64 夏の妖精との別れ
だいぶ遅れた感が。書きあがったので更新します。
【 国営放送 実況席 】
「……なんといいますか、物凄く早い展開ですね。大場高校が初回から7得点を先取したと思いきや、裏の攻撃で弘前高校が14得点で逆転ですか。しかし、上空にあんな強風が吹いているとは……弘前高校の徹底したライト打ち上げの攻撃が炸裂しました」
「……やはり、弘前の平塚監督の指示でしょうね。山崎選手の打球で確認できたら、次からはライト打ち上げを狙え、というような指示を受けていたのでは」
「2番以降、明らかにライトフライを狙っていましたね」
「それも長打コースではなく、当てて打ち上げる事だけを考えているような打球です。今の環境ならば、それが最良の打撃であると……それが最大効率の最適解だ、との判断だったのでしょう。通常であれば進塁打撃、得点圏へランナーを進める打撃や組み立てを指示するのが普通でしょうが、それはあくまでも『得点の可能性が高い』という考えが基本にあるものです。本塁打の可能性が高い状況にあるのであれば、狙わない手はないと」
「さすがの洞察力というか、観察力と言いますか。【静かなる名将】の辣腕ぶりですねえ」
「いけるかも、と見ただけで、躊躇なく決断を下せるのは中々できることではありません。無論、部員の技術で可能だったから、という事ですから、部員の能力把握も的確という事です。弘前打線の的確なミート打撃は見事でした」
「わずかな情報から最適解を導き出せるのは、さすがですね。初出場の弘前高校、躍進の一因である平塚監督、すばらしい判断でした」
「ここから先は、お互いにライト打ちの成否が肝になる、という事を考慮したプレーになるでしょう。環境自体は互いに同じ条件ですから、あとはそれをどう利用するか、という勝負、駆け引きというものになるのでしょう。右へ打たせない工夫が必要になります」
「2回以降の、大場高校と弘前高校のプレーが楽しみですね」
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――うなる高速スライダーが、右打者の外角低めへと切り込む。
『……ットライーク!!』
大場高校の打者は見逃し。球審の声も心持ち大きい。
「うっしゃ!!」
「ナイスピッチ!!」「うしろ心配すんなよ!!」「どんどんいけー!!」
マウンドの川上先輩に、仲間から威勢のいい声が飛ぶ。
1回表で7失点という目に遭い、ションボリしてベンチに戻った川上先輩の姿はもう無い。気合い充分に切れ味鋭い変化球を投げ込む、いつも以上に頼もしい先輩の姿がそこにはあった。
というか、いつもの川上先輩の姿ではない。
川上 進二(2年)。物静かで穏やかな、落ち着いた雰囲気のある先輩である。同じ投手でも3年の岡田先輩は陽気でお調子者の騒がしい雰囲気の先輩なだけに、投手としても、性格としても、対照的なイメージがある。どちらも右のスリークォーター投げの投手だが、岡田先輩は速球を軸に速いスライダーとシュートで三振を狙う速球派と呼ばれるスタイルなのに対して、川上先輩は球速よりも変化球の球種で凡打を狙う、技巧派の投手だ。
そして狙い通りに凡打を打たせても、打者を三振に仕留めたとしても、声を上げてガッツポーズを取るような事はせず、よし、と小さく口に出して頷く。そんなリアクションを取る人だ。
しかし今は、小さい動きだがガッツポーズを取り、気合いの声を出している。まるで、ベンチの真上の応援席で応援している岡田先輩の怨念が憑りついたかのようだ……などと考えると少し怖くて物悲しい気分になるので、そういうのは考えない事にする。
そもそも今現在、弘前高校野球部の面々は、少々精神状態がおかしいのだ。川上先輩に限った事ではなく、全員が何と言うか、ハイな状態にある。
「よぉし来ぉ――い!!」「最速で捕るぜ――!!」
客観的に見れば、まだ2回の表なのに、これで9イニング乗り切れるのか……と心配になる程の飛ばしよう。そのくらいに気合いが乗っている。7失点の後、すかさず14得点で挽回した事による自信なのか。周りから見れば、そんな感じに見えるだろうか。
断じて違う。
単に、早くチェンジしたいだけなのだ。……普通に考えれば、早くチェンジしたい、というのは当たり前に感じるだろう。相手の攻撃が長引くという事は、それだけ失点が増える、負ける可能性が高まる、そういう事なのだから。だが、今の弘前高校は7点のリードがある。では、この得点差を守り、9イニングを早く消化したい……そういう事だろうか。
違う。断じて違う。
俺たちは、ただ、早く攻撃したいだけなのだ。もっと正確に表現するなら、早くバットを振りたい……いや、ホームランを打ちたい。ただ、それだけである。
早く俺にバットを振らせろ。これである。
今の弘高野球部員は甲子園ホームランジャンキーとでも言うべき集団だ。この甲子園、高校野球の全国大会という舞台で。打った打球がスタンドへ運ばれていく光景、その度に湧き上がり、浴びるように降りかかる歓声。テンション高く踊り狂う仲間とハイタッチして踊り狂う一体感。それらすべてから得られる陶酔感。その刹那的な快感から離れられなくなってしまっているのである。もっと、あの喜びを得たい。あの素晴らしい瞬間を!!
ただでさえホームランなど滅多に打てない。公式戦ならばなおさら。全国大会?!そんなの不可能といってもいいくらいだ!!でも今なら打てる!!あの風が吹いている間なら。じゃあ、風はいつまで吹いているの?2回まで?3回まで?甲子園の魔物は気まぐれだ。今にも風は止んでしまうかもしれない。この時、一生に一度のこの機会を、逃してたまるものか!!さあ早く俺にバットを振らせろ!!
ホームランを打ちたい。ただその欲望を満たすためだけに、今この瞬間の、弘高野球部は存在する。山崎が邪悪な笑顔で宣言した通りに。試合を可能な限り高速処理するために、精神状態が高ぶっている。
キィーン!!
中途半端だが良い音を立てて、打球が飛ぶ。円谷選手の打球がライトに上がった。ライトの守備範囲に入った打球は、上空でスッと加速して、吸い込まれるようにしてスタンドに消えていく。歓声が上がる1塁側。大場高校の応援席が騒がしくなる。
「あー、やられた」「うまく当てたなあ」「あー、いいなあ」
「うまいねぇ。ああいう感じだよな」「気持ちよく吸われてったな」
「すばらしい」「おめでとう」「おめでとう」「いいよね、ホームラン」
塁を回る円谷選手に、弘高野球部員から拍手が送られる。グローブをはめたままでポンポンと、あるいはグローブを外してパチパチと。
「「「ナイスバッチ!!」」」
弘高ナインから賛辞の声が上がる。練習試合ならば、時たま無いこともない事だが……公式試合、それも全国大会ともなれば、本塁打を打った相手チームの打者に対して、拍手や褒め言葉などが出る事は稀だ。余程の心の余裕が無ければ出来ない行為であり、ある意味で不気味な光景とも見えなくは無い。早くバットを振りたいと思うと同時に、ホームランそのものに対する喜びを覚える、そんな精神状態。ここに敵味方の区別は無かった。
円谷選手は「あざっす」と返事をしながら塁を回っていったが、少し微妙な表情をしていたような気がする。
そしてそんな様子を見ていた3塁側の弘前応援団も、それに乗っかった。
「「「ナイバッチ!!」」」「「「いいホームラン!!」」」
わぁー。ぱーぱらっぱっぱっぱー。歓声が上がる。
打たれた側の応援団が、相手チームの打者に歓声を飛ばす。そんな不思議な光景が、今日の甲子園球場にはあった。謎の力による、少し優しい空間。それが今の甲子園だった。今ならばホームランさえ打てば、1塁側3塁側の区別なく歓声を受けられる。
キィン!!
続く万代選手も。
カキィン!!
その先のクレヴァー選手も。
「「「ナイバッチ!!」」」「「「ナイスホームラン!!」」」
全方向からの歓声を浴びながら塁を回っていった。
それに対し、打ち損なって内野ゴロやレフトフライ等に終わった選手には。
「あー」「ダメだよそこ打っちゃ」「残念」
「「「どんまい!!」」」「「「どーんまい!!」」「「「きにすんなー!!」」」
ダメ出しと慰めの言葉が弘前側から飛んでいた。
「ちなみにね。【どんまい】は和製英語みたいでね。【Don‘t Mind】と言うと、逆に相手を失意の底に突き落とすような表現になっちゃうみたいよ。どうも『オメーが失敗したって俺には関係ねーよ』みたいな感じになるみたいでねー。気にするな、って英語で言う場合、【Shake it off】って言わないとダメらしいわよ」
「そりゃ知らなんだ」
ベンチに戻りつつ山崎が豆知識的な事を言ってきた。英語の例文でそういうの出たっけ。
「さあ、飛ばせるうちに、どんどん飛ばすわよー!!」
「「「おおおお――!!」」」
待ちに待ってた出番が来たぜ。
とばかりに、嬉々として攻撃準備を始める弘高ナイン。もちろんライト打ち上げが必殺となりうる事は周知の事実であり、さっきの川上先輩の投球も、それを前提にしたものだ。できればショート方向のゴロ(山崎の守備範囲)、レフトへの打ち上げもOK(減速して凡フライになる。少なくともスタンド入りはない)。ライトへ打ち上げられたらスタンド入りするのが当然なので、これは気にするだけ無駄。低空ライナーが出たらいつも通りの結果が出るだけなので、これも気にするだけ無駄。ホームランか凡打の2択みたいなもんだと。ホームランかアウト。そのどちらか。
そういう感じの、スパッと割り切った思い切りのいい投球と守備だった。そして攻撃も同様の心積もりなので、シングルヒットで出塁するつもりの選手は、今の弘高ナインには1人もいない。全員、ライトスタンドに打ち込むか、打ち損なって内野ゴロでアウトになるかの2つに1つだと思っている。
気負いはある。だが焦りはほぼ無い。『やれた』のだ。『できる』事が証明されているのだ。であれば、あとは『上手にこなす』だけの事だ。能力以上の事も、能力ギリギリの事も要求されてはいない。そもそも、期待という名の重圧がかかっているわけではない。
自分の打球がスタンドに入る所を見たい。今はただ、それだけ。勝敗が決まる点差など、もっと後で気にすればいい。そんなものは、風が止んでから考えればいいんだよ!!と。
今この瞬間。この時間にだけ許されたプレイを時間いっぱいまで楽しむため。ただそのためだけに、弘高ナインのバットは振られた。
キィン!!
白球がライト上空へと、勢いよく上がっていく。そして――甲子園の妖精が、白球を運んでいった。……まだまだ調子よさそうじゃんか。ようし、俺もいっとくかあ!!
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【スコアボード状況】 7回裏 2アウト時点
大場 7 3 5 1 3 3 4 |26
弘前 14 3 0 3 1 4 1 |26
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【 国営放送 実況席 】
「――打ち上げた!!しかし打球に力は……与えられません!!萎れた旗が示す通り、上空はほぼ無風のようです!!アウト!!スリーアウト!!やはり、完全に風が止んだ模様です。風が止んだ状態で、8回に入ります」
「次の第2試合からは、いつもの調子でプレイして問題なさそうですね」
「ええと……現時点で、両校の合計本塁打数は45本。26対26で同点です。1回裏の弘前の攻撃から、『この試合はどうなってしまうのか?』と、思いましたが。意外に普通の試合になりましたね」
「……ええまあ、私もそう思っていますが……すでに感覚がおかしくなっていますよね、観客も含めて私たちも。『普通』とは何なのか、少し考えさせられます」
「実は私、1回裏の弘前高校の攻撃を見た後、『こりゃ1試合で合計100点いくかも』と思ってしまったんですよ。1回だけで合計21点ですからね。ですが、そうはなりませんでした。正直、少し意外です」
「そこは1回裏の状況に対して、大場高校が素早く対応したからですね。左サイドスローの小森選手をライトに下げて、右の田島選手を登板させたでしょう?そしてライト打ちをさせづらく投球を組み立てた結果、本塁打数が減ったわけです。結果としてですが、大場高校の方が本塁打数は多いですね。合計45本中、23本が大場高校のものです。場外弾なら弘前高校の方が多いですけれどね。山崎選手は6本中5本が場外弾、次が北島選手の3本、その次に円谷選手と万代選手の2本、クレヴァー選手の1本です」
「真剣勝負のホームランダービー、とでも言うべき展開ですが」
「まさに、その通りです。当たってもゴロになるように、打ち上げるにしてもライトには飛ばないように組み立てて投げる。ライトに上がればホームラン。ある意味では気楽な、ある意味では最高にスリリングな状況だったと言えます。どちらの選手がホームランを打ったとしても、両校の応援団から拍手が飛ぶとか、もう二度とないかもしれません。それと、外野守備の間にライナーを打ち込んで出塁した選手に『ドンマイ』と声がかけられる所、私は初めて見ましたよ……現状、両校ともにエラー、四死球、盗塁、すべてゼロです。選球で出塁しようとする選手もいませんでしたし、打てる間に打っておこうという気持ちからか、途中からホームランを打ってもダッシュで塁を回るようになりましたが……さすがにこの得点だと、時間がかかっていますね。気温も湿度も低いですし、投手にも守備にも、それほど負担がかかっていないので体力消耗は少なさそうですが」
「もうすぐ4時間ですからね。あと2イニングで試合が終わるとしても、第2試合は昼食を挟む事になるかも知れません。第2試合の選手はもう食事を取ってますかね?」
「それと今のうちに4試合目がナイターになる事を考えて準備するべき、ですかねぇ」
「次のイニングからは『本当に普通の試合』になると思われますが。試合展開は、どうなると思われますか?」
「試合は終盤ですし、当然ながら弘前高校は山崎選手をマウンドに送り込むでしょうね。むしろ、ここまで山崎選手がマウンドに立たなかったのが不思議なくらいです」
「弘前高校がリードを得ている間に、山崎選手を送り込まなかったのは何故でしょう?」
「序盤ならば投球数制限の事もあったでしょうが……5回以降ならば、いつでも山崎選手を登板させても良かったと思います。純粋に勝利のみを考えれば、ですが」
「……と、おっしゃいますと?」
「実際のところは聞いてみないと分かりませんが、弘前高校の平塚監督の、学生スポーツに対する考え方と、弘前高校野球部の気風によるものでしょう。今日この環境で最も楽しめるプレイスタイルを選択した結果、【風が吹いている間は山崎選手を登板させない】とか」
「……確かに、こんな環境は甲子園大会が始まって以来、初めての事だと思います」
「100年に一度あるかないかの環境ですよ。であれば、『せっかくのホームランダービー』に水を差すような事は、惜しくてできなかったと考えたかもしれません。弘前の3年生にとっては最後の全国大会ですが、勝利のみを追求しなかったという事は、おそらく気持ちの問題だと思われます」
「大場高校が、山崎・北島の両選手を敬遠しなかったのも?」
「そこはどうでしょうね?あの風が吹いている間は、誰がホームランを打ってもおかしくは無かったわけですし。ですが、同点に追い付いていない間は、大場高校のクリンナップを敬遠されては困りますし、作戦的には必要な事だった、とは思いますが。先に音を上げるわけにはいかない、という気持ちもあったと思いますよ。もっとも、ここから先は1点勝負でしょうし、投手としての山崎選手に勝てない場合は、そんな事も言ってられないでしょうが」
「7回裏の攻撃は2番で終わっていますから、8回裏には4番の北島選手と勝負ですか」
「状況次第では9回裏には山崎選手の出番がありますし、延長10回裏なら展開次第では山崎・北島選手の2人を相手にする事にもなり得ます。大場高校としては次の8回、9回が正念場という事になりそうです。……風がここで止むと分かっていれば、今の山崎選手の打席、敬遠するという選択肢がベストだったかもしれません。結果論ですがね」
「風も止んで、状況は振り出しに戻りました。8回表の大場高校の攻撃は9番ピッチャーの小森選手からになります。ここは1人でも塁に出て、3番の円谷選手に繋ぎたいところですが……」
「大場高校打線の真価が問われますね。今大会の登録投手で最強クラス、と言われる山崎投手との対決になるでしょうから」
「一瞬も目を離せないイニングになりそうですね」
※※※※※※※※※※※※※※※
「風が止んだね」
「そうだなぁ」
山崎の言葉に、気の無い返事を返す。もう、あの謎の風は吹いていない。
正確には7回表の大場高校の攻撃、筋肉三人衆の打順が終わってすぐ、甲子園上空の風は急激に弱くなっていたと思う。裏の弘前高校の攻撃は、山崎の本塁打の他はごく普通のライトフライに終わった。山崎の打球も普通にスタンドに入ったし。
バックスクリーン上の旗は力なく萎れていて、いつもの浜風も吹いていないようだ。ほぼ無風に近い状態の甲子園球場というのも珍しいといえば珍しい。しかし環境的には、ごく普通の甲子園と言っていいだろう。ここからは、いつも通りの守備と攻撃、ごく当たり前の野球の時間だ。甲子園ホームランダービーの時間は終わった。
「ありがとう、甲子園の妖精さん」
山崎が甲子園の空に向かって、何やら感慨深げな言葉をつぶやいていた。
「とっても楽しかったわ」
「ありがとう」「ホームランをありがとう」「この喜びは忘れない」
弘前ナインが山崎の後ろに並んで、甲子園の空に向けて言葉を贈っていた。一瞬だけ、バックスクリーン上の旗が風を受けて揺れ、もとの状態に戻る。まるで目に見えない何かが弘前ナインに手を振ったかのように感じた。
……感じただけだと思うけど。ですよね?
「さぁーて、風も止んだし、得点は同点だし、もう8回だし」
山崎がグラブをポンポンと叩きながら、ベンチの外に歩いていく。振り返ってベンチ上の応援席を見ると、右手を空に突き上げる。
「あたしの出番だ」
その直後。
うおおおおおおおおおおおお――――!!!!
と、甲子園の空気を震わせる歓声が3塁側応援席から沸きあがる。
アナウンスはこれからだが、観客も弘前高校の事は分かっている。
『 弘前、高校。ポジション、チェンジの、お知らせ、です。ショートと、ピッチャーの、守備位置を、交替、します。 ピッチャー、背番号、7番、山崎 桜、さん 』
おおおおおおおおおおおおお――――!!!!
アナウンスを聞いた直後に、再び3塁応援席が。ついでに外野席も沸き立った。
さて。沸き立つ観客のどれだけが、この後の状況を正確に捉えているかは分からないが。大場高校としては、山崎の球を打って得点しなくてはならない。山崎に限って四死球はあり得ないから、打つしか得点の手段は無いのだ。大場高校のホームランバッター、筋肉三人衆との対決が肝になるだろう。試合の展開次第では、山崎との勝負はこれが最初で最後になる。かもしれない。
弘前高校としては、山崎と俺とが敬遠策で歩かされたとしても得点できる状況にしなくてはならない。何か逆説的な感じだが、ホームランバッターである山崎と俺以外の打者の活躍が肝になる。弘前の打線は上位打線も下位打線も、俺と山崎、あと山田キャプテン以外は皆が似たようなものだ。役に立たないという意味ではなく、皆が同じくらいに打てる。どこでどう繋がってもおかしくない。大場のピッチャーは今大会で最高クラスという程でもない。打てる可能性は充分にある。
大場筋肉三人衆が、最初の勝負で山崎に打ち勝つか。
俺や山崎を除く弘前打線が、大場高校の投手に打ち勝つか。
そういう勝負になるだろう。早ければ9回表で勝負が決まりかねない。大場高校が山崎からヒットを奪ってクリンナップに繋ぐのなら、8回表か9回表での勝負。
次の回で3番から始まる弘前にしてみれば、俺や山崎の立ち位置を利用して、8回裏か9回裏で勝負を決める事ができる。延長10回裏も同様だ。それ以降は泥沼だろう。
泥沼の長期戦になった場合。打者としては同じ投手の球なら、回を重ねれば重ねるだけ打ちやすくなるから、逃げる事を知らない狂戦士のような山崎にとっては段々と不利になるのだろうが。
「できれば今日はちゃんとした時間に昼飯を食いたい」
「緊張感ないわねぇ、アンタは」
思わず本音が漏れた俺の言葉に、山崎が突っ込みを入れた。
お前が言うな、おまえが。
心の中で少しだけ言い返しながらも気を引き締めると、皆と一緒にグラウンドへ駆け出す。同点の状況から試合に勝つため。そして気持ちよく宿の昼飯を食うために。
――さあ、うまい昼飯のために頑張るぜ。勝たないと最高の昼飯にならないからな!!
なんか更新遅れたなぁ、と思いつつ。上げてみればほぼアナウンス回。書いてはいらない部分を削ったり書き直したりとかしていたらこんな感じに。間隔が開くと書く勢いが弱くなって細かいところが気になり過ぎてしまうのですが、なんとかまとまりました。誤字報告機能の活用などをお待ちしております。自分ではなかなか気づかなかったりするので。ユーザーデバッガーはスタッフです。感謝。
質問:『普通』ってなんだろう
回答:『地域社会』の常識です
質問:『常識』って何
回答:どこかの人の言ったところでは『成人までに身につけた偏見』だそうです
まあ「一般常識」は就職試験の試験とかでもあるので、そういう学問なんじゃないでしょうか。今回の試合のボーナスステージの場合、ホームラン以外はぜんぶ失敗扱いって事で。
次回更新は早めに行いたいと思っております。今後ともどうぞよろしく。




