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まっしろ家族計画  作者: 黙示
8/13

あおい話

 緋宮さんに呼び出されて、本邸の玄関に向かった。

本邸の前には引っ越しトラックが停まっていた。

今日から本当にここに人が越してくるんだなあ。

緋宮さんは引っ越し業者の人を誘導した。トラックは別邸の方に走っていった。


「今日から一緒に暮らす人たちは皆別邸の一階の部屋に住んでもらうことになってるから」

「はい」


俺の部屋があるところだ。

後から別の軽自動車がやって来た。

降りてきたのは俺と同じくらいの年の男だった。

目が吊っていて耳には小さなピアスがついている。ちょっと怖い感じの人だ。

その人は緋宮さんの目の前に歩いていって、目付き悪く見上げた。


「よろしく」


緋宮さんがお辞儀すると、男もお辞儀した。


「よろしくお願いしまーす。部屋貸してくれんならあと半年早く言って欲しかったけどな。そしたら寮の更新料とられなかったのに」

「ごめん。今思い付いたものだから」

「ま、いいけど。ちょっと遠くなるけどここのが快適だし、タダだし。飯3食ついてるし」


そう言って男は笑った。

なんだ、あんまり怖くない。


「そっちの人が別の同居人?」


男が俺を見て言った。緋宮さんが頷く。


「末代真白です。よろしくお願いします」

「要の従兄弟の青扇岬霞(おうぎみさか)です。よろしくお願いします」


俺たちもお辞儀し合う。


「今部屋に荷物を運んでもらってるからお茶でも飲んで待とう」

「いや、いーや。俺部屋の整理手伝ってくる。終わった後にもらうわ」

「そう」


緋宮さんが俺の肩に手を置いて耳打ちした。


「岬霞君の部屋は真白の隣だ。案内してくれるかい?」

「はい」

「僕はお茶を準備してるから」

「わかりました」


俺は先に別邸の方に歩いていた青扇さんに並んだ。


「案内します」

「ありがとうございます」


青扇さんはコクッと首を曲げた。


「あのー、俺高2なんですけど、そっちは?」

「高1です。留年確定ですけど」

「なんだ一個下じゃん。大人っぽいからてっきり上かと思った」

「大人っぽいですか?はじめて言われました」


俺は背が低い方だ。

だから実年齢より高く見られることなんてなかった。


「敬語やだなー」

「えと......」

「一個違いだし、これからは家族なんだし。タメ口でいこうぜ」


積極的な人だな。


「はあ、うん」

「ははは。嫌そう」


別邸に着く。

トラックから人が出たり入ったりしていた。


「こっち」


俺が案内しなくても、業者さんがひっきりなしに出入りしている部屋はすぐに目についた。


「俺の部屋ここ」

「へー。隣じゃん。よろしくお隣さん」


青扇さんは部屋に入っていった。

もう家具は大体配置されていて、今は段ボールが運び込まれていた。

青扇さんは段ボールを仕分けていく。


「俺も手伝う」

「サンキュー。んじゃそれそっちに置いて」


俺は青扇さんが言う通り段ボールを運んだ。

全ての荷物を運び終え、業者さんは帰っていった。

静かになった部屋で青扇さんは荷解きを始めた。


「まだ手伝ってくれる?」

「うん」

「んじゃそれ開けて」


青扇さんが大きな段ボールを指差した。

俺がそれを開けている間に青扇さんはドアを閉めた。

段ボールの中には教科書や漫画などの本類が入っていた。


「そっちの本棚」

「うん」


俺は本を運んでいく。

段ボールの中身が減ってくると、底に今までと違う向きで、まるで隠すように入れられた本が出てきた。

明るい色合い。なんとなく何か分かった。

エロ本だ。

俺はなるべく気づいてないフリをして、本棚の端に隠すようにそれを挟んだ。


「終わった」


俺は段ボールを潰しながら言った。

青扇さんは弾かれたように顔を上げた。そして首をかしげる。


「あれ?その箱じゃなかったっけか」


青扇さんは目付きを悪くして棚を眺めた。


「あ、あった」


青扇さんは端に入れたエロ本を見つけて出した。


「へー。俺に気ィ遣ってくれたんだ」


青扇さんは笑って俺の首に腕を回す。

俺の顔の前でエロ本を振る。

俺は顔を背けた。

なんだこの人。


「ちゃんと見ろよ」


面白がった言い方だった。


「おーい。ほら、なんも書いてないからさ」


え?

前を見る。エロ本の中身は白紙だった。

カッと顔が熱くなった。


「あはははは。可愛いじゃんお前」


青扇さんは俺の頭をわしゃわしゃと撫でた。

俺は青扇さんを押し退けて腕から逃れる。


「これ反応見る用。ホントは要に仕掛けてやろうと思ってたんだけどな」


俺苦手だこの人。


「苦手、みたいな顔してるな。ははは。俺可愛いって思ったら言っちゃうんだよなー。男でも」


俺はゆっくり出口に向かう。


「まあ気にすんな。挨拶挨拶」


青扇さんは俺の腕を引っ張ってベッドに座らせた。


「ついでに俺の恋愛相談乗ってくれる?」


青扇さんは俺の返事を聞かずに話し始めた。


「俺最近同じクラスの奴に告白されたんだけどさー」


青扇さんは俺の顔を覗き込む。


「はあ」

「因みに男子校な」

「え......」

「加えてそいつ寮の同室なんだわ」


あ、だからここに来たのか?


「いやー、どうしたらいいんでしょうねー」


青扇さんは俺の意見を催促するために見つめてくる。


「その人のこと好きじゃないんですよね」

「うん」

「じゃあ、断るしかないんじゃないですか......」

「適当だな」


だって俺その人のこと知らないし、青扇さんとの関係知らないし。

そもそも青扇さんのこと知らないし。


「告白されたくないなら可愛いとか言うの止めた方がいいですよ」

「え?何?ドキッとした?」

「する人もいるんじゃないかってことです」

「ははは。褒められてんの?これ。嬉しい。あははは」


青扇さんは一見怖そうな顔を緩めて笑う。

男にも女にもモテそうだな。わかる。


「でも顔が可愛いんだよなー」

「そういう理由は不誠実じゃないですか。相手は、こう、性別の壁をこう、乗り越えて言葉にしたわけですし」

「え、重」


最低だな。


「そんなんじゃないよ。男子校ってそんなもんなんだよ。俺しかいなかったから俺になっただけなんだよ」

「そう思ってるならスパッとフればいいじゃないですか」


青扇さんは目を細めた。目付きが悪くなる。


「ホントだな」


青扇さんは何やら考え込むように前を見つめた。

俺の頭に手を乗せる。

青扇さんの方を睨むが気づかない。

無意識なのか。癖なのかもしれない。


「うーん、話したらスッキリしたような余計もやもやしたような」


青扇さんは俺の頭を掻き乱した。


「あーあ。これもお前の反応を見るためのやつだったのになーっ」

「そうだったんですか」

「まあ実話だけど。現在進行形で。真白はさあ、男同士の恋愛はどう思う?」

「......お互いが良ければいいんじゃないかと」

「他人事だな」

「そうですね」

「.......あと敬語になってる」

「すみませ、ごめん」

「ははは。嫌そう」


同性同士の恋愛、か。偏見はないつもりだけど......そういう言い方してる時点でやっぱ他人事なんだろうな。

というか女性とも付き合ったことないし。俺に恋愛とか語る筋合いはきっとない。

でも、本当に男子校ってそういうのあるんだな。面白い世界だな。


「手伝ってくれてサンキュー。これからよろしくな」

「よろしくお願いします」


この人とはあまり仲良くなれない気がした。

俺はお辞儀をして部屋を出た。

最後にチラッと目に入ったタバコは、見なかったことにする。

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