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チート社畜の現世攻略  作者: みきお
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衝動→行動

「ねえ、着いたらご飯にしよう」

「ホテルに荷物を置きに行くのが先だ」

「彼氏と行くライブまじ楽しみ~」


暑いし騒がしい。


出張先へ向かう新幹線の車内。

旅行鞄をひっさげた家族やカップルでごったがえしていた。


「みんな楽しそうにしやがって、、、ちくしょうが。」

楽しそうな話声が飛び交う中、腐った感情が込み上げる。


ハッピー溢れる車内。

この空間は前川悟志の精神に、的確に継続ダメージを与える。


ありふれた会話が凄く恨めしく思い、同時に凄く羨ましく思っていた。



こんなときに思い出す。


社会人デビューが遅くなったせいで、周りの同級生とは圧倒的な差を付けられている事。


親しい友達がいつの間にか社長になっていたり、好きだった子が結婚してママになっていたり、、、


悲しき現状を思い返す度、社会的カーストに対してのコンプレックスは山のように積り積もっていく。



そんな負の感情を追い出すように、前川は嗚咽にも似たため息を吐いた。



現実逃避の睡眠に備えるため、くたびれたワイシャツの第一ボタンを外そうとしたとき、



「前川、まだゆっくりしてて良いぞ」

「到着までまだ掛かる。お前には頑張って貰わないと困るからな。まあ飲めよ。」



発泡酒を差し出しながら、隣の席の寺内さんは言った。

素行に問題はあるが面倒見の良い上司だ。


出張先で使う資料を徹夜で作成していた僕にとっては、その気遣いはとても有難く、

一瞬、精神的なバフ効果を得た。


が、そもそも思い返せば、徹夜の原因は寺内さんの呑み過ぎでのサボりによるものだったのだ。



それを思い出して、バフどころかむしろ小さな殺意すら生まれたのだった。



そんな複数の負の感情のデバフを解除する為、先輩から手渡された発泡酒をぐっと飲み干した。

それでも足りず、禁断の2本目を調達したくなる。



前川は丁度通りかかった車内販売のお姉さんにだらっと挙手した。



「あ、ビール一つください」


「畏まりました」



昼間に飲むビールは最高だ。些細な幸福感を得られる、現代においての禁断の魔術だ。


しかし、酒を飲むことによって運転が出来なくなる、普段より思考能力が落ちる等、仕事に影響を及ぼすデメリットがある。

勤務中だとコンプライアンス的にもアウト。


まあ。寺内さんも飲んでるのだけど。



「今回の出張は前乗り日程だし、レンタカーを予約する予定もない。さらには昨日は徹夜だったし、このくらいの小さな罪は天も見逃してくれるだろう。」


「寺内さんは裁いてくれて良いけど。」



変わり映えのしない景色を眺めながらそんな事を思い、2本目をこじ開け、煽った。


「あっ、そういや、、、」

そんな現実逃避の最中、ビールのお代を請求されなかったことに気が付いた。


後で回ってきたときに払えばいいかと思い、いつのまにか眠りに落ちていった。




そんな僕らを乗せた新幹線は山を越え、寂びれた街達を駆け抜ける。

幾多の思いを乗せた、縦長の金属の集合体。





「ドンッ」




県境のトンネルをくぐるときにそれは起こった。




突然、体の内側を撃つ様な、妙な衝動。


慌てて目を擦り、辺りを見渡す。


隣の寺内さんはまだ夢の中の様で、動きすらしなかった。



「鈍感過ぎんだろこの先輩、、、」

と、思いながら体を起こし、他の列の客に目をやった。



その時、猛烈な違和感が脳を刺した。



誰一人、この衝撃に対しアクションしていない。


というか、指先一つ、瞼さえ動かさずに、完全に人形と化している事に気付いた。



「寺内さん!最近観た時止め系AVなんか目じゃない程に、みんなビタっと静止していますよ!!」

話しかけたが、びた一文の反応もない。



先輩もフリーズしている。

そのせいで強烈に不安になった。脇汗が凄い。




窓の景色と走行音からトンネルの中を走っていることは分かったが、

この状況を即座に整理して行動するには、ニコチンが足りなかった。


とりあえず喫煙室に向かう前川。


この奇怪な状況の中で煙草を吸いに行く自分に対し、


「ニコチン中毒ってやべえんだなあ」


と、人ごとのように思ったその瞬間。



車内アナウンスが流れ始めたのだった。




「えー、前川様ー、前川様ー。」




突然、少し生意気そうな女性の声がスピーカー越しに響き渡った。


完全に自分だけを対象にしたアナウンスに呆気にとられた。




続けざまにアナウンスが問いかける。




「無視ですかー。ニコチン中毒で万年独身、変態貧乏社畜の前川様ー。くすくす。」




「、、、っ!やっぱり僕だけを呼んでいる!」

「いや、てかまず失礼だろ!変態貧乏社畜って役満じゃねえかっ、、、!」


なんなら裏ドラまで乗りかねんと、ざわざわと、戸惑いながら思う前川。



どこに向かって返事をすればよいものか、

そしてこのディスりに対しどのような返事をしたらよいものか。



迷っている内に次のアナウンスが流れた。




「聞こえているようだし、まあ続けますね。」

「あなたにあるスキルをお渡ししました。この能力を生かすも殺すもあなた次第ですが、あなたなら使いこなせるはずです。分かりましたか前川。分かったら車掌室まで来てくださーい。くすくす」




突然流れたアナウンスに突然のディスり。

そして能力というワードに加え、唐突な呼び捨て。



女性に無下に扱われるのは嫌いじゃない!

が、この状況下、意味が分からず流石に混乱した。



自分がまだ酔っぱらっているのではないかとも思ったが、

「このまま呆然としていても自体は進展しないな」



前川は自分を呼ぶ女の子が可愛いのかを確かめるべく、


このつまらない日常が丸ごとひっくり返るような凄い事が起きそうな予感を胸に、


よたよたと車掌室へ向かったのだった。


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