ネガティブ戦隊クジケンジャー
「誰か~!! 助けて~!!」
「助けなどくるわけがないだろう。我々怪人に敵う人間などこの世にいないのだからな。はっはっは!」
馬鹿にしたように高笑いする怪人。実際、彼女の悲痛な叫びは耳に届いているはずなのに、周囲の誰もが見て見ぬふりをしています。しかし、そこに派手な戦闘服に身を包んだ謎の五人組がどこからともなく颯爽と現れました。
「怪人め! その女性から手を放せ!」
「何だ、貴様らは?」
彼らは一人ひとりポーズを決めて名乗り始めました。
「勇気や情熱だけで解決する物事なんてほんの一握りだと分かっていても、とりあえず熱く叫ぶしかない……なぜなら俺はリーダーだから……やけっぱちレッド!」
「お調子者キャラを演じるたびに心がすり減っていくのを感じる……それでも道化になりきってムードメイカーを今日も気取るのさ……くすみイエロー!」
「常に冷静沈着なフリをしているが、歯に衣着せぬ物言いのせいで自分が嫌われているのではないかと気が気じゃない……にごりブルー!」
「癒しを一番欲している人間が癒し系になれるわけがない……いつも精一杯ニコニコと笑みを浮かべてはいるけれど、そうしないと気づいたら泣き出してしまいそうなだけだよ……しおれグリーン!」
「紅一点というポジションが嫌すぎて、毎朝戦隊メンバー勧誘のチラシを近所に配っています……『あの年齢であの格好はちょっと……』とか呟いていそうな方の顔はしっかり目に焼き付けて丑の刻に呪います……うらみピンク!」
「「「「「5人揃って、ネガティブ戦隊クジケンジャー!!!!!」」」」」
思わず無表情になって独特の名乗りを聞いていた怪人でしたが、我に返り彼らを嘲笑いました。
「そんなメンタルに問題を抱えたお前達にいったい何ができるというのだ! さっさと尻尾を撒いて逃げ出せば見逃してやるぞ」
しかし、5人は全く耳を貸さず怪人に向かっていきます。
「それができたら苦労していないんだよ、馬鹿野郎!」
「どんなに心が折れそうでも……」
「どんなに不安で押しつぶされそうでも……」
「たとえ好かれていなくたって……」
「たとえ望まれていなくたって……」
「誰かが助けを求められる限り……」
「絶対に挫けない……」
「「「「「それがクジケンジャーだ!!!!!」」」」」
「ほう……威勢だけは一人前だな。かかってこい、愚か者共!」
そう叫んだ怪人は、わずか数秒であっけなくボコボコにされました。なぜなら、クジケンジャー達はメンタルがとても弱いだけで戦闘面では普通に滅茶苦茶強かったからです。助けてもらった女性は彼らに何度もお礼を述べましたが、5人共ろくに目を合わすことなくモゴモゴと呟き、会釈して去って行きました。
彼らの姿が見えなくなったのを確認するや否や、遠巻きに見ていた観衆たちは一斉に女性の元に駆け寄り興奮した様子で語り始めました。
「いやあ、今回もなかなかの病みっぷりだったよね!! レッドの若干自暴自棄なところも素敵!!」
「おそろしく早いイエローの照れまくりウインク……俺でなきゃ見逃しちゃうね」
「個人的にはグリーンの声がちょっと震えてたところがハイライトだった!!」
「あの何だか守ってあげたくなる感じが最高!! あとブルーの名乗りちょっと前と変わったよね!? 前はキャラに対して学歴が伴ってないのを気にしてるとか言ってた気がする」
「ピンク、今日も戦いながらずっと周りを睨んでたよね。正直、ちょっと呪われてみたいかも……」
「私も今度は怪人に攫われてみたいなあ!! それで、お礼を伝えて目の前でキョドってるところを眺めたい……」
「でも、俺達の好意を伝えることができないのはちょっと辛いよな……」
「しょうがないじゃん。だって、あのネガティブさが彼らの魅力なんだから……」
「確かに……いつまでもあのままでいてほしいもんな……」
このようにちょっと歪んだ愛情とともに人々から応援されていることなど露知らぬクジケンジャーは、今日もガラスのメンタルと鋼鉄の肉体で世界の平和を守っているのでした。