聖女降臨4
宰相が戻って来ると結婚式の日取りと領地の件が話された。
「それでは、陛下並びに王太子殿下よりのお言葉である」
堅苦しい言葉から始まった宰相の話では、優希のあちらの名前から家名を頂くとかでワカヤ公爵とする事。
ーーー多分濁点が良く聞き取れなかったのかもしれない。
「素敵な家名をありがとうございます」
領地は北の大地で、税金が取れれば全てワカヤ公爵家の取り分とする。
国には一切税金を修めなくても良い。
ただし、税金が取れなくても国は何も助成しない。
ーーーあそこは蛮族やら獣族やら竜やらと、税収が上がってきた事がない地域だ。
つまり、それらから税金を回収出来るものならしてみろ。
それが嫌なら自給自足しろ。
そう言う事だ。
「本当に税金を国に納めなくて良いのですか?」
「はい。ただし、国王陛下より前領主へ領主交代の書類を勇者様御自らお渡し願えればと思います」
えっ?
前領主?
「分かりました。では、私からその書状をお渡し致しましょう。お相手のプロフィール等詳しく教えて頂ければと思います」
確か、500年位前に降臨されたドラゴンが未だに領主を勤めていたような……。
「手土産は何が良いでしょうか?あぁ、生憎私はこの国の通貨を持っておりませんでした」
そう言って優希は困ったように宰相を見た。
困ったことってそこなの?
「大丈夫です。領地経営の資金や生活費は援助出来ませんが、新領地に赴くまでの支度金と旅費位は出しますよ」
宰相はそう言って微笑んだ。
きっと、死地への旅立ちの費用……もしくは厄介払いの費用と思っているんだろう。
だって、伝説で聞いたドラゴンはとても気位が高くて人間を虫けら扱いしたらしいから。
北の大地は体の良いドラゴンの狩り場?もしくは生きる餌が動く籠?なのだろう。
お兄様は勇者様共々私を葬るつもりなんだ。
もともと兄と言う人は情や愛なんてない。
有るのは欲と権力への渇望。
本当に勇者様には申し訳ない。
そして、最後に婚姻は3日後と宣言された。
式が終了し次第領地に旅立つように。
ーーーそれって体の良い厄介払い?
そして、宰相は近くにいた侍従を呼ぶと仰々しい箱から二つの腕輪を出すとそれらをテーブルの上に置いた。
「姫はもう16になりますので、この国では成人とされておられます。勇者殿、どうぞ今夜は夫婦の契りをお願い致します」
そう言って宰相は優希を見ると人の悪い笑みを見せた。
「お楽しみの時間は長い方が良いでしょう。直ぐに。晩餐を部屋へ運びます。また、姫様は明日の予定は全てキャンセル致しましたのでごゆっくりなされるように。勇者様は結婚式の衣装を合わせますので明日の午後にはお迎えに参ります故、それまでどうぞお楽しみ下さい」
そうして宰相は嗤う。
何とも下卑た笑いだ。
反吐が出る。
優希もこんなに爽やかそうだけど、こんな男どもと同じで獣なのだろうか?
「では、アリエル姫。首尾良くお願い致しますよ。王太子殿下もくれぐれもと申しております故に」
宰相のその一言に背筋が冷えた。
「はい。お兄様のご期待に添えるよう頑張りますわ」
おほほほほ……と、扇で口元を隠しながら微笑む。
「それではお邪魔虫は退散します。後は若い人だけで」
宰相はそう言うと近くにいた侍女に晩餐の手配を頼み部屋を後にした。
部屋付きの侍女は直ぐに準備する事を伝えると、急ぎ部屋を退出する。
「多分一時間位は帰って来ないわ」
私はそう言うとテーブルの上に置かれた腕輪を手に取りため息を吐いた。
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