異世界:目覚め
「大蛇!」
起き上がり、辺りを見回す。ここは花園だった。様々な色の花が咲き乱れ、中心に大樹がそびえる幻想的な光景。
「ここが、異世界か…」
人を探さなければ。ここで野垂れ死ぬ訳には行かない。立ち上がり、自分の状況を確認する。
「服装は制服、持ち物はリュックに入っている。水は…ある。食料は…板チョコ一枚、菓子パンが二つ。」
チョコは山登りなどに重宝すると聞いている。問題はこの森がどうなっているかだ。ゲームなどで知っている。こんな所には魔物が出るのだ。小説とは違って俺には武器が無い。魔物と遭遇したら死んでしまう。読んだ小説などの知識を思い出せ。記憶を遡って探せ。
「色々試してみるしか無い…ステータスオープン。出ない…」
何も起こらない。このままでは大蛇にもらった第二の人生を無駄にしてしまう。
「それだけは駄目だ…!出ろ…出ろ!」
「あなた、だれ?」
体が硬直する。咎められたのかと思ったからでは無い。圧倒的な存在感、というのだろうか。女性の声なのに、確実に人では無いナニカの気配を感じた。直感で理解した。ここはこの声の主の場所だ。ゆっくりと振り向き、名乗った。
「…私の名前は風見黒斗。訳あってここで目が覚めたのです」
「おかしいわね…ここがどこか知らないの?神域の森"の最奥よ?こんな武器も持たない人間がなぜ?」
彼女の姿はまさに御伽噺に出てくる美女だった。美しい金髪に輝く蒼眼。街を歩けば誰もが振り向くだろう美貌。そんな人が俺を怪訝そうに見ていた。
「私はこの世界の人間ではありません…別の世界から来ました」
素直に事情を話す。そうすればこの森から出られるかも知れない…!
「別の世界…?面白そうね!ついて来なさい!」
態度が一気に軟化した。この食いつきを見るに、退屈していたという事だろう。彼女について行こう…ひとまずこれで安心だと思う。
彼女が向かうのは花園の中心の大樹。
「入りなさいな!私の家よ!」
彼女が手をかざすと大樹のうろが開いた。これが魔法なのだろうか。大樹の中はさらに驚いた。大きな切り株のテーブル、小さな切り株の椅子、光るキノコのランプ、巨大な花のベッド。メルヘンな光景がそこにはあった。
「なにをぼーっとしているの?早くクロトの話を聞かせて!」
「あ、あぁ…どこから話そうか…」
こうして、俺は彼女にこれまでの事を話すのだった。
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