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まっしろ家族計画  作者: 黙示
7/13

レッツ家族クッキング

 俺が緋宮家で目覚めてから一週間。すっかり生活リズムが出来上がっていた。

朝、6時に起きて廊下を掃除する。掃除を終わらせ、8時に食堂で朝食を食べる。

その後はダラダラする。

今日は何しようか。

朝食を食べ終えた俺はベッドの上でごろごろしていた。

そういえば棚に漫画とかあったな。

俺は棚に並んだ本たちを眺める。


「あ、これ」


声をあげると、伊賀が隣に来た。


「『頑張れ戦一君!』だ!オレ読んでたなー」


そこには『頑張れ戦一君!』と背表紙に書かれた漫画本が一列に並んでいた。それは、光が一巻目を貸してくれた漫画だった。

最後の35巻に最終巻と書かれていた。

全巻揃ってる。

俺は一巻目を手に取った。


「この漫画面白いのでオススメですよ。主人公の戦一君が世界平和のために旅するんですけど、あ!これはネタバレになるから言えないけど、戦一君のお父さんが実は凄いんです!」

「へえ」


じゃあ今日はこれ読む日にしようかな。

俺は漫画を棚に戻した。


「え!?読まないんですか!?読んでほしいなあ。面白いんだけどなあ」

「読むよ」


不思議そうな顔をする伊賀を尻目に、俺は鞄から漫画を出した。


「友達に借りてたのがあるからそっち読むだけ」

「そうだったんすね」


俺はベッドに寝転んで『頑張れ戦一君!』を読んだ。

脇で伊賀がいちいち「どうですか?」とか「あっそこ!」とか言ってくるのがなけれな泣いていたかもしれない。結構ガッツリ深いストーリーだった。

続きが気になる。

俺は一巻目を読み終えると続きを取ろうと起き上がった。


「ご主人様」


伊賀が俺を制止させる。

伊賀はドヤ顔でベッドを指差した。

知らない間に続きの巻が積んで置いてあった。


「さすが」

「フフン。ご主人様なら戦一君の勇姿を最後まで見届けてくれると信じてましたよ」


俺は夢中で続きを読みふけった。

昼食の時間になったことを伊賀が知らせる。

切りがいいところまで読んでしまいたい、と思ったが緋宮さんを待たせるわけにはいかなかった。


「どこまでいきました?」

「まだ4巻しか読んでない」

「と、いうと、戦一君のお姉ちゃんが死んじゃったところですね」


え?死ぬの?


「まだそこまでいってない」

「うわーすいませんやっちゃった!」

「伊賀は口軽いな。俺が読み終わるまで戦一君の話禁止」

「ええ。嫌です」

「俺ネタバレされたくないから」

「じゃあ早く読み終わってくださいね!そんで、語らいましょう!」

「うん」

「オレも読み返そ」


 食堂に着くと、既に緋宮さんは食卓について待っていた。

8人用の長テーブルの端に向かい合って座る。


「待たせてすみません」

「いいよ」


緋宮さんは優しく笑った。

緋宮さんはいつも俺と一緒に食べようとする。先に食べてればいいのに。

一緒に手を合わせて、一緒にいただきますを言う。

今日の昼食はオムライスだ。デミグラスソースがかかってる。卵は半熟。


「美味しいです」

「よかった」


ご飯部分はバターライスだった。

俺はケチャップライスがあまり好きじゃないから嬉しい。

 俺が最後の一口を食べようとしたとき、緋宮さんは既に食べ終えていた。

俺が食べるところを見て待っている。

先に行けばいいのに。


「ごちそうさま」


一緒に手を合わせて、一緒に言った。

じゃあ、と席を立とうとした時、緋宮さんが俺を呼び止めた。


「このあと時間ある?」

「はい」


毎日ずーっと家にいるんだから聞かなくてもわかると思うけど。


「実は今からクッキーを焼こうと思ってるんだ。真白も一緒に作らない?」

「え?ああ、はい。作ります」


クッキングとかするんだ緋宮さん。

 俺は入ったことが無かった、台所に入った。

料亭の台所みたいに広くて、銀色で、大きな冷蔵庫があった。

緋宮さんに渡されたエプロンをする。緋宮さんとお揃いだ。

緋宮さんがエプロンをすると、優しさが10倍増したみたいに見える。子供あやすのとか似合いそう。

緋宮さんは何も見ずに道具や材料を揃えていく。

レシピ覚えてるんだ。すごい。

俺は緋宮さんに指示された場所からボウルとか、小麦粉とかを持ってきて机に並べた。


「じゃあ小麦粉をふるってボウルに入れて」

「はい」


取っ手がついていて、ひくと勝手にふるってくれるふるいだった。

カシャンカシャンステンレスの音がする。面白い。


「何味にする?抹茶とか、ココアとか、蜂蜜とかもあるし、ここにあるものだったら変わり種を作っても面白いね」


シンプルにプレーンがいいかな。

でも折角材料があるならいろいろ作りたいかも。


「冷蔵庫見てみる?」

「はい」


俺は大きな冷蔵庫を開けた。

中には調味料とか肉とか野菜とかがびっしり入っていた。


「あ、これどうですか」


俺はチーズを掲げた。

緋宮さんは笑って「面白そうだね」と言った。

棚には胡桃等のナッツ類があったので、それも混ぜることにした。

ボウルに材料を入れてゴムベラで混ぜる。


「俺こういうの作るの始めてかも」

「そうなのかい」


ゴムベラが重い。生地作るのって結構重労働なんだ。

腕を上げるのに苦戦していると、緋宮さんが後ろに立って俺の手に手を添えた。

俺の手と一緒にゴムベラを握る。


「ここは真白の家なんだから、これからはキッチンだって自由に使っていいからね」


ぐいっ腕が引っ張られて、ゴムベラがボウルの中を旋回する。

生地がどんどん混ざっていった。


「あ、りがとうございます......」


緋宮さんの大きな体に包まれて、俺はなんだか暖かくなった。

混ざった生地を5等分して、4つを抹茶、ココア、蜂蜜、チーズとそれぞれ混ぜた。いつのまにか余熱されていたオーブンで15分焼いた。

鉄板をミトンで掴んでオーブンから引き出したとき、焼き上がったクッキーの匂いと熱がむわっと立ち込めて幸せな気分になった。


「美味しそうだ」


緋宮さんが目を細めた。

緋宮さんも俺と同じように幸せな気分になってくれていると思うと、もっと嬉しくなった。

クッキーを2つの皿に分ける。

緋宮さんがチーズクッキーをつまんだ。


「うん。美味しい」

「よかった」

「真白も食べてみて」


そう言うと、緋宮さんは自分の皿からチーズクッキーを掴んで俺の口元にもってきた。


「いいですよ。自分の食べます」

「いいから」


俺は口を開ける。

クッキーが俺の口の中に入った。


「おいひいです」

「うん」


緋宮さんはニコリと笑った。

俺たちは片付けを終えて台所を出た。


「真白」

「はい」

「明日からこの家に僕たちの親戚が住むことになったから」

「親戚?」

「そう。空いてる部屋が沢山あるから必要な人に使ってもらおうと思って、貸すことにしたんだ。新しい家族が増えるんだよ。真白も仲良くしてくれると嬉しい」

「わかりました」


緋宮さんは俺の返事を聞いて満足そうに部屋に歩いていった。

新しい家族かあ。

緋宮さんは家族増やしたがりなのか?

 食べながら歩いていたら、部屋に着くまでにクッキーが半分になっていた。


「おかえりなさいませ」


会釈する伊賀にクッキーの皿を押し付ける。


「遅かったですね......どうしたんですかこれ?」

「つくった」

「へえ。凄い。くれるんですか?」

「うん」

「やったー!ありがとうございます」


伊賀はクッキーを机に置いた。


「今は勤務中なんで後でいただきます」

「あっそ」


もう15時か。

俺はベッドに座った。

クッキングいいな。いつのまにか時間経ってるし、楽しいし、美味しいし。今度ケーキとか作ってみようかな。

芳ばしい香りが部屋に広がる。

緋宮さんは俺を部屋から出そうとしたんだろうな。台所だけじゃなくて、この家全部、俺も使っていいんだって、伝えたかったんだろうな。

家族になろうとしてくれてるんだな。

心が暖かくなった。

ちゃんとした父親がいたら、こんな感じだったのかな。


「緋宮さんって優しいよな」

「そうですね」


心の声が漏れていたらしい。伊賀が返事をした。


「でもスキンシップ激しいよな」

「そうですか?」

「うん」


俺は机の上に置かれたクッキーを掴むと、伊賀の口元に突きだした。伊賀はあーんと大口を開けた。

俺はその中にクッキーを放る。


「うまいです!」


次に伊賀の手を握る。

伊賀はブンブンと腕を振ると、


「握手ですか?」


と笑った。


「うん」


普通はこんなもんか。俺が気にしすぎなのか。

家族なら、こんなもんか。

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