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密室なんてクソ食らえ!

作者: 甘党むとう
掲載日:2021/12/10

「小説家になろうラジオ大賞3」に問題編を掲載しています。

これは問題編も含まれています。


「被害者はK大学3年生の星野香、21歳。

 心臓を刺身包丁で刺され、その傷が原因で失血死。

 死亡時刻は昨夜の23時~1時の間です」


 若い警察官が手に持ったメモを読み上げる。


「第1発見者は?」


「被害者の大学の同級生である志嶋芽依が今朝、この部屋を訪れ、発見しました」


「今回の殺人は密室だと聞いていたんですが」


「扉の鍵は開いていたそうです。

 その代わり、扉にはチェーンがかかっていました」


 若い警察官は慌てて言葉を並べる。


「窓にも鍵はかかっていませんでしたが、昨夜はこの部屋の下の階に住んでいる音尾武が趣味の天体観測をしていたようで、窓が開くような音は一切しなかったと。

 なので窓からの脱出も不可能だと判断しました」


 不安な顔がこちらの様子を窺う。

 俺はそれを無視して、玄関で仰向けのままぴくりとも動かない被害者に顔を向けた。


 水色のパジャマは既にどす黒い。

 数少ない靴は玄関に乱立しており、クロックスだけが揃って端に置かれていた。

 靴の収納ボックスの上には、数枚の写真といくつかのキーホルダーがついた鍵。

 写真には笑顔で写る被害者と1人の女性が。

 写真立てを掴み、よく確認する。


「そこに写る女性が志嶋芽依です。

 2人は親友だったようで、少しだらしのない性格の星野香を、志嶋芽依が大学の講義が朝早いときに起こしに訪れるのが2人の日課だったそうです。

 なので志嶋芽依は合鍵を持っていたらしいのですが……」


 写真立てを元の位置からずらして戻す。

 やはり、ぴったりだ。


「分かりました」


「……はぁ?」


「被害者と最近まで付き合っていた人はいますか?」


「……はい! います!!」


 若い警察官が慌ててメモ帳をめくり、情報を引き出していく。


「園山愛翔、K大学3年生23歳。

 星野香とは3日前まで付き合っていたそうです」


「では、その人に会いに行きましょう」


ーーーーーーーーーー


 後日、K大学3年生の園山愛翔が殺人容疑で捕まった。


 あの探偵曰く、包丁が心臓を確実に刺していた時点で、犯人は被害者の彼氏ではないかと推測していたらしい。


「あの遺体には抵抗した後が一切ありませんでした。

 普通、目の前に包丁を持っている人物がいれば逃げ惑うなり叫ぶなりしますよね?

 なのに、被害者はそれを一切しなかった。

 まるで、包丁なんてものが見えていなかったかのように」


「……たしかに。

 でも、心臓を刺されたんですよ!?

 包丁が見えないなんてことあるんですか?」


「そんなことは簡単です。

 あなたはキスをするときに目を開けますか?」


「……ま、まさか」


「おそらく、園山愛翔はこれで最後だからとキスを求めたのでしょう。

 そして、目をつむった星野香の心臓に包丁を突き刺し、更に彼女の身体を突き飛ばした。

 その後、彼女が履いていたクロックスを手頃な棒で脱がし、扉を閉めてその場から立ち去った」


「……それなら密室ができる」


 探偵が大きく頭を振る。


「あんなもの、密室と言えませんよ」


「で、ですが、なぜ元カレだと?」


「写真立ての埃の位置がずれていたんです。

 元々、あそこに飾っていたのは彼氏との写真だったのでしょうね」


 探偵は続ける。


「おそらく、園山愛翔が星野香を殺そうと決めたとき、頭の中に志嶋芽依が持つ合鍵が思い浮かんだのでしょう。

 そこで、志嶋芽依から鍵を奪い、それをコピー、もしくは犯行後に返すことで密室が作れると考えた。

 しかし、その計画では合鍵の存在を知っている自分は、疑いの対象から外れない。

 彼は悩んだ。

 どうすれば自分に疑いの目が向かなくなるのかを。

 そしてこう考えたんです。

 チェーンがかかっていれば、合鍵に関係なく密室が作れる、と。

 これは推測ですが、1つ下の階の音尾武が昨日、天体観測をすることを園山愛翔は知っていたのでしょう。過去にうるさくして怒られたことがあるのかもしれません。偶然にしてはできすぎてますからね。

 あとは、星野香と少し会話をし、最後のキスを頼むだけ」


 探偵はここまで言い切った後、少し悲しげな表情で言葉をつないだ。


「彼は合鍵の存在と密室にとらわれ、ミスを犯した。

 あの現場の状況で、被害者の胸を完璧に突き刺すには、キスが最も簡単な手法だった。

 キスをする相手の数なんて、密室じゃない殺人現場の容疑者の数と比べれば一目瞭然。

 彼は自分で自分が犯人であると証明してしまったんですよ」


 彼は言った。


「ほんと、密室なんてクソ食らえだ」

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