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ZEROミッシングリンクⅤ【5】ZERO MISSING LINK 5  作者: タイニ
第四十二章 聖典論とシリウス解禁

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105 バベルの塔



「では君たちは、インフレが利かデフレが利か…どう思う?」


「どういう視点で?」

「何でもいい。何か思うことがあれば。」


講師の話に答えるアーツメンバー。

「インフレで給料が上がればいいけれど、上がらないこともあるし、それについて行けない層の方が多い。デフレで物やサービスの価値が下がっても、それは自分たちの労働価値も下げている訳だし……。」

ローは悩む。一応ローでも悩むのだ。


「商売してる側ならインフレの方がいいけど、結局何をしても得しかしないのは大元だけだな。大富豪。」

「でも、そっちもある程度力がないと、世の中回せないからな。頭の悪いのがむやみに口出ししてきても困るだろ。」

「それで、富豪が労働力をなくして破滅した時代もある。」


過去、反資本主義系の大統領が立ち、世の中を引っ掻き回すだけ引っ掻き回し、結局社会主義にもならず経済が衰退だけした例は多い。


けれど資本主義も最後は独裁だ。資本独裁、物質独占だけは、領主時代であろうが中央集権時代であろうが旧教新教時代であろうが、自由民主主義であろうが、滅びないし変わることもできずにいる最も大きな問題の一つである。




それは聖典にある通り、人間が最初に「精神性」よりも「万物」を先に選んだからであった。


まだダメだと言うのに、成人になる前にお酒を飲んでしまったことに似ている。

見目がよく、胸が高鳴り、麗しく見えたものに惹かれ。

大人でも狂うことがあるのに、子供の時からアルコールを飲んでいたらどうなるだろうか。



人の命………


肉身を得た最初のアダムとエバが、「生命」と「人間以外の万物」では、「万物」の方が思い通りにもなり、よく見渡せ体感があり価値が大きいと思うようになったからだ。分かりやすく見える物に価値を置いたからでもあり、そこに現人間のフォーマットにそれが埋め込まれてしまっているのだ。


人類はその堕落のまま増え続け、最初の失敗の一点から二乗するように人類の出産と死を繰り返してきた。

だからこそ、その反対の精神性を得るには人生をかけても難しく、ほとんどの聖人賢者も成し遂げられなかったのだ。何千にも折り重なった遺伝と歴史を越えなければならないのだから。


聖典にはこのように、隠語や比喩も多いが多くの人間の過去の謎を解いているため、経済学習にも使われる。




人は経済によって現代にバベルの塔を作った。


「生命」と「万物」の価値が入れ替わったため、天のために、万民のために作るべきものを、個々の私欲のために作ったのである。


それがバベルに織り込まれた一つの罪科だ。




作るべき塔の目的性が変わってしまった時に、兄弟たちは我欲の分裂でそれぞれの民族に別れていった。


もしあのままバベルの塔が完成されていたら、あの時点で人類は滅んでいただろう。天敬の民がなくなり、世界は近親婚や神殿での不貞。処女や貞操や子供の生贄も虐殺も当たり前とされ、そんな人類が増えていくのだから。


東アジアの若者たちはあまり知らないが、旧時代の正当な企業家や経営者たちは旧教新教にしろ仏教にしろ、高い宗教性のある家か神仏を敬う家系から発展することが多かった。長く残る大企業には出家者を出している場合が多い。先祖を辿れば、ほぼそういう人物がいて社会貢献をしている。


彼らは、高い精神性だけでなく開拓精神と強い郷土心を持っていた。その場合、強欲な人物がいたとしても、家系の中に必ず良い精神性や霊性を持った人物が生まれ、どうにか命を繋いでいく。



しかし、前時代以前はあらゆるものが大衆文化に全てが埋もれ、宗教をエンターテーメントの一環にし、金満と性欲に溺れた大人を見て育った若者たちは気力と崇高性を失い、あらゆることを曖昧で良しとし、孤独と視野が範囲が狭い未確立の歪に埋もれていった。



しかし、前時代以前はあらゆるものが大衆文化に全てが埋もれ、宗教をエンターテーメントの一環にし、金満と性欲に溺れた大人を見て育った若者たちは気力と崇高性を失い、あらゆることを曖昧で良しとし、孤独と視野が範囲が狭い未確立の歪に埋もれていった。



彼らは知らない。

宗教性の本質は天の崇高性にあることを。


堕落は宗教から来ていると思っているが、堕落は人間から来ているのだ。

自分自身だ。


寂しさに負けたイブと、

肉に流されたアダムと、

怒りに負けたカイン。


アダムも煽ったのかもしれない。


けれど、どれもこれも、今はもう原因も結果も渦の中。



それは自然に成ったようで、実は反自由主義が数十年、数世紀掛けて準備してきた世界。

一見正義で、よく見れば蛇のような二枚舌であった。


彼らは地下に潜伏するのではない。『日常』に潜伏するのだ。





アーツ第2、3弾からは有名学校の、頭のいいメンバーが揃っているのだが、なにせよく喋るのは大房民。あまり単純な質問だと、ライブラ、ミューティアクラスは黙っている。


よって、大したことは言わないが講師が褒めてくれる。

「そうだよ。インフレもデフレもどちらも見方次第では、現在の世界では正しい現象ではあるんだ。働いたことには価値はある。物を作ることには資源も対価もいる。その資源を準備する第三者も存在する。でも同時に、働いているのに、物価が高くて毎日の生活もままならない層がいるのは本来おかしいことなんだ。どちらも正解で、どちらも欠点がある。


つまり、欠陥だな。」


結論は欠陥であった。



そうして、過去には資本主義の頂点だけが数千億、数兆の資産を懐に入れ、労働層が崩壊し通貨が世界的に大混乱した時代がある。

あまりに物価が上がり、給与が下がる。世界各地でデモや一揆が起こり、経済ゼロ基準時代と言われた。物を生産できる人たちが、昔の小売り店や市場のように自分たちで直接食糧など売るようになってしまう。物々交換も始まり、都市部の物資がさらに高騰。流通経路も崩壊。


とくに農業は強かった。飢えることがないし、自家発電があれば多少の不便も乗り越えられる。都市の洗練された生き方に執着がなければ少々昔の時代の暮らしをするだけである。世界が大混乱していた。


前時代後半は、かなりロボットや自動対応のメカニックが世の中を支えるようになったといっても、メカが労働を取って代わっただけで働かなければ人間に生活費も入らない。



でも、人間が賢かったらそんな世界は初めから造らなかっただろう。

もう、神の理想は人類拡大の起点から違うのだ。


知恵とメカが労働を担った分、本来『人間』は自由になるのだはずだった。

誰か、一部の人間とかではない。全てが底上げされて。



全ての人間が、それぞれの関心、生活志向に合わせて『等しく』満足を享受できる時代へと。


数万年そんな世界観を失ってしまい、人間はそれを桃源郷としてしか見られなくなってしまった。

でも聖典の本来の理想はそこにある。


けれど、残念ながら人間は『賢さの実』を蛇に譲ってしまったので、その理想の青写真さえも失ってしまったことを思い出せない。そして、過去からの現在を目にして、現在の辞書に添えられている世界構造が当たり前だと思っている。



だから、「理想」にも「賢さ」にも辿り着かない。



どんなにもがいても、前時代までの観念では人間は賢くはなれないのだ。



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