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75 新入部員歓迎会。とある1年生の視点

夢と希望を――

 学校のグラウンドから少しだけ離れた場所にある、野球部専用グラウンド。その場所に、他の野球部入部希望者と同じように。俺こと、芹沢 純一 は、時間に遅れずやってきた。

 ――まだ少しだけ『俺』という呼称には慣れない気もするけど、高校生にもなって『僕』というのも恥ずかしいし、すぐに慣れるはずだ。……今日から、俺は本当に変わる。あの、憧れの弘前高校野球部で、野球部員として。大好きな野球をして、高校球児の夢の場所――甲子園の、フェンスの向こう側へと足を踏み入れる。それを目指して、高校生活を送るんだ。


 土曜日の午後、新入部員歓迎会の当日。事前に説明されていたが、今日この場所に来て、正式に野球部への入部を受理される事になっている。周囲を見渡せば、同じように弘高ジャージの上下に身を包んだ仲間が……自分を合わせて13人。女子が4人混ざっている。マネージャーが4人、という事だろうか。女子の中でも1人だけ、ショートヘアの長身の子が一際目立っている。他の女子より頭一つ分、身長が高い。バレー部やバスケ部のエースプレイヤーみたいな感じだ。みんな可愛いけど、あの子だけクール美女的な、他人を寄せ付けないような雰囲気を感じる。ボーイッシュな風貌ではあるものの一目で女子と分かるのは、綺麗に整った顔立ちと、そして胸部の突き出たボリュームのせいだ。凄い。

 あと、電球のようなツルツル頭の坊主が(当然ながら男子だ)1人混ざっていた。野球部だからといって気合い入りすぎな気もする。覚えを良くする工作なんだろうか。


 他には……フェンスの外のギャラリーが凄い、気がする。弘前高校の生徒はもちろん、他校の生徒も含めた学生が大勢居る。学生以外も一般のお客さん?らしき人達がいるし、中には手帳やノートを手にしている人もチラホラと見える。そして、かなりの人数になるが、大型ビデオカメラやスマホを手に動画を撮っているようだし、首からカードを下げた人が何人か、野球部の先輩に話をしていた所も見た。もしかしてスポーツ記者だろうか。

 俺は今までの人生で、何かの賞を取って教室の教壇で表彰状を受け取った事すら無い。ここまでの人間に注目された事も無いし、スポーツ記者が近くに居るという経験なども、当然ながら無い。緊張の汗で手が湿る。もちろん、自分が観客からの注目をすべて集めているわけでもない、という事は理屈で分かっているつもりだけれど……まるで自分が全ての人に品定めされているように感じて。手に、額に、背中に冷や汗が流れ浮かび、鼓動がどんどん早くなる気がする。今更ながらに、弘前高校野球部というものが、どれだけ注目されているのかを実感した。


 ……と、観客から『おお――』と歓声が上がる。理由はすぐに分かった。


「13人か。……ふむ。つまり、選手18人。マネージャー4人ね」

「選手はピッタリの人数と。頑張って鍛えられてもらおうかな」


 生徒総会で、入部希望者面接で、そして今回で見るのは3度目になる、あの生きた伝説、KYコンビを先頭にして、野球部の先輩達が俺達に近づいてきていた。去年の夏の甲子園で数々の伝説を打ち立てた伝説の世代。甲子園大会記録、有数のタイトルホルダーが、弘前高校野球部の練習着を着て、目の前にいる。観客の視線による緊張感も加えて、もう精神的に限界近い。トイレ行って来て良かったとホントに思う。


「よくぞ集まった!!わが精鋭たちよ!!」

 腕を組んだ山崎先輩の言葉。姿勢を正して次の言葉を待つ俺達。


「……リアクションが無い」

「だからネットで聞きかじったネタを思いつきでやるなと日頃から」

 山崎先輩と北島先輩が何やら言っている。もしかしてさっきのは笑いを取るための何かのネタだったのだろうか。リアクションを返せていたら心証が良くなったんだろうか。後で調べよう、と思った。


「……それはともかく、平塚監督、お願いします」

 山崎先輩に代わって、あの『静かなる知将』平塚監督が前に出た。緊張する。


「私が監督兼務の責任教師、平塚だ。新入部員の皆を歓迎する。直接的な指導は君達の先輩が行う事になるが、何か困った事があればすぐに言ってくれ。ウチの野球部は、あくまで学生スポーツ、部活動としての活動を基本としている。試合で勝てるようになるための練習は真剣に行うが、そのために他の全てを犠牲にしろとは言わない。最終的には君達自身の決断が行動を決めるのだ、という事を忘れないで欲しい。楽しく野球をしよう」

「「「ありがとうございました!!」」」

「「「ありがとうございましたぁ!!」」」

 先輩に続き、監督に礼をする……もういいかな、と少し周囲を窺いつつ頭を上げた。


「さーて。それでは改めて。あたしが副部長の、山崎よ。さっそく弘高野球部伝統の、新入部員歓迎会を始めましょうか」

 ふっふっふ。と笑う山崎先輩。どんな歓迎会なのかと、緊張に喉が鳴る。


 監督は温厚な人格者だという話だし、地獄のシゴキは無いと思う……けど、甲子園の決勝まで勝ち進んだ野球部の練習が温いはずも無いだろう。『歓迎会』という名の、新人への洗礼。それはきっと、今後の評価への第一歩に違いない。俺の弘前高校野球部の生活、真剣勝負は、今この瞬間から始まるに違いないのだ――


「マネージャーはさっそく、今井マネについてマネージャー業務の研修開始よ。そして残りの選手希望1年は隣の奴とジャンケン!!勝ったら1塁側、負けたら3塁側へ行きなさい。はい、スタート!!」

 パン、と山崎先輩が手を打ち鳴らす。


「「「……は、はい!!」」」

 お互いに顔を見合わせつつ、相手を見繕ってジャンケンをしていく。ちょうど10人なので、5人ずつが1塁側と3塁側に分かれていった。……今更に気づいたが、女子が1人混ざっていた。どうやら女子選手が1人いたらしい。あの長身の女子だった。


「それではこれから、皆さんには紅白戦を行ってもらいます!!とりあえずの実力を見ないと指導方針も決められないしね!!とりあえず試合。楽しいでしょ?」

 腕を組んで笑顔を見せる山崎先輩。と、俺の近くに居た例の電球坊主が、手を挙げた。


「質問があります。5人ずつしか居ませんけど、守備の時は?」

「あらやだ。決まってるじゃない。守備も攻撃も――」

 まさか草野球の透明ランナー制度とか、守備位置自由とかじゃ……


「あたし達が助っ人するのよ!!」

 その声を合図に、先輩達が1塁側と3塁側へと走り出して、俺達ジャージ1年と合流した。


「いやー、ホント良かったわ。今まで人数が足りなくて、紅白戦ができなかったんだよ」

 などと言いつつ、先輩の一人が電球坊主の肩をポンポン叩いていた。

「とりあえずお前らの事は何も知らないから、出来る事も出来ない事も全部言ってくれよな。紅白戦とはいえ試合だから、勝つつもりでやるぞ。得意な事があれば作戦に採用するかも知れねーからすぐに言えよ。ああ、俺は3年の古市。よろしくな」

 俺は古市先輩に捕まり、強引に肩を組まれていた。


「ところで、お前らの得意な守備位置は?作戦時間10分だから、早く決めねーと。あ、そこの……中島か。お前この試合のキャプテンな。とりあえずジャンケンしてこい。先攻後攻を決めるから」

「えええ」「「「ひえええええ」」」

 バント上手い奴いる?内野守備は?外野は?肩の強い奴いる?ピッチャーとキャッチャーの経験者いないの?足速い奴は?などと。矢継ぎ早に至近距離から質問が飛び、とりあえずの守備位置が決まり、先輩がルーズリーフに書いてベンチの壁に貼った。なぜか俺はファーストになっていた。そしてこっちは後攻に決まった。さっそく守備だ。


 それはそうと。向こうのチームにKYコンビが2人ともいるんだけど。圧倒的に不利なんじゃないだろうか。いや、こっちの先輩を馬鹿にする訳じゃないんだけど。せめて山崎先輩と北島先輩は別のチームにしようよ。


「――おっと。最初に言っておく事があった」

 古市先輩が、俺達1年のジャージ勢を前にして真剣な表情を作る。


「ウチの野球部では、【省略挨拶は無し】だ。こいつは今後、徹底する。俺達も去年の夏大会までに矯正したんだけどな。『あざっす』『おなしゃす』『ちーす』とか言う奴は、ベンチ人数の不足如何によらず、ベンチ入りはさせねーから注意しとけ。加えて、違反する奴には昭和時代に運動部で流行っていた、効率無視で拷問紛いのシゴキがあると思えよ」

「「「……は、はいっ!!」」」

 姿勢を正して返事を返す俺達。


「質問、よろしいですか」

 電球坊主が手を挙げていた。

「何だ?」

「なぜ『ダメなのか』と、理由があればお聞きしたいのですが」

 思わず目を剥いて電球坊主を見る。他のジャージ1年も同様だ。何だこの怖い者知らず、という目だ。運動部では先輩の言葉には質問とかしないだろ?とりあえずは。


「理由は『周囲の一般の人』から見て『見苦しいから』だよ。一般の『運動部の常識』とかは、この際関係ない。雑に見えるし、人によってはその言葉だけで不快感を持たれる。ウチは去年までは弱小の貧乏野球部。地元の皆さんの『見返りの無い支援』『好意の寄付』によって、今のような施設が使用できるようになっている。年間の消耗品代の金額だって相当なもんだ。俺達の環境は、俺達だけで支えてるもんじゃないし、当然の権利でもない。その程度の事ができなくて、『ちゃんとやっている』とか言えないんだぜ?周りの連中なんか関係ない、って言える程に裕福でも無欲でも無いしな……真剣に練習すればするほど、金がかかってくるのが学生スポーツの現実だ。好意や善意、見返りの無いサービスには、礼儀、誰にでも分かるマナーで返すのが正しい、って事だよ。普段の挨拶から出来ない奴は、必ずどこかでやらかす。家族にも友達にも、普段から弘高野球部の『普通』を徹底して、地元の皆さんにも近所の人にも、返事はちゃんと出来るようにしとけ。感謝の気持ちを表す言葉なら、なおさら省略するのは間違いだ」

「解りました。ありがとうございます」

 思いの外ちゃんとした答えが返ってきて、電球坊主が頭を下げていた。……というか、この坊主、普段から見た目どおりの態度なら、質問しなくても挨拶はできるんじゃないのかな。……もしかして、俺達全員に理解を促すために、あえて質問をしたのか……?


「日常の生活から修行、そして感謝。という事ですね」

「さすがプロだな」

 はい。いいえ見習いでございます、などと不思議な返事をする電球坊主。どういう意味なんだろうか。


『整列は省略していくわよー!!ほら早く投球練習!!』

 山崎先輩の声が聞こえた。声の方を見ると、山崎先輩がヘルメットをかぶってバットを振り上げているのが見える。


「どうやら向こうの1番バッターは山崎のようだな」

「「「うおおおおお」」」

 先輩の声に、歓声のような驚愕のような声が上がる。上げてしまう。あの生きた伝説を間近で見られるという喜び、そして自分の最初の評価判定が関わる紅白試合で、山崎先輩をバッターボックスに迎えるという動揺。どうすりゃいいんだ、どうするのが一番なんだと、考えがまとまらない。


「おーい1年。あと一つ、弘前野球部の基本。ちゃんと言っておくぞ」

「よく聞けよー」

 先輩達が皆に声をかけてきた。


「監督も言ってただろ?ウチの野球部は【野球を楽しむ事】が信条だ。久しぶりの試合、楽しもうぜ」

「今日は歓迎会だぞ。気楽にいけよ。あと強敵なんてのは全国大会には普通にいる」

「「「……は、はい……!!」」」


 確かに。俺が、俺達1年生が、どこまでやれるようになるかは分からない。だが、先輩達と目指す場所は一つ。全国大会の舞台、甲子園だ。その第一歩が、今日この場所から始まるのだ。ここにいる、甲子園の土を踏んだ先輩達といっしょに。


「あ、ところでさ。俺ら3月は色々と用事があって、練習試合もやってないんだよな。まあ練習試合って言っても出張交流戦だけど。試合は2ヶ月ぶりくらいだよ」

「お前らはどのくらいぶり?受験生だったから半年振りくらい?」

 との、先輩の言葉に。

「はい。もうすぐ1年ぶりです。全中夏大会の予選が最後でした」

「「「……………………」」」

 返事をしたのは電球坊主だけだった。もちろん俺も答えられない。


「……えーと、残りの連中は……?」

 先輩が、俺達に視線を向ける。

「…………2年半ぶりです」「……2年ぶりです」

「…………中学では試合に出てません」「……俺も同じです」「……」


 そうかあ。と、先輩が小さくつぶやく。すいません。


『まあ、なおさら楽しもうぜ!!試合やってこその野球だよな!!』

「「「……はい……」」」

 ここで明るい声を出せるのが、全国大会出場選手の強さかな、などと思う。



 その後。

 審判は攻撃側の選手が負担、2塁塁審は無し、コールドあり、ピッチャーは4回まで1年が担当する。というルールで紅白戦が開始され……まともに動けない1年生によるエラーと凡打が量産される泥試合となった。

 5回以降の先輩達が投げる時は球種の宣言をしてから投げてきたし、4回までの1年が投球する時の打席では、先輩達は1年の守備位置にしか飛ばして来なかったりと、接待でも一方的な蹂躙でもなく、打撃と守備の練習になっていた。あと山崎先輩は時々左打席に入って、セーフティバントで走っていたので、バントと盗塁への対応訓練も含まれていたが。しかしこれも2回目以降は誰もが『セーフティと盗塁』が分かっているにも関わらず防げない上に、エラーを増産する原因となった。


 1年生の俺達にとって、この紅白戦は物凄く久しぶりの試合であると同時に、初めて尽くしの経験となっていた。打撃も、守備も、実際の試合の守備位置のコンビネーションも、すべての技術が碌に身についていない事を理解するとともに、在校生と他校生の観客、地域住民の観客の好き勝手な品評と歓声に常時晒される事による、精神的な圧力。

 プレーひとつ、エラーひとつに対して、敵味方問わず先輩方からの指導が飛ぶ。罵声も怒声も否定の言葉も無かったが(観客は別だが)、他の1年のプレーと指導の言葉を間近で見て聞いて、自分はもっとうまくやろう、と思うものの上手くできないもどかしさ。基本的な、実践的な知識が無い事に対する恥ずかしさに、精神力がガリガリ削られていく。

 試合形式なので体力的な消耗は少ないが、外からの精神的な圧力と、胸の中からの精神的な圧力とで、凄まじく気力が削られる。正直……野球の試合を楽しむ余裕が無かった。

 どれほどの時間が経ったのか、試合終了の合図を聞いた時、【やっと終わった】と。ホッとしたのは俺だけじゃ無いはずだ。

 そして試合が終わって、先輩の指導のもとで一緒にグラウンド整備をして。着替えを終えた俺達は、先輩達と一緒に、鶏肉と豆の昆布煮を食べていた。場所はグラウンドの隅にある更衣室脇。即席の宴会場のような感じになっている。


「豆が足りてない人はいるー?」

「俺もう少しくれー」「米くれ米」「お茶―」

 先輩達はこれが普通だ、とばかり、賑やかに会話しながらムシャムシャやっているが、俺達1年生は静かなものだった。今日から俺は変わる、と思っていたのも束の間。現状の実力と先輩との能力差を思い知らされて、気分が落ちているのだ。


「豆の味付けはどう?あと久しぶりの試合、どうだった?」

 ふと気づくと、山崎先輩が近くに立っていた。

「あっはい、ちょうどいいです。試合は……全然ダメでした」

 ふーん、と言いつつ、豆をムシャムシャやる先輩。同じようにして、近くの1年生へと次々に『どうだった?』と聞いて回る。誰も同じような返事を返していた。


「つまり、試合を楽しむ余裕が少なかった、っていう事かなあ」

 少ないどころか全然ありませんでした。

「次はもっとうまくやります!!」

 あの長身クール系女子……清水さんが勢い良く声を出していた。


 俺の見たところ、誰も彼も同様に凡骨の集団である1年生の中で、彼女と例の電球坊主だけが抜きん出ている印象だった。先輩達には遠く及ばないが、他の1年連中とは動きが違う。少なくとも観客からの無形の圧力や、伝説の世代の先輩との試合という事で、萎縮したり緊張で体の動きが硬くなるという様子は見られなかった。舞台度胸があると言うべきなのか、精神的に強いのかもしれない。きっとレギュラーの座に一番近いのは彼らだ。……自分は無力だと、そんな事だけを実感してしまう。


「……ふむ。君らとは、本格的な練習を開始する前に、話をする必要があるみたいね」

 山崎先輩は豆をムシャムシャやりながら、そんな事を言っている。


「まあ、それはともかくとして、今日の紅白戦を終えて。ひとまず、あたしから言う事が一つだけあります。よく聞いてね?」

 何だろう、と。1年生が全員顔を上げて、山崎先輩に向き直った。技術に関する講評か、それとも意識に関する事だろうか。戦々恐々、という雰囲気が仲間の1年生から伝わってくる。俺も冷や汗が出るのと同時に、鼓動が早くなるのを感じた。正直こわい。


「弘前高校に入って、初めての紅白戦。とっても楽しかったわ!!1年生の皆、入部してくれてありがとう!!これからもずっと、よろしくね!!一緒に野球を楽しもう!!」


 ぱぁっ――と。大輪のヒマワリのような、夏の風を感じるような笑顔。……その笑顔を見て。体の中の暗く淀んだ何かが、疲れすらもが溶けて流れていくように感じた。自分の無力さに絶望感のようなものを感じていた体に、力が湧き上がってくる気がした。この先輩と一緒なら、頑張っていける、強い自分になれるんじゃないかと。そんな気持ちが。


「……素敵……」

 清水さんが何か言っていた……何を言ったんだこの女。何か目つきがおかしい。


「感謝の念を抱き、それを伝える事。とても尊い事です。有難い」

 電球坊主……安藤の言ってるのは山崎先輩の事か。それとも清水さんか。尊いって何がだ。山崎先輩の言葉の方だよな?!


 こいつら只者じゃねえ。野球云々は置いておいてだ。先輩達への尊敬と感謝の念とは別に、同期の2人への畏怖のようなものを感じ――俺の野球部1日目は終わろうとしている。仲間の1年生と、あのプレイはどうだった、今後どうしたい、みたいな事を話しながら交流し、いきなりの紅白試合で苦労した話をして、仲間と少しだけ仲良くなった気がした。

 夏の大会、地区予選が始まるまでに残り2ヶ月も無い。どう考えても公式初戦までに俺達1年生が戦力に数えられるレベルに到達できるとは思えないが、頑張っていこう。そう思った。今までの野球人生とは違う――今までの野球部とは全く違う、暖かみを感じる、この弘前高校野球部で。


 ――なお、1年連中との会話で知った事だが。電球坊主の安藤は寺の子供で、本当に見習いの坊主だった事を知った。あのスキンヘッド、てっきりファッションか行き過ぎのアピールか何かだと思っていたんだが。世の中、自分程度の頭で想像し理解できる事など、たかが知れているのだな、と。そんな事を思いつつ、その日は家路についた。『家でのトレーニングと生活上の注意点』という小冊子を眺め見ながら。


『――――訓練が、必要ね』

 そんな、一言。


 帰り際に少しだけ聞こえた、山崎先輩の言葉の意味を知るのは――もう少し後になる。この年より弘前高校野球部の伝統となる、通称【新兵訓練】と呼ばれる特訓。その記念すべき被験者集団第一群となる俺達が、山崎先輩の真の姿を見ることになるのは、約1ヶ月後のゴールデンウィークの事だ。


 今はまだ、俺達1年生は、誰も知らない。

 感謝という言葉の、本当の重みを。


打ちひしがれる思いと、湧き上がる夢と希望。本当のスタートは、これからなんだ――

……という、とある1年生の視点でした。


誤字報告機能の活用、まいどありがとうございます。前回は惜しかった。しかし過去の添削が時々届くのは困ったものやら、有難い事やら。修正が必要な箇所は適時修正していきますので、発見時は報告をお願い致します。バグ拾いは大歓迎でございます。


当面は1年生の訓練とかの話になるかと思います。公式戦を進めない以上、広義においては閑話なのかも?どうなんでしょう?更新速度はまだまだ不安定ですので、気楽に気長にお付き合いください。出来上がり次第UPしていく方向で進めたいと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] 新章もひっっっっじょーーに楽しみにしております
[一言] 打つ方はともかく、エラー続出は硬式球に慣れていないせいもあるのでは。
[一言] モブ視点担当と思われた芹沢君もおっぱい聖人やおっぱい星人と同じ素質があったなんて…
感想一覧
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