かの時の助っ人。それに女手がいた方が相手も安心しやすいし。」


「………怪我?」

イオニアが驚くのでウヌクはギブスを上げる。

「2か所はヒビだけど、3か所イった。」

「あ?大丈夫なんか?」

ウヌクを知る河漢メンバーが驚く。

「愛のためだから…」

とウヌクが言いかけたところで、ムギが後襟を引っ張った。

「黙れ……。」

「う゛っ。……あ、まあ、歩くぐらいはできるから。」


何も言うなとムギが怒っている。

「まあ、あんまいい道じゃないし高低もあるから無知はするなよ。何かの時は手借りろ。」

「イオニアが優しい……。」

ファクトが感動している。友情どころかお互い関心もないABチームたちに気遣いの気持ちが見られサラサが知ったら喜ぶであろう。

「いくらウヌクでも、怪我人に気くらい遣うわ。」

「でも、大丈夫。響先生が気を使ってくれるから……」

「響さん?」

「ばかか!」

バジっ!

また掴まれて、遂にムギに叩かれるウヌク。

「うお!怪我人にひでえ!」


「…………。」

何か言いたそうだが、イオニアはやめる。



しかし、注目を浴びているのはムギ。

イオニアの河漢チームは男しかいないが、ベガスメンバーにはかわいらしい女性が1人いる。小柄な子供の印象が抜けない元々の知り合いと、初見のメンバーではムギに対するイメージは違うであろう。今のムギは自称身長160でそれなりに大人……だ。多分。


そんな訳で、あまり来ない女子がいるというだけで沸き立つ。少し顔が隠れる軽量のカウボーイハットから出るローポニーの茶髪に鞣皮のウエスタンブーツ。

「おい、イオニア。あのかわいい子、何しに来たんだ?学生か?」

「学生が来るところじゃないだろ?」

「大人なのか?」

「高校生だ。しかもチコさんの妹のような存在だからな。何かしたら次の日この広場にさらし首になる。覚えとけ。」

「………。」

「ここで仕事ができるのか?」

「一般警備のアンドロイドくらいは封じれる力はある。武器持ちなら確実にお前らより強い。」

「………マジか。」

「お前ら自分が、おっさんということを自覚しろよ……。」

子供に手を出されては困る。


「ムギはモテるのか?どれだけ飢えているんだ…河漢は……。」

ウヌクもファクトも驚くしかない。

「いや、ムギはかわいいでしょ。」

珍しくリゲルが答えたので、ファクトが驚いてしまう。ただ、リゲルとしては変な意味ではなく、なにせ年頃の女の子。そんな子がいれば、華もあるしそれなりにかわいいであろうと思っただけであった。



「とにかく今日回るところを教えてくれ。」

ホログラムが出て、場所が点灯されていく。

「お前らはこっちに行くか?」

「え?まだこんなに集落があるの?」

『前村工機』からは少し離れているが、まだまだ小型の集落がいくつかある。

「この辺は、社会でやっていけずにここまで追い込まれた層も多くて、スラムから出ること自体を嫌がっている。こっちは反対に、自分たちの住んでいるこの場所を自分の土地だと自負している感じだな。」

「数世代で長く河漢にいるから………。」

ここは地盤が弱く、ワラビー事件の時も揺れていたのだが、それでも動かない。

「行政から何度か説得に入っているんだが………。」


「……こっち行こっか。」

ウヌクが前から説得している家族のいる集落を指す。

「じゃあ私もこっちに。ファクトとリゲルは?」

「分散するか?」

「そうしよう。」

ファクトとリゲルは実質アーツAチームに入れる強さになった。今回は勉強感覚での参加だ。

「………ウヌクの方に行こうかな。」

心配なのでイオニアはウヌクに付く。普段なら一緒に仕事はしないが、作業の能率にも関わるし同情心くらいある。

「リーダー2人もいらんだろ。」

「なら怪我人なのに来るなよ。ジズとイユーニたちもいるから大丈夫だ。無理すんな。」

『前村工機』辺りなので、河漢組もアーツAチームクラスメンバーだ。柄が悪く、チンピラやマフィア系なだけに、もともと武術ができる者も多かったのだ。




そして、3チームに別れ、それぞれバイクなどで移動してから歩き出した。


「なんで、こんな状態になっても住民は移動しないんですか?前の襲撃も相当ショックだと思うけれど。」

ファクトは河漢出身のイユーニという青年たちに尋ねる。

「どんな場所であれ自分たちが育った家だしな。スラムといってもどうにか仕事もあるし、高見を望まなければ暮らしてはいける場所もあるから。」

「今更生活を変えたくないものも多い。」

「……。」


だいぶ人が移動してしまったが、移動手段はあるので外で日雇い仕事をしている者も多い。

巨大な河漢、貧困と言ってもそれなりに暮らしていた者もいれば、トタン小屋のような住まいで家族つめつめで生活していた者、物乞いやゴミを漁っていたような者などいろいろいる。その中にも、狭くても幸せな家族もあれば、そうでない真っ暗な世界もあったのであろう。


中には独り身の男性が住み着く、一畳部屋や二畳部屋のような集合住宅もあり、売春婦も出入りして女性や子供が犯罪に巻き込まれやすい危険な一角もあった。時々セルフネグレストで亡くなる者がいても、掃除と適当な改装をしてすぐに次の人が住みつく。匂いが残るような場所に次住む者は、その人も同じ道を歩んでしまうこともある。

殆どの建物は廃止されたが、移動先でも指導、教育をして行かないと、また同じような生活をしようとする者もいた。真面目で霊性がいい者には就職や住まい、結婚も斡旋するが、完全に人生を投げ出している者も少なくない。それをどうするかも、河漢事業の1つである。


ファクトは何とも言えない思いになる。それでいいと言う大人たちはどうあれ、子供たちにをここに置いて置くわけにはいかないことは分かる。子供の中には、シンナーや安い薬物などで脳が萎縮してしまった子たちもいた。


そして、子供たちをそんな風にしてしまう大人たちも、かつては子供だったのだ。



今、ベガス構築と河漢事業に関わることになった河漢出身のアーツメンバーたちも、新しい人生を探そうとしている者たちだ。20代から50代はまだ生きる気力にあふれている者も多い。

そのエネルギーが無気力や犯罪に取り込まれる前に、まだ世界は広いということを見出してほしい。


「…ファクト………。」

「ん?」

そこに、一人の少女が近付いてくる。

「………」

河漢の崩れた地下の影から、見たことのあるムギ程の少女。みんなが振り向く。


「…緑髪………?」

その少女を見て止まってしまうファクト。


シリウス解禁の後、ベガスに現れたジャミナイの店の義体だった。


「ファクト!!」

小走りで走って来て、ファクトに抱き着く緑のシリウス。

「ひっ!」

人間でないことは分かるが、一瞬では中身まで前と同じシリウスかは分からず、ゾクッとする。シリウスに抱き着かれても困るが。

「っうわ!」

驚くリゲルや河漢メンバー。


「ファクト!会いたかった!」

「いいぃっっ!!俺は会いたくない!!」

「会いたかった………」

「シ…シ…………花子さん?」

少し考え緑のシリウスは、そうね!と嬉しそうに答える。

「…そうです!緑の花子です!」


「………。」

みんな引いているが、様子を見て冷静になる。一般アンドロイドに必須である「判」が付いていた。

「…アンドロイド?」

「そうです、花子です!ファクトの花子です!」

「………。」

こんな女の子のアンドロイドを所有してどうするんだ………という引いた顔の皆さん。


「違う!俺のじゃない!!ジャミナイのだ!」

ジャミナイの店のジャンク品としても忘れられていたガラクタなのに、ファクトの趣味だと思われている。ジャミナイの従弟、リゲルも気が付いた。

「………あ、ジャンク屋の倉庫の…。」


「初めまして、緑野花子と申します。」

シリウスはサッと前に出て、きれいに礼をする。

「あ、どうも。」

「ちわっす。」

みんななんとなく挨拶を返した。


「私も一緒に行きます!護衛くらいにはなりますので。」

一定時期以降の、一定の基準以上のアンドロイドは、いざという時人間を守れるくらいの機能はあるのだ。花子さんがそうだかは知らないが、多分少しは役に立ってくれるのであろう。


「ファクト………知り合い?」

イユーニに聞かれ花子さんをじっと見ると、こんなクラシックの機体でもあの気持ちの悪い、普通のアンドロイドにはない正体不明の『気』の感じがする。


シリウスで間違いない。



「……そうです。義体は『北斗』で、メインは『シリウス』が入っているので役には立つと思います。『北斗』はうちの社長に頼んで、後付で入れてもらったものですが。」

ここで言う『シリウス』をみんなはシリウスチップやシリウスOSのことだと解釈し、安心する。まさか、あのシリウスの()()が入っているとは誰も思わない。

うちの社長とはシャプレーではなくジャンク屋ジャミナイである。緑ッコがうるさいので、少し改良してあるのだ。旧式に『北斗』やシリウスが入ったところで役立つのかは知らないが。というか、実は花子さん、『北斗』前である。



ファクトがリゲルに小さな声で「シリウスだよ」と伝えると、リゲルはギョッとした。


「ファクト。河漢はまだ危ないから一緒にね。」

花子さんはファクトの横にぴったりくっ付いてうれしそうだ。

「何しに来たの?」

そう聞かれると、花子さんは少し真剣な顔になった。

「モーゼスが河漢に入ってる。既に個人PCからサーバーにも。」

「!」

ファクトも思わず真顔になってしまう。

「……そんな事なら、緑の花子さんになんてならずに、正式に河漢に調査を入れた方が良くないか?」

「SR社で入ったら、ファクトと会えないし…。仕事は楽しくしたいもの。」

「………」

もしかしたら国政に関わるのにやめてほしい。ぞっとする。いや、SR社や国が知らないわけがないか。



「モーゼスはベージン社の売ったニューロスから侵入しているようなの。」

少し頭の回る者なら、誰もが危惧していたことだ。


現在、ベージン社は個体数ではSR社のヒューマノイドの売り上げを抜いている。目玉は『モーゼス・ライト』。廉価で誰もがヒューマノイドを手にすることができる。ただ、多機能高機能ではない。半玩具だ。河漢もジャンク屋が多いのでそれなりに侵入経路を作っているのだろう。


「簡易ロボットじゃないの?低機能でそこまでできるの?」

高機能ニューロスは個人所有はできない。

「簡易ロボットでも、チップは『北斗』を基にした現代の物が入っているから……。」

『北斗』は『シリウス』の前の型だ。『シリウス』には劣っても、それでも世界で二番目の高機能と未だ言われている。ファクトは知らないが、モーゼスはおそらくSR社を抜けたミクライ博士たちが、『北斗』を基盤に開発した物である。


「モーゼスは何をしたいんだろ………。」

「……彼らは自由圏が混乱して統率ができなくなれば何でもいいもの。」

「でも、自分たちだって混乱するのに……。」

「……考えているファクトもいいね!」

シリウスはファクトを見て笑った。オリジナルやシリウス前後の機体には敵わないが、それでもかわいい笑顔だ。

「………」

ファクトは引いてしまうが、こんなシリウスに慣れてきた自分もいる。



とりあえず現場に着くと、一行は状況に変化はないかの調査から始めた。



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