73 新年度に向けて
更新間隔が長くなると書き直しが増えますね。
「明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします」
「「「おめでとうございます。今年もよろしく」」」
冬休みが明けての新学期。野球部の部室では、引退した3年生を除く全部員が集まって新年の挨拶を交わしていた。もっとも、部の顧問教師であり、監督でもある平塚先生が居るにもかかわらず、音頭を取っているのは山崎なのだが。
「さて、松野キャプテン。彼女さんの仕事の進捗具合は?」
「いちおう形にはなってきてる。大槻マネが残してくれた引き継ぎマニュアルがあるから、あとは数をこなせば。スコアブックの記録なら、ほぼ完璧だよ」
それは良かった、とうなずく山崎。
【今井 美咲(2年)マネージャー】
新1年のマネージャー(入部してくれると信じている)に、マネージャー業務を教える人間が居ないのは問題がある、と。昨年の年末に野球部に入部してもらった今井センパイは、新キャプテンに就任した松野先輩の彼女さんだ。松野先輩が頼んだら、わりとあっさりと承諾してくれたらしい。現在は大槻センパイの残した引き継ぎマニュアルを手に、野球部の裏方の仕事を覚えてもらっている。
新体制での野球部の暫定オーダーは以下の通りである。
・川上 進二(2年)ピッチャー
・松野 康介(2年)キャッチャー(サードより転向:新キャプテン)
・竹中 真 (1年)ファースト(キャッチャー育成中)
・北島 悟 (1年)セカンド(キャッチャー兼務:主に山崎担当)
・山崎 桜 (1年)ショート(ピッチャー兼務:自称・副主将)
・古市 博昭(2年)サード(レフトより転向)
・前田 耕治(1年)ピッチャー
・西神 誠 (2年)レフト(ライトより転向)
・今井 美咲(2年)マネージャー(松野キャプテンの彼女)
なお、甲子園出場の際に【弘前高校だけ背番号が分かりづらい】との意見が一部で上がったため、スタメンの背番号は一般的な守備位置順のものとする予定である。この件に関しては山崎が文句を言うかとも思われたが、『もう気が済んだ』の一言で片付いた。
ちなみに。
今井マネが9番目に入っているのは、最後の手段として選手起用の可能性があるからである。まずありえないと思うのだが、新入生が一人も入部しなかったり、あるいは新1年の部員が入部後に全員辞めてしまったり、もしくは造反して部活に出てこなくなったりストライキを起こした場合に、2年3年だけでも試合を行えるようにするためだ。新入部員の人数が微妙な場合、今井センパイは夏大会の前までに選手登録を行う予定になっている。
言うまでもなく、このプランの発案者は山崎だ。アイツにとってマネージャーとは祭壇に捧げる生贄の子ヤギか何かの枠な気がする。今はまだ秘匿されているこの事実を、今井マネに伝える機会が来ない事を祈っている。すべては新入部員次第だ。
「さて皆さん。この場を借りて、了解を得ておきたい事があります」
「「「あ、はい」」」
山崎が何やら言い出した。
何を言い出すかは分からないが、伝えたい事は解りますよ。『提案という形の【命令】』ですよね。
「言うまでもなく、来年度の弘前高校野球部の、当面の目標は【甲子園出場】ですが……あわよくば【夏大会の優勝】を最終目標という事にします」
「「「おお――」」」
一同から歓声が上がる。今年の山崎さんはやる気だな。
「まあ、狙って必ず達成できる目標ではないから、【努力目標】という事にしておくけれど、イザという時になってジタバタしないようにね。こういうのは基本的に、『本人にその気があるかどうか』というだけの話なんだから。今まで通りに野球を楽しみつつ、予想外の成功も恐れずにいきましょう。成功を恐怖する事はないのよ?」
「「「あ、はい」」」
素直に頷く俺たち。今年は少しだけ心を強く持てるといいな。ですよね先輩。
「基本的には、新入部員の獲得と教育が必須となりますね。新1年には、【感謝の気持ち】というものを教育していきたいと思います」
「「「ちょっと待ったあ」」」
すかさず皆の視線が俺に飛んできた。
俺はサッと手を挙げると、皆を代表して質問をする。
「質問があります。新1年に、『何を』教育するんですか?」
「【世間様と御両親へと感謝する気持ち】よ。何人の新入部員が入るか分からないけど、勘違いした馬鹿の1匹や2匹は混ざり込んで来る可能性を考慮しておくべきと思うわ。我々が実績を作る前は、どんな貧乏暮らしをしていて社会的地位も低かったのか、その苦労を知らない連中に現実というものを教育してやる。この世界での、お金の価値をね!!」
やだこの人。もう二言目には金なんだもん。確かに予算が無くて練習用具も時間も場所も限られてたけど、言うほど貧乏暮らしはしてなかったと思うんだけどなあ。質素だったのは事実だけど。どこの戦中派なんだよお前は。
「別に新1年を押さえつけて服従させ、奴隷化しようというんじゃないわよ」
「それを聞いて安心したぜ」
さっきの言葉を聞いて、少しだけ心配していたんだ。
「いい意味での軍隊教育をするだけよ」
「「「意味が解らない」」」
前言撤回だ。心配になってきた。
「ウチの学校は公立で一芸入学制度も無いし、スポーツ特待枠なんかも無し。中学野球のスター選手で、かつ勉強がそこそこ出来て、その上で弘前高校を受験してくれるような、理想的で都合のいい即戦力ユニットなんか手に入らないと考えるのが当然。手に入るものを育てて使えるようにするしか無い。まっとうな軍隊の新兵訓練と同じ。実働部隊で必要とされるレベルまで鍛え上げて使うしかない、という現実がある。そういう事よ」
「思ったよりまともな考えで良かった」
人間を部品のように呼ぶところを除けばな。
「だからまずは勘違いした連中の心をへし折って」
「もっと新1年を信用しようぜ」
むぅー、と唸る山崎。
「……そうね。最悪の事態を想定しすぎている、のかも知れないわね。まぁとりあえずは、我々の心構えから見直すべきかしら」
「えーと。例えばどんな?」
俺の問いに、いつもの腕組みポーズで答える山崎。
「そうね……弘高野球部って、アットホームで皆の仲がいいじゃない?」
「それは確かに」「「いじめはありません」」
まったくその通り。ウチの野球部は最高です。
「それは【人数がギリギリ】の【弱小組織】だったからよね。誰が欠けても皆が困るし、皆が相応の仕事をしなくては、組織自体が立ち行かなくなる事を知っていたから。喜びを共有し、相手の事を自分の事として理解できる距離の近さがあったからよね?誰かを助ける事こそが自らの幸せにつながる。集団の幸せは個人の幸せ。誰かの不幸は自分の不幸に直結する、そんな組織だったわけよ。貧乏所帯の美点とも言えるわ」
山崎の言葉に、うなずく俺たち。
「さて、それでは今度の新入部員を迎える我々は、去年と同じような気持ちで新入部員を受け入れる事ができるでしょうか?あるいは、新人は我々の気持ちを解ってくれるでしょうか?……という事よ」
「「「…………」」」
ぼんやりとだが、山崎の言わんとする事が分かってきた気がする。
「去年は何もなかった。予算も、設備も、応援団も、専用グラウンドも、練習試合の機会さえも。当然ながら実績も。しかし、来年度からは違う。今までに無かった全てがある。そして、我々には【実績を作ったのは我々だ】という自負がある。これは【下級生に対して何かと偉ぶる先輩】の意識の下地になるものよね?新入部員は当然ながら昔の貧乏所帯を知らないわけだし、【これが自分たちの普通だ】と思ってしまうかも。そして良くも悪くも1歩引いた位置から接してくるだろうし、露骨に媚を売る奴もいるかもね?そんな1年相手に、去年の雰囲気を維持できるかな?」
「自戒する必要がある……」「ちょっと新1年がこわいかも」
山崎は続ける。
「あたし達、一発当てた成金みたいなもんなのよね。調子に乗ると、あっという間に身を持ち崩すのは間違いない。ヨイショするだけの太鼓持ちに乗せられると組織ごと崩壊する危険があるから、新入部員は最初に気を引き締めてやる必要があるし、だからといって慣れない体育会系ポーズを取るのも良くない。我々は我々の良さ、弘高野球部のスタイルというものを伝えられるように、意識をしっかりと持つ必要がある。弘高野球部の【伝統的スタイル】というものは、今期から形作られたものよね」
うんうん、とうなずく俺たち。
「どこかの心理学者も言ってたけど、『嬉しいと思う事を他人に行い、伝える』事、それによって『人を幸福にする事によってのみ、自分が幸福になれる』という考えもあるそうよ。弘高野球部は【楽しく野球をする】という事、【野球の楽しさを共有する】事によって、お互いを幸福にしてきた。我々が新1年に伝えるべき事、やるべき事の基本はそれ。上下関係は必要だけど、それ以上に【野球に対する意識の共有】が必要。我々が野球をする時に抱く気持ちを同じくできるようにしないといけない。我々が自然に行ってきた事を、自ずから行動できるようになってもらわないといけない。それを理不尽なく、伝え、教えられるように……という事ね。野球に対する愛。チームメイトへの愛。それが弘高野球部の、未来に伝えるべき伝統、弘高野球部クオリティではないかしら」
「「「……愛……」」」
なにやら新興宗教じみている気もするが、そんなに間違ってないかも。
「……ま、現実には飴と鞭なんだけどね。あたしが鞭になるから、キャプテンは飴で」
「「「結局はそれか」」」
どうしてコイツは綺麗な雰囲気で終われないのか。
その後、『男女の意識の違い』『女子は男子ではない』『女は灰になるまで女』『あたしが女友達から学んだ事』『本当にあった怖い話』など、彼女持ちやら婚約者持ちやらが真剣に聞き入るような男女関係の仲と人生の幸福に関する心理学的な話が続いた。ほぼ野球に関係の無い話だったが、人生やら野球部やらに応用できなくもないが直接は関係ないような気もする、そんな話だった。
あと、いちおう聞いてみた。
「新興宗教を立ち上げようとか、そんなつもりは無いよな?」
「やだー。やめてよ。あたし野球大好きっ子だけど、別に『野球で世界が平和になる』とか『野球に関われば全ての人が真の愛を知る事ができる』とか、そこまで頭の中にヒマワリ畑が生えてないわよー。真摯に野球に向き合えるかどうか、っていう事と、野球をとりあえずプレイできるかどうか、野球観戦ができるかどうか、っていう事は別だし。そもそも野球で世界を平和にするつもりなら、国技を野球にする所から始めないとダメじゃないの?野球で世界を平和にするつもりなら、野球教団とか作るより文部大臣とかを目指すべきじゃないかなー。道徳の授業を強化すべきよねぇ。そもそも野球部の部内で暴力事件が起きる事がすでに問題なのであってね?強い野球部を作るよりもまずはそこが」
よし分かった。そこら辺にしておけ。一部の人への攻撃になりかねないから。
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「ま、新1年の手前、もっと技量を磨いておかなきゃならない訳だし。春までの間に、少しくらいは特訓しておきましょうか」
「「「特訓、ですか……」」」
なにやら不穏な響きがある。殺人トレーニングとかじゃないですよね?
「捕手担当のメンバーは捕手の仕事ができるように頑張ってもらうのは当然として、基本は守備練習のウエイトを増やす事ね。とりあえず廃棄予定の旧式のバットを使って高速ノックの守備練習。あとは守備に必要な脳神経回路を形成する基礎トレとか、狙った場所に打てる訓練を兼ねた、安定した長打力養成のための打撃訓練とかかな?」
「……廃棄寸前のって……まさか」
「今年は暖冬だから、バケツに氷かな」
「マジで氷バットか」
前世紀の氷バットときたか。
「……北島。『氷バット』って、何?」
松野キャプテンが聞いてきた。やはり知らない人は知らないか。
「現在は【試合中にやるのは禁止】されている、金属バットの反発力を増すための工作ですよ。金属バットは冷やすと反発力が少し増すらしくて……打球の球速が速くなるみたいなんですよ。その代わりに弾性が落ちるんで、バットがすぐに壊れるみたいなんですけど」
最近のバットでも使用できる裏技なのかどうかは、解りませんけどね。と付け加える。氷バットの使用が禁止されてからしばらく経つし、バットの構造もだいぶ変わってきたみたいだし。
「ちなみに野球部の備品倉庫の中から、伝説の【魔法の杖】が出てきたわ」
「完全に危険物の骨董品じゃねーか」
山崎の言う【魔法の杖】とは、かつて某スポーツメーカーが発売し、超爆裂級のヒットで売りまくった金属バットの通称で、『当てればとにかく飛ぶ』という伝説の製品だ。
反発力の制限もバットの直径も現在とは違う、かなり昔の商品のはずなので、耐用年数はとっくの昔に過ぎ去っているはずだ。魔法の氷バットなんぞ作って山崎が打った日には、一撃で割れる可能性があるんじゃなかろうか。
あと、金属音がでかくて甲高いため、審判とキャッチャーが難聴になる危険があるって問題になった時代のやつだから、場合によっては近所から騒音の苦情が来るぞ。
「ちなみに、専用グラウンドの造成と安全強度の確認などは、最終段階に入っています。もうあと1週間もすれば、使用可能になる予定よ」
「「「おおお――――」」」
これはうれしい情報である。
専用グラウンドを使いたい放題。学校のグラウンドの区分け使用での狭いエリアを使用しての練習、時間割り当ての制限時間つき練習とも、これでおさらば。もちろん、夏大会以降に運動部カーストの頂点に上った野球部がグラウンドから居なくなってグラウンドの割り当てが増えるという事は、他の屋外競技系運動部からも歓迎される事だろう。専用グラウンドには狭いながらも駐車場もあったし、時々やって来る高校野球記者も取材しやすくなるかもな。今までは入門証の発行にも手間がかかっていたみたいだし。
「あとは新年度の生徒総会での、部活説明会をどうするか、かな?普通にやるなら、皆で舞台に並ぶところだけど……ここはひとつ……」
「水着は却下だぞ山崎」
食い気味に平塚先生が言った。
山崎は去年の文化祭のミスコンで、ビキニの水着にヘルメットと金属バット装備という、どこをどう見ても問題しか無いような格好で水着アピールを行い、それが理由かは分からないが、結果として見事に優勝を勝ち取ったという実績(前科)がある。ちなみに……当然ながらというか、水着審査を強行した実行委員会は、生徒指導部から説教を食らって来年度イベントの自粛を勧告された。文化祭の時は実行委員会に責任があったが、野球部が生徒指導部から厳重注意を受けるような事があってはいけないのだ。
「全員が水着なら問題ないのでは?男子も今井マネも着れば……」
「ウチは野球部なんだよ!!水泳部じゃねえよ!!」
山崎の言葉にすかさず突っ込んだ。だが。
「いや、水泳部だって水着で舞台には立たねーよ」「お前の願望かよ」
「やるなら北島だけで頼む」「空気読めよ」「セクハラだぞ」
なぜか俺が皆から攻撃される形になった。何故だ。
「あたしはいいと思うよ!!水泳部の水着アピール!!ドンマイ!!」
「何かおかしい」
まるで俺が『水泳部は水着で部活説明すべき』と主張したかのような扱い。けして否定する訳ではないが、だからといって明言した訳でもない。納得いかん。個人的にはアリだと思うのではあるが。だって水泳部のユニフォームは水着だろ。それが正しくないか?
――――結局。
新年度の部活説明会は普通に皆で並んでキャプテンがスピーチする事に決まり、新入部員が入った事を前提としての新入部員歓迎会の内容とか、新年度の練習メニュー等を話し合い、本日の会議は終わったのだった。
とにもかくにも、新1年の部員次第で色々な事が決まる。期待半分、不安半分。そんな気持ちを抱きながら練習を続け、冬が過ぎ――――春を迎える。
※※※※※※※※※※※※※※※
3月31日、昼過ぎ。
ベンチに置かれたラジオから、サイレンの音と、アナウンサーの声が聞こえる。春のセンバツ甲子園、決勝戦が始まったのだ。
「――始まったようね。それじゃ、こっちも始めますか」
『そうだな』
場所は県営グラウンド。弘前高校野球部に対するは木津川グリーンラクーンズ。取材記者は無しの環境。グラウンド周辺に植えられている桜の木は満開を過ぎて、暖かくなった風に吹かれて急激に散り始めている。桜の花びらが、我々が立っているグラウンドにもチラホラと舞い散って来ていた。
そして我が方には去年の夏の甲子園の決勝を戦ったチームメンバーが全員揃っている。引退した3年生は全員が大学に無事合格して、卒業も完了。今日は完全に草野球の試合だが、事実上の3年生送別会、送り出し試合なのだ。
「ちょっと遅くなっちゃったけど、約束どおりフルメンバーの試合。レギュレーションは以前と同じく、基本は高校野球準拠。バットは金属、木製どちらも使用可能とします。そして……この試合では、野次も罵声も問題なしという、昭和の町内会対抗野球ルールを適用します!!」
『日頃のストレス発散させてもらうぞ!!叩きのめして、そのまま花見の祝勝会だ!!おい、ビールの用意はできてるだろーな!!』
ラクーンズ監督の松川さんの声に、ラクーンズのベンチの方から、うおー、という声が上がった。大人はすぐ酒だよなあ。親戚のおじさん達といっしょだよ。
「こっちも花見の準備はできてるもんね!!狸汁で宴会をしてやるわ!!」
『ウチはアライグマなんだよ!!狸扱いするんじゃねえ!!』
なんだかんだと仲いいよな、この2人。あと松川さん、俺と山崎しか知らない事実なんですが、実は狸肉は本当に用意してあるんですよ。知り合いのところから猪肉といっしょに分けてもらったんです。今日の宴会は猪肉とタヌキ肉の鍋がメインなんです。味噌煮込みにすると意外にいけるんですよ。
「さすがにベンチで飲まないでよー」
『その程度の常識は守れるわ!!そっちも卒業した連中に飲ますなよ!!』
山崎がマウンドで足元をガリガリやりながら、松川さんと会話している。
今回は俺達が後攻、そして以前と同じく、山崎が先発からスタートだ。もちろんキャッチャーは久しぶりに山田先輩がやっている。山崎の球を受けるのは、今日が最後になるだろう。
「……山田先輩。今日で、最後ですね」
『…………ああ、そうだな』
山崎がミットを構える山田先輩に話しかけている。
「――覚悟しろ!!」
『手加減しろよ山崎!!こっちは久しぶりなんだ!!』
引退してからキャッチボールくらいしかしてない先輩に、死刑宣告をしていた。
「食らえ――!!」
『ギャ――――!!』
スパァ――――ン!!
山崎の全力投球がミットに突き刺さり、山田先輩の悲鳴が響く。何やら感慨深い。
こうして俺達の、1年最後のゲームが始まった。
明日からは俺達も2年生、3年生になる。そして、新1年の新入部員を迎える事になるのだろう。この1年、山崎の野球部制圧からここまで、色々な事があった。成果を出すための練習、ピッチングマシンの導入、ラクーンズとの試合に始まり(大沢木高校の試合はノーカン)、試合に勝つ度に少しずつ有形無形の色々なものを得てきた。そして今や潤沢な資金と設備を得て、なんちゃって強豪の仲間入りをしてしまっている。人生とはまったくもって、どう転ぶか分からないものだと思う。人生を語るほどに長く生きているわけでもないと思うが、弘前高校野球部員の人生においても、この1年は特別な1年だったはずだ。
全国大会への出場を決め、決勝戦までの全日程を生き残り、国体では優勝もした。目先の成果を追い求めて楽しくやっていただけ、のような気がするのだけれど。それもこれもすべては、マウンドで容赦の無い投球を続けている暴れん坊が俺達を引っ張りまわした末の結果だ。そしてそれは、今年も来年もまだ続く。
「まだまだいくよー!!現時点での最速を食らえ!!」
『それ甲子園のときよりも速いやつか?!ちょっ待っ』
ギャー、という悲鳴が再び聞こえた。山田先輩の良い思い出になる事だろう。心理学者によってはトラウマなんか存在しない、と言うらしいし。
桜の花びらが時おり降ってくる、県営グラウンドで。
新年度もこうして楽しく野球ができるといいな、と。そんな事を考える俺だった。
更新間隔が長くなると、書き直しが多くなるのは誰でも一緒なのだろうか。それとも一部の人なのだけなのでしょうか。それはともかくとして、毎度の誤字報告機能の活用、本当に助かっております。見落とし等を発見しましたら、『また虫みつけたよ!!』という感じでよろしくお願いいたします。
年間イベントをもっと真面目にやらないのかよ、という思いもあるのですが、やりすぎると学園ものなのか野球ものなのか分からなくなるので、学校イベント的なものは可能な限り野球がらみでやっていきたいかと思いました。あくまで現在の考えなのですぐ変わるかもしれませんが。
そんな訳で、色々とスッ飛ばして新年度に入ります。季節的には先取りですが、どうせすぐ遅れるかと思うので、あんまり気にしていません。更新速度は安定しておりませんので、気長にお付き合いください。よろしくお願いします。




