ある日の回想
懐かしい音で目が覚める。
どうやら少しだけ、居眠りをしていたらしい。
くらくらして重たい頭をどうにか起こし、あたりを見渡すと、教室にはもう誰もいない。
窓の外からは真っ赤な夕日の光が斜めに差し込み、もう放課後であることに気づく。
机には出しっぱなしのペンケースとルーズリーフ。
シャーペンや消しゴムに至っては、寝てる間に落ちたのか、足元に転がっている。
何限から寝てたんだろ?
と、疑問に思い、ルーズリーフになんとなく目をやる。
そこには、メモをしようとした痕跡が見える。でもよっぽど早い段階で寝てしまったのだろう。何の授業かまではわからない。
うーん、頑張って思い出そうとしても、中々出てこない。直近の出来事のはずなのに、なぜか遠い昔の記憶をたどるような不思議な感触。まだ寝ぼけているからなのかな。
考え込むこと、十数秒。
そうだ、ようやく思い出した。
今日は水泳の授業だ。昼前にプールに入って、午後は疲れを引きずったまま爆睡、ってところね。
先生に全く起こされず気づいたら放課後だなんて、そんなことあるんだな。
にしても、帰るとき誰か起こしてくれてもいいのに。
一人で下校なんて久しぶりだよ、と思いながら、荷物をまとめてカバンにしまう。
さあ帰ろう。
教室のドアを開けようと思ったその時、一つ、違和感を覚える。
あれ、このまま下校していいんだっけ?
いつも、放課後は何かしていたような。
ーー例えば、部活とか。
部活、今日は無い日だっけ。
無い日って、何曜日だっけ?
今日って、何曜日だっけ…?
大きな音で目が覚める。
どうやら、朝らしい。
くらくらして重たい頭をどうにか起こし、あたりを見渡しても、教室の景色はもう目に映りこまない。
窓の外から差し込む陽の光、その眩しさに、先ほどまで夢を見ていたことに気づく。
私、もう高校生じゃないんだった。
枕元で鳴りやまぬ目覚ましのスイッチを切り、時間に目をやる。
もう、起きなきゃ。
一人暮らしを始めて1ヶ月、ようやく自立した社会人の生活に慣れてきたころだ。
仕事も忙しいけどやりがいがあって、毎日が充実している。
わずか25分で素早く支度を終え、カバンを持ち玄関のドアに手をかけた。
ふと、今日の夢が脳裏をよぎる。
はあ、とため息をついて、消え入るような声で呟く。
「行ってきます。」




