聖女降臨13
聖女様……。
その言葉に昨夜の騒動を知っている侍女達はカタカタと震えだした。
何せ、婚約者候補筆頭と言われていたこの国の二人の公爵令嬢が王太子の寝室へ乱入。
言い合いになり、近くにあった王太子の剣で二人で殺し合ったらしく。
その寝室は血飛沫で凄い惨状だったそうな。
あまりにもの出来事に聖女様は失神。
気を失った聖女様を抱き上げた王太子殿下は怒り浸透で、連帯責任として二人の家の爵位を取り上げられた。
「自分が王妃だと叫んで寝室まで入った挙げ句、王太子の部屋で殺生事とは、爵位を剥奪されるだけで済む事を有り難く思え」
ギラギラとした眼差しで王太子殿下は宰相を呼びつけてそう仰られたそうな。
その後、王宮で一番贅を凝らした客室へ聖女様をお連れになったとか。
でも、多分二人の公爵令嬢を斬ったのは間違いなくお兄様だ。
だって、その二人のご令嬢とお兄様は既に肉体関係にあったからだ。
きっと、自分こそは王妃になれると本気で信じていたに違いない。
国民はオブラートに包まれた紳士の鏡のような王太子しか知らない。
けど、この王宮では殆どの使用人達が知っている。
王太子の逆鱗に触れた者は死ぬと。
「聖女様のお手を煩わせる訳には行きません。優希様。どうか、決して聖女様はお呼びにならないようお願い致します」
切実にそう訴え掛ける侍女に
「判った。そうするね」
と、何も知らない優希はニコリと侍女へ微笑んだ。
「じゃあ、朝食をお願い出来るかな?もうお腹がペコペコで」
ペロッと舌を出す優希に先程まで顔を青くしていた侍女達が「では急いで」と直ぐ様行動に移した。
「そう言えば、昨夜の果物がとても美味しかったな」
優希は忘れずにリクエストをする。
「給りました」
「果物は大好きだから、異世界の色々な果物が食べてみたいな」
にこやかに微笑む優希に侍女達はコクコクと頷く。
「急いでもって参ります」
そう言って朝から昨夜と変わらぬ量の食事が運ばれたのだった。
☆☆☆☆☆☆☆
後日談
宰相の部屋。
書類の決済をしている時に……
「やっと勇者様と姫様が旅立ったか……色々持たせたから後から何かを催促される事はないだろう……ん?」
何せ、あの聖女様と勇者様を鉢合わせにする訳にはいかない。
何せ、やっと落ち着いた聖女様が再び勇者様に熱を上げてはこちらがたまったものではない。
「色々箔もつけたから大丈夫だろう」
これで厄介事が一つ解決したとホッと息をついた。
ヒラリと目に止まった書類。
そこには、食材の請求書が並んでいた。
「たった5日間で王宮全体の一月分の食費が……」
ありえない注文表に金額。
思わず沈黙が流れた。
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