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ZEROミッシングリンクⅤ【5】ZERO MISSING LINK 5  作者: タイニ
第三十四章 触れても届かない手
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9 煩悩が原動力



今日は少し考えるも決意をして、姿勢を正した。


「…なら、力のない私が役に立つか、ここで試してみましょう。」

「ここで?」

「曖昧な世界なので、仕事を引き受けてから何もできないとか嫌ですから。」


響は皆がある程度食事を済ませたので、卓上を簡単に片付けてシェダルとファクトを正面に、他は横や後ろにいてもらう。

「まずファクト、シェダル!」

「はい!」

「あ?」

「絶対に勝手に飛ばないで!私は戻してあげられないから。最初に座学から。」


絶対に怪しい2人。

「返事!!」

「はい。」

「…ん。」


「あのね。基本は宇宙飛泳と同じ。集中して意識を移動するの。でもね。その時に『個』を確立したまま持って行く。」

「………」


二人だけでなく周囲の研究員も聞き入る。


「自分を、()()()()()にする。

自分のいる場所。帰ってくる場所。自分のあるべき形…。


私は信仰者だから、変わることのない神に帰依するの。私にとって主は、絶対なる愛であり、ずっと一緒に居る親だから…。それから…。」


と言って、響は少しだけ見慣れた人を思い出す。


………でもそれ以上のことは言わなかった。胸がじんわり熱い。




「その『個』はね。『一人で確立してもいつか倒れてしまう』の。


だから、個性の強さや我の強さだけではダメ。いざという時、迷った時、自分を引っ張ってくれるものでないと。だから、個人的な天才で、DPサイコスを操れても、孤独だと絶対にどこかで息詰まる。

どういうことかと言うと、私よりサイコロジー(心理)サイコスも、技もすごい人は世界にそれなりにいる。


物凄い理論や理屈、定義で様々な技を行える人は、全世界にたくさんいる。

でも彼らは()()()()()


カメラの三脚が3本である理由は分かるでしょ?2本以下ではいざという時に倒れてしまう。野菜を作る時の支柱のように、土の中に深く埋めるにしても、土という土台がいる。


それは他の次元であっても同じ。三次元に持ち込まないと全ては立体化、形状化しない。横から見るたった1点において、存在さえしない。


だから、何かしら()()()()()。」


自分だけで空に浮いてい物も、形状を保っているものもない。響は空中に四角を表した。


「そういうこと。自分以外の土台がないと倒れて…飲み込まれてしう。混沌の中に…。」

「………」

「その土台の上で、『個人(ビルド)』という自分を描く―」



今度は、サーと空に円を描く。


今ここにいるメンバーは、未知数のシェダル以外、ある程度高い基準の()()を持っている。

響の辿る指先に、煌めく光が見えた。



ポラリスはなるほどと思う。響が安定している理由は何かと。もっと強烈なサイコスを使う者がいても、それを越える理由はそれか。


元々響が言うように考えてはいたが、仏教と聖典信仰の調和した蛍惑。

祖父母も父母も兄弟もいて、そして一定の信頼がある家族関係。幼いころから企業や名家の子供で人がよく出入りし、近所や仕事の大人たちからもたくさん愛情を受けて来たことだろう。蛍惑は昔の家族的な会社が多い。近所の鍼師の夫妻にもよくしてもらったと聞いている。だから、他人も信頼できる感性。


何年か都市で生きながらも、田舎も土も、乾いた土地も、温帯の緑が生い茂る山や清流の流れる小川のせせらぎも、大河と山脈の壮大さも知る女性。


ある意味、響はその集結なのである。



精神……という以上に霊性が安定し、たくさんの世界を見つめ、そして自分の中にあらゆるものを受け入れている。

少々危なっかしいが、変わらない愛の神を、絶対的な神を、全てに内在する万象の神を基軸にしているから、『揺らがない一本筋』がある。



同じ黒系の色なのにシェダルと違う、煌めく茶と黒い目が、世界より大きく広く宇宙を照らす。


雑に切り刻んだ髪なのに、キリっと、でもしっとりと笑う姿は美しい。



ファクトは真剣に聞いている自分の父ポラリスを見る。

自分にも孤独感がないわけではないが、多少我が儘を言っても、ケンカをしても帰れるような家がある。


ファクトも元々神性や先祖の守りを受けていると実感できるタイプだ。倒れて寝たきりで亡くなった祖父が、自分を守ってくれていいると勝手に思っている幸せ者である。なんなら、先祖はみんな自分の味方と思っている。


実際、霊性師や星見、相見たちにもいい相をしていると言われていた。天才でも秀才でもなかったが、いろんな位置が安定しているらしい。


『それはそれで宝だよ』とよく言われる。




…なら、シェダルは?



シェダルには何があるのだろう。


これまで、きっと…何もなかったのだ。




***




騒がしい大房は、子供のイベントのくせに深夜1時までどんちゃん騒ぐらしく、夜の10時はまだまだこれからという感じで、今、店開きするところもあった。


保護者同伴でない子供や、高校生でもGPSなどついていない者は家に帰される。クラブ音楽が街に流れる中で、警察や警備が小さい子は寝せるようにと無茶を言っていた。基本大房は大雑把なのである。


が、寝られるわけがないと思いつつ結構寝てしまえるもので、タラゼドの親戚の小さい子たちは数人熟睡していた。その場で調理などしなければ、通路以外ならキャンプチェアや子供用テントなど出してもよい。

今走り回っている子供たちは、フェルミオと家に帰り夕寝して、エネルギーを補充しまた戻って来たのだ。二次会である。


「響先生と遊びたかったのに~。」

長女ローアがお酒を飲みながら悔しそうだ。

「…つーか何?あのウヌクとかタロウとかいうヤツ!!とくにタロウ!人としても許せない!!ありえない!」

「でも太郎君、顔は好みだな…推したい…」

「ファイ姉!何言ってるの?第一、顔半分隠れてたじゃん!!」

「…あの雰囲気が好き。」

ファイは背が高過ぎたりあまりに筋肉質の男は嫌である。

「信じられない!許せない!!」

「ちょっとルオイ、もう酒はやめなさい!外なんだよ?危ないから!」

従姉妹が缶を取り上げる。



その横で「あの黒髪はニューロスじゃないのか?」と考えているタラゼド。アンドロイドには見えないが、SR社だったらアンドロイドかもしれない。でも、今までの製品を考えるとSR社の物にも見えない。人間だろうか…。


「キリン」と、響に依存していた感じがする。


「ねえ!お(にい)!響先生あのイオニアに抱かれてたんだよ!!丸ごと!全て!!」

「…変な言い方すんな。響さんに失礼だろ…。」

「最後にキファも来たんだよ?あのキファ!!あんな近くで始めてみた!!」

「響先生ってモテるんだね!キレイだとは思ってたけど、あの2人だよ??ウヌクとかは知らないけど。」

ベガスではどうしようもない扱いされているキファなのに、なぜか女子たちが熱くて、ばかばかしいとファイは思ってしまう。


「ホントあいつら!……バカなだよ…。」

ファイは奴らを落とし込む様な事を言うが、口とは違って心では哀れだと思ってしまう。

あんなの見たら、イオニアを応援するに決まっている。切ない。なんであんな乙女小説みたいになっているんだ。バンド、アイドルオタクな自分が話しかけるのも怖かったような奴なのに。



「タラゼドのバカ!!」

バジ!!

ファイは思いっきりタラゼドを叩いておく。

「は?何すんだ。」

「やっぱりイオニアだった…。この男はダメだ…」

「は?」

「響先生に何て言ったか知らないけど、告られてなんで忘れてんの??」


「はあ?!お兄!告られたの???」

周りがわああー-ー!!! ! と反応する。


「結婚式は大房でしよ!」

妹たちは大騒ぎするが、タラゼドは絶対に嫌であろう。騒がれるのも、相手が誰であろうと大房で結婚式をするのも。披露宴とか絶対したくない。

「うちの真横に……、同居でもいいから大房で暮らそっ!」

「私がドレス選ぶー!!」

「ブライズメイドする人ー!」

「はーい!!」

「私!」

「わたし!譲れない!!」

「そんなにいらないよ!!あみだくじで決めよ!!」

「えー!絶対に私!!あんたはルオイの式でしな!」


戸惑うタラゼド。

そもそも相手は蛍惑だ。新婦側のブライズメイドなんていない、アジアに多い宴会形式の式を挙げるに違いない。

しかも、あっちの家族も相当手ごわそうだと知らないからそんなことが言えるのだ。少なくともお兄様は、響に大房との結婚は許さないだろう。いつものセリフだが、何せ大房である。


タラゼドは、正直せっかくベガスに逃げたのに、またこの妹たちに囲まれたら……というか今、囲まれているので響もその一員に思えて仕方ない。最近、響に関わる時は妹たちがいるのだ。

響は妹ズと同じくらいあれこれ手間の掛かる女性である。





そして実は、SR社に行ってしまったメンバーには知らないウワサが大房に広がっていた。

あのお祭りの中のギャラリーである。広がらない訳はない。



その噂とは………


ベガスに関わると、女性の趣味が地味になる………と。



ツィーことサルガスは一部の人間の間で名が知られているだっただけだが、ユンシーリの元彼氏と言われればみんな注目する。


そんな男が面倒なヴェネレ教の、地味な数学教師と結婚してしまい、あのイオニアが地味文学女子…文学なんて言葉も知らないような大房民には、どう表現したらいいか分からないようなモッサイ、野暮ったい女子のために冷静さを失ってしまった……という恐ろしい話が飛び交っていた。


キファも、頭のネジが数本飛んでいたと。


ちなみにキファはベガスに来る前は、極めて普通の、少々突っ張ったところもある大房的な青年であった。仕事以外は気の合う友人とつるんで彼女と歩いている……というような。必要な仕事以外で、あんな風に研究室の学生の面倒を自ら見るタイプではなかったのだ。


大房の知り合いにキファが語った話によると、

「全て、愛のゆえ」である。



ベガスこわ!洗脳される。とか、サイボーグ、ひどいとアンドロイドになって帰ってくるというウワサも広がっている。脳髄しか残っていないと。


なにせ、やたら戦闘術を覚え、朝4時に寝るような大房民に規律正しい朝起き生活をさせ、底辺校卒でも勉強させられ、女の尻を追いかけなくなり、やたら仕事の鬼になり……


まだ未婚なのに子供の世話で狼狽していると言う………。


ベガス、ヤベー。近付いてはいけないと。




お前ら煩悩をどこに捨てたんだ?!と言いたくなるが、一部の人間の原動力は煩悩でもあることをみんな知らない。


大房にはいない系の美男美女が見られるとかいうしょうもない理由の人も若干名いる。



でも大房は失業者も多かったし、ベガスや河漢から、ヤクザより柄の悪い人たちが、ヤクザみたいな人たちを連れて半ば脅しのように就職斡旋に来るので、けっこうな人が大房から河漢事業に関わるようになっていた。


現在は他地域からも集めている。






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